おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

夕霧 九

2021年6月30日  2022年6月9日 
「ねえねえ右近ちゃん」 「なあに侍従ちゃん」 「夕霧くんさあ……ヤバくなーい?普段堅物な人が一旦何かにハマるとああなっちゃう見本みたいなもんじゃん。雲居雁ちゃん可哀想すぎ!」 「もうすっかり噂になっちゃってるもんね。六条院でも最近はその話でもちきり。さすがのヒカル王子もビックリ仰天よ。夕霧くんって若い頃から落ち着いてて浮いた話も殆どなくて、理想の夫であり父よねーなんて褒めちぎられてたからね。ギャップが凄すぎる。王子はほら、あんなだったから、真面目な息子のお蔭で名誉回復って感じで嬉しかったみたいだけどねえ」 「あんな、って何ー!単にモッテモテで色んなところに彼女…

夕霧 八

2021年6月28日  2022年6月9日 
こんにちは、小少将でございます。  夕霧左大将さまが久しぶりに小野の山荘にいらしたのは、九月十日すぎのことでした。  晩秋の小野の野山は、どんなに情趣を解さない人でも心に深く染み入るような景色にございました。山風に翻弄される木々の梢、峰の葛葉も先を争うように吹き散らされる中、ほのかに聴く尊い読経の声。念仏ばかりで人の気配は殆どなく、木枯らしが吹き払ったあとの籬には鹿が佇み、山の田の鳥追いの音も意に介さず色濃き稲を踏み分けて、寂しげに鳴いています。  滝の音は物思う人など委細構わず轟き渡り、草むらの虫の声はかそけく、枯れ草の下から竜胆が我が物顔に長く這い出て…

夕霧 七

2021年6月27日  2022年6月9日 
※小少将さんは落葉の宮の従姉妹で、御息所の姪です。葬儀の手伝いに出て来た大和守は兄。この設定を入れるのをすっかり失念(最初は覚えてたのに!)該当箇所は修正済みです。(2021/6/27)  小野では山おろしの風がとみに激しくなり、木の葉の影もなくなって、何もかもが寂しく物悲しい季節である。秋空の下、落葉の宮の涙は乾く暇もなく、 「自分の命さえ思うようにはならないのね」  と世の厭わしさを嘆くばかりであった。女房達も何かにつけ悲しみにくれる。  夕霧左大将からは毎日のように手紙が届いた。わびしい念仏僧の慰めにと、とりどりに揃えた見舞い品も添えて。宮宛の手紙では切…

夕霧 六

2021年6月25日  2022年6月9日 
こんにちは、落葉の宮の女房・小少将にございます。  小野に移ってからこんな短い間で……まさかこんなことになろうとは思いもよりませんでした。一条宮のお邸にて平穏に暮らしていた日々が、もう何十年も昔のことのように思えます。  母御息所さまは、あの晩以来夕霧左大将さまがお見えにならないことに大層気を揉まれていらっしゃいました。外聞の悪さも何もかなぐり捨てられ、暗にご結婚を促すようなお手紙を書かれたというのに、待てど暮らせど返事が来ない。その日も暮れようという時にはもう、いったいどういうご了見なのかと怒るやら呆れ果てるやらで心も折れ、小康状態にあった体調もまた悪…

夕霧 五

2021年6月24日  2022年6月9日 
同じ日の昼、夕霧は三条の邸にいた。 (今夜はどうしようか……訳アリのような顔で行くのはみっともないな……何もなかったっていうのに)  小野の山荘に行きたい気持ちは大きかったが強いて抑えていた。この数年の心もとなさよりも「千重に」物思いを重ねて溜息ばかりである。 ※心には千重に思へど人に言はぬわが恋妻を見むよしもがな(古今六帖四-一九九〇 かさのにらう)  夕霧の北の方・雲居雁は、この夜歩きの一件を既に耳にしていた。当然面白くはなかったが、知らぬ顔で子供たちをあやして紛らわせつつ、自分の昼の座所で横になっていた。  日が暮れてすっかり暗くなった頃、小野の山荘から…

いつもは見えないもの

2021年6月23日  2021年6月23日 
昼間の夢。書いてみると支離滅裂だが、場面場面が実にリアルだった。  実家に親戚一同が集まっている。私の家族は離れた部屋にいて、昼を食べようと思うが食材がない。まだお腹がすいてはいないし、まあいいかと窓から外を見ると、クマのような大きな動物がうろついている。皆に知らせないとと慌てたが、見ている間に捕まってどこかに連れ去られた。  私一人が部屋を出て居間の方に挨拶に行くと、父が他の親戚とソファに座って談笑している。本当に帰ってきているんだ、と無性に嬉しくなる。こんなにはっきり姿が見えて、声もそのまま生きていた時と同じ、話す内容もそれらしいんだな、と妙に感心し…

夕霧 四

2021年6月23日  2022年6月9日 
落葉の宮はようやく立ち上がり、母御息所のいる北廂の間に向かった。他の女房達の目につかないようにと、間にある塗籠の戸を開けさせて中を通っていく。  御息所は苦しい中でも体裁を整え、丁重に宮を迎えた。平生の作法と違わずしっかり起き上がっての対面である。 「病で見苦しい有様ですので、此方に来ていただくのも気が引けますね。この二、三日ばかり会わなかっただけで何年も経ったような気がして、心細くもあります。後世では必ずしも再会できるとは限らないといいますし、また此の世に産まれ変わったとしても甲斐の無いことです。思えば、親子でいられますのもほんの束の間。すぐに別れ別れ…

夕霧 三

2021年6月22日  2022年6月9日 
こんにちは、少納言です。  ええ、確かに今朝、夕霧さまが六条院においででした。この頃はそんなに朝早くからいらっしゃることはなかったので、よく覚えております。女房達も、 「珍しいわね。どちらで夜歩きしてらしたのか」  とヒソヒソしておりました。はい、一条宮邸に足しげくお通いの件は周知の事実ですからね……小野の山荘?なるほど、そういうことだったんですね。  東の御殿では花散里の御方さまが、香を焚き染めた唐櫃に夕霧さま用の衣裳を夏冬分キッチリ常備していらっしゃいます。朝餉を終えられて、ヒカルさまの御前に挨拶に見えられた時、たいへんに良い薫りがしたものですから、あ…

夕霧 二

2021年6月21日  2022年6月9日 
侍「……あれ?まだ ~オフィスにて~ やるの?」 王「切り替わってないわね。ちょっと待っ」  ピコーン♪  こんにちは……。 侍「わっびっくりした!」 王「あら、小少将ちゃんじゃない。どうしたの?」 右「王命婦さん知り合い?ホント顔広いわね」  は、はい。小少将と申します……あの、落葉の宮さまに仕えております女房です。母御息所さまの姪で、宮さまとは従姉妹に当たります。 侍「えっそうなんだ!カーワイイ!若いね!アタシ侍従、よろしくね♪」 右「侍従ちゃんたら、久々の新人女子迎えた職場のオジサンじゃないんだから。あ、私は右近です、よろしく」  こちらこそ、よろしくお願いいたしま…

夕霧 一

2021年6月17日  2022年6月9日 
「ねえねえ右近ちゃん」 「なあに侍従ちゃん」 「この間、ちょいと小耳に挟んだんだけど、夕霧くんって女二の宮さまにマジで本気のラブラブモードってホント?」 「何その言い方(笑)いや、最初からそういうつもりなんじゃないの?」 「やっぱそう思うー?いやさ、小侍従ちゃん(雲居雁ちゃんの方の女房さんね!)に聞いたんだけどさ、もう柏木くんの三回忌も過ぎようっていうのに、未だに通い続けてるらしいよ一条宮邸に」 「そうなんだ。マメだね、といいたいけど、柏木くんの従弟で親友ってだけでそれはちょい距離近すぎって感じかな。お母様の御息所さんはどう思ってんのかしら」 「普通に喜んでるみた…

鈴虫 三

2021年6月15日  2022年6月9日 
ヒカルは冷泉院の御前を辞したあと、后の宮――秋好中宮のもとに渡った。 「なんと静かにお住まいでいらっしゃる。特に何がなくとももっとお目にかかり、過ぎゆく年に添えて忘れられない昔話など承りたく思っておりますが、私のような半端な立場の者は何かと憚られてどうにも動けません。そうこうしているうちに私より若い人たちに次々と先を越される気がして、無常の世の心細さに急き立てられる思いです。俗世を離れて引き籠る準備は徐々にしていますものの、やはり残される者が心配で……以前もお願いした通り、六条院春の町に住まう春宮の御母ならびに紫上に、どうかお心を留めていただきますよう…

「神の左手」「戦乱と民衆」

2021年6月15日  2023年9月13日 
タイトルと表紙に惹かれた。三部作の一作目。 「神の左手」ポール・ホフマン 翻訳:金原瑞人 THE LEFT HAND OF GOD(2011)  いや面白かった。474ページ二日で読破。「ダークファンタジー」というジャンルなら欠かせない要素が全部詰まってる。正直、詰めつめ過ぎて構成が粗く、え?!いつの間にそうなった?!もうちょっと書いてくれや的な感じの展開もありアレレとなったりもするんだけど、冒頭の「サンクチュアリ」で引きこまれ(迷宮っぽい造りの建物と謎の空間←好き)、主人公のケイルのイメージを何となくリバー・フェニックスと重ね合わせて読んでたら止まらなく…

鈴虫 二

2021年6月13日  2022年6月9日 
こんにちは、少納言でございます。右近さん、実況お疲れさまでした。私もあのお喋りに参加したかったんですが、紫上の傍から離れられなかったものですから。落ち着きましたらまた改めて寄らせていただきますね。  さて、六条院はすっかり秋の気配にございます。  ヒカルさまの采配により、女三の宮さま――入道の姫宮さまのお住まいの西の渡殿の前、中の塀の東側はすっかり「野原」と化しました。閼伽棚などを作り仏道修行に相応しい道具をしつらえて、野趣あふれるその佇まいは何とも優美にございます。  弟子として控える尼たちは、乳母や年配の女房をはじめ、若い盛りの女房のお顔もチラホラ見…

「ノモンハン秘史(完全版)」

2021年6月11日  2023年9月13日 
辻参謀の手記第二弾(私的に)。 「ノモンハン秘史【完全版】」辻政信 毎日ワンズ(2020) 潜行三千里 」の中で語られている中国大陸潜行中(昭和20~23年)に書かれたものだという。この間読んだ「 史料が語るノモンハン敗戦の真実 」で大方の流れはつかめているので読みやすかった。参考資料としてふんだんに引用されてたし。  で、私個人の結論として、やっぱり辻参謀は極悪人でもないし、まして諸悪の根源ということは全くない。骨の髄まで日本軍人、というだけ。  素晴らしく頭が切れて行動力もあり、咄嗟の判断の的確さと俊敏さは他の追随を許さない。何より危機を予め察知して回避する能…

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過去記事の改変は原則しない/やむを得ない場合は取り消し線付きで行う/画像リンク切れ対策でテキスト情報追加はあり/本や映画の画像はamazonまたは楽天の商品リンク、公式SNSアカウントからの引用等を使用。(2023/9/11-14に全記事変更)

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