おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

「関心領域」「ヒトラーのための虐殺会議」

2024年6月13日  2024年6月13日 

 「検証 ナチスは『良いこと』もしたのか?」を読んだので当然此方の映画も観に行きました。パンフには田野氏の解説も載ってて嬉しい。封切二週目くらいの平日真昼間に行ったけど、結構人入ってたわ。年齢層はやや高めながら若者の姿もチラホラ。エンドロールの後は皆無言だった。



「関心領域」ジョナサン・グレイザー(2024米英ポーランド合作)

The Zone of Interest Jonathan Glazer

 どういう映画なのかは大体心得ていたが、映画館の暗さと音響がこれほどまでに効果を発揮するとは思わなかった。色んな「音」が聴こえてくるんだけど、個人的には犬の吠える声や汽車が入って来る音、銃声といった具体的なそれより、「その家」にいるかぎりずーっと止まることなく聞こえている重低音にやられた。目の前に繰り広げられる光景はまさに絵にかいたような幸せな家族の生活なのだが、それが何の上にあるものなのかを絶えず知らせてくるような、そういう音だった。

「絵にかいたような幸せな家族」たちは決して「無関心」だったわけではない。隣の収容所で働く夫とその妻をはじめ、お手伝いとして雇われているポーランド人、幼い子供たちに至るまで全員が「わかっている」。川に流れてきたものが何なのか、隣で昼夜何が行われているか、自分たちの豊かな暮らしが何で賄われているのか。

 これは決して「生きていくために仕方なく加担した」レベルではない。極めて能動的に、積極的に「悪」に踏み込んでる。田野さんがよく仰ってる「悪の凡庸さについての誤解」の件、この映画のお蔭で身に沁みて理解できた。

×巨悪に加担したものでも普通の人間だった

〇普通の人間であっても、巨悪に加担してしまうことはある

 順番が違うだけで全然違う意味になる。あの家に住んでいた人たちは紛れもなく人間ではあるんだけど、たとえ子供であっても「踏み込んでしまっている」。もう以前と同じ「普通」には戻れない。だからこそ妻は、この家と庭こそナチスのいう理想の生存圏だとして離れようとしない。聞こえる音も匂いも煙も「正しい」、自分たちは良き親であり良きドイツ人で絶対的に正しいんだと常に言い聞かせる生活の中にいないと、もう生きていけないのだ。「人間性」や「良心」や「倫理観」といったものが歪んで毀れてしまってる。

 長女がドイツにあるダッハウ収容所を訪れた時に聞いたという話をここに置いておく。

・戦後しばらくユダヤ人虐殺の話はドイツ国内でタブーだった

・しかし時が経つにつれ、負の歴史も目をそらさず継承していかねばならないという機運になり、収容所の整備や資料整理が進んだ

・戦争が終わりやってきた連合国軍が収容所の惨状を見て、「お前らは戦時中ドイツ人に阿り恩恵を受けていた。だからここの後片付けはお前らがやれ」と地元民に命じた

 つまりあの家で働いていたポーランド人たちも……。



「ヒトラーのための虐殺会議」

マッティ・ゲショネック(2022独)

Die Wannseekonferenz 

/Matti Geschonneck




「関心領域」の予習として観るべし、とTwitter(x)で見かけたコレを配信で視聴。個人的にはどっちが先でもいいと思う。この画像に公式HPのリンクはってるので、興味惹かれた方は是非ご覧になってくださいまし。誰がどこに座ってたかの図もあります。

 110分のうち90分みっしり会議(休憩あり)が続くだけの映画、といえばそうなのだが議題が「ユダヤ人問題の最終解決」。ドイツ内だけにとどまらず、欧州1100万人ものユダヤ人をいかに効率的に「始末」するかを大真面目にかつ勤勉に議論を戦わせる。上記「関心領域」のような世界がどうやって構築されたかの前段階ともいえる。この「政策」において実権を握ろうという野心的な国家保安本部長官の、常に笑みを湛えた顔がまさに「踏み越えた人」でヤバかった。全員が全員「ユダヤ人は抹殺し根絶やしにして当然」という考えに従っていて、そこを疑う者は誰もいない。「人道的」という言葉はただ「ユダヤ人以外」に適用される。自分の手でユダヤ人を女子供も構わず殺さねばならない現場の兵士たちのメンタルが心配だ、何とかならないのかという訴えに対し、様々な「アイディア」が引き出される。

 なんだこれ。人殺しをする痛みというものは認識してるわけか。そんな気持ちになるとはけしからん!にならないんだ。そういう気持ちにはなるだろう、だけどやらねばならないんだ、何故ならユダヤ人は滅ぼすべきだからと繰り返し繰り返し、人にも自分にも言い聞かせる。この会議に出席したお偉方たちですら、お互い常に言い聞かせ合っているように思える。言い聞かせ合わないといられない、その揺らぎこそがわずかに残った良心なのだろうが、同時に皆で打ち消し合っている。

 怖い映画だった。ある意味、「関心領域」よりエグい。下手なホラーよりホラー。

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