2017年12月5日火曜日

末摘花 十(オフィスにて♪)

「侍従ちゃん?」
「なあに右近ちゃ……じゃなかったっ大輔命婦さん!?」
「ごめんね忙しいのに。師走だものね。ちょっとだけいい……?」
「いえいえいえ!だいじょぶですよ!大輔命婦さんのお望みとあらばうちのウルサイお局さんだってなんもいわないし!いいところにいらっしゃいました、ついさっきお正月準備の荷物届いたばっかで。何でも言ってください♪」
「ありがとね。でも、そういうことじゃないの。ちょっと話を聞いてもらいたくて」
「え……そ、そんなウルウルした瞳で見つめられたらアタシ……」
大輔命婦の白くしなやかなてのひらが、侍従の手を優しく包むこむ。
「わ、わかりました!お茶、お茶しましょう! ちょっと右近ちゃんに頼んできますね!右近ちゃーん!」
……
「で」
「ん、これ超おいひい(ごっくん)異次元の味! いやマジで! 右近ちゃんも食べなよーせっかく大輔命婦さんが持ってきてくれたんだしさ」
「まーた常陸宮でタダ働きってことね、しかも新年早々」
「えータダじゃないよー等価交換てやつう? 今大流行りで滅多に手に入らない帝御用達スイーツいただいちゃったしー、さっきちょっとだけ揉んでもらったしー。はー肩も首も軽ーい♪」
「ったく、まんまと騙されちゃって…」
「首尾よく任務完了したらまた揉んでもらうんだー、全身コース♪ 小顔効果もあるってさ」
「……え、それちょっとうらやましいかも」
「でしょ♪右近ちゃんも来ちゃう?」
「いやまあ……でもさ、どういうことなの? ヒカル王子が新年の挨拶に御みずから常陸宮家をご訪問、て随分破格な待遇よ? 正妻さんじゃあるまいし」
「まさにそれよ右近ちゃん! あのお姫さまったらやらかしちゃったのよ……いきなり王子のための新年の衣装をご用意しちゃったわけ
「えええ……そうなんだ。もしかして右大臣家の正妻さんの存在知らないのかな?しかしチャレンジャーだわね、あの好みにウルサイ王子に」
「でしょー。普通できないよね?大体王子の普段着のインナーだって多分、アタシたちの少ないお給料何か月分?!だし、まして新年用の晴れ着なんてもう無理無理無理!想像もできないっ」
「どんな衣装だった?すっごい興味あるわ。今だったら速攻写メでSNSよね平安て不便ー」
「んーあんまり、イン〇タ映えはしない感じかな…命婦さん預かったものの、王子に渡していいものかどうか何日も悩んだみたいよ…」
「ああ……(察し)」
「でも曲がりなりにも宮家のお姫様の意向だし、自分んちに保管したまんまってのもやばいから結局持ってったんだけど、お手紙渡した時点で王子ドン引き」
「一応お歌は詠んだんだ」
「それがさー、
『あなたのつれないお心が辛くて、私の袂はほらこのように……涙で濡れるばかりですわ』
って、引っ掛けも二重の意味もなーんもないそのまんま和歌が、陸奥紙にバーっと書かれてたって」
陸奥紙……檀紙かあ。高級な紙ではあるけど、恋文に使うには厚すぎかもね」
「そうなんだよね。薄い紙だとお香もほんのりだけど、厚手の紙にガッツリ匂いつけちゃうともう風情も何もないわよ。香害よね。その上衣装がまた古くて……中古とかユーズド感とかどころじゃない。一応流行り系の薄紅色だったから、着慣れて少々色がくすんでるーくらいだったら逆に渋くてステキなんだけど、限度超えてたってよ。
しかもよ! 表地と裏地、この色合わせが平安男女最大のオシャレポイントじゃん?!なのに全く同じ色で特に裏がメッチャ濃ゆい色。それがチラチラ端から見えて、とてつもなくダサい
自分の責任じゃないにしろ、超恥ずかしかった…って命婦さん涙目になっちゃってて色っぽかったー!」
「何やってんのあそこの女房さんたち…年寄りばっかりだしボケてんのかしら」
「色々とズレてんのよね。由緒正しきお家柄だから歴史的な慣習もあるだろうし気持ちはわからなくもないけど、正直王子に見合うだけのおもてなしをする財力もセンスも今はないんだから、少しは現実見ないと。まあ今みたいにネットでニュース見られるわけでもないし、ツイッ〇ーやイン〇タやF〇とかで今の流行りとかセレブ有名人の暮らしがどうだとか知る手段ないから仕方ないんだけどね」
「ってわけで新年早々現実的な対応をしに行くわけね、侍従ちゃん」
「そうなのよ右近ちゃん! だって……うふっ、やっぱり言っちゃお。ヒカル王子ったらね、姫君のお歌をみたときに
『前にいたあの、何て言ったっけ若くて可愛い子。そう侍従ちゃん?あの子に直してもらうかしたらよかったのに』
なーんて言ってたんだってー!キャー!もうコレ行くっきゃないじゃん?!ああ待ってて王子、この平安ステキ女子の侍従ちゃんが目に物みせてくれるわあ!」
「……可愛い、ていうのは命婦さんの盛りじゃないかなあ」
「何?」
「ううん、何でもない。頑張ってね。応援してる(はあと)」
「ありがとー!」

>>「末摘花 十一」につづく
参考HP「源氏物語の世界

2017年11月20日月曜日

十月に観た映画と本

超多忙だった一週間が過ぎぐっと下がった気温に応じて見事に風邪をひき(-_-;)気が付けばもう11月後半です。最近ホントに映画館に行ってない。行きたいのに。

「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」(tigers)ダニス・ダノヴィッチ(2014年インド・フランス・イギリス)

何かの映画評で見て気になっていたので借りた。


【60字梗概】
粉ミルクが汚水で作られ乳児を死なせている事実を知りながら利益優先で販売を続ける多国籍企業を社員が告発し失職、憂き目にあう。

「エリン・ブロコヴィッチ」のような勧善懲悪の社会派映画かなと思ったら肩透かしを食らう。世の中そうはうまくいかなくて、一般市民としての善意と家族の後押しで告発をしたものの、家族に危害が及びそうになり挫折。仕事も失い、七年間も家族と離れて暮らす羽目になる。個人よりはやはり金と権力を持つ側の方が圧倒的に強いので、現実的にはこんなものだろう。スカッとはしないし少々物悲しいが、当事者とその家族が現在はそこそこ幸せそうなのが救い。


「沈黙 サイレンス」マーティン・スコセッシ(2017米)

遠藤周作原作。これは映画館で観たかった!あの、最初から最後まで極めて日本的な世界、昔から映像化を希望していたというスコセッシがどう料理したのか興味を惹かれた。

【60字梗概】
17世紀、棄教した恩師の真相を知るべく来日した二人の神父。一人は民とともに死に、もう一人は神の真意に殉じ踏み絵を踏む。

弾圧する側の日本を絶対悪とせず、むしろ高い知性と統率力を持ち、情熱で暴走する神父たちよりよほど「まとも」に見えるよう描いた所はさすがスコセッシである。欧米諸国が植民地にしたいところに人を送り込んで人心掌握し、その後攻め込んで占領するという手口はこのころにはもう広く知れ渡っていたんだろうか? 知らぬは世間知らずで純粋な神父たちだけ。島原の乱直後、ご禁制の宗教に縋り、神の救いを信じている貧しい民は唯一の拠り所である彼らを庇い、守るために無残に死んでいく。正直、遠い国からわざわざ来て善良な日本人を「たぶらかし」大勢死に追いやって何してくれてんのこいつら、と思った。現代でも、マルチやカルト宗教・極端な自然派なんかがいろんな理由で苦しみ悩む人を甘言で釣るのと似ている。そのさきはさらなる地獄しかないのに。度を越した無知と純粋は確実に人を殺す。信仰者としては明らかに劣等生であったキチジローが実は一番神に近いところにいた、というのが皮肉でいい。窪塚さんを選んだというのは慧眼。(経歴はご存知なのだろうが)色々とハマりすぎです。
映画館の暗がりでみたらまた違うのかもしれないが、画面がやや明るすぎと感じたのは原作の持つイメージの成せる技か。

「弥栄の烏」阿部智里

「八咫烏シリーズ」最新刊。たまたま次女とともに本屋に行ったら、残り一冊のサイン本が!これは買うしかない、受験生だけどまあいいよね!ということで次女の後に私も読んだ。
前回の「玉依姫」を山内側から描いた話。戦いの描写がよりリアルでハード。親友を失った雪哉が闇堕ちしそうになるところは中々圧巻。結局奈月彦の記憶は戻らないのだが、山内の崩壊はくい止められるのかどうか??
作者の専門が東洋史ということで、出所確かなエピソードがふんだんにちりばめられていて、歴史好きにはたまらない。言霊というか言葉の力が世界を形作り支えているというのもイイ。番外編がいくつか出てるようなのでたぶん買う。

2017年9月7日木曜日

九月に読んだ本

「蜜蜂と遠雷」恩田陸

第156回直木賞、2017年本屋大賞、第五回ブクログ大賞小説部門大賞、等々各賞を総なめにした本作。子供が学校の図書室から借りてきたのでこれ幸いと読んだ(←)。
それにしても最近ハードカバーをほとんど買わなくなってしまった…お金の問題ではない、場所がないのだ。住む場所に対してほとんどこだわりはない私だが、本を置くスペースだけはふんだんにほしい。宝くじ当たんないかしら。ていうか整理整頓をもっと徹底すればいいんだが、今やりたくなーい(いつやりたくなるんだ)。まったくお話にならない。

さてこの本、構成はいたってシンプル、最初から最後までピアノコンクールだ。読んだ直後には、60字梗概を書く意味ないのでは?と思いかけたが、やはりそれは違う。基本に「国際ピアノコンクール」という様々な意味の詰まった確固とした言葉があり、それを柱として物語を紡いでいるというのは大事なことだ。こういうことをやった人、たぶん誰もいない。目の付け所がさすがの恩田陸さんである。

【60字梗概】
国際ピアノコンクールに亡き天才音楽家が送り込んだ少年のピアノは周囲に強烈な影響を与え、やがて音楽の真髄を全員が体験する。

実に情けないことだが私はクラシックに全く詳しくない。ここに出て来る曲でメロディーが即座に浮かんだのは一割に満たない。三割くらいが曲名は聞いたことあるけど…で、あとの六割はさっぱりという体たらく。そんな私が声を大にして言う!「蜜蜂と遠雷」は、
クラシックを全然知らなくても楽しめる小説
だと。
しかし熟知してたほうがさらに楽しめることは確か。ええ、私もやりましたともここに出てきた曲を検索して聴くということを。きっと皆同じことをやってるに違いない、ピアノ動画に挟まって恩田さんのインタビュー動画とかありましたもの。ひととおり聴いて、文庫になったころもう一度読み返したい。
かつてブームを呼んだ「のだめ」のような爆発力はなくとも、じわじわと長い時間をかけて効いてくるような小説だと思う。既に種はいたるところに撒かれている。うーんこういう小説を書けたらいいなあ。