2017年1月18日水曜日

十二月に観た映画


「ゼロ・グラビティ」2013米、アルフォンソ・キュアロン監督

宇宙船とか宇宙飛行士とか、カッコよさそうで憧れるけれど、正直宇宙には行きたくない。よく船なんかで戸板一枚下は地獄とかいうけど、下どころか宇宙服の数センチの厚みの外は360度全て地獄やないかい。怖すぎる。宇宙船がドカンといって即死ならともかく、一人ぼっちで長い間漂って寒さと酸素欠乏でじわじわ弱っていくって、あああ考えたくない。普通の人間ならまず精神がもたない。だがそこはさすが宇宙飛行士。どんな難題がふりかかっても簡単には諦めない。きわめて冷静にできることを見つけ、着実にこなし、もうやるべきことをやってしまっても、最後の砦である希望を失わない。こんなに強靭な人でないと宇宙に行けないなら、もし他の星に住めるようになったとして、そこは相当に力強い、進化した人間たちの住まいになるんだろうなあと妄想。かつて地球上で、荒海を渡ったり険しい山を越えたり、普通の人間がまずしないようなことにチャレンジして新天地を切り開いてきた先人たちのように。

息子が機内で観て全力でおススメしてきたこの映画、確かに面白かった。しかしこれ、3Dで観たら絶対に酔う。例によって興行があっという間におわってしまったので残念だったが、かえって良かったのかも。いややっぱり観たかった・・・。

「スターウォーズ フォースの覚醒」2015米、J・J・エイブラムス

「ローグワン」が上映中だというのに、今頃観たんかーいというこちら。久々のスターウォーズがあまりにも騒ぎになっていたので、混むのは嫌だなあと二の足を踏んでいたらまたまたいつの間にか終わっていた。
さらに結構前の話を忘れていて、あれ?これ誰だっけ、何でこんなことになってんだっけ、などという体たらくだったが、特に問題なく楽しめた。俳優さんたちはもちろん、スタッフさんたちの熱意まではしばしから伝わってくる。いやすごい映画だわやっぱり。
お馴染みのメンバーがどんどん高齢化していくのは切ないが、ちゃんと年相応の役をやってたので違和感なし。ていうか普通はもっと老けるだろ・・・レイア姫顔変わってない!若い!と思っていたら年末に突然すぎる訃報。合掌。


「スポットライト 世紀のスクープ」2015米、トム・マッカーシー

こちらも観たかったのに以下同文。年々出不精になるなあ。いかんいかん。集中して観るならやっぱり映画館だというのに。今年はちゃんとしよう。
事件として表に出た事象の裏には、軽いものから深刻なものまで無数の同事例がある。それはもう絶対に、ある。それがなぜなかなか表ざたにならず、驚くほど長い間、多くの被害を出し続けてしまうようなことが起きるのか。ある種の厄介な「善意」がその理由のひとつにあると思う。罪を憎んで人を憎まずとか、寛容であるべきだとか、無暗と騒ぎ立てるのはみっともないとか、そういう「善意」の名を借りた逃避・自己防衛・・・いわゆる波風を立てないで穏便に解決、というありがちな対応が意外に罪深い。問題を先送りしただけでまったく解決になっていないどころか、全体をすっぽりと覆い隠して無きものにしてしまうからだ。だが、あったことは絶対に、なかったことにはならない。有を無と言い立てるのは、善意からだろうが何だろうが、はっきりと「嘘」であり「罪」なのだ。
それにしても性犯罪はどれも酷いが聖職者のそれはなお一層エグい。いたいけな子供の信頼を踏みにじり、自分に落ち度があったのでは・・・と思い込ませて自尊心を破壊する。魂の殺人、というがこれは惨殺レベル。二度と子供相手の職に就かせてはいけないでしょこいつら!
尋常ではない怒りを覚えながらも、冷静かつ堅実に事に当たり、ついに真実をつきとめる編集者たちがカッコいい。まさに「調査報道」。

2017年1月5日木曜日

十一月・十二月に読んだ本

2017年、あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
以下、ネタバレあり注意。

「ミスター・メルセデス」上下 スティーブン・キング

発売して間もなく購入したにも関わらず、ここまで放置してしまったのは、読み出すとあっという間=時間泥棒と化すのがわかりきっていたため。案の定、一気読み。
さてキング初!のミステリー長編。盗んだメルセデスで行列に突っ込み何人もひき殺した挙句逃げ切った凶悪犯と、彼を追う元刑事の攻防。登場人物一人一人の性格やその背景をきっちりと描くのはいつものことだが、いつもより導入部がコンパクトかつわかりやすい。組み立てがより洗練されている感。さすが年の功か?と思ったが、三部作の一作目ときいてさらに納得。この作品じたいが壮大な前ふりだ。
幽霊や化け物の類は出てこないが、犯人の男の家庭がある日突然不幸に見舞われ、さらに不運な事故も重なってさらなる困窮と凄惨に陥るさまは完全にホラー。親が子を自分の罪の共犯者に仕立てるという話は以前も書いていたが、例によって碌なことにならない。崩壊寸前だった家庭はその罪によりいったん持ち直すが、その実止めの一撃となった。結局人は、やらかしたことからは逃れられないのだ。
次回作も楽しみ。

「聖(さとし)の青春」大崎善生

夭逝した棋士・村山聖の話。壮絶、の一言に尽きる。
幼少の頃にネフローゼを患い、何度も入退院を繰り返す中で将棋に出会い一気にのめりこんでいく。その類まれなる集中力と覚悟で、めきめきと頭角を現していくも、大事な場面で病に阻まれる。じっと寝ている以外何もできない間は、わざと少し開けた蛇口から落ちる水音を聞く。その音が聞こえている間は、まだ自分は生きていると確認できるからだ。死と隣り合わせどころか一心同体ともいうべき位置にいて、いつ破れるかわからない極薄の皮一枚で隔てられているだけの状況にありながら、彼は決して諦めない。くよくよしたり躊躇したりする時間が惜しい、絶望する暇があったら動けるうちに動け、楽しめる時は最大限に楽しめ、他人の思惑は関係ない。ただ自分のやりたいことだけをやれ。前に進め。
最初は死が怖いから、その恐怖から逃れるために将棋を始めたのだろう。だが晩年には、ただ逃げるのではなく将棋を以て真正面から死に立ち向かい、最後の最後まで抵抗し、戦い、生き切った。そこには安い涙や浅い同情は必要ない。ただただ、村山聖という棋士の生き方、存在そのものに最大限の賛辞と尊敬を捧げたい。
 
漫画「三月のライオン」が好きでよく読んでいるが、この作者も必ずや村山のことはよく知っているだろう。二階堂の人物設定、羽海野さんのひとかたならぬ思いがうかがえる。いい本を読んだと思う。映画も観たいがすぐ終わっちゃいそうだなあ。
 
「玉依姫」阿部智里
 
八咫烏シリーズ第五作。次女とともに瞬間的に読了。これまでの作品とは一転、実世界の話となるが、細部までいろいろきちんと整っていて、よく練られているなあと感心しきり。特に山の神に関するあたり、好きなジャンルなので丁寧な描写が嬉しい。
しかし最初から感じてはいたが、やはり十二国記とよく似ているかな?あれっこの子麒麟?とか一瞬思ってしまった(笑)。ハリーポッターシリーズといい、異世界もの・ファンタジーものは現実世界との折り合い方によってオリジナリティが出ると思うので、今後にさらなる期待。
 
 
 

2016年10月12日水曜日

十月に読んだ本

朝晩めっきり涼しくなりました。読書の秋です。
 
「ドキュメント 太平洋戦争全史 上下」亀井宏
 
ドキュメント、という名にふさわしく、作戦名・戦艦名はもちろんのこと、所属する部隊や役職まで緻密に書きこまれている。どうしても文が長めになるので最初は少し読みづらかったが、これらがきわめて大事な、省略することのできない情報であり、著者のもっともこだわったところだということはすぐに実感できた。
太平洋戦争においては、ミッドウェーの大敗により急速に戦況が悪くなっていった、ということは漠然と理解していたが、それを本書で戦力の損耗量として明示されたことで非常に納得がいった。
 各作戦で何人死んだ、ということはあまり書かれていないのだが、戦力(=乗り物)が次々と失われていく様子がなかなかに胸に来る。乗員はもちろんのこと、それらを作り・運び・メンテナンスしてきた多くの人たちも、比喩ではなく命をかけて仕事にあたっているはずだ。その膨大な時間と労力と費用が一瞬にして無残に破壊される絶望感、想像するに余りある。
戦後がもう遠くなった時代に生まれた私としては、なぜもう少し早くこの戦いをやめられなかったのか? という疑問がいつもある。さまざまな理由が絡み合って、一言ではいえない問題だということだけはわかっているが、本書からは「正しい情報を得られなかった」ということがまず第一かと感じた。戦力が低下していくにつれ、その傾向はますます顕著になっていく。大本営の隠ぺい体質云々以前に、まず現場の人間が、正確に状況を読み取ることができなくなる。レーダーも日本軍は末期までもっていなかったし、急造のパイロットは、操縦に精一杯で敵船団の様子を詳細に観察できず、空母なのか駆逐艦なのか掃海艇なのか、という区別も怪しい。制空権・制海権を大幅に失い、輸送もろくにできなくなってくると、ますますこのような技術的な問題は大きくなり、解決からは遠ざかっていく。正しい情報を得る手段がなく、正しいかどうか判断する材料すら急速に失われる中、待ったなしの現場の動きに引っ張られ、流れに呑まれてしまった、というところか。
戦史もので共通して述べられているのは、戦場で働いた人たちは(兵士でもそうでなくとも)全員、本当によく頑張ったのだ、ということ。このような底力が、自分の中にもあると信じたい。