2017年4月20日木曜日

末摘花 九(ひとり語りby侍従♪)

外はもうすっかり朝よ。ヒカル王子の車が寄せてある中門は、超歪んでてボロっボロ。もちろん夜目にもボロっちいことはバレてたけど、今は全て隠れなく朝日に晒されちゃってもうね……。
どこもかしこも荒れ果ててる中、松の木に積もった雪だけこんもり暖かそうで、ここ山里? て勘違いしそうなほど寂しーいうらぶれた感満載。

(雨夜の品定めの時皆が話してた『葎の門』って、ちょうどこんな場所だったのかなあ。確かに、こういう所に気の毒な境遇のカワイイ女子を囲って、今どうしてるかなー恋しいなーって日々思いを募らせる、なんて楽しそう。名前を言えないあの女性(ひと)への思いも、それで紛れようってもんだしね)
(前提条件や場所はカンペキなんだけどなー、肝心の本人が……うーん……)
(いやいやでも待てよヒカル! 俺以外に誰が我慢できるってのあの姫に!そもそも俺様がここまで通うことになったのって、もしかしてもしかしなくても、亡き常陸宮親王のお導きってやつなんじゃない…? 父親としてはあれじゃあ心配で心配で、おちおち成仏も出来ないよね……わかる、すっごくよくわかる

なんて、かなり失礼だけどまあ的を射てる色々に思いを巡らしつつ、御付きの人を呼んで橘の木の雪を払わせる王子。
その拍子に、隣の松の木が羨むように起き上がって、さっと雪がこぼれたのね。

「わが袖は名に立つ末の松山か空より浪の越えぬ日はなし」

跳ね上がった雪が御付きの人の袖にかかるのを見て、王子ピキーン☆とこの歌が浮かんだわけなんだけど説明するね。
末の松山」って海沿いの小高い丘の上にある松のことなんだけど、そこを波が越えることは滅多にないってことから、末の松山と同じく自分が裏切るなんてことない絶対! とかなんとか引っ掛けて恋の歌に使うってパティーンがけっこうあるわけ。
でもねー、そういう歌を詠んでみたところであの姫君には無駄無駄無駄ア!

「はー、こういう機微っていうの? 俺様と同レベルとは言わないけどせめてちょっと説明すれば理解できて、気の利いた返歌のひとつもくれるくらいの機転がほしいよねー」
王子、雪を眺めながら溜息。
 車を出す用の門はまだ閉まりっぱだったから、鍵預かってる番人を呼び出してみたんだけど、これが超よぼよぼのお爺さん。さらにその娘か孫か、大人とも子供ともつかない年齢不詳な女も一緒に出てきたんだけど、着てるものときたら超汚くって、それが雪の白さで余計に汚れが目立つ目立つ。超寒そうに、何かよくわかんない小さい入れ物に火を入れたやつ……今でいう携帯カイロ? 的なものを袖で包みながらついてきてた。その子とお爺さんが門を開けようとするんだけど、固まっちゃってるのか無理っぽい(ろくなもの食べてないんだろうね、非力なのよ)。見かねた王子の家来が手を貸してやっと開門よ。

「大雪の降った寒い朝に、頭が真っ白な年寄りが働かねばならないのも気の毒だが
見ているこちらも負けず劣らず涙で袖を濡らす朝だよ
『幼き者は着るものもなく』」


なんて口ずさむヒカル王子。最後のは白楽天の詩なんだけど、その終わりの句に出てくる鼻……あの姫君も超寒そうだったなー、などと思い出し笑いしつつ
「頭の中将が見たらどういう感想を漏らすかな? いっつもストーカーばりにつきまとってるからソッコーで見つかりそう…ぶるる」
などとげっそりする。

(常識的っていうかありがちな容姿なら、このままブッチしちゃってもよかったんだけど、こんだけバッチリはっきり見ちゃうとさ……申し訳ないっていうかなんていうか……ちゃんと真面目に通わないとな…)

 というわけで、あのオッサンくさい黒貂の皮のかわりに、絹、綾、綿、女房さんたちの着物、なんとあの門番のお爺さんや娘の分もよ? 上から下までタップリ気を遣って用意してあげたってのはさすがセレブよねー。いわゆるのぶ、のべ……なんだっけ右近ちゃん……あ、ノーブレスオブリージュねはーいありがと……て、ちょっと違うか。人道的配慮ってやつ? 
こういうのもさ、人によっては屈辱ーて思っちゃうこともあって良しあしなんだけど、そこはあの姫君ですから。まんま素直に受け取って感謝してくれるもんだから王子も気楽に「こういう生活面だけでもきちんとしてあげるか……」て思って、普通ならしないようなあからさまな援助もしてたみたい。

「思い出すなあ空蝉ちゃん……あの宵、無防備にくつろいでた空蝉ちゃんの横顔……当然スッピンだしぶっちゃけ美人じゃなかったけど、立ち居振る舞いがとにかくイイ! から、大して気にならなかったんだよねー。常陸宮の姫君は、身分とか家柄は空蝉ちゃんより大幅に上なのに、どうしてこうなった? とすると、品の上とか下とかは関係ないのかもなー。空蝉ちゃんは腹立つほど頑固だったけどイイ女だった。してやられた! お見事! て感じで忘れられないよね」

 未だ解けない空蝉の術ー♪ パネエっす空蝉姐さん。

>>「末摘花 十」につづく
参考HP「源氏物語の世界

2017年4月19日水曜日

四月に読んだ本

なぜか画像が貼りつけられないので、このまま更新。

「最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常」二宮敦人

藝大生を妻に持つ作家・二宮氏の実録ルポエッセイ。
私は「アーティスト」という言葉の意味を激しく勘違いしていた。アーティスト、とは、アート「で」生きていく人ではなく、アート「と」生きていく人のことなのだ。これまでの人生、真のアーティストの方々に対しては非常に失礼な見方をしていたように思う。ごめんなさい。
アートは本来、対価を要求するものではない。ただ作りたいから、書(描)きたいから、弾きたいから、とにかく自らの内から湧き上がる何かを表現することそのものなんである(対価を受け取ったからそれはアートではない、なんてことはもちろんないが)。ラスコーの洞窟絵の時代は今よりもっと生きるか死ぬかのシビアな世界だったろうに、それであのレベルの絵を描いていたわけだから、「アート」は人間の知能がある程度のレベルを超えたあたりから続く、もはや本能といってもいいくらいの行動なのだろうと思う。実際に、常識を超えた発想というのは技術の発展のきっかけとなるから、直近の生活に役立たない(様に見える)というだけで、全体が進化するためのひとつの手段という見方もできる。
「職人」と言われる人々が、どう考えても割に合わない時間と手間をかけてものを作るのは、お金より何よりまず、そういった「本能」=「将来を見据えた大局観」に突き動かされてのことだと考えるとわかりやすい。そこに普通の金勘定の考え方を持ってきても、合うわけないのだ。
とはいえ「アート」に没頭できるのも、普通の経済活動あってのことでもある。両方に利のあるようにうまくかみ合って回るといいのだが…今は、中間に立つ者が利を根こそぎかっぱいでいく構図が目に余る。利は必要だが取りすぎたら災いになる、結局程ほどが幸せなのだ。というのを実現していくにはどうしたらいいんだろうか? 永遠の課題。

「くじ」シャーリイ・ジャクスン

スティーヴンキングが敬愛してやまない作家、ジャクスンの短編集。このところジャクスンの本が相次いで復刊されていて嬉しい限り。しかもこの「くじ」はキング作品の翻訳でおなじみの深町眞理子さんの処女訳作品であるという。好きな訳者さんなのでなお嬉しい。
ジャクスンの本を初めて読んだのは小学校低学年の頃。兄の買った「なぞの幽霊屋敷」というタイトル(こちらのほうが一番原題に合っている気がする、今となれば)の本、生頼範義さんのおどろおどろしい挿絵とあいまって、強烈な印象を残した。同じシリーズで同時期に買っていた「吸血鬼ドラキュラ」とはまったくちがう、あの不条理感というか、何もかも歪んでいてうまく嵌らない頼りなさ、不安定な感じに惹きつけられ、何回も読み返したものだった。高校に入ってまもなくスティーヴンキングを知り、どっぷりハマっていったのも必然。キングの初期作品、特に短編はジャクスンぽいものが多々あって、次第にわかりやすいホラーになり、最近になってまたその世界観に戻ってきたような感がある。
まごうかたなき大人と呼ばれる年齢になってこの短編集を読んでみると、何も奇抜な表現や言葉を使っているわけではないし、非常に短いものが多いのに(短いからか?)、自然にその世界に引っ張り込まれる。このさりげなさは意識してそうしているんだろうけど、本当にうまい。表現を吟味しつくして日本語の文章を作っていく翻訳という作業とも親和性が高く、翻訳する価値のある作品だと思う。新たに出た二冊も購入済みなので今から楽しみ。新訳で出ている「丘の家」も買おうかどうしようか。

「桶川ストーカー殺人 遺言」清水 潔

元・写真週刊誌FOCUS記者、現TV記者による「桶川ストーカー殺人事件」の記録。
この事件についてはよく覚えている。最初は通り魔かと思われたのが、実は元交際相手の差し金で全くの他人に殺された、ということも、しばらくの間被害者がやたら叩かれていたことも、その後張本人が北海道で自殺したということも、警察が酷かった、ということも、その都度新聞や雑誌の報道などで大まかにではあるが記憶に残っていた。
地道だが果敢な調査報道によりいち早く事件の真相に迫り、真犯人を追いつめていったジャーナリスト魂には本当に感心させられる。とても優秀で、男気のある人なのだろう。それはこの前読んだ著書「文庫X:殺人犯はそこにいる」からもうかがえる。
だが、この二件に共通していえるのが、この気鋭のジャーナリストを以てしても容易に触れられない闇があるということだ。「ルパン」を、「和人」を逮捕されないように仕向けたのは誰なのだろう? 事なかれ主義や怠慢が重い結果を招くことは多々あるが、意図的な「不手際」だったとしたらさらに怖い。
何が敵に回るかわからない。手持ちカードは多いのに越したことはないのだ。自衛のためにはまず記録。映像、音声、文章に残すこと。バックアップを取り、家族をはじめ信頼できる人の間で情報を共有すること。被害者が反撃をすると、その手段が暴言・暴力ではなく正当な手続きを踏んだものであっても「そこまでやらなくても」「大げさ」などと無責任な批判をしてくる輩は必ず沸いて出るので、常に複数で事に当たることが大事。
それにしても、被害者遺族が起こした国家賠償請求訴訟の判決「警察の捜査怠慢については賠償責任が認められたが、遺族が求めた捜査怠慢と殺害の関連認定については退けた」って…それはつまり裏を返せば、捜査をきちんとしてもしなくてもどのみち殺されてたってことで…それだけヤバイ相手だということで、そういうのに目をつけられたら警察も役に立たないんだから頼るなって裁判所が認めちゃったってことで… そんなんでいいの? これ何が悪いのだろう。法律の不備?

2017年4月7日金曜日

末摘花 八(ひとり語りby侍従)

やっとやっと、夜が明けた!

(よし、これで帰れる♪)とヒカル王子が格子を上げると、お庭は一面の雪。誰かが雪を踏みわけた跡もなく、ただ真っ白の寂しーい荒れ地がどこまでも、て感じだったから、これほっといてさっさと帰っちゃうのはさすがにキチクってもんかなー、とマメ男の王子は思ったわけ。

「空がなかなかいい感じですよ、一緒に観ない? いつまでたっても籠ってばっかじゃつまんないよー。こっちおいで(棒)」

王子の顔が、まだ薄暗い中雪あかりに映えますますのキラキラ☆イケメンっぷりを発揮。お婆さんたち(といっても多分30~40代…)眼福眼福とばかり拝みたてまつる。
「姫君、早くお出であそばしませ。いけませんわ、女は素直なのが一番ですのよ」
なーんて口を揃えてまくしたてられた姫君、例によってイヤって言えない性格なもんだから、しぶしぶながらも身支度ととのえてずず…といざり出てきた。

見てないよーん、なふりして外の方を眺めてた王子、その実横目で姫君ガン見。
「どんな子かな? カワイイ系キレイ系? お育ちはいいんだしちょっとはいいとこあってもイイよね?」
まー、一応お泊りデートってやつだし? 期待するのも無理ないわよね。

だがしかし…

王子は、見てしまった……すべてを。

座高が、高い。胴長なのは平安日本人のデフォとしても、これはさすがに…と思ったところで理由判明。
顔がデカい。つか、長い。オデコ広すぎ。しもぶくれはこれまた平安(以下略)だが、袖で隠されて全貌が見えない。ということはさらに…いやいやいや。そんなことより…
鼻!!!
鼻がデカい、つか長い! しかも赤い! 超色白だし? 寒いし? だよねーまーそうなんだけどさ! 垂れ下がってるように見えるのはどゆこと?!

てか痩せすぎじゃね? 着物の上からも骨格わかる感じ、つか着物、古! いやその、普段は他人のファッションに口出しするなんて無粋なことはしない主義だけどさ……由緒ある古着なのかもしんないけど、ピンクって煤けたら見られたもんじゃないよ? 大体インナーだって元が何色かもわかんないじゃん…てかそのテラテラした毛皮なに? 狩人のオサーン?!そりゃあったかいんだろうけどうら若い女子が着るもんじゃないしょ!

…あ、髪はキレイかも! 長くて豊かでツヤッツヤ! やったね平安美女の条件いっこクリア☆
って!ああああああ!
なぜ!
なぜ、すべてを見てしまったんだろう……
目を離したいのに、離せない。こんなの初めて……なんも言えねえ…

とはいえそこはヒカル王子、姫君にちゃんと話しかけて、あまつさえ笑わせたり(ニヤリ、程度だけど)しちゃうのはさすがよね。
(なんだろうこの、何とも言えない気持ちは……罪悪感半端ないんっすけど! でもでも何をどう悪いと思ってるのか自分でもわからないっ!)

「ご実家の後見がないとわかってて通うような男は私くらいなんですから、もっと打ち解けていただけると嬉しいんだけどなあ。中々気を許してもらえないって辛い…」
と冷静を装いつつ帰る気満々の王子、
「朝日が射している軒のつららは解けたのに
なぜあなたの心は凍ったままなのでしょう」
つらいわーつらすぎてもう帰るしかないわーと暗にそっちのせいで帰るんだからね的な歌を詠んでみたものの、
姫君にはとーぜん、そんな心の声が聞こえるわけもなく。うふふ、なんて照れ笑いして返歌もすぐには出ないかんじがまた王子にしてみれば
うああああああ!
と叫びたいくらいいたたまれない。ソッコーでお邸を出ましたとさ。

>>「末摘花 九」につづく
参考HP「源氏物語の世界