2017年9月7日木曜日

九月に読んだ本

「蜜蜂と遠雷」恩田陸

第156回直木賞、2017年本屋大賞、第五回ブクログ大賞小説部門大賞、等々各賞を総なめにした本作。子供が学校の図書室から借りてきたのでこれ幸いと読んだ(←)。
それにしても最近ハードカバーをほとんど買わなくなってしまった…お金の問題ではない、場所がないのだ。住む場所に対してほとんどこだわりはない私だが、本を置くスペースだけはふんだんにほしい。宝くじ当たんないかしら。ていうか整理整頓をもっと徹底すればいいんだが、今やりたくなーい(いつやりたくなるんだ)。まったくお話にならない。

さてこの本、構成はいたってシンプル、最初から最後までピアノコンクールだ。読んだ直後には、60字梗概を書く意味ないのでは?と思いかけたが、やはりそれは違う。基本に「国際ピアノコンクール」という様々な意味の詰まった確固とした言葉があり、それを柱として物語を紡いでいるというのは大事なことだ。こういうことをやった人、たぶん誰もいない。目の付け所がさすがの恩田陸さんである。

【60字梗概】
国際ピアノコンクールに亡き天才音楽家が送り込んだ少年のピアノは周囲に強烈な影響を与え、やがて音楽の真髄を全員が体験する。

実に情けないことだが私はクラシックに全く詳しくない。ここに出て来る曲でメロディーが即座に浮かんだのは一割に満たない。三割くらいが曲名は聞いたことあるけど…で、あとの六割はさっぱりという体たらく。そんな私が声を大にして言う!「蜜蜂と遠雷」は、
クラシックを全然知らなくても楽しめる小説
だと。
しかし熟知してたほうがさらに楽しめることは確か。ええ、私もやりましたともここに出てきた曲を検索して聴くということを。きっと皆同じことをやってるに違いない、ピアノ動画に挟まって恩田さんのインタビュー動画とかありましたもの。ひととおり聴いて、文庫になったころもう一度読み返したい。
かつてブームを呼んだ「のだめ」のような爆発力はなくとも、じわじわと長い時間をかけて効いてくるような小説だと思う。既に種はいたるところに撒かれている。うーんこういう小説を書けたらいいなあ。

2017年8月28日月曜日

八月に観た映画

引き続き
・選んだ理由と観た後の感想(100字まで)
・梗概(60字)
を書いてみる。

<<<!!ネタバレ・長文注意!!>>>


「誰のせいでもない」 ヴィム・ベンダース(2015)

監督がヴィム・ベンダースだったことが選んだ理由。期待通り、映像が本当に美しかった。色彩、構図、風景の切り取り方、画面の切り替わり、全部完璧。微妙な感情の起伏や変化が言葉でなく映像で十二分に語られている。ショッキングでつらい設定だが、ラストシーンはホッとさせられた。

【60字梗概】
冬の道で起きた不幸な事故は不可抗力ながら当事者とその周囲の人々に深い傷を与えたが、年月を経て新たな道を作り出した。

始まりの悲劇は道で起こり、朝日の射す道で終わる。まさにヴェンダースそのものといった映画。
最近はこういう映画がいつ始まってどこでやってるのとかチェックする暇がなく、話題になっていたかどうかすら知らない。私としてはかなり完成度高めだと思うんだが、一般的な評価が低めなのはなぜなんだ。しかも何でサスペンスってくくりになってるのだ? 完全にいつものザ・ヴェンダース’sロードムービーだと思うんですが…。(といいつつ昔観たロードムービー三部作は忘却の彼方)
改めて監督のプロフィールを見直してみると、若い頃からまあ挫折の連続。哲学科を志したが挫折から始まり、画家・彫刻を学んだが挫折、映画もすぐには芽が出なかった。人生における衝撃的な出来事が、次の瞬間から否応なく日常に取り囲まれ流れる時とともに揉まれていくこの感じ、苦労と挫折の中で生き抜いてきた監督ならではの表現なのかもしれない。
何があろうと生きている以上前に歩き続けるしかない。だが、故意ではないにしろひとりの子供を轢き殺してしまった事実は消えないということを忘れてはいけない。
こうして文に書いてしまうと当たり前じゃん、と思うが、実際この二つを同時に実践するのは簡単ではない。主人公はきわめて誠実かつ感情の抑制がきく良識的な人物ではあるけれど、懸命に支えてくれる恋人に甘えて傷つけたり、立ち直ってからも被害者家族に対し上から目線な冷たい口をきいたりと、たびたび小さな過ちを犯す。結果的に両者とも正面から向き合うことができ、ひとつ階段を上がってまた人生を歩んでいく…といった感じで終わるのだが、罪を犯した場合の身の振り方を明確に示した良映画だと思う。ちなみに前回の記事でとりあげた「冷血」で出て来る「パリ、テキサス」はヴェンダースの名作。

「ラ・ラ・ランド」 デイミアン・チャゼル(2016)

アカデミー賞総なめの映画。とはいえまったく事前知識なし。映画好きな人にはたまらない映画とだけ。最初ななめ観していたら話がよくわからなくなり結局二回観た。最初の印象とはまったくちがう内容で素晴らしかった。

【60字梗概】
ロサンゼルスで夢を追う男女が出会い恋をする。お互いの夢は実現していくが徐々にすれ違い、遂には別々の道を歩むことになる。

正直最初はちょっと退屈だった。ヴェンダースを観た直後だったのもよくなかったのかも(作り方が全く違う)。日を改め、「ミュージカル映画ではない」「映画好きがよろこぶ映画」という評を思い出しつつ観たらいけた。ダレてるように見えたストーリーも、中盤からかなりいい感じに。二人の恋がかなうまではわざと陳腐にしてたのか?と思う位。特に別れのシーンがとてもいい。お互いに愛してるといいながら、お互いを尊重しながら無理に笑顔を作っての別れ。そこから繋がる夢、「もうひとつの」未来を描くエピローグが切ない。よくある単純な恋愛ドラマ、単純なサクセスストーリーを下敷きにしながら、ここまで感動的な映画を作れるのは本当にすごい。日本とはエンターテイメントの歴史も違うしベースにしているもののレベルも思い入れも、何もかも違うと実感させられる。かないませんわーホント。


「スターウォーズ ローグ・ワン」 ギャレス・エドワーズ(2016)

選んだ理由はもちろん「スターウォーズ」だから!
この圧倒的な存在感と濃密な世界観は他にはない。さらにこの映画に関わった人たちの並々ならぬスターウォーズ愛がこの映画空間をより一層輝かせている。

【60字梗概】
帝国軍に拉致され兵器デススターを作った科学者の娘が反乱軍に協力し、設計図を手に入れ味方に送信後、攻撃により死亡。

反乱軍の中も一枚岩ではない、単なる善悪の戦いではないといった視点が今風。これだけの犠牲の上に、ルーク・レイア・ハンソロの活躍が繋がると思うと胸熱。もう何の文句もない。手放しで楽しめました。
しかしこれだけ長いシリーズだと、自分が生きてる間に終わってほしいようなずっと続いてほしいような。

2017年8月17日木曜日

五~七月に読んだ本

例によってまた更新をサボってしまった!久しぶりなので何を読んだやら忘れてる…順不同で行きます。

「荒神」宮部みゆき

久しぶりの宮部さん。ご本人の「特撮時代劇を書きました!」との言は読み終わってから知ったのだが、私の印象としては特に冒頭の掴みは「ジョーズ」とか「グリズリー」とかのパニック物を連想。途中のグロい描写は「進撃の巨人」、途中でその生き物の正体がわかったところではじめてああこれゴジラだ、とわかった。
以前、宮部さんにはファンタジー向かないのでは?と書いたことがあるが、今回時代物だったせいか特に違和感なく、当時の社会問題+伝奇的な要素がバランスよく組み合わされて興味深かった。兄妹と家の因縁話は歌舞伎でやっても似合いそう。ただ「英雄の書」でもそうだったように、やっぱり兄がダークサイド堕ちした理由が弱い。怪物の陰惨さと絶望感が半端ないので、これに対比できるほどの悲惨がないと個人的に納得できん。
しかし細かいところは別にいっかーとなるほどに怪物の存在感が圧倒的で素晴らしいので、小説としてかなり成功していると思う(えらそう)。

これNHKでドラマ化決定してるのね。うーんアニメの方がよくないか?と思ったけど、あとがき読んで特撮に期待。

「冷血」上下 高村薫

久しぶりの高村さん。まず思ったのは、あれ?何か読みやすい、だった。いや昔も読みにくいことはなかったのだが、さらに文章が整理され、なんというか滑舌がよくなったというか…テンポがよくなったのか?それともストーリーテリング能力がパワーアップ?いずれにしろ端正な文章を心ゆくまで堪能できた。
前半は被害者の家族が「その日」までにどのような日常を過していたかを丹念に綴り、事件後は徹底して加害者側および警察の視点から語る。本家の「冷血」は読んでいないが、カポーティを描いた映画を観て大体の内容は把握していたので、組み立てや展開はおそらく本家のやり方を踏襲しているのだろうなあと想像。
おなじみの合田刑事がすべてにおいて精緻なせいか、とにかく犯人二人の雑さが際立つ。生き方も考え方も、行動も言動も、殺し方も逃げ方もすべてが雑。一人は元々の気質、もう一人は親の抑圧によって壊れた結果、そのある意味シンプルな気質に引っ張られ同化した感じ。読むこちらの方も、被害者側の遺族の感情がほとんどかかれていないせいか、奇妙に現実感がない。相当酷い話のはずなのに怒りがわいてこない。そういう自分への戸惑いと疑問。終盤、唯一出てきた遺族の一人が言った言葉は、そのまま犯人たちの心持ちに繋がる。「殺すのが正しい手順のような…とにかく早く始末しなきゃと」。被害者とも加害者とも全く関係のない第三者が決める「死刑」というのは案外この二人のやったことに近いのかもしれないと思わされた。死刑反対派に与する高村さんらしい結論だ。

「古事記 不思議な1300年史」 斎藤英喜
「日本古代の氏族と国家」 直木孝次郎
「入門白山信仰~白山比咩の謎に迫る~」 内海邦彦
「秦氏の研究」 大和岩雄

資料本として上記四冊を図書館で借りて読んだ。どれも面白かったが、古事記というものがかつてねつ造疑惑により資料としての価値を貶められていたこと、さらに今では、「時代とともに変遷する」ことそのものに価値を見出されているということ、非常に興味深かった。とすると、現代に見立てて語り直せば何年か後には…と思ったが、既にプロ・アマを問わない二次創作の山だわ。日本ってホントにもう・・・。
白山信仰と秦氏、これはあまりに面白すぎて、ついうっかり白山神社の記念誌とか続・秦氏の研究とか買ってしまった。こういう分厚くてお高い本こそ電子書籍にしてほしいのだが、大体ないんだな。希望は出しといたけど。