おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

夕霧 二

2021年6月21日  2022年6月9日 

侍「……あれ?まだ ~オフィスにて~ やるの?」
王「切り替わってないわね。ちょっと待っ」
 ピコーン♪

 こんにちは……。

侍「わっびっくりした!」
王「あら、小少将ちゃんじゃない。どうしたの?」
右「王命婦さん知り合い?ホント顔広いわね」


 は、はい。小少将と申します……あの、落葉の宮さまに仕えております女房です。母御息所さまの姪で、宮さまとは従姉妹に当たります。


侍「えっそうなんだ!カーワイイ!若いね!アタシ侍従、よろしくね♪」
右「侍従ちゃんたら、久々の新人女子迎えた職場のオジサンじゃないんだから。あ、私は右近です、よろしく」


 こちらこそ、よろしくお願いいたします。あの、実は……急展開がありまして。王命婦さん、其方の侍従さんと右近さんに聞いていただいても……?


王「ああ、大丈夫よ。此処で何言っても一切漏れないし(時空を超えてるから)」
侍「てことは、夕霧くん遂に何かやらかしたんだ!聞きたい聞きたーいカモンカモン!」
右「侍従ちゃん乗り出し過ぎ。押さえて押さえて」


 は、はい……どこからお話しすればよろしいのか……あまりに目まぐるしすぎて私も混乱気味なんです。まさか、ここまで急激に……。


侍「ごくり……」
右「侍従ちゃんシーッ」


 夕霧左大将さまが昨日、小野の山荘にいらしたんです。ちょうど野辺の眺めも美しい頃合いで……どんなところなのかずっと気になっておられたんでしょうね、

「何某の律師が珍しく山を下りられているとのこと。是非会って相談したいこともあるし、一条宮の御息所のお見舞いがてら行ってくるよ」

 などと口実をもうけて出てこられたみたいです。大袈裟な体ではなく、五、六人の側近のご家来だけを付けられて、気軽な狩衣姿でお越しでした。

 小野の山荘ですが、さして深い山奥でもありません。松ヶ崎の小山を模した岩も秋色に染まり、都で粋を尽くした家屋敷よりもかえって情趣も風情も勝っているように見えます。小柴垣もこじんまりとはしていますがお洒落にととのえられ、仮住いといえどもそこは皇統のお二人、品格ある暮らしぶりにございます。寝殿にあたる東の放出に修法の壇を塗り上げて、北の廂の間に御息所さま、西面に落葉の宮さまのお部屋を設えました。

 はじめ、御息所さまは宮さまを京に留めようとなさったのですが、二人きりの母子がどうして離れていられましょうか。宮さまをはじめ一条宮邸にて特に親しく仕えていた私たち女房も一緒に移りました。ええ、夕霧さまがすべて良きように取り計らってくださって……本当に有り難いことでした。

 ただ、物の怪が宮さまやお付きの女房達に移るなどということがあってはならないと、北の廂と西面の間には申し訳程度ですが隔ても置き、みだりに近づかないようにはしております。そんなわけで、夕霧さまのような賓客を応対できるような場所が充分には取れません。そもそもさして広くはない山荘ですので。

 仕方なく、宮さまのいらっしゃる西面の御簾の前に夕霧さまをご案内し、身分高めの女房が御息所さまに代わりご挨拶を申し上げました。

「勿体なくも、こんな遠方にまで態々お越しいただきましたこと、まことに恐縮に存じます。もしこのままはかなくなりましては、この感謝の思いをもお伝えできない、今少し此の世に留まりたいという気持ちになりました次第です」

 夕霧左大将さまが答えられます。

「此方にお移りになる際もお送り申し上げたく思っておりましたが、六条院から承ったことがまだ中途で、その後も何かと雑事に紛れてしまいました。ずっと案じておりましたものの、其方ではきっと誠意のない者とお思いだったでしょう。申し訳ありません」

 宮さまは奥の方で静かにしていらっしゃいましたが、そこは広い一条宮邸とは違い、人のいる気配ははっきりとわかってしまいます。宮さまがそっと身動きされる衣擦れの音も、あれがそうかと察することは出来たでしょう。夕霧さまは型通りの挨拶を仰る間も、心ここにあらずといった風情にございました。

 御息所さま付きの女房が行き来する間、私や他の女房達とすこしお話をされたのですが、

「こうして伺うことももう何年になったものか、いつまでも他人行儀にもてなされるのは辛いね。こんな風に、御簾の前で女房伝いに僅かなお言葉を押しいただくなんて待遇には慣れていない。何と古風な堅物男と思っておられるんだろうね。つくづく恥ずかしいよ。もっと軽い身分の若者の頃に経験を積んでいたなら、こんなに初心な悩み方はまずしなかったのかもね。まったく、ここまで生真面目に、愚直に過して来た男はなかなかいないよ?」

 ああ、遂に本音が出た!って感じでしたね。

 確かに、年齢的にもご身分的にも侮っていいお方ではございません。

「私たちに仰られても……どうお返事していいものやら気後れしてしまいますわ」

 などと女房同士つつき合って、すぐさま宮さまにご注進です。

「かくかくしかじかとのことです。何もお返事をなさらないのはさすがに無粋かと」

 宮さまが応えられました。

「母が病人ゆえ自身でお話し申し上げられないという無礼につき、わたくしが代わりとなるべきところにございます。が、恐ろしいほど悪いご容態を目の当たりにするうち、わたくしまで生きるか死ぬかという心持ちですので、とてもお返事など……」

 その通りにお伝えしますと、夕霧さまは、

「それが宮のお返事ということでしょうか」

 と居ずまいを正されて、

「御息所のご容態をこの身に代えてもと私が案じますのも、いったい誰のためだと?畏れながら申し上げますが、聡明でいらっしゃる宮ならおわかりのはず。憂い多き日々から離れ、晴れやかな方面にも目が向くようになるまでは、母御息所が息災であることこそ誰のためにも心強かろうと考えてのことです。ただ母君への心配ばかりとお思いになって、私の積もる真心をご理解くださらないのは、まったくもって不本意ですね」
 と言い切られました。


侍「エッ、いきなり詰めてきたね!ターゲットは宮さまってはっきり言い放った!」
右「そりゃそうよね。夕霧くん、別に親族でもなんでもないんだもん。そういう目的でもなきゃ、普通は柏木くん側の縁者の頭越しの付き合いなんて遠慮するものよ。変に疑われたくないしさ」
王「京を離れてる上に、いつもブロックしてた母御息所さまはご病気で出て来られない。この際大人同士でガッツリ話し合いましょうってことね」

 そうですね……女房の間でも、全くその通りと頷く者が大半でした。いつかはこうなるんじゃないかって思ってはいましたから。
 やがて日も入り方になり、霧がうっすらと広がった空の景色はまことに趣深うございました。「山の蔭」が小暗くなる頃、ひぐらしが頻りに鳴き、「垣ほに」生える撫子が風になびくその色もことに美しく見えます。
※ひぐらしの鳴きつるなへに日は暮れぬと思ふは山の蔭にぞありける(古今集秋上-二〇四 読人しらず)
※あな恋ひし今も見てしか山賤の垣ほに咲ける大和撫子(古今集恋四-六九五 読人しらず

 前の前栽の花々は心任せに乱れ咲き、水の音も涼し気に、山から下りて来る風もひんやり冷たく、松風が奥にこもってそこら中に響き渡っています。不断の経を読む僧が交替の時刻になり、鐘を打ち鳴らすと、立つ方の声も代わりに座る方の声も一つに合わさって、なお尊く聞こえます。

 場所柄、何もかもが物寂びて見えるのでしょう。夕霧さまもしっとり物思いに耽っておられます。お帰りになられるご様子はありません。律師が加持をする音が聞こえてまいりました。陀羅尼を読む声もたいそう有り難く感じられます。

 その時、御息所さまが大変お苦しみとの知らせがあり、女房達がこぞって北廂に向かいました。もとより限られた人数しかおりませんので、宮さまの周りからは一気に人がいなくなりました。

 折しも霧がなお深く、軒の辺りまで漂ってまいります。夕霧さまが仰いました。

「帰る道も見えなくなりました。どういたしましょうか?」


侍「うわっキターーー!」
右「侍従ちゃんたら落ち着いて!わかるけど!」


 それから間髪を入れず、お歌です。これはもう勝負に出られた、と思いましたね。

「山里に良い雰囲気で立ちこめる夕霧に

出て行く空もないような心地です」

 宮さまも返されます。

「山里の籬に立ちこめた霧も

心が空の方は引き留めません」


侍「ん???何ソレ???」
右「そら、の意味が真逆じゃない?夕霧くんの方は『帰る気が空=ない』って言ってるのに、宮さまは『心が空=ここにいる気がない』なら帰れば?って。はぐらかしたつもりでイミフになった感じ?動揺してるのね」
王「都合のいい解釈をすれば、心が空でなければ留まりなさいっていう意味にも取れなくはないかな。夕霧くんも冷静なようでそうじゃないだろうし、逆効果ねこれは」


 ええ、ええ。本当にその通りです!夕霧さまは宮さまのお声と気配にすっかり舞い上がられて、本格的に帰る気を無くされたようでした。

「これはまた……中空に投げ出されたような心地です。家路は見えず、霧の籬には立ち止まるべくもなく追い遣られる。不慣れな男はこんな目に遭うと?」

 夕霧さまは一瞬躊躇われましたが、もう隠し切れなくなったのでしょう、お心のうちを諄々とほのめかし始められました。夕霧さまが一条宮邸を訪れるようになってからもう三年、宮さまにおかれましても一切何もお気づきでなかったわけもなく、あえて知らぬ顔を通してらしたのです。それがこうして言葉に出されてしまった。もう後戻りはききません。仰る通り、かなり動揺はしてらしたと思います。黙って考えあぐねておられました。

 御簾の向こうの長い沈黙に、夕霧さまは大きく溜息をつかれながらも心を決められたのでしょう、側近のご家来を呼ばれました。右近衛府の将監から昇格されて五位になられたという腹心のご家来です。


右「あの五節ちゃんの弟だっけ?出世したわねえ」
侍「こんなチャンスもう二度とない!どうしようもないチャラ男と呼ばれてもいい!今、この想いの丈をお伝えしなければ!的な?」

 ああ、夕霧さまのもうお一方の奥様のご親族なんですね。そうですか……夕霧さまはそのご家来にそっと耳を寄せられて、

「此処にいらっしゃる律師に是非とも相談したいことがあるが、病人のために護身の法を勤めるのに忙しく、今ちょうど休んでおられるようだ。そこで今宵はこの辺りに泊って、初夜の勤行が終わる頃に伺おうと思う。誰と彼とを控えさせよ。随身などの男どもは、栗栖野の荘園が近いから馬に秣など食べさせるように。ここでは大勢で騒ぐのは禁止ね。得てしてこういう旅寝は軽々しいように取り沙汰されがちだから」

 とテキパキ命じておられました。ご家来がすべて心得た風で立っていかれると夕霧さまは、

「帰り道が霧で隠れてしまいましたので、この辺りに宿をお借りします。何ならこの御簾の前をお許しください。阿闍梨が下がって来られるまでは」

 サラッとお泊りを宣言なさいました!


侍「エエー、いっきなりの告白から即お泊りデート?!夕霧くん、そんな子に育てた覚えはなくってよ!」
右「育ててないでしょ(笑)うーん、既成事実を先に作ってくスタイル?でもちょっと性急すぎない?」
王「頑張ってるわねえ(微笑)ただ、この宮さまにはどうかしらね。骨の髄まで内親王だし」

 

 夕霧さまのお振舞い、本当に人が変わったのかと思う程でした。

 いつもならばここまで長居したことも、色めいた素振りも一切見せられたことがございませんでしたから、宮さまも困惑するばかりです。だからといってこれみよがしにすぐ別室に引っ込んでしまうのも警戒しすぎの自意識過剰のようで、体裁が悪いと思われたのでしょう。ただ音を立てず静かに座っておられました。

 それに対し、堰を切ったように矢継ぎ早に話しかけられる夕霧さま。取次ぎも忙しくて大変でした。実際私たちにも油断はあったのです。いつ何時も生真面目で礼儀正しい夕霧さまでしたから滅多なことはないだろうと、高をくくっていたのは確かでした。


右「と、いうことは……」

侍「もう俺の熱いハートは止められないぜ!的な展開?!」

王「まあ、少なくともヒカル院ならば絶対に逃さないチャンスよね」


 はい……迂闊でした。

 もう何度目かも忘れましたが、宮さまにお伝えしようと御簾をくぐった私の後から、夕霧さまがついてこられたのです!

 夕暮れでしかも霧に閉じ込められ、屋内はもう暗うございました。驚いて振り返りましたが気づいた時にはもう遅く……宮さまは正面からご覧になっていましたので仰天され、すぐ北側の障子の外に逃げようとされました。が、素早く後を追った夕霧さまの手に引き留められてしまいました。

 お体ばかりはすっかり中に入られたのですが、衣装の裾がはみ出していたのです。宮さま側には掛け金などはなく、障子を完全には閉めきれないまま、汗びっしょりで震えておられました。

 私たち女房も慌てました。どうすればいいのかわかりません。此方側には掛け金もありますが意味がなく、そもそも女房如きが荒っぽく引き離していいお相手ではございません。

「何とご無体な!思いも寄らないお心にございますわ」

 と泣かんばかりに訴えましたが、夕霧さまはまったく動じず、

「この程度近くにいるだけで無体で、人より疎ましく目障りに思われると?数ならぬ身なれど、耳馴れる年月も十分に重なったでしょう」

 ごく穏やかに、落ち着いた態度で思いを語られました。

 宮さまの方はそれどころではありません。ここまでのことをなさる人だったのかと、今まで信頼していただけに悔しく、辛く、気持ちの持っていきようがありません。返事など出来るはずもないのです。

「なんと情のない、子供じみたお振舞いでしょうか。人知れず胸に秘めた思いが溢れてしまったことは罪かもしれませんが、これ以上馴れ馴れしい真似はお許しがなければいたしませんよ。いったいどれだけ、『千々に砕け』そうな悲しみに堪えてきたことか。隠したところで、貴女も自然私の気持ちはおわかりになったでしょう?無理に知らぬふりをして、いつまでも余所余所しく扱われるものだから、はっきり申し上げる他なくなったのですよ。無分別な狼藉と憎まれても、このまま朽ち果ててしまいかねない思いをこの際はっきりとお知らせしたかっただけなのです。申し上げようのない冷たさにここまで参りましたが、大変畏れ多いことと弁えてはおります」

※君恋ふる心は千々に砕くれど一つも失せぬものにぞありける(後拾遺集恋四-八〇一 和泉式部

 夕霧さまが宮さまを安心させようと、つとめて優しく、心を尽くしてらっしゃるのは傍目にもわかりました。障子を押さえる手など、夕霧さまからすれば造作もない守りでございますが、無理に引き開けたりなどはなさいません。

「せめてこの程度の隔てをと思い込まれるのは気の毒なことですね」

 と微笑まれて、あくまで紳士的に振る舞っておられます。

 宮さまはうち続いた物思いのせいでしょうか、すっかり痩せていかにもか弱い感じがいたしました。普段着のままのなよやかなお袖、焚き染めた香、気品ある優雅な佇まい、何もかもが夕霧さまの心を強く引いたようでございました。

 風はますます物寂びて、更けゆく夜の景色は、虫の音も鹿の鳴く声も、滝の音も一つに入り乱れ、何とも濃密にございました。まるで情趣を解さない軽薄な人でさえふと目を醒まさずにはいられない空模様、格子も上げたまま、入り方の月が山の端に迫るまで、夕霧さまは懇々と口説き続けられます。

「いつまでも私の心をわかっていただけない貴女こそ、浅いお心持ちと思われます。これほどまでに世間ずれしていない安心安全な男など、他にいないと思うのですが……何事も気軽に出来る立場の人は、こんな振舞いを愚かと笑い強引な手段も使うものです。そんなに私を蔑まれるなら、いっそ抑えも取り払ってしまおうかという気にもなります。男女仲というものをご存知ない貴女でもないでしょうに」


右「ああ言っちゃった。NG発言」
王「何かオジサン臭いっていうか、理屈っぽい口説き方ねえ若いのに。もうちょっとこう、心ときめくような言葉選びとか、ねえ?」
侍「夕霧くん!お父様に再教育して貰って!ってされてないか元から!」


 ちょっと酷いですよね……こんな風に問い詰められたところで、どう答えていいものやら。宮さまも考え込んでしまいました。

 まずもって「一度結婚した身だから気安い」なんてことを何度もほのめかされて良い気がするわけがありません。

(こんな酷い話があるだろうか)

 どんどん気持ちが落ちて来られたのでしょう、目が死んでおられました。

「結婚したこと自体が罪だったと?だからといってこんな情けない状況を受け入れる理由にはなりませんわ」

 宮さまはそう仰って、さめざめと泣かれつつ

「わたくしだけが不幸な結婚をした女の事例として

さらに涙で袖を朽たし評判を朽たさないといけないのでしょうか」

 誰に言うともなく、気持ちのままにそっと詠まれました。すぐに、なぜ口に出してしまったのかと後悔しておいでのようでした。

「仰るとおり、悪い事を申しました」

 夕霧さまは微笑んでらっしゃる風で、

「もうこうなっては私が濡れ衣を着せなくても

評判は立ってしまうでしょう

 どうかお心をお決めくださいますよう」

 と、月明かりの方に宮さまを誘われましたが、姿を晒すなどとんでもない、と動きません。夕霧さまはたやすく引き寄せて、

「私の、他に例のない真心を受け取ってどうかお気を楽に。お許しが無ければ何もしません。ええ決して」

 などと、いささかぶしつけな言い方で繰り返すうち、明け方も近づきました。


王「ちょっと夕霧くん何なのコレ。お姉さまはガッカリよ?」
侍「王命婦さんがオコだー!」
右「だいたいね、もう一晩一緒に過ごすんだから同じことでしょ、開き直れば?って何なの?マジでオヤジくさいんだけど。頭の天辺から衣裳の端っこまで目についたところはひたすら褒めちぎりまくるもんじゃないの口説き文句っていうのはさあ。理由とか要らんのよとにかく貴女が好き好き好き!って言うだけよ。これじゃ宮さま気の毒すぎるわ」


 何と申し上げて良いやら……私たち女房ももちろん徹夜です。

 月は曇りなく澄み渡り、その光は霧にも遮られずまっすぐ差し込んでまいります。浅い造りの廂の軒は奥行きもなく、お月さまのお顔と向かい合っているようで妙に気恥ずかしい心地がいたします。月から隠れるように紛らわしていらっしゃる宮さまのお姿は、それはそれは優美にございました。

 夕霧さまは、亡き柏木さまについても少し触れられました。当たり障りのないことばかりではあったものの、どうしても比べて恨み言も仰います。


右「あーもう、何でそこで柏木くん出すかな。さっきからダメなことばっかやってんじゃん。素人なの?って素人か……五節ちゃんに対するお歌とかも大概だったわね考えてみれば」
侍「やっぱちょっとは遊んだ方がいいんだよ!王子みたいにさ!うん!」
王「あの人はちょっとどころじゃないでしょ。極端ねえ、父子なのに」


 何ででしょうね……私にははっきり聞こえました。宮さまの心のお声が。

(柏木さまは位階もまだ十分に高くはなかったのに、誰も彼もお許しになったものだから自然に結婚の流れになったのだけれど……それですら気の進まない縁談ではあった。ましてこんな……しかもまったく関係のない人ではない、致仕大臣の娘婿……大臣だってどう思われることか。世間の誹りはもちろんのこと、父の朱雀院のお耳に入ったらいったいどれほど心配されるだろう)

 縁のある方々を考えれば考えるほど、このような状況に陥ったことが残念でなりません。

(自分自身に断じて疚しいことはなくとも、人はどう言うかしら。まず母君がご承知でないことが罪深い気がする。もしこのことを知られたら、何と迂闊で幼稚なお振舞いを、と思われるかも……辛い)

「どうか夜の明けないうちにお帰りくださいませ」

 と繰り返し急き立てること以外に仰ることはありませんでした。

「なんと情けない仰りようを。訳アリな顔で草葉を分けて出ていったら、朝露さえ変に思うでしょう。何としても帰れと仰るなら、私の心も少しは汲んでください。一晩を何もせず過した愚かな男の姿を見て、してやったりとお見限りになるようなら、その時こそ私の心は抑えがきかなくなるでしょう。今までしたこともない、不埒な振舞いも仕出かしかねない、そうお思いください」

 などと仰る夕霧さまですが、やはりなりふり構わず押し切るようなことは出来ないお方にございました。本当に、慣れておられないのです。お互いにとっての最適解とはいえ、後ろ髪を引かれながらも朝霧に隠れて出立なさるそのご心境、察して余りあります。

「荻原の軒端の露に濡れながら
幾重にも立ちこめた霧を分けながら帰らねばならぬとは
 濡れ衣を乾かすことは出来ないでしょう。無理に私を帰した、貴女のお心のせいですからね」
 まったくその通りでございます。いずれ噂は漏れ出してしまうでしょう。それでも宮さまは、
(自分で自分に問うた時に潔白であればそれでいい)
 と思われたか、ことさら冷淡に突き放されます。
「分け行く草葉の露にかこつけて
私に濡れ衣を着せようというのですか
 心外なことですわ」
 どうですかこの毅然とした宮さまの態度……あまりの尊さに倒れそうになりました。

 それに引きかえ夕霧さま。長年、他の人とは違う人格者として、細やかなお心遣いを下さったというのにあの豹変ぶりはいったいどうしたことでしょうか。殿方というものを信じられなくなりそうですわ……。


侍「いい人ねー♪って油断させといていきなり狼にヘンシーン……って、ちょい待ち!結局何もしてないんじゃん!」
右「いやちょっとこれ、夕霧くんいたたまれなくない?自分がイヤになんない?いや、決して嫌よ嫌よも好きのうち、なんてこと言わないけどさ……押し倒してでも物にしろなんて絶対言わないけどさ。ああーモヤモヤするうう」
王「あのさあ。何なのこの坊ちゃまは?ナニもしないくらいなら、最初から御簾の中に入るなっつうのよこのヘタレが!」
侍「お、王命婦さんがご乱心!」
右「いやこれ、何も無かったなんて世間がみるわけないじゃん。間違いなく大嵐ね、三条邸の辺りで」

 ど、どうしたらいいんでしょうね私。私の後から夕霧さまが入られたので、すごく責任を感じてるんです……。

侍「エー、そんなん全然気にすることないよ!だって元々御簾なんて隔てのうちに入らないし、その気になれば誰でも入れるもん」
右「そうよ。信用とお約束だけで成り立ってる結界なんだから、恋の情熱でたやすく超えられるものなの。この場合、夕霧くんの山荘訪問自体断れるような案件じゃないし、女房にはまるで責任無し!」
王「なのにそこまでやっときながら、何の成果も上げられませんでしたア!って、最近最終巻出た某漫画かって感じよね。はーもう何なのありえないわ」
侍「王命婦さんの脳内が嵐……」
右「そしてまだまだ続くこの話題……」

参考HP「源氏物語の世界」他

<夕霧 三 につづく 

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過去記事の改変は原則しない/やむを得ない場合は取り消し線付きで行う/画像リンク切れ対策でテキスト情報追加はあり/本や映画の画像はamazonまたは楽天の商品リンク、公式SNSアカウントからの引用等を使用。(2023/9/11-14に全記事変更)

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