2017年12月5日火曜日

末摘花 十(オフィスにて♪)

「侍従ちゃん?」
「なあに右近ちゃ……じゃなかったっ大輔命婦さん!?」
「ごめんね忙しいのに。師走だものね。ちょっとだけいい……?」
「いえいえいえ!だいじょぶですよ!大輔命婦さんのお望みとあらばうちのウルサイお局さんだってなんもいわないし!いいところにいらっしゃいました、ついさっきお正月準備の荷物届いたばっかで。何でも言ってください♪」
「ありがとね。でも、そういうことじゃないの。ちょっと話を聞いてもらいたくて」
「え……そ、そんなウルウルした瞳で見つめられたらアタシ……」
大輔命婦の白くしなやかなてのひらが、侍従の手を優しく包むこむ。
「わ、わかりました!お茶、お茶しましょう! ちょっと右近ちゃんに頼んできますね!右近ちゃーん!」
……
「で」
「ん、これ超おいひい(ごっくん)異次元の味! いやマジで! 右近ちゃんも食べなよーせっかく大輔命婦さんが持ってきてくれたんだしさ」
「まーた常陸宮でタダ働きってことね、しかも新年早々」
「えータダじゃないよー等価交換てやつう? 今大流行りで滅多に手に入らない帝御用達スイーツいただいちゃったしー、さっきちょっとだけ揉んでもらったしー。はー肩も首も軽ーい♪」
「ったく、まんまと騙されちゃって…」
「首尾よく任務完了したらまた揉んでもらうんだー、全身コース♪ 小顔効果もあるってさ」
「……え、それちょっとうらやましいかも」
「でしょ♪右近ちゃんも来ちゃう?」
「いやまあ……でもさ、どういうことなの? ヒカル王子が新年の挨拶に御みずから常陸宮家をご訪問、て随分破格な待遇よ? 正妻さんじゃあるまいし」
「まさにそれよ右近ちゃん! あのお姫さまったらやらかしちゃったのよ……いきなり王子のための新年の衣装をご用意しちゃったわけ
「えええ……そうなんだ。もしかして右大臣家の正妻さんの存在知らないのかな?しかしチャレンジャーだわね、あの好みにウルサイ王子に」
「でしょー。普通できないよね?大体王子の普段着のインナーだって多分、アタシたちの少ないお給料何か月分?!だし、まして新年用の晴れ着なんてもう無理無理無理!想像もできないっ」
「どんな衣装だった?すっごい興味あるわ。今だったら速攻写メでSNSよね平安て不便ー」
「んーあんまり、イン〇タ映えはしない感じかな…命婦さん預かったものの、王子に渡していいものかどうか何日も悩んだみたいよ…」
「ああ……(察し)」
「でも曲がりなりにも宮家のお姫様の意向だし、自分んちに保管したまんまってのもやばいから結局持ってったんだけど、お手紙渡した時点で王子ドン引き」
「一応お歌は詠んだんだ」
「それがさー、
『あなたのつれないお心が辛くて、私の袂はほらこのように……涙で濡れるばかりですわ』
って、引っ掛けも二重の意味もなーんもないそのまんま和歌が、陸奥紙にバーっと書かれてたって」
陸奥紙……檀紙かあ。高級な紙ではあるけど、恋文に使うには厚すぎかもね」
「そうなんだよね。薄い紙だとお香もほんのりだけど、厚手の紙にガッツリ匂いつけちゃうともう風情も何もないわよ。香害よね。その上衣装がまた古くて……中古とかユーズド感とかどころじゃない。一応流行り系の薄紅色だったから、着慣れて少々色がくすんでるーくらいだったら逆に渋くてステキなんだけど、限度超えてたってよ。
しかもよ! 表地と裏地、この色合わせが平安男女最大のオシャレポイントじゃん?!なのに全く同じ色で特に裏がメッチャ濃ゆい色。それがチラチラ端から見えて、とてつもなくダサい
自分の責任じゃないにしろ、超恥ずかしかった…って命婦さん涙目になっちゃってて色っぽかったー!」
「何やってんのあそこの女房さんたち…年寄りばっかりだしボケてんのかしら」
「色々とズレてんのよね。由緒正しきお家柄だから歴史的な慣習もあるだろうし気持ちはわからなくもないけど、正直王子に見合うだけのおもてなしをする財力もセンスも今はないんだから、少しは現実見ないと。まあ今みたいにネットでニュース見られるわけでもないし、ツイッ〇ーやイン〇タやF〇とかで今の流行りとかセレブ有名人の暮らしがどうだとか知る手段ないから仕方ないんだけどね」
「ってわけで新年早々現実的な対応をしに行くわけね、侍従ちゃん」
「そうなのよ右近ちゃん! だって……うふっ、やっぱり言っちゃお。ヒカル王子ったらね、姫君のお歌をみたときに
『前にいたあの、何て言ったっけ若くて可愛い子。そう侍従ちゃん?あの子に直してもらうかしたらよかったのに』
なーんて言ってたんだってー!キャー!もうコレ行くっきゃないじゃん?!ああ待ってて王子、この平安ステキ女子の侍従ちゃんが目に物みせてくれるわあ!」
「……可愛い、ていうのは命婦さんの盛りじゃないかなあ」
「何?」
「ううん、何でもない。頑張ってね。応援してる(はあと)」
「ありがとー!」

>>「末摘花 十一」につづく
参考HP「源氏物語の世界

2017年11月20日月曜日

十月に観た映画と本

超多忙だった一週間が過ぎぐっと下がった気温に応じて見事に風邪をひき(-_-;)気が付けばもう11月後半です。最近ホントに映画館に行ってない。行きたいのに。

「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」(tigers)ダニス・ダノヴィッチ(2014年インド・フランス・イギリス)

何かの映画評で見て気になっていたので借りた。


【60字梗概】
粉ミルクが汚水で作られ乳児を死なせている事実を知りながら利益優先で販売を続ける多国籍企業を社員が告発し失職、憂き目にあう。

「エリン・ブロコヴィッチ」のような勧善懲悪の社会派映画かなと思ったら肩透かしを食らう。世の中そうはうまくいかなくて、一般市民としての善意と家族の後押しで告発をしたものの、家族に危害が及びそうになり挫折。仕事も失い、七年間も家族と離れて暮らす羽目になる。個人よりはやはり金と権力を持つ側の方が圧倒的に強いので、現実的にはこんなものだろう。スカッとはしないし少々物悲しいが、当事者とその家族が現在はそこそこ幸せそうなのが救い。


「沈黙 サイレンス」マーティン・スコセッシ(2017米)

遠藤周作原作。これは映画館で観たかった!あの、最初から最後まで極めて日本的な世界、昔から映像化を希望していたというスコセッシがどう料理したのか興味を惹かれた。

【60字梗概】
17世紀、棄教した恩師の真相を知るべく来日した二人の神父。一人は民とともに死に、もう一人は神の真意に殉じ踏み絵を踏む。

弾圧する側の日本を絶対悪とせず、むしろ高い知性と統率力を持ち、情熱で暴走する神父たちよりよほど「まとも」に見えるよう描いた所はさすがスコセッシである。欧米諸国が植民地にしたいところに人を送り込んで人心掌握し、その後攻め込んで占領するという手口はこのころにはもう広く知れ渡っていたんだろうか? 知らぬは世間知らずで純粋な神父たちだけ。島原の乱直後、ご禁制の宗教に縋り、神の救いを信じている貧しい民は唯一の拠り所である彼らを庇い、守るために無残に死んでいく。正直、遠い国からわざわざ来て善良な日本人を「たぶらかし」大勢死に追いやって何してくれてんのこいつら、と思った。現代でも、マルチやカルト宗教・極端な自然派なんかがいろんな理由で苦しみ悩む人を甘言で釣るのと似ている。そのさきはさらなる地獄しかないのに。度を越した無知と純粋は確実に人を殺す。信仰者としては明らかに劣等生であったキチジローが実は一番神に近いところにいた、というのが皮肉でいい。窪塚さんを選んだというのは慧眼。(経歴はご存知なのだろうが)色々とハマりすぎです。
映画館の暗がりでみたらまた違うのかもしれないが、画面がやや明るすぎと感じたのは原作の持つイメージの成せる技か。

「弥栄の烏」阿部智里

「八咫烏シリーズ」最新刊。たまたま次女とともに本屋に行ったら、残り一冊のサイン本が!これは買うしかない、受験生だけどまあいいよね!ということで次女の後に私も読んだ。
前回の「玉依姫」を山内側から描いた話。戦いの描写がよりリアルでハード。親友を失った雪哉が闇堕ちしそうになるところは中々圧巻。結局奈月彦の記憶は戻らないのだが、山内の崩壊はくい止められるのかどうか??
作者の専門が東洋史ということで、出所確かなエピソードがふんだんにちりばめられていて、歴史好きにはたまらない。言霊というか言葉の力が世界を形作り支えているというのもイイ。番外編がいくつか出てるようなのでたぶん買う。

2017年9月7日木曜日

九月に読んだ本

「蜜蜂と遠雷」恩田陸

第156回直木賞、2017年本屋大賞、第五回ブクログ大賞小説部門大賞、等々各賞を総なめにした本作。子供が学校の図書室から借りてきたのでこれ幸いと読んだ(←)。
それにしても最近ハードカバーをほとんど買わなくなってしまった…お金の問題ではない、場所がないのだ。住む場所に対してほとんどこだわりはない私だが、本を置くスペースだけはふんだんにほしい。宝くじ当たんないかしら。ていうか整理整頓をもっと徹底すればいいんだが、今やりたくなーい(いつやりたくなるんだ)。まったくお話にならない。

さてこの本、構成はいたってシンプル、最初から最後までピアノコンクールだ。読んだ直後には、60字梗概を書く意味ないのでは?と思いかけたが、やはりそれは違う。基本に「国際ピアノコンクール」という様々な意味の詰まった確固とした言葉があり、それを柱として物語を紡いでいるというのは大事なことだ。こういうことをやった人、たぶん誰もいない。目の付け所がさすがの恩田陸さんである。

【60字梗概】
国際ピアノコンクールに亡き天才音楽家が送り込んだ少年のピアノは周囲に強烈な影響を与え、やがて音楽の真髄を全員が体験する。

実に情けないことだが私はクラシックに全く詳しくない。ここに出て来る曲でメロディーが即座に浮かんだのは一割に満たない。三割くらいが曲名は聞いたことあるけど…で、あとの六割はさっぱりという体たらく。そんな私が声を大にして言う!「蜜蜂と遠雷」は、
クラシックを全然知らなくても楽しめる小説
だと。
しかし熟知してたほうがさらに楽しめることは確か。ええ、私もやりましたともここに出てきた曲を検索して聴くということを。きっと皆同じことをやってるに違いない、ピアノ動画に挟まって恩田さんのインタビュー動画とかありましたもの。ひととおり聴いて、文庫になったころもう一度読み返したい。
かつてブームを呼んだ「のだめ」のような爆発力はなくとも、じわじわと長い時間をかけて効いてくるような小説だと思う。既に種はいたるところに撒かれている。うーんこういう小説を書けたらいいなあ。

2017年8月28日月曜日

八月に観た映画

引き続き
・選んだ理由と観た後の感想(100字まで)
・梗概(60字)
を書いてみる。

<<<!!ネタバレ・長文注意!!>>>


「誰のせいでもない」 ヴィム・ベンダース(2015)

監督がヴィム・ベンダースだったことが選んだ理由。期待通り、映像が本当に美しかった。色彩、構図、風景の切り取り方、画面の切り替わり、全部完璧。微妙な感情の起伏や変化が言葉でなく映像で十二分に語られている。ショッキングでつらい設定だが、ラストシーンはホッとさせられた。

【60字梗概】
冬の道で起きた不幸な事故は不可抗力ながら当事者とその周囲の人々に深い傷を与えたが、年月を経て新たな道を作り出した。

始まりの悲劇は道で起こり、朝日の射す道で終わる。まさにヴェンダースそのものといった映画。
最近はこういう映画がいつ始まってどこでやってるのとかチェックする暇がなく、話題になっていたかどうかすら知らない。私としてはかなり完成度高めだと思うんだが、一般的な評価が低めなのはなぜなんだ。しかも何でサスペンスってくくりになってるのだ? 完全にいつものザ・ヴェンダース’sロードムービーだと思うんですが…。(といいつつ昔観たロードムービー三部作は忘却の彼方)
改めて監督のプロフィールを見直してみると、若い頃からまあ挫折の連続。哲学科を志したが挫折から始まり、画家・彫刻を学んだが挫折、映画もすぐには芽が出なかった。人生における衝撃的な出来事が、次の瞬間から否応なく日常に取り囲まれ流れる時とともに揉まれていくこの感じ、苦労と挫折の中で生き抜いてきた監督ならではの表現なのかもしれない。
何があろうと生きている以上前に歩き続けるしかない。だが、故意ではないにしろひとりの子供を轢き殺してしまった事実は消えないということを忘れてはいけない。
こうして文に書いてしまうと当たり前じゃん、と思うが、実際この二つを同時に実践するのは簡単ではない。主人公はきわめて誠実かつ感情の抑制がきく良識的な人物ではあるけれど、懸命に支えてくれる恋人に甘えて傷つけたり、立ち直ってからも被害者家族に対し上から目線な冷たい口をきいたりと、たびたび小さな過ちを犯す。結果的に両者とも正面から向き合うことができ、ひとつ階段を上がってまた人生を歩んでいく…といった感じで終わるのだが、罪を犯した場合の身の振り方を明確に示した良映画だと思う。ちなみに前回の記事でとりあげた「冷血」で出て来る「パリ、テキサス」はヴェンダースの名作。

「ラ・ラ・ランド」 デイミアン・チャゼル(2016)

アカデミー賞総なめの映画。とはいえまったく事前知識なし。映画好きな人にはたまらない映画とだけ。最初ななめ観していたら話がよくわからなくなり結局二回観た。最初の印象とはまったくちがう内容で素晴らしかった。

【60字梗概】
ロサンゼルスで夢を追う男女が出会い恋をする。お互いの夢は実現していくが徐々にすれ違い、遂には別々の道を歩むことになる。

正直最初はちょっと退屈だった。ヴェンダースを観た直後だったのもよくなかったのかも(作り方が全く違う)。日を改め、「ミュージカル映画ではない」「映画好きがよろこぶ映画」という評を思い出しつつ観たらいけた。ダレてるように見えたストーリーも、中盤からかなりいい感じに。二人の恋がかなうまではわざと陳腐にしてたのか?と思う位。特に別れのシーンがとてもいい。お互いに愛してるといいながら、お互いを尊重しながら無理に笑顔を作っての別れ。そこから繋がる夢、「もうひとつの」未来を描くエピローグが切ない。よくある単純な恋愛ドラマ、単純なサクセスストーリーを下敷きにしながら、ここまで感動的な映画を作れるのは本当にすごい。日本とはエンターテイメントの歴史も違うしベースにしているもののレベルも思い入れも、何もかも違うと実感させられる。かないませんわーホント。


「スターウォーズ ローグ・ワン」 ギャレス・エドワーズ(2016)

選んだ理由はもちろん「スターウォーズ」だから!
この圧倒的な存在感と濃密な世界観は他にはない。さらにこの映画に関わった人たちの並々ならぬスターウォーズ愛がこの映画空間をより一層輝かせている。

【60字梗概】
帝国軍に拉致され兵器デススターを作った科学者の娘が反乱軍に協力し、設計図を手に入れ味方に送信後、攻撃により死亡。

反乱軍の中も一枚岩ではない、単なる善悪の戦いではないといった視点が今風。これだけの犠牲の上に、ルーク・レイア・ハンソロの活躍が繋がると思うと胸熱。もう何の文句もない。手放しで楽しめました。
しかしこれだけ長いシリーズだと、自分が生きてる間に終わってほしいようなずっと続いてほしいような。

2017年8月17日木曜日

五~七月に読んだ本

例によってまた更新をサボってしまった!久しぶりなので何を読んだやら忘れてる…順不同で行きます。

「荒神」宮部みゆき

久しぶりの宮部さん。ご本人の「特撮時代劇を書きました!」との言は読み終わってから知ったのだが、私の印象としては特に冒頭の掴みは「ジョーズ」とか「グリズリー」とかのパニック物を連想。途中のグロい描写は「進撃の巨人」、途中でその生き物の正体がわかったところではじめてああこれゴジラだ、とわかった。
以前、宮部さんにはファンタジー向かないのでは?と書いたことがあるが、今回時代物だったせいか特に違和感なく、当時の社会問題+伝奇的な要素がバランスよく組み合わされて興味深かった。兄妹と家の因縁話は歌舞伎でやっても似合いそう。ただ「英雄の書」でもそうだったように、やっぱり兄がダークサイド堕ちした理由が弱い。怪物の陰惨さと絶望感が半端ないので、これに対比できるほどの悲惨がないと個人的に納得できん。
しかし細かいところは別にいっかーとなるほどに怪物の存在感が圧倒的で素晴らしいので、小説としてかなり成功していると思う(えらそう)。

これNHKでドラマ化決定してるのね。うーんアニメの方がよくないか?と思ったけど、あとがき読んで特撮に期待。

「冷血」上下 高村薫

久しぶりの高村さん。まず思ったのは、あれ?何か読みやすい、だった。いや昔も読みにくいことはなかったのだが、さらに文章が整理され、なんというか滑舌がよくなったというか…テンポがよくなったのか?それともストーリーテリング能力がパワーアップ?いずれにしろ端正な文章を心ゆくまで堪能できた。
前半は被害者の家族が「その日」までにどのような日常を過していたかを丹念に綴り、事件後は徹底して加害者側および警察の視点から語る。本家の「冷血」は読んでいないが、カポーティを描いた映画を観て大体の内容は把握していたので、組み立てや展開はおそらく本家のやり方を踏襲しているのだろうなあと想像。
おなじみの合田刑事がすべてにおいて精緻なせいか、とにかく犯人二人の雑さが際立つ。生き方も考え方も、行動も言動も、殺し方も逃げ方もすべてが雑。一人は元々の気質、もう一人は親の抑圧によって壊れた結果、そのある意味シンプルな気質に引っ張られ同化した感じ。読むこちらの方も、被害者側の遺族の感情がほとんどかかれていないせいか、奇妙に現実感がない。相当酷い話のはずなのに怒りがわいてこない。そういう自分への戸惑いと疑問。終盤、唯一出てきた遺族の一人が言った言葉は、そのまま犯人たちの心持ちに繋がる。「殺すのが正しい手順のような…とにかく早く始末しなきゃと」。被害者とも加害者とも全く関係のない第三者が決める「死刑」というのは案外この二人のやったことに近いのかもしれないと思わされた。死刑反対派に与する高村さんらしい結論だ。

「古事記 不思議な1300年史」 斎藤英喜
「日本古代の氏族と国家」 直木孝次郎
「入門白山信仰~白山比咩の謎に迫る~」 内海邦彦
「秦氏の研究」 大和岩雄

資料本として上記四冊を図書館で借りて読んだ。どれも面白かったが、古事記というものがかつてねつ造疑惑により資料としての価値を貶められていたこと、さらに今では、「時代とともに変遷する」ことそのものに価値を見出されているということ、非常に興味深かった。とすると、現代に見立てて語り直せば何年か後には…と思ったが、既にプロ・アマを問わない二次創作の山だわ。日本ってホントにもう・・・。
白山信仰と秦氏、これはあまりに面白すぎて、ついうっかり白山神社の記念誌とか続・秦氏の研究とか買ってしまった。こういう分厚くてお高い本こそ電子書籍にしてほしいのだが、大体ないんだな。希望は出しといたけど。

2017年4月20日木曜日

末摘花 九(ひとり語りby侍従♪)

外はもうすっかり朝よ。ヒカル王子の車が寄せてある中門は、超歪んでてボロっボロ。もちろん夜目にもボロっちいことはバレてたけど、今は全て隠れなく朝日に晒されちゃってもうね……。
どこもかしこも荒れ果ててる中、松の木に積もった雪だけこんもり暖かそうで、ここ山里? て勘違いしそうなほど寂しーいうらぶれた感満載。

(雨夜の品定めの時皆が話してた『葎の門』って、ちょうどこんな場所だったのかなあ。確かに、こういう所に気の毒な境遇のカワイイ女子を囲って、今どうしてるかなー恋しいなーって日々思いを募らせる、なんて楽しそう。名前を言えないあの女性(ひと)への思いも、それで紛れようってもんだしね)
(前提条件や場所はカンペキなんだけどなー、肝心の本人が……うーん……)
(いやいやでも待てよヒカル! 俺以外に誰が我慢できるってのあの姫に!そもそも俺様がここまで通うことになったのって、もしかしてもしかしなくても、亡き常陸宮親王のお導きってやつなんじゃない…? 父親としてはあれじゃあ心配で心配で、おちおち成仏も出来ないよね……わかる、すっごくよくわかる

なんて、かなり失礼だけどまあ的を射てる色々に思いを巡らしつつ、御付きの人を呼んで橘の木の雪を払わせる王子。
その拍子に、隣の松の木が羨むように起き上がって、さっと雪がこぼれたのね。

「わが袖は名に立つ末の松山か空より浪の越えぬ日はなし」

跳ね上がった雪が御付きの人の袖にかかるのを見て、王子ピキーン☆とこの歌が浮かんだわけなんだけど説明するね。
末の松山」って海沿いの小高い丘の上にある松のことなんだけど、そこを波が越えることは滅多にないってことから、末の松山と同じく自分が裏切るなんてことない絶対! とかなんとか引っ掛けて恋の歌に使うってパティーンがけっこうあるわけ。
でもねー、そういう歌を詠んでみたところであの姫君には無駄無駄無駄ア!

「はー、こういう機微っていうの? 俺様と同レベルとは言わないけどせめてちょっと説明すれば理解できて、気の利いた返歌のひとつもくれるくらいの機転がほしいよねー」
王子、雪を眺めながら溜息。
 車を出す用の門はまだ閉まりっぱだったから、鍵預かってる番人を呼び出してみたんだけど、これが超よぼよぼのお爺さん。さらにその娘か孫か、大人とも子供ともつかない年齢不詳な女も一緒に出てきたんだけど、着てるものときたら超汚くって、それが雪の白さで余計に汚れが目立つ目立つ。超寒そうに、何かよくわかんない小さい入れ物に火を入れたやつ……今でいう携帯カイロ? 的なものを袖で包みながらついてきてた。その子とお爺さんが門を開けようとするんだけど、固まっちゃってるのか無理っぽい(ろくなもの食べてないんだろうね、非力なのよ)。見かねた王子の家来が手を貸してやっと開門よ。

「大雪の降った寒い朝に、頭が真っ白な年寄りが働かねばならないのも気の毒だが
見ているこちらも負けず劣らず涙で袖を濡らす朝だよ
『幼き者は着るものもなく』」


なんて口ずさむヒカル王子。最後のは白楽天の詩なんだけど、その終わりの句に出てくる鼻……あの姫君も超寒そうだったなー、などと思い出し笑いしつつ
「頭の中将が見たらどういう感想を漏らすかな? いっつもストーカーばりにつきまとってるからソッコーで見つかりそう…ぶるる」
などとげっそりする。

(常識的っていうかありがちな容姿なら、このままブッチしちゃってもよかったんだけど、こんだけバッチリはっきり見ちゃうとさ……申し訳ないっていうかなんていうか……ちゃんと真面目に通わないとな…)

 というわけで、あのオッサンくさい黒貂の皮のかわりに、絹、綾、綿、女房さんたちの着物、なんとあの門番のお爺さんや娘の分もよ? 上から下までタップリ気を遣って用意してあげたってのはさすがセレブよねー。いわゆるのぶ、のべ……なんだっけ右近ちゃん……あ、ノーブレスオブリージュねはーいありがと……て、ちょっと違うか。人道的配慮ってやつ? 
こういうのもさ、人によっては屈辱ーて思っちゃうこともあって良しあしなんだけど、そこはあの姫君ですから。まんま素直に受け取って感謝してくれるもんだから王子も気楽に「こういう生活面だけでもきちんとしてあげるか……」て思って、普通ならしないようなあからさまな援助もしてたみたい。

「思い出すなあ空蝉ちゃん……あの宵、無防備にくつろいでた空蝉ちゃんの横顔……当然スッピンだしぶっちゃけ美人じゃなかったけど、立ち居振る舞いがとにかくイイ! から、大して気にならなかったんだよねー。常陸宮の姫君は、身分とか家柄は空蝉ちゃんより大幅に上なのに、どうしてこうなった? とすると、品の上とか下とかは関係ないのかもなー。空蝉ちゃんは腹立つほど頑固だったけどイイ女だった。してやられた! お見事! て感じで忘れられないよね」

 未だ解けない空蝉の術ー♪ パネエっす空蝉姐さん。

>>「末摘花 十」につづく
参考HP「源氏物語の世界

2017年4月19日水曜日

四月に読んだ本

なぜか画像が貼りつけられないので、このまま更新。

「最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常」二宮敦人

藝大生を妻に持つ作家・二宮氏の実録ルポエッセイ。
私は「アーティスト」という言葉の意味を激しく勘違いしていた。アーティスト、とは、アート「で」生きていく人ではなく、アート「と」生きていく人のことなのだ。これまでの人生、真のアーティストの方々に対しては非常に失礼な見方をしていたように思う。ごめんなさい。
アートは本来、対価を要求するものではない。ただ作りたいから、書(描)きたいから、弾きたいから、とにかく自らの内から湧き上がる何かを表現することそのものなんである(対価を受け取ったからそれはアートではない、なんてことはもちろんないが)。ラスコーの洞窟絵の時代は今よりもっと生きるか死ぬかのシビアな世界だったろうに、それであのレベルの絵を描いていたわけだから、「アート」は人間の知能がある程度のレベルを超えたあたりから続く、もはや本能といってもいいくらいの行動なのだろうと思う。実際に、常識を超えた発想というのは技術の発展のきっかけとなるから、直近の生活に役立たない(様に見える)というだけで、全体が進化するためのひとつの手段という見方もできる。
「職人」と言われる人々が、どう考えても割に合わない時間と手間をかけてものを作るのは、お金より何よりまず、そういった「本能」=「将来を見据えた大局観」に突き動かされてのことだと考えるとわかりやすい。そこに普通の金勘定の考え方を持ってきても、合うわけないのだ。
とはいえ「アート」に没頭できるのも、普通の経済活動あってのことでもある。両方に利のあるようにうまくかみ合って回るといいのだが…今は、中間に立つ者が利を根こそぎかっぱいでいく構図が目に余る。利は必要だが取りすぎたら災いになる、結局程ほどが幸せなのだ。というのを実現していくにはどうしたらいいんだろうか? 永遠の課題。

「くじ」シャーリイ・ジャクスン

スティーヴンキングが敬愛してやまない作家、ジャクスンの短編集。このところジャクスンの本が相次いで復刊されていて嬉しい限り。しかもこの「くじ」はキング作品の翻訳でおなじみの深町眞理子さんの処女訳作品であるという。好きな訳者さんなのでなお嬉しい。
ジャクスンの本を初めて読んだのは小学校低学年の頃。兄の買った「なぞの幽霊屋敷」というタイトル(こちらのほうが一番原題に合っている気がする、今となれば)の本、生頼範義さんのおどろおどろしい挿絵とあいまって、強烈な印象を残した。同じシリーズで同時期に買っていた「吸血鬼ドラキュラ」とはまったくちがう、あの不条理感というか、何もかも歪んでいてうまく嵌らない頼りなさ、不安定な感じに惹きつけられ、何回も読み返したものだった。高校に入ってまもなくスティーヴンキングを知り、どっぷりハマっていったのも必然。キングの初期作品、特に短編はジャクスンぽいものが多々あって、次第にわかりやすいホラーになり、最近になってまたその世界観に戻ってきたような感がある。
まごうかたなき大人と呼ばれる年齢になってこの短編集を読んでみると、何も奇抜な表現や言葉を使っているわけではないし、非常に短いものが多いのに(短いからか?)、自然にその世界に引っ張り込まれる。このさりげなさは意識してそうしているんだろうけど、本当にうまい。表現を吟味しつくして日本語の文章を作っていく翻訳という作業とも親和性が高く、翻訳する価値のある作品だと思う。新たに出た二冊も購入済みなので今から楽しみ。新訳で出ている「丘の家」も買おうかどうしようか。

「桶川ストーカー殺人 遺言」清水 潔

元・写真週刊誌FOCUS記者、現TV記者による「桶川ストーカー殺人事件」の記録。
この事件についてはよく覚えている。最初は通り魔かと思われたのが、実は元交際相手の差し金で全くの他人に殺された、ということも、しばらくの間被害者がやたら叩かれていたことも、その後張本人が北海道で自殺したということも、警察が酷かった、ということも、その都度新聞や雑誌の報道などで大まかにではあるが記憶に残っていた。
地道だが果敢な調査報道によりいち早く事件の真相に迫り、真犯人を追いつめていったジャーナリスト魂には本当に感心させられる。とても優秀で、男気のある人なのだろう。それはこの前読んだ著書「文庫X:殺人犯はそこにいる」からもうかがえる。
だが、この二件に共通していえるのが、この気鋭のジャーナリストを以てしても容易に触れられない闇があるということだ。「ルパン」を、「和人」を逮捕されないように仕向けたのは誰なのだろう? 事なかれ主義や怠慢が重い結果を招くことは多々あるが、意図的な「不手際」だったとしたらさらに怖い。
何が敵に回るかわからない。手持ちカードは多いのに越したことはないのだ。自衛のためにはまず記録。映像、音声、文章に残すこと。バックアップを取り、家族をはじめ信頼できる人の間で情報を共有すること。被害者が反撃をすると、その手段が暴言・暴力ではなく正当な手続きを踏んだものであっても「そこまでやらなくても」「大げさ」などと無責任な批判をしてくる輩は必ず沸いて出るので、常に複数で事に当たることが大事。
それにしても、被害者遺族が起こした国家賠償請求訴訟の判決「警察の捜査怠慢については賠償責任が認められたが、遺族が求めた捜査怠慢と殺害の関連認定については退けた」って…それはつまり裏を返せば、捜査をきちんとしてもしなくてもどのみち殺されてたってことで…それだけヤバイ相手だということで、そういうのに目をつけられたら警察も役に立たないんだから頼るなって裁判所が認めちゃったってことで… そんなんでいいの? これ何が悪いのだろう。法律の不備?

2017年4月7日金曜日

末摘花 八(ひとり語りby侍従)

やっとやっと、夜が明けた!

(よし、これで帰れる♪)とヒカル王子が格子を上げると、お庭は一面の雪。誰かが雪を踏みわけた跡もなく、ただ真っ白の寂しーい荒れ地がどこまでも、て感じだったから、これほっといてさっさと帰っちゃうのはさすがにキチクってもんかなー、とマメ男の王子は思ったわけ。

「空がなかなかいい感じですよ、一緒に観ない? いつまでたっても籠ってばっかじゃつまんないよー。こっちおいで(棒)」

王子の顔が、まだ薄暗い中雪あかりに映えますますのキラキラ☆イケメンっぷりを発揮。お婆さんたち(といっても多分30~40代…)眼福眼福とばかり拝みたてまつる。
「姫君、早くお出であそばしませ。いけませんわ、女は素直なのが一番ですのよ」
なーんて口を揃えてまくしたてられた姫君、例によってイヤって言えない性格なもんだから、しぶしぶながらも身支度ととのえてずず…といざり出てきた。

見てないよーん、なふりして外の方を眺めてた王子、その実横目で姫君ガン見。
「どんな子かな? カワイイ系キレイ系? お育ちはいいんだしちょっとはいいとこあってもイイよね?」
まー、一応お泊りデートってやつだし? 期待するのも無理ないわよね。

だがしかし…

王子は、見てしまった……すべてを。

座高が、高い。胴長なのは平安日本人のデフォとしても、これはさすがに…と思ったところで理由判明。
顔がデカい。つか、長い。オデコ広すぎ。しもぶくれはこれまた平安(以下略)だが、袖で隠されて全貌が見えない。ということはさらに…いやいやいや。そんなことより…
鼻!!!
鼻がデカい、つか長い! しかも赤い! 超色白だし? 寒いし? だよねーまーそうなんだけどさ! 垂れ下がってるように見えるのはどゆこと?!

てか痩せすぎじゃね? 着物の上からも骨格わかる感じ、つか着物、古! いやその、普段は他人のファッションに口出しするなんて無粋なことはしない主義だけどさ……由緒ある古着なのかもしんないけど、ピンクって煤けたら見られたもんじゃないよ? 大体インナーだって元が何色かもわかんないじゃん…てかそのテラテラした毛皮なに? 狩人のオサーン?!そりゃあったかいんだろうけどうら若い女子が着るもんじゃないしょ!

…あ、髪はキレイかも! 長くて豊かでツヤッツヤ! やったね平安美女の条件いっこクリア☆
って!ああああああ!
なぜ!
なぜ、すべてを見てしまったんだろう……
目を離したいのに、離せない。こんなの初めて……なんも言えねえ…

とはいえそこはヒカル王子、姫君にちゃんと話しかけて、あまつさえ笑わせたり(ニヤリ、程度だけど)しちゃうのはさすがよね。
(なんだろうこの、何とも言えない気持ちは……罪悪感半端ないんっすけど! でもでも何をどう悪いと思ってるのか自分でもわからないっ!)

「ご実家の後見がないとわかってて通うような男は私くらいなんですから、もっと打ち解けていただけると嬉しいんだけどなあ。中々気を許してもらえないって辛い…」
と冷静を装いつつ帰る気満々の王子、
「朝日が射している軒のつららは解けたのに
なぜあなたの心は凍ったままなのでしょう」
つらいわーつらすぎてもう帰るしかないわーと暗にそっちのせいで帰るんだからね的な歌を詠んでみたものの、
姫君にはとーぜん、そんな心の声が聞こえるわけもなく。うふふ、なんて照れ笑いして返歌もすぐには出ないかんじがまた王子にしてみれば
うああああああ!
と叫びたいくらいいたたまれない。ソッコーでお邸を出ましたとさ。

>>「末摘花 九」につづく
参考HP「源氏物語の世界

2017年4月5日水曜日

三月に観た映画

久々にDVD3本一気観。
ちょっと練習&リハビリの意味で
・選んだ理由と観た後の感想(100字まで)
・梗概(60字)
を書いてみる。

<<<!!ネタバレ・長文注意!!>>>



「葛城事件」(2016) 

ネットで見かけて興味を惹かれた。率直にいって重く、暗く、救いようがないが、一度観始めると引き込まれて止まらなくなる。結構長めの映画なのに最後まで一気に連れて行かれた。

【60字梗概】
長男は自殺、次男は無差別殺人で死刑、妻は精神を病んだ。家族が離散し空っぽになった家で男は自殺を図るが失敗、一人生きていく。


赤の他人を手当たり次第に殺す、ということがなぜできるのか?
その原因と考えられる要素を、実際起きた複数の事件からこれでもかと詰め込んだのがこの映画。なるほどこんな家庭環境ならこうなるわな…と思える。殺人シーンは映画とわかっていても辛すぎるし、許しがたい。家庭に問題があるなら家庭をぶち壊せばいいのに、何で無関係な外に向かうんだろう?

諸悪の根源と思われる父親の清はすべてが俺様基準、無神経かつ品のないイヤな奴だ。たまにいる困った親父を複数あつめて凝縮した感じ。親から受け継いだ金物屋を自営し、家も建て家族も一応養っていて社会的な落ち度は特にないというところがまたたちが悪い。家の中にこういう手合いがいるとかなり厄介だ。
だが私が一番問題と考えたのは母親。あまりにも弱すぎてイライラする。働いたことのない専業主婦が子供二人抱えて逃げ出すのは難しかったのだろうが、思考停止する前にもう少しなんとかならなかったのかと…
「最初っからあなたのこと大っ嫌い。なのになんでここまで来ちゃったんだろ…」土壇場でやっと気づいて行動できたのに、すぐ見つかるような中途半端な逃げ方しかできない。結局、長男も次男も最悪の形で失ってしまった。
次にダメなのが長男。とにかく父に逆らわず波風立てず、自分の感情を押し殺してきた。大学進学、就職し結婚、家も出て独立と一見順風満帆だが、自分の妻子が元の家族によって嫌な思いをしても文句ひとつ言えない。まだ若く子供も小さいのにリストラという憂き目にあっても、上司に怒るなりすがりつくなりして事態を打開しようともせず諾々と従い、かといって無職になったことを誰にも言えず、新たな働き先を必死に探すこともせず、ただ公園で無為に時間を潰す。一方で家出した母と弟の居所を速攻で父に教える。アパートに押しかけた父の暴言と暴力により二人は家に戻ることになるが、ここで長男は初めて自覚する。この家族はもう自分を守ってくれない。すでに終わっている。新たな活路を拓く最後のターニングポイントは、たった今自分が潰した。逃避する以外に問題解決の手段をもたない長男が、そんな現実に直面して耐えられるわけがない。
その「出来の良い」長男の自死を、次男は「みっともない」と冷笑し、長男に勝てる千載一遇のチャンスが巡ってきたと考える。長年、抑圧と甘やかしを同時に受け続け、歪んで肥大化した子供の自我のまま大人になった彼の「一発逆転」とは、無関係な他人を無差別に殺す最悪な事件を起こし死刑判決を受けるという、形を変えた自殺だった。

と、ここまで書いて思った。そもそも家族をぶち壊せるような気概(?)を持っているのなら、とっくに逃げ出すか対峙して別の道を行っている。自分の家族という枠組からどうしても抜けられない(と思い込んでいる)がために、逃げる=自殺、対峙=枠組の外を攻撃、となるのか。
持論だが、子育てで一番やってはいけないのは「抑圧」だと思っている。その子に全く合わない枠を嵌め、ろくな対話もせず抑えつけて育てれば、枠の中で腐るか暴発して外に被害を与えるかだ。ただ、失敗した人のたどった道は、失敗しなかった人と遠く離れているわけではなく、きわめて近接していて、下手すると延長線上にあったりするので油断がならない。一見「普通」の生活の中に、ふとした言動の中に、破たんへの道が通じていて、気を抜くと誰でもいつのまにかそこに迷い込む可能性はある。育児は中々に気力体力と技術の要る仕事なのだ。

長くなってしまったが、最後に田中麗奈さんふんする星野について。死刑反対の立場で、次男と獄中結婚をするのだが、この女がとにかくキモい。薄っぺらい正義感をふりかざす、自分大好きな自己中女で、個人的には清よりずっと胸糞悪い。最後にこの女の偽善が清によって明るみに出た時は清GJ! と爽快感さえ覚えた。
ともあれ、それぞれの役を演じた俳優さんは皆本当に素晴らしかった。胸糞展開に耐性があって、俳優の演技力を堪能したいという方にはおススメ。私は好きだこの映画。もう一回観たいがテレビじゃやんないだろうなあ。


「帰ってきたヒトラー」(2015)

本も映画も話題になっていたためずっと観たいと思っていた。かなりきっついブラックユーモアがきいていて、よくぞこのような作品をドイツで製作したなと感心しきり。最初は笑わせて、最後はゾッとさせる流れも心憎い。

【60字梗概】
死ぬ直前現代にタイムスリップしたヒトラーは物まね芸人として人気を博し、邪魔者を排除しながらいつか来た道へと驀進する。


俳優がとにかくそっくり! 無名の舞台俳優とのことだが、顔というより身のこなし、話し方などが似ているとかで選ばれたらしい。youtubeや劇中劇、虚実織り交ぜての映像は多彩で飽きない。ネットで人気の「総統シリーズ」動画のギャグがちゃんと盛り込まれていてニヤリ。
戦争を知る世代がほとんどいなくなってしまった現代ではヒトラーといえどもただの記号、忌まわしい記憶を呼び起こすはずの制服もただのコスプレ道具(非難を浴びたアイドルグループもいたけど)、という描写がリアルだと思ったら、実際にあの恰好でドイツの街に出たら意外に皆好意的でスタッフ一同驚いたそうな。いいことなのか、悪いことなのか…映画の中では、戦争経験者である認知症のお婆ちゃんがただ一人、騙されないわ!と声を張り上げる。
「皆、最初は笑っていたのよ…」
という言葉がじわじわ怖い。いやほんとによく作ったドイツ。あっぱれです。


「ハドソン川の奇跡」(2016)

安定のC・イーストウッドの最新作。主演トムハンクスと来たらもう観るしかない。多くの乗客の命を救った英雄として扱われたパイロットが、調査委員会でいちゃもんをつけられる展開はけっこうな胸糞加減だったが、最終的にはスカっとした。

【60字梗概】
離陸直後のトラブルで、ハドソン川着水を成功させた敏腕パイロットが、事故調査の実験結果の誤りを論破、判断の正当性を守る。

トラブル発生後の機内の緊迫感が半端ない。実際の事故は2009年だから、911の記憶もまだ新しかった。街中で墜落するという最悪の事態が、クリアに頭に浮かんだことだろう。ギリギリの極限状態の中で、素早く的確な判断をし、危険な川への着水を成功させたパイロット二人は圧巻のカッコよさ。さらに助け上げられた後も、乗員乗客全員の無事が確認されるまで制服を脱がず、じっと連絡を待つ機長の強いプロ意識にも感動。ちょうどあの雪崩事故の起こった時だったので、意識の違いに暗澹とした。人の命を預かるってこういうことだよねえ。
事故調査委員会の人々の「ほかに適切なやり方があったのでは?」という指摘も、最初は保険会社の陰謀か?!保険金支払いたくないからいちゃもんつけてるのか?!などと腹が立ったが、機長が実験の誤りについて論理的な説明をすると、あっさりと受け入れた(まあ、ぐうの音も出ない内容ではあったが)。とどのつまり事故調査の目的はあらゆる可能性を論じて問題点をクリアにし、再発を防止することであり、乗客全員を救ったからといって手放しで全部正しい、とするわけにはいかなかったのだ。こういう場面で変な情に流されないアメリカの合理性は、素直にすばらしいと思った。

2017年3月22日水曜日

末摘花 七(ひとり語りby侍従♪)

今更なんだけど、このお話って実はけっこうスパンが長いのよね。長いことウダウダやってた割には進展ないままズルズル来ちゃったって感じ? 特に、紫ちゃん奪還(つうか誘拐)作戦前後はそれこそ正妻さんはおろかあの六条の御方さまさえ疎遠にしてたくらいだから、推して知るべしってもんよね。ふっるいボロ屋敷で趣も何もない、女房も年寄りばっか、当の本人も超絶引きこもり体質&無反応でやり取りを楽しむなんて夢のまた夢、マメに通おうがほっとこうが何をどうやっても無駄無駄無駄ア!て感じだから面倒臭さの方が先に立ってなんとなーく足が遠のいちゃった。
フツーの男ならこれでもう自然消滅、てなるんだけど、そこはヒカル王子よ。ま、ぶっちゃけヒマになって刺激が欲しくなったわけね。

「もしかしてもしかすると、よーく間近で見てみたらちょっとは可愛いとことか、あるかも? 何しろいっつもここまで暗くする?! てくらい真っ暗闇だし、手探りの感触だけじゃあワケわかめ…せっかくだから見るだけ見てみちゃう?」

なーんて思い立ってからの王子の行動は速い。誰しも気が緩む夕飯あとのまったりタイムに、そーっと常陸宮のお邸に入って、格子の蔭から覗いてみた。

が、当然ながら深窓の姫君がそんな端近にいるわきゃない。几帳とか超ボロッボロなんだけど、定位置に置きっぱだから完全目隠しされてて、かろうじて女房さん達四、五人が座ってるのが見えるだけ。お膳や青磁らしき食器は由緒正しきインポートものだけど、まーとにかく古臭くてダッサい上に、とても御馳走とは言えないショボイ料理を、仕事上がりの女房さん達がモソモソ食べてる。
部屋の隅っこには、元は白かったんだろうけどグレーに煤けちゃった着物に、薄汚れた褶をまとったお婆ちゃんたちが寒い寒いっていいながらハムスターみたいに固まってる。ハムスターほど可愛くない上に、その髪型ね…額の辺りに櫛なんか挿しちゃって、しかもそれが落ちかかってるわけ。舞や楽器を教える先生とか、修道院みたいなとこに籠ってる年寄りとか、ようは浮世離れした人? て感じで、普段の王子の生活圏じゃまずお目にかかれないような人種なわけ。落ちぶれたとはいえ、いやしくも宮家でのお側仕えだっていうのに…いや、だからこそなのかな? 昔風のまま時が止まってる感じ?

「今年はなんて寒い年なのでしょうかねえ。うっかり長生きしたばっかりにこんな目に遭うなんて…シクシク」
「故・宮様が生きていらしたころ、何が辛いと思っていたんでしょう? こんなよるべない生活よりずっとマシだったのに…」
なんて、大げさにガックンガックン震えながら延々続く愚痴ぐちぐちぐち…。さすがにウザすぎるんで、王子、そーっと離れて、今きました!的な感じで家来に戸を叩かせる。

ヒカル王子さまがいらした! いらしたわ!

とばかりに女房さんたち色めき立って、火の向きを変えたり格子を外したりバタバタお迎えの準備。
え? 私? 実は、このときは不在で…ゼーンブ伝聞なの。本業が忙しくって…え? やだぁ私だって働くときは働きますよぉ、一応。若くて美人で有能な平安キャリア女房って、あちこちで引っ張りだこなんだからねっ! ホントなんだからっ!

…てことで、この日は特に、色々ズレたお年寄りばっかだったもんだから、王子からしたらますます勝手が違ってやりにくかったみたい。その上空模様は悪くなる一方で、雪はどんどん降ってくるわ風が吹き荒れるわで、明りもいつのまにか消えちゃってるのに点し直す人すらいない。暗い、ふるーいボロ屋敷で夜を過すってシチュエーション、どっかで聞いたような…そうそう、夕顔のお方のお話ね…ぶるる。あの時より邸は狭いし、いつもはそれなりに人が沢山いたから今まで気にしてなかったんだけど……さすがの王子もぞくぞくしてあんまり眠れなかったみたい。

(そうはいってもこういう荒れた天気の夜って何かイイよね。いつもと全然違う感じでワクワクする。だけど…ねえ)…溜息。

フツーの女子だったらさあ、ヒカル王子と嵐の夜…なんて夢のようなシチュエーションじゃん? 風の音が怖くて眠れないの、手を握ってて?(うるうる)大丈夫だよ僕がついてる、さあもっとこっちにお寄り(はあと)
♪あーだから今夜だけはー君を抱いていたい♪あー明日の今頃はー僕は牛車のなかー♪とか口ずさんじゃったりしてさあ……
あああああ! 何なの一体! ちょーもったいない! コミュ障も大概にしなさいよってんだ!

「侍従ちゃん落ち着いて、音が割れる。てか歌が古すぎ。年がバレるわよ?」

……大変失礼いたしました。

というわけで、夜はしんしんと更けていくのでした。

>>「末摘花 八」につづく
参考HP「源氏物語の世界

2017年3月8日水曜日

末摘花 六(ひとり語りby侍従)

さて、いろいろと腑に落ちない夜を過ごしたヒカル王子、二条院に帰ってゴロンと寝転がったものの眠れない。
んー何か思ってたのと違う・・・なかなかこれぞ! て人はいないもんだなー」なんて自己チューなことを言いつつ
かといって、あ、もういいですじゃサヨナラなんてテキトーに扱っていい身分の姫君じゃないし・・・あーどうしよ
思い悩んでるところに頭中将、登場(それにしてもやたら絡んでくるわねーストーカーちっくよね)。
「珍しいですねえ、こんな遅くまで朝寝なさるなんて。あやしいなあ。どうせ女でしょ! わかってんですよ!」
などと耳元でウルサイので王子しぶしぶ起き上がる。
まさか、気楽な独り寝でつい寝過ごしちゃったんですよ。頭中将は、内裏からの帰りです?」
そうそう、今退出してきたばっかり。今度の朱雀院の行幸の件でね、今日演奏者と舞い手を決定するよ! って昨夜お知らせが来たんで、父の左大臣にもお伝えしなきゃってことで。またすぐ戻らなきゃいけないんですけど
なるほど、そういうことなら私もご一緒しますよ
 王子が用意させた朝ごはんを二人で食べ、ひとつ車に乗り込む。車中でも頭の中将ウルサイ。
まだ眠そうですねえ。ふーーーん。何故、おひとり様で夜更かしなさったんですかねえ。まあ言いたくないんならいいですけどー、隠し事多いですよねー
ゲスい顔でぶつぶつ言う。超ウザい。
とはいえその日はなんやかんやで決めること多くて、一日中内裏に籠りっぱなしでお仕事ざんまい(ま、たまにはね)。

というわけで朝に届くはずの後朝の文、が夕方遅くに姫君邸に届けられたわけなんだけど。

夕霧が晴れる気配もまだ見られないうちに
 さらに気持ちを滅入らせる宵の雨まで降っています

いやー忘れてたわけじゃないんだよ! 普通、初めてのお泊りデートの翌朝は早めにお文をお届け&夜に再訪っていう平安恋愛ルール、まさかこの僕が知らないわけないじゃん? 超気になってたんだけどさー、ほら朝から頭中将迎えに来ちゃうし! 内裏にいったら会議会議で時間ないし! 無理だったわけ! しかも、やっと終わったと思ったら雨まで降ってきちゃってテンションダダ下がり~て感じ? だから・・・ね? メンゴメンゴ!

 さすがの大輔命婦さんも能面よー(怖)。つまり今夜はいらっしゃらないってことね・・・と察した女房さん達も凹みつつ、
「でもでも、お返事は差し上げないと!」
って言うんだけど、姫君はあの通りの人だからさ、テンパっちゃってテンプレ返歌すら思いつかないのよ。もうこうなったら仕方ない、
「夜中になっちゃいますよ、早く!」
 脇に座り込んで口述筆記よ。まあ夏休み終了直前プリプリしながら子供にムリヤリ作文書かせる母親的な?

晴れぬ夜の月を待っている里を思いやってください
 私と同じ心で眺めてはいないでしょうけど

 ちょっとーいくらなんでも酷くなーい? いい加減にしないとこっちだって考えがあるわよ?

ってちょい攻撃的ニュアンスでいってみた。んだけど、姫君ったら中々筆が進まない。周りの女房さんたちも一緒になってガンガン煽って責め立ててやっとこせ・・・しかも紙が・・・いや元は高級なんだろうけどさ・・・色は高貴な紫だし・・・だけどふっるーい、謎の粉? みたいなのでざらついてて。字がまた、なんていうかその、金釘流っての? やたらくっきりはっきりしてて天地がきっちり揃った、古文書?!て感じの字体なわけ。

 さすがの百戦錬磨王子もこれにはウッとなって、じっくり見なおす気も起きない。
なんだろこのやっちゃった感・・・こういうのが、後悔するって気持ちなのかな(今までしてなかったんかい)。だけどもうどうしようもないよねーやることやっちゃったんだし。何はさておき、一応責任は取らないと。気長に最後まで面倒みるか・・・
 なんだかんだでお育ちは良い王子、ボロぞうきんのように捨てようとかバックレようとか、そういう悪意はまったく無い。無いんだけど、だからこそ問題なのよね。本人悪いことしてる気ないんだもん。
 行幸を控えて、毎晩のように舅の左大臣に引っ張られ、屋敷の若い衆と一緒にやれ楽器の練習だのやれ段取りの説明だのやらされて、自分の準備もしなきゃならないし超忙しかったのは事実みたい。とはいえ本命に近い辺りには暇を見つけて通ってたみたいだから、ようは姫君の優先順位はすっごーーーーく下、ってこと。ナチュラルにスルーされてたわけ。ザンコクな話よね。

さて秋も暮れ、一大イベント・行幸の日も近くなりあちこちで試演たけなわの頃、王子のもとに大輔命婦さんがやって来た。
あー、元気? どうしてた?」
 ヒカル王子、内心やべーと思いつつもフツーに話しかける。命婦さん、問われるまま最近の姫君の様子をつらつら話す。
このところお忙しいのは承知しておりますが・・・このように、見限られてる感満々なこと、お側仕えの方たちまで、はっきり口に出すわけではないけれど気に病まれているのはよくわかるんですの。もう私、お気の毒で・・・心苦しくて・・・たまらないですわ
って、涙目よ。あの! 女子力最強フェロモン全開の命婦さんがよ? 目うるうるさせて切々と訴えるのに、抗える男なんてこの世にいないわよ。さすがのヒカル王子も罪悪感にかられたか、
奥ゆかしい姫君(はあと)なんて妄想してる段階でやめときゃよかったんだよなー。なのに変な意地で突っ込んでって彼女たちの世界をぶち壊しちゃった。ヒデー奴とか思われてんだろうな
とちょっとだけ反省。が、一分ともたず、
(いや待てよ? あの姫君のことだ、きっと愚痴をいうこともなくだんまりで、相変わらずひきこもり生活してんじゃね?)
と思い直す王子。
本当にメチャクチャ忙しかったから! 仕方ないよ命婦」
とわざとらしく溜息をつきつつ、
姫君のほうこそ、私が何をしても知ったこっちゃないって態度だったじゃん。そういうご気性を少々懲らしめて差し上げても罰は当たらなくない?」
などとうそぶき、これまた超絶イケメンキラキラオーラ全開で微笑む。さすがの命婦さんも
仕方ないわね・・・ヒカル王子を恨む人は多いだろうけど、勝てる人はそうそういない。他人の気持ち? そんなんわかるわけないしー、わかろうとも思わないしー、俺は俺の好きなようにやるぜ! てやり方、嫌いじゃない。ただしイケメンに限るけど
って苦笑いするしかなかったって。

とはいえ行幸が終わった後は、またボチボチと姫君のもとに通うようにはなったみたい。よかったよかった。・・・のかな?たぶん。

>>「末摘花 七」につづく
参考HP「源氏物語の世界

2017年3月4日土曜日

一・二月に読んだ本

例によって更新滞りまくり。忘れないうちに殴り書き。

「邪悪」上下 パトリシア・コーンウェル

元システム系の職場にいた作者が時々、ITがらみの新しい犯罪パターンを紹介?してくれるこのシリーズ、今回は犯罪者や犯罪の内容そのものを消したり改ざんするデータフィクション。そもそもネットやマシンにデータをのせて誰かとやりとりするかぎり、そういったリスクからは逃れられない。どんなにセキュリティをきつくしても、結局管理する立場の人間は必要で、やろうと思えば何でもできる。つまりどんなに技術が進んでも、最終的には人間の善意に頼るしかないのだ。そこに巧妙な悪意が入り込めばどうなる? 見かけ上、システム的には何の問題もなく、侵入した形跡も、改ざんした痕跡や履歴もなかったら誰がどうやって気づく? 誤りと知らずに物事が進行してしまい後戻りできなくなったら?そういう状況をさらに利用する輩が出たら?
物語としては眠っていたラスボス的な人物がまた登場、これまでのいろいろもそいつのせいで、今後もいろいろやってくること確定というところで終わり、次回に続く。すっきり解決♪では全くない。加えて今回の殺人についての謎もあまり解明されていないし非常にモヤモヤ感残る。んーこの辺のトリック最近なおざりじゃないの? と文句いいつつも、続刊出たら買っちゃうんだろうなあ。それにしてもこのところのスカーペッタがどんどん病んできているのが心配。スカーペッタはじめルーシーにしてもマリーノにしてもベントンにしても、皆もう少し楽に生きたらいいのに、と思ってしまう。まあそうならないからこそ続いているシリーズなんだろうけど。

「子供を殺してください」という親たち 押川 剛

なかなかハードなタイトルだが、中身はもっとハード。精神障碍者移送サービスをはじめ、自立・更生支援施設を立ち上げた著者が、綺麗ごと抜きの現実を突きつける。
このタイトルに込められているのは、問題を抱えた子供と暮らすことに疲れ果て、万策尽きて追いつめられた家族に寄りそう気持ちと、子供がどんなに酷い状態にあっても最終的に責任をとるのは親しかいない、という冷徹な正論。
私は子供の育て方を語れるほどいい親ではないが、ひとついえるのは、過干渉は最悪だということ。ネグレクトの場合、比較的外から問題が見えやすいことが多いが(食べていない、服装が薄汚れている等)、こちらはともすると単なる教育熱心な親と解釈され、子供が第三者に窮状を訴えても「あなたのことが心配だからうるさく言うのよ。いい親御さんじゃない」などと的外れに諭されて終了となりそう。逃げ場もなく、過剰に(暴力的に)抑圧された人格は歪み、成長を阻害する。これは別に親でなくとも、教師や上司など本人より上の、指導者的立場にある人は皆、子供を抑えつけ過ぎていないか・自分の望みや価値観を知らず知らず押し付け誘導しようとしていないか、常々気を配るべきだと思う。自戒もこめて。

「殺人犯はそこにいる」隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件 
清水潔

話題のX文庫。やはり表紙が目立ったことと中身も面白そうだったので購入。解説の方が「調査報道のバイブル」と評していたが言い得て妙。
冤罪が晴れるまでのいきさつが大半を占めるが、本題はまさに表題の通りでかなり怖い。幼女ばかり何人も誘拐しては殺している真犯人が、ほぼ特定されているにも関わらず、逮捕も拘留も観察もされないまま普通に生活している。つまり野放しということだ。
「邪悪」で取り上げていたデータフィクションに構図は似ている。こちらは誰かの陰謀とか故意ではないにせよ、「誤った科学的データ」を根拠に動いてしまい、重大な冤罪を生んだ。スタート地点がそもそも間違っているため、遡って正していこうにも影響を及ぼす範囲が広すぎてどうにも手の出しようがなくなっている。
これ、現実としてどうするのだろう? ここまで調査して、本に書いて、世間に知らしめて、その先は?具体的にどうしたらいいのかわからないのがもどかしい。
少なくとも、ただ穏便にとか波風立てずにとか、そういう上っ面だけを取り繕うのではなく、おかしいことはおかしいと毅然といえる人間になりたいものだ。

2017年1月18日水曜日

十二月に観た映画


「ゼロ・グラビティ」2013米、アルフォンソ・キュアロン監督

宇宙船とか宇宙飛行士とか、カッコよさそうで憧れるけれど、正直宇宙には行きたくない。よく船なんかで戸板一枚下は地獄とかいうけど、下どころか宇宙服の数センチの厚みの外は360度全て地獄やないかい。怖すぎる。宇宙船がドカンといって即死ならともかく、一人ぼっちで長い間漂って寒さと酸素欠乏でじわじわ弱っていくって、あああ考えたくない。普通の人間ならまず精神がもたない。だがそこはさすが宇宙飛行士。どんな難題がふりかかっても簡単には諦めない。きわめて冷静にできることを見つけ、着実にこなし、もうやるべきことをやってしまっても、最後の砦である希望を失わない。こんなに強靭な人でないと宇宙に行けないなら、もし他の星に住めるようになったとして、そこは相当に力強い、進化した人間たちの住まいになるんだろうなあと妄想。かつて地球上で、荒海を渡ったり険しい山を越えたり、普通の人間がまずしないようなことにチャレンジして新天地を切り開いてきた先人たちのように。

息子が機内で観て全力でおススメしてきたこの映画、確かに面白かった。しかしこれ、3Dで観たら絶対に酔う。例によって興行があっという間におわってしまったので残念だったが、かえって良かったのかも。いややっぱり観たかった・・・。

「スターウォーズ フォースの覚醒」2015米、J・J・エイブラムス

「ローグワン」が上映中だというのに、今頃観たんかーいというこちら。久々のスターウォーズがあまりにも騒ぎになっていたので、混むのは嫌だなあと二の足を踏んでいたらまたまたいつの間にか終わっていた。
さらに結構前の話を忘れていて、あれ?これ誰だっけ、何でこんなことになってんだっけ、などという体たらくだったが、特に問題なく楽しめた。俳優さんたちはもちろん、スタッフさんたちの熱意まではしばしから伝わってくる。いやすごい映画だわやっぱり。
お馴染みのメンバーがどんどん高齢化していくのは切ないが、ちゃんと年相応の役をやってたので違和感なし。ていうか普通はもっと老けるだろ・・・レイア姫顔変わってない!若い!と思っていたら年末に突然すぎる訃報。合掌。


「スポットライト 世紀のスクープ」2015米、トム・マッカーシー

こちらも観たかったのに以下同文。年々出不精になるなあ。いかんいかん。集中して観るならやっぱり映画館だというのに。今年はちゃんとしよう。
事件として表に出た事象の裏には、軽いものから深刻なものまで無数の同事例がある。それはもう絶対に、ある。それがなぜなかなか表ざたにならず、驚くほど長い間、多くの被害を出し続けてしまうようなことが起きるのか。ある種の厄介な「善意」がその理由のひとつにあると思う。罪を憎んで人を憎まずとか、寛容であるべきだとか、無暗と騒ぎ立てるのはみっともないとか、そういう「善意」の名を借りた逃避・自己防衛・・・いわゆる波風を立てないで穏便に解決、というありがちな対応が意外に罪深い。問題を先送りしただけでまったく解決になっていないどころか、全体をすっぽりと覆い隠して無きものにしてしまうからだ。だが、あったことは絶対に、なかったことにはならない。有を無と言い立てるのは、善意からだろうが何だろうが、はっきりと「嘘」であり「罪」なのだ。
それにしても性犯罪はどれも酷いが聖職者のそれはなお一層エグい。いたいけな子供の信頼を踏みにじり、自分に落ち度があったのでは・・・と思い込ませて自尊心を破壊する。魂の殺人、というがこれは惨殺レベル。二度と子供相手の職に就かせてはいけないでしょこいつら!
尋常ではない怒りを覚えながらも、冷静かつ堅実に事に当たり、ついに真実をつきとめる編集者たちがカッコいい。まさに「調査報道」。

2017年1月5日木曜日

十一月・十二月に読んだ本

2017年、あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
以下、ネタバレあり注意。

「ミスター・メルセデス」上下 スティーブン・キング

発売して間もなく購入したにも関わらず、ここまで放置してしまったのは、読み出すとあっという間=時間泥棒と化すのがわかりきっていたため。案の定、一気読み。
さてキング初!のミステリー長編。盗んだメルセデスで行列に突っ込み何人もひき殺した挙句逃げ切った凶悪犯と、彼を追う元刑事の攻防。登場人物一人一人の性格やその背景をきっちりと描くのはいつものことだが、いつもより導入部がコンパクトかつわかりやすい。組み立てがより洗練されている感。さすが年の功か?と思ったが、三部作の一作目ときいてさらに納得。この作品じたいが壮大な前ふりだ。
幽霊や化け物の類は出てこないが、犯人の男の家庭がある日突然不幸に見舞われ、さらに不運な事故も重なってさらなる困窮と凄惨に陥るさまは完全にホラー。親が子を自分の罪の共犯者に仕立てるという話は以前も書いていたが、例によって碌なことにならない。崩壊寸前だった家庭はその罪によりいったん持ち直すが、その実止めの一撃となった。結局人は、やらかしたことからは逃れられないのだ。
次回作も楽しみ。

「聖(さとし)の青春」大崎善生

夭逝した棋士・村山聖の話。壮絶、の一言に尽きる。
幼少の頃にネフローゼを患い、何度も入退院を繰り返す中で将棋に出会い一気にのめりこんでいく。その類まれなる集中力と覚悟で、めきめきと頭角を現していくも、大事な場面で病に阻まれる。じっと寝ている以外何もできない間は、わざと少し開けた蛇口から落ちる水音を聞く。その音が聞こえている間は、まだ自分は生きていると確認できるからだ。死と隣り合わせどころか一心同体ともいうべき位置にいて、いつ破れるかわからない極薄の皮一枚で隔てられているだけの状況にありながら、彼は決して諦めない。くよくよしたり躊躇したりする時間が惜しい、絶望する暇があったら動けるうちに動け、楽しめる時は最大限に楽しめ、他人の思惑は関係ない。ただ自分のやりたいことだけをやれ。前に進め。
最初は死が怖いから、その恐怖から逃れるために将棋を始めたのだろう。だが晩年には、ただ逃げるのではなく将棋を以て真正面から死に立ち向かい、最後の最後まで抵抗し、戦い、生き切った。そこには安い涙や浅い同情は必要ない。ただただ、村山聖という棋士の生き方、存在そのものに最大限の賛辞と尊敬を捧げたい。
 
漫画「三月のライオン」が好きでよく読んでいるが、この作者も必ずや村山のことはよく知っているだろう。二階堂の人物設定、羽海野さんのひとかたならぬ思いがうかがえる。いい本を読んだと思う。映画も観たいがすぐ終わっちゃいそうだなあ。
 
「玉依姫」阿部智里
 
八咫烏シリーズ第五作。次女とともに瞬間的に読了。これまでの作品とは一転、実世界の話となるが、細部までいろいろきちんと整っていて、よく練られているなあと感心しきり。特に山の神に関するあたり、好きなジャンルなので丁寧な描写が嬉しい。
しかし最初から感じてはいたが、やはり十二国記とよく似ているかな?あれっこの子麒麟?とか一瞬思ってしまった(笑)。ハリーポッターシリーズといい、異世界もの・ファンタジーものは現実世界との折り合い方によってオリジナリティが出ると思うので、今後にさらなる期待。