末摘花 九(ひとり語りby侍従♪)
どこもかしこも荒れ果ててる中、松の木に積もった雪だけこんもり暖かそうで、ここ山里? て勘違いしそうなほど寂しーいうらぶれた感満載。
(雨夜の品定めの時皆が話してた『葎の門』って、ちょうどこんな場所だったのかなあ。確かに、こういう所に気の毒な境遇のカワイイ女子を囲って、今どうしてるかなー恋しいなーって日々思いを募らせる、なんて楽しそう。名前を言えないあの女性(ひと)への思いも、それで紛れようってもんだしね)
(前提条件や場所はカンペキなんだけどなー、肝心の本人が……うーん……)
(いやいやでも待てよヒカル! 俺以外に誰が我慢できるってのあの姫に!そもそも俺様がここまで通うことになったのって、もしかしてもしかしなくても、亡き常陸宮親王のお導きってやつなんじゃない…? 父親としてはあれじゃあ心配で心配で、おちおち成仏も出来ないよね……わかる、すっごくよくわかる)
なんて、かなり失礼だけどまあ的を射てる色々に思いを巡らしつつ、御付きの人を呼んで橘の木の雪を払わせる王子。
その拍子に、隣の松の木が羨むように起き上がって、さっと雪がこぼれたのね。
「わが袖は名に立つ末の松山か空より浪の越えぬ日はなし」
跳ね上がった雪が御付きの人の袖にかかるのを見て、王子ピキーン☆とこの歌が浮かんだわけなんだけど説明するね。
「末の松山」って海沿いの小高い丘の上にある松のことなんだけど、そこを波が越えることは滅多にないってことから、末の松山と同じく自分が裏切るなんてことない絶対! とかなんとか引っ掛けて恋の歌に使うってパティーンがけっこうあるわけ。
でもねー、そういう歌を詠んでみたところであの姫君には無駄無駄無駄ア!
「はー、こういう機微っていうの? 俺様と同レベルとは言わないけどせめてちょっと説明すれば理解できて、気の利いた返歌のひとつもくれるくらいの機転がほしいよねー」
王子、雪を眺めながら溜息。
車を出す用の門はまだ閉まりっぱだったから、鍵預かってる番人を呼び出してみたんだけど、これが超よぼよぼのお爺さん。さらにその娘か孫か、大人とも子供ともつかない年齢不詳な女も一緒に出てきたんだけど、着てるものときたら超汚くって、それが雪の白さで余計に汚れが目立つ目立つ。超寒そうに、何かよくわかんない小さい入れ物に火を入れたやつ……今でいう携帯カイロ? 的なものを袖で包みながらついてきてた。その子とお爺さんが門を開けようとするんだけど、固まっちゃってるのか無理っぽい(ろくなもの食べてないんだろうね、非力なのよ)。見かねた王子の家来が手を貸してやっと開門よ。
「大雪の降った寒い朝に、頭が真っ白な年寄りが働かねばならないのも気の毒だが
見ているこちらも負けず劣らず涙で袖を濡らす朝だよ
『幼き者は着るものもなく』」
なんて口ずさむヒカル王子。最後のは白楽天の詩なんだけど、その終わりの句に出てくる鼻……あの姫君も超寒そうだったなー、などと思い出し笑いしつつ
「頭の中将が見たらどういう感想を漏らすかな? いっつもストーカーばりにつきまとってるからソッコーで見つかりそう…ぶるる」
などとげっそりする。
(常識的っていうかありがちな容姿なら、このままブッチしちゃってもよかったんだけど、こんだけバッチリはっきり見ちゃうとさ……申し訳ないっていうかなんていうか……ちゃんと真面目に通わないとな…)
というわけで、あのオッサンくさい黒貂の皮のかわりに、絹、綾、綿、女房さんたちの着物、なんとあの門番のお爺さんや娘の分もよ? 上から下までタップリ気を遣って用意してあげたってのはさすがセレブよねー。いわゆるのぶ、のべ……なんだっけ右近ちゃん……あ、ノーブレスオブリージュねはーいありがと……て、ちょっと違うか。人道的配慮ってやつ?
こういうのもさ、人によっては屈辱ーて思っちゃうこともあって良しあしなんだけど、そこはあの姫君ですから。まんま素直に受け取って感謝してくれるもんだから王子も気楽に「こういう生活面だけでもきちんとしてあげるか……」て思って、普通ならしないようなあからさまな援助もしてたみたい。
「思い出すなあ空蝉ちゃん……あの宵、無防備にくつろいでた空蝉ちゃんの横顔……当然スッピンだしぶっちゃけ美人じゃなかったけど、立ち居振る舞いがとにかくイイ! から、大して気にならなかったんだよねー。常陸宮の姫君は、身分とか家柄は空蝉ちゃんより大幅に上なのに、どうしてこうなった? とすると、品の上とか下とかは関係ないのかもなー。空蝉ちゃんは腹立つほど頑固だったけどイイ女だった。してやられた! お見事! て感じで忘れられないよね」
未だ解けない空蝉の術ー♪ パネエっす空蝉姐さん。
>>「末摘花 十」につづく
参考HP「源氏物語の世界」
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