末摘花 八(ひとり語りby侍従)
(よし、これで帰れる♪)とヒカル王子が格子を上げると、お庭は一面の雪。誰かが雪を踏みわけた跡もなく、ただ真っ白の寂しーい荒れ地がどこまでも、て感じだったから、これほっといてさっさと帰っちゃうのはさすがにキチクってもんかなー、とマメ男の王子は思ったわけ。
「空がなかなかいい感じですよ、一緒に観ない? いつまでたっても籠ってばっかじゃつまんないよー。こっちおいで(棒)」
王子の顔が、まだ薄暗い中雪あかりに映えますますのキラキラ☆イケメンっぷりを発揮。お婆さんたち(といっても多分30~40代…)眼福眼福とばかり拝みたてまつる。
「姫君、早くお出であそばしませ。いけませんわ、女は素直なのが一番ですのよ」
なーんて口を揃えてまくしたてられた姫君、例によってイヤって言えない性格なもんだから、しぶしぶながらも身支度ととのえてずず…といざり出てきた。
見てないよーん、なふりして外の方を眺めてた王子、その実横目で姫君ガン見。
「どんな子かな? カワイイ系キレイ系? お育ちはいいんだしちょっとはいいとこあってもイイよね?」
まー、一応お泊りデートってやつだし? 期待するのも無理ないわよね。
だがしかし…
王子は、見てしまった……すべてを。
座高が、高い。胴長なのは平安日本人のデフォとしても、これはさすがに…と思ったところで理由判明。
顔がデカい。つか、長い。オデコ広すぎ。しもぶくれはこれまた平安(以下略)だが、袖で隠されて全貌が見えない。ということはさらに…いやいやいや。そんなことより…
鼻!!!
鼻がデカい、つか長い! しかも赤い! 超色白だし? 寒いし? だよねーまーそうなんだけどさ! 垂れ下がってるように見えるのはどゆこと?!
てか痩せすぎじゃね? 着物の上からも骨格わかる感じ、つか着物、古! いやその、普段は他人のファッションに口出しするなんて無粋なことはしない主義だけどさ……由緒ある古着なのかもしんないけど、ピンクって煤けたら見られたもんじゃないよ? 大体インナーだって元が何色かもわかんないじゃん…てかそのテラテラした毛皮なに? 狩人のオサーン?!そりゃあったかいんだろうけどうら若い女子が着るもんじゃないしょ!
…あ、髪はキレイかも! 長くて豊かでツヤッツヤ! やったね平安美女の条件いっこクリア☆
って!ああああああ!
なぜ!
なぜ、すべてを見てしまったんだろう……
目を離したいのに、離せない。こんなの初めて……なんも言えねえ…
とはいえそこはヒカル王子、姫君にちゃんと話しかけて、あまつさえ笑わせたり(ニヤリ、程度だけど)しちゃうのはさすがよね。
(なんだろうこの、何とも言えない気持ちは……罪悪感半端ないんっすけど! でもでも何をどう悪いと思ってるのか自分でもわからないっ!)
「ご実家の後見がないとわかってて通うような男は私くらいなんですから、もっと打ち解けていただけると嬉しいんだけどなあ。中々気を許してもらえないって辛い…」
と冷静を装いつつ帰る気満々の王子、
「朝日が射している軒のつららは解けたのに
なぜあなたの心は凍ったままなのでしょう」
つらいわーつらすぎてもう帰るしかないわーと暗にそっちのせいで帰るんだからね的な歌を詠んでみたものの、
姫君にはとーぜん、そんな心の声が聞こえるわけもなく。うふふ、なんて照れ笑いして返歌もすぐには出ないかんじがまた王子にしてみれば
うああああああ!
と叫びたいくらいいたたまれない。ソッコーでお邸を出ましたとさ。
>>「末摘花 九」につづく
参考HP「源氏物語の世界」
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