おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

末摘花 六(ひとり語りby侍従)

2017年3月8日  2022年6月8日 
さて、いろいろと腑に落ちない夜を過ごしたヒカル王子、二条院に帰ってゴロンと寝転がったものの眠れない。
んー何か思ってたのと違う・・・なかなかこれぞ! て人はいないもんだなー」なんて自己チューなことを言いつつ
かといって、あ、もういいですじゃサヨナラなんてテキトーに扱っていい身分の姫君じゃないし・・・あーどうしよ
思い悩んでるところに頭中将、登場(それにしてもやたら絡んでくるわねーストーカーちっくよね)。
「珍しいですねえ、こんな遅くまで朝寝なさるなんて。あやしいなあ。どうせ女でしょ! わかってんですよ!」
などと耳元でウルサイので王子しぶしぶ起き上がる。
まさか、気楽な独り寝でつい寝過ごしちゃったんですよ。頭中将は、内裏からの帰りです?」
そうそう、今退出してきたばっかり。今度の朱雀院の行幸の件でね、今日演奏者と舞い手を決定するよ! って昨夜お知らせが来たんで、父の左大臣にもお伝えしなきゃってことで。またすぐ戻らなきゃいけないんですけど
なるほど、そういうことなら私もご一緒しますよ
 王子が用意させた朝ごはんを二人で食べ、ひとつ車に乗り込む。車中でも頭の中将ウルサイ。
まだ眠そうですねえ。ふーーーん。何故、おひとり様で夜更かしなさったんですかねえ。まあ言いたくないんならいいですけどー、隠し事多いですよねー
ゲスい顔でぶつぶつ言う。超ウザい。
とはいえその日はなんやかんやで決めること多くて、一日中内裏に籠りっぱなしでお仕事ざんまい(ま、たまにはね)。

というわけで朝に届くはずの後朝の文、が夕方遅くに姫君邸に届けられたわけなんだけど。

夕霧が晴れる気配もまだ見られないうちに
 さらに気持ちを滅入らせる宵の雨まで降っています

いやー忘れてたわけじゃないんだよ! 普通、初めてのお泊りデートの翌朝は早めにお文をお届け&夜に再訪っていう平安恋愛ルール、まさかこの僕が知らないわけないじゃん? 超気になってたんだけどさー、ほら朝から頭中将迎えに来ちゃうし! 内裏にいったら会議会議で時間ないし! 無理だったわけ! しかも、やっと終わったと思ったら雨まで降ってきちゃってテンションダダ下がり~て感じ? だから・・・ね? メンゴメンゴ!

 さすがの大輔命婦さんも能面よー(怖)。つまり今夜はいらっしゃらないってことね・・・と察した女房さん達も凹みつつ、
「でもでも、お返事は差し上げないと!」
って言うんだけど、姫君はあの通りの人だからさ、テンパっちゃってテンプレ返歌すら思いつかないのよ。もうこうなったら仕方ない、
「夜中になっちゃいますよ、早く!」
 脇に座り込んで口述筆記よ。まあ夏休み終了直前プリプリしながら子供にムリヤリ作文書かせる母親的な?

晴れぬ夜の月を待っている里を思いやってください
 私と同じ心で眺めてはいないでしょうけど

 ちょっとーいくらなんでも酷くなーい? いい加減にしないとこっちだって考えがあるわよ?

ってちょい攻撃的ニュアンスでいってみた。んだけど、姫君ったら中々筆が進まない。周りの女房さんたちも一緒になってガンガン煽って責め立ててやっとこせ・・・しかも紙が・・・いや元は高級なんだろうけどさ・・・色は高貴な紫だし・・・だけどふっるーい、謎の粉? みたいなのでざらついてて。字がまた、なんていうかその、金釘流っての? やたらくっきりはっきりしてて天地がきっちり揃った、古文書?!て感じの字体なわけ。

 さすがの百戦錬磨王子もこれにはウッとなって、じっくり見なおす気も起きない。
なんだろこのやっちゃった感・・・こういうのが、後悔するって気持ちなのかな(今までしてなかったんかい)。だけどもうどうしようもないよねーやることやっちゃったんだし。何はさておき、一応責任は取らないと。気長に最後まで面倒みるか・・・
 なんだかんだでお育ちは良い王子、ボロぞうきんのように捨てようとかバックレようとか、そういう悪意はまったく無い。無いんだけど、だからこそ問題なのよね。本人悪いことしてる気ないんだもん。
 行幸を控えて、毎晩のように舅の左大臣に引っ張られ、屋敷の若い衆と一緒にやれ楽器の練習だのやれ段取りの説明だのやらされて、自分の準備もしなきゃならないし超忙しかったのは事実みたい。とはいえ本命に近い辺りには暇を見つけて通ってたみたいだから、ようは姫君の優先順位はすっごーーーーく下、ってこと。ナチュラルにスルーされてたわけ。ザンコクな話よね。

さて秋も暮れ、一大イベント・行幸の日も近くなりあちこちで試演たけなわの頃、王子のもとに大輔命婦さんがやって来た。
あー、元気? どうしてた?」
 ヒカル王子、内心やべーと思いつつもフツーに話しかける。命婦さん、問われるまま最近の姫君の様子をつらつら話す。
このところお忙しいのは承知しておりますが・・・このように、見限られてる感満々なこと、お側仕えの方たちまで、はっきり口に出すわけではないけれど気に病まれているのはよくわかるんですの。もう私、お気の毒で・・・心苦しくて・・・たまらないですわ
って、涙目よ。あの! 女子力最強フェロモン全開の命婦さんがよ? 目うるうるさせて切々と訴えるのに、抗える男なんてこの世にいないわよ。さすがのヒカル王子も罪悪感にかられたか、
奥ゆかしい姫君(はあと)なんて妄想してる段階でやめときゃよかったんだよなー。なのに変な意地で突っ込んでって彼女たちの世界をぶち壊しちゃった。ヒデー奴とか思われてんだろうな
とちょっとだけ反省。が、一分ともたず、
(いや待てよ? あの姫君のことだ、きっと愚痴をいうこともなくだんまりで、相変わらずひきこもり生活してんじゃね?)
と思い直す王子。
本当にメチャクチャ忙しかったから! 仕方ないよ命婦」
とわざとらしく溜息をつきつつ、
姫君のほうこそ、私が何をしても知ったこっちゃないって態度だったじゃん。そういうご気性を少々懲らしめて差し上げても罰は当たらなくない?」
などとうそぶき、これまた超絶イケメンキラキラオーラ全開で微笑む。さすがの命婦さんも
仕方ないわね・・・ヒカル王子を恨む人は多いだろうけど、勝てる人はそうそういない。他人の気持ち? そんなんわかるわけないしー、わかろうとも思わないしー、俺は俺の好きなようにやるぜ! てやり方、嫌いじゃない。ただしイケメンに限るけど
って苦笑いするしかなかったって。

とはいえ行幸が終わった後は、またボチボチと姫君のもとに通うようにはなったみたい。よかったよかった。・・・のかな?たぶん。

>>「末摘花 七」につづく
参考HP「源氏物語の世界
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