末摘花 十一
例の姫君のお歌が書いてある陸奥紙(無駄に高級な楮紙)、ヒカル王子が端っこにいたずら書きしたんだって。こんなかんじ↓
「特に縁があったってわけでもないのに
どうしてこんな、末摘花に袖触れる羽目になったんだか。
えらく色の濃い花とは思ったが」
「花って……あっ(察し」
大輔の命婦さんも、ぶっちゃけ真正面から姫君の顔みたことはなかったんだけど(深窓の御令嬢だから身内にすら滅多なことでは顔見せない)、付き合い長いから何となく雰囲気はね……ヒドイわー酷すぎるわー王子と思いながらもウッカリ笑っちゃったって。(ナイショよって言ってた 笑)。
「紅に一度染めした衣が色落ちして薄くなってるからって
評判まで落とすようなことはなさらないでほしいですわね
(不遜すぎますわよ! 笑)」
ってサラっとフツーに返したら王子溜息まじりに「せめてこの程度の返しでも普通に言えれば…」ってうなだれちゃって。でもさ、なまじ身分が身分だし、
ねーねー聞いた? あそこのお姫さん正妻さん差し置いてヒカル王子にすっごいダっさい衣装贈ったらしいわよー世間知らずにも程があるわよねー
なんて笑いものになったりしたらさすがに可哀想だし亡き宮にも申し訳が立たないじゃない?
「とりあえず人が来る前に隠しとこうかこれ。お世辞にも常識的な振舞いとはいえないしさ」
命婦さん、慌てて物蔭に突っ込んでそそくさ逃げてきたって。
(あー何で王子に見せちゃったし私…やだわー、こっちまで非常識と思われちゃう…)
って後々まで凹んだらしいよ。命婦さんちっとも悪くないのにね。
その翌日。命婦さんが内裏でお仕事中、ヒカル王子が台盤所(女房さんたちの詰め所みたいなとこ)に立ち寄って
「ほい、昨日の返事。ちょっと気合入れすぎたかも?」
って投げ入れてきたもんだから、周りにいた女房さん達何何?って寄ってきて興味津々。誤魔化すだけでも大変なのにヒカル王子ったら、
「ただ梅の花のよな、三笠の山の乙女は捨てて♪」
とかなんとか口ずさみつつサッと消えちゃったもんだから、命婦さんこらえきれず吹きだしたら、女房さんたち騒ぐ騒ぐ。
「命婦ちゃん何一人で笑ってんの! どういうことか教えなさいよ」
「いえいえ、そんな大したことじゃなくて。ほら例の『たたらめの花のごと懐練好むや』て、赤鼻を紛らすため赤い懐練を着ていたのをいつだか見つかっちゃったテヘ☆って歌を王子が歌ってたものだからつい」
「何それ!意味わかんないんだけど! そこまで言われるほど赤鼻の人なんかこの中にはいないわよ?ねえ?!」
「左近の命婦さんや肥後の采女さんでも鉢合わせたのかしら?」
アタシたちのことじゃないわよねーそうよねーといつまでも姦しい女房さんたちでしたとさ、と。
……え? 意味ワカラン? あ、そりゃそうか……平安の流行り歌だからね……んー、右近ちゃーん!説明お願い!
はい、ごぶさたしております、最近出番の少ない右近です。つうか更新の頻度が低すぎよね。何とかならないかしらね。
王子の歌ってたこの「ただ梅の花」の部分、当然末摘花の姫君の赤鼻を当てこすっておりますので「紅梅」だと考えられていますが、実は
「ただうめ」→「たたらめ」
なのでは?という説もあります。確かにひらがなにして濁点なくすと似てますね。
ちなみに「たたらめ」とは鍛冶の炉を司る巫女のこと。三笠の山は、鍛冶に必要とされる槌(つち)の神である建御雷命(たけみかずちのみこと)を祭る春日神社の神域です。これに奉仕する「三笠の山のをとめ」が「たたらめ」とつながるというわけです。
たたらめの鼻(炉の前だから赤くなる)
→たたらめの花(何の花か不明ですが赤いらしい)
→赤い、
と。平安時代よくありがちな引っ掛け&連想ゲームですね。ま、なんにしヒドイ言われようです。
右近ちゃんありがと。わかったかな?わかんないお友達は「たたらめ」「源氏」「末摘花」とかで検索!間違いとか新たな発見あったらコメント欄で教えてね、ヨロ!(^^♪
さてさてその後常陸宮では、届いた王子の返事に女房達が集まってほほーっと見入ってる。
「逢わない夜の方が多いのに、間を隔てる衣をくださるとは
ますます逢わない夜を重ねなさいっていうの?」
何重にもオブラートに包んで(非常識だよ気をつけてね!)っていってるのに、真っ白な紙にサラサラッと書いたオシャンな雰囲気に惑わされてだーれも気づかない。まあそこは想定通りなんだけど。
大晦日の夕方に、例の仰々しい御衣裳箱ね、あれにヒカル王子自ら見立てた女性用の衣裳一そろい、葡萄染めの織物、他に山吹襲か何襲かよくわかんないけど色とりどりに詰め直して大輔の命婦さんが持ってったわけ。
さすがに
(この間贈ったやつが良くなかったってこと……?)
って気づいたみたいだけど(遅い)、そこは無駄にポジティブな古いオバ……女房さんたちでさ。
「いえいえあれだって、重厚なアンティーク紅色ってやつですから! この衣裳はいかにも今時な色ですけど、決して見劣りはしてませんことよ、ええ」
「お歌だって、こちらからのは一本筋が通ってるっていうか、抜けのない、まさにカンペキ?て感じですわ」
「それにひきかえ王子のご返歌……まあ面白いことは面白いですけれど、ごめんなさい。ちょっとチャラめですわよね!」
何この上から目線。て感じなことを言い合ってる。姫君のほうも、あのお歌は姫的に最大限の力で絞り出したもんだから、メモ書きして永久保存~てしてたって。命婦さんもいい加減呆れてなんも言えねえ……って早々に引き上げてきたらしい。ホントお疲れさまです。ていうかアタシやっぱ早まったかなあ……小顔マッサーは魅力的だけれども……だいじょぶかしら。。。うーん。。。
>>「末摘花 十二」につづく
参考HP「源氏物語の世界」
「宮口善通のBlog:源氏物語の中の音楽(たたらめ:衛門府の風俗歌)・・・「末摘花」より」
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