おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

末摘花 十二(オフィスにて♪)

2018年1月18日  2022年6月8日 
あけましておめでとう、侍従ちゃん。今年もよろしくね」
「イエーイ♪右近ちゃん、あけおめ・ことよろ! あぁ久々の宮仕えたーのしー♪」
「朝から元気ねー侍従ちゃん。年末年始休みなしだったんでしょ、常陸宮勤務で」
「そうそう! いやー大変だったわあ大掃除。きっとねー、一年どころか三年くらい掃除してなかったわよあそこ。埃の量ヤバかった。しかもその埃も古ーい感じでさ、湿っぽいっていうか……ぶるる。思い出したくない」
「ああ……あそこお年寄りばっかりだもんね。由緒正しいお邸だから、細かいお道具もたくさんありそうだし面倒くさそう」
「そうなのよ! 思い切り断捨離してやるつもりだったんだけど、おば様たちうるさくて。それまで寒いからって部屋の隅に固まってるだけで反応薄かったのに、捨てようとした途端むくっと起きて
『それは先帝の従妹の嫁ぎ先のナントカさんから賜ったナントカだ』
とか言い出しちゃって。それが一人二人じゃなく、次々モグラ叩きみたいに出てくるわけ。まったく年寄りって何であんな昔のことだけはくっきりはっきり覚えてんのかしら。
 でも確かに、見た目古臭くてボロでも、全部本物アンティークでかなりいい物だっていうのはアタシにもわかるのよ。
 わかるんだけど、それなら何でもうちょっときちんとお手入れしといてくれなかったかと……はーもう十年分くらいの神経と体力使ったわマジで」
「お、お疲れ……聞きしに勝る古女房っぷりね……。年末雪だったし風邪引かなかった?」
「引いてる暇もなかったわよ。
 おば様たち、ヒカル王子から来た贈り物の山も食べ物以外はほったらかしでさーもーキレそうだったわ。てかキレた! 鬼になったわよアタシ!
 話しかけられた時以外は口を開くな貴様らぁ! 歯ァ食いしばれ! 
 アタシの使命は役立たずを刈り取ることだ。分ったかウジ虫共!」

「キャー素敵ハートマン侍従! よっ、スーパー平安☆バリキャリ女子!」
「ふっ、それほどでもなくってよ。ていうかさ、常陸宮のお邸って普段サボってばっかのアタシがどうよ?! て思う位だからホントお察し」
「(笑)そういや王子から来たお返しの贈り物ってどんなだった?」
「いやもう、それそれ! 凄かった! 超ゴージャス&センス抜群、量も半端なくて、あのくらーいお邸の中で入れ物すらキラッキラ光を放ってたわよ。
 もちろん王子自ら選んだんじゃなくて、二条院のぐう有能な女房さん達セレクトだと思うけどさ、破格の扱いよねもう。やっぱり持つべきものは身分よねー」
「侍従ちゃん(笑)軽くやさぐれてる? ヨシヨシ、この右近姐さんがお茶入れてあげましょ」
「ありがとー(泣)持つべきものはステキ女子同期ねん。ホントあの時ばかりは王子の気持ちがよーくわかった。何ひとつ響かないあの感じ、絶望するわ」
 しばしずずず、とお茶を啜る二人。
「……侍従ちゃん、さっきから思ってたんだけどそのお着物もしかして?」
「おっとーよくぞ気づいてくれました! そうよー王子からの贈り物♪ 私ら女房どころか、例の門番のお爺さんやその娘に至るまで全員の分揃えてくれたの。さすがセレブよねー
「うん、何かいつもの侍従ちゃんとまた違う雰囲気だわと思ってた。すごい似合ってる! 新年にピッタリ」
「ありがとー♪ アタシも超気に入ってるの! 大事に着て家宝にしなきゃだわ」
「結局ヒカル王子はいつ来たの? 今年って男踏歌のある年だから結構忙しいよね、練習練習で。いろんなお屋敷から楽器の音やら声やらするもの」
「えーとね、確か七日の節会が終わってからだったと思う。そのまま宿直所に泊まると見せかけて、夜更けにこっそりって感じ」
「なるほど。確かに本妻さんちからは論外だし、二条院だと若紫ちゃんにドコ行くのー? なんて曇りなき眼で見つめられちゃうもんね。策士だわ。
 で、当然全員おめかししてお出迎え?」
「それがまた大変でさー。
 姫君はあの通り自己主張ないヒトだから簡単だったんだけど、おば様たちが……勿体ないだの気おくれするだのゴチャゴチャ言ってて中々着ないわけ。
 新年あけてお目出度い、王子が来る可能性が限りなく高い、今着なくていつ着るんですか! 
って叱り飛ばしたんだけどデモデモダッテで超メンドクサイ。
 最後にはもう、
 王子の好意を無下にするようなことしたら極楽浄土行けないですよ! ナントカって偉いお坊様が言ってました! 
 て言い張って無理やりよ。古い着物? もちろん問答無用で廃棄。ヤバかったわあれ……手で触れるとポロポロポロポロ粉っぽいなにかが落ちるんだよ」
「えええ……嫌すぎる……泣」
「とにかくそれで何とか体裁整えて、王子をお迎えしたわけさ。
 努力の甲斐あって、王子
『おお、前来たときよりずいぶんスッキリしてない? それに何だか明るくて華やいでる。そうか、侍従ちゃんのお蔭だね』
 なーんて喜んでてーウフッ」
「最後のは盛ってるでしょ(笑)」
「バレたか(笑)でも機嫌良かったのは確かだよ。姫君にも愛想よくしてたし。まあお部屋は格子すっかり上げないでやや暗めにしてたけどね。
 姫君も、キレイなお着物着てちゃんとしてれば、お育ちは極上なわけだし髪長くて艶々してるし、立ち居振る舞いに気品はあるわけよ。王子も、そこは認めてたみたい。
 今日の姫、オシャレで素敵ですよー特にその上着イイネ! なんて褒めてた」
「王子(笑)自分で贈ったものだって気づいてないの?」
「うん(笑)何か私たちの手柄になっちゃってたみたいだわ。そんなお金ありませんて(笑)。
 あと鏡台とか櫛とか髪セットの色々ね、正妻さんでもないのに夫用の道具そろえるっていうのも何だけど、とにかく他では滅多に見ないアンティークだからあえてセッティングしといたのね。それも結構面白かったみたいで、全部手に取ってよーく見てたよ」
「なるほど。それは侍従ちゃんGJだわ、株爆上げね。
 姫君は? どんな感じだった? また無反応?」
「それよ! なんとなんと、自分ひとりで返事したのよ!
 ヒカル王子が
『せめて今年は、お声を少しなりとも聞かせてほしいなあ。
 待たれる鶯はさしおいても
 新年だし気持ち新たに、気軽にね』

って言ったら、
『囀る春は……』
 て一言。頑張ったよねー超頑張った。スッゴイ進歩。もう王子ヤッターって万歳しかねないほど大喜びしてさ
『ひとつ年を取った甲斐があったよね♪ 夢かと思うくらいだよ♪』
って上機嫌で帰っていったわ」
「可愛い(笑)そういうとこ王子って憎めないわよね」
「そうなの。ますますファンになっちゃった」

 ごめんくださーい、と声。
「はーい……あっ! 少納言さん!」
「あけましておめでとうございます、侍従さんに右近さん。近くまで来ましたもので……今忙しくないですか? 大丈夫?」
「もっちろん!」
「さ、入って入って」
 ひとしきり新年の挨拶を交わす三人。侍従がお茶とお菓子用意するね、とバタバタ別室へ。
「少納言さん、お元気そうで何より。若紫ちゃんは元気? 随分大きくなられたでしょ」
「右近さんもお変わりなく。若紫姫もお蔭さまで、ここ何か月かで背も伸びたし本当にシッカリなされて、私も少し気が楽になりましたわ」
「よかった、落ち着いたみたいね」
「ありがとうございます。あ……そういえば」
 首を傾げる少納言。
「え、何かあった?」
「いえ、そういうわけではないですけど……お正月の頃、姫君に初めてお化粧したんですね。お衣装が紅色の着物に桜襲の細長だったものですから、すこし華やかにしようと思って。亡き尼君は古風でいらしたから、中々こういうこと出来なかったんですよね」
「きゃーん素敵! カワイイだろうなあ♪ 画像見たーい」
「侍従ちゃん。平安時代よ」
「だよね残念ー。紫ちゃんなら相当インスタ映えしそうなのになー。あ、少納言さんお茶どうぞ♪」
「恐れ入ります、いただきます。
 その日ヒカル王子もいらして、いつものようにお二人でお人形遊びなどなさってたんですが、途中でお絵かきになりまして」
ヒカル王子が可愛い幼女とお人形遊びにお絵かき……尊い……萌えるわあ
「侍従ちゃん、言い方メッ☆」
「ごめんごめん(笑)」
「王子が描いた絵が、大人の女の人だったんですが、その……鼻を赤く塗ってまして」
「!」
「!」
「その上しばらく考え込んでいたかと思ったら、いきなりご自分の鼻に赤い色をつけ出したんですよ
 姫君は最初きょとんとしてたんですが、王子が顔を向けた途端吹き出して大爆笑。 王子が真面目くさって
『わたしがもしこんなふうになっちゃったらどうする?』
お聞きになるもんですから姫君も笑うのをやめて
『えーヤダ……』
と神妙なお顔に。そこで王子ふき取る真似をしつつ
『あれっ……取れないぞ。どうしよう。こんなつまんないいたずらしたせいで、帝に叱られてしまう』
 真剣な顔をして仰るものですから姫君も本気で心配されて、ご自分の手で一生懸命王子のお顔を拭おうとなさるんですが
『あっ墨はつけないでよ。平中みたいになっちゃう。赤い方がまだマシだって!』
とふざけて逃げる。それをまた姫君が追いかけて、しまいには二人で倒れ込んで大笑いなさって」
「王子ったら……」
何その超羨ましいキャッキャウフフ状態……鼻血でそう」
「お二人の様子はまるで仲睦まじい兄妹のようで、微笑ましかったのですが……。
 その日は日差しがあたたかで、二条院のお庭にある早咲きの梅の蕾がもうふくらんで色づいていたんですね。それをご覧になった王子、
『この梅の紅の色がなんか嫌……
 咲いてる花はすっごく素敵に思えるんだけど……
 いやいやいや……』
 なんて仰って溜息をついたりなさってるんですよ。さっぱり意味がわからなくて。
 赤い色に何かトラウマでもおありなんでしょうか?」
 困惑顔の少納言の前で、顔を見合わせるしかない侍従と右近であった。

<紅葉賀 一につづく>
参考HP「源氏物語の世界
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