2010年10月26日火曜日

「帚木」 (七) ~雨夜の品定め 最終話~

雨夜の品定め、恋バナのトリを飾るのは意外や、右近兄・藤田係長(式部丞)でありました。
この面子の中では身分的にも男子力的にも一番下っ端。

「藤田係長、今までダンマリなアンタこそなんかあるんじゃないの?ちょこっと言ってみなよ」

と皆はやしたて煽る。

「自分っすか? いやいやいや……自分みたいな底辺ブサ男に、お聞かせするようなイイ話なんかあるわけないっすよ。勘弁してくださいっす」

と言うのを、頭の中将は穏やかながらびしっと「いいから早く」と責める。
藤田・右近兄は慌てて、困ったっすねえと頭を振りながら、ようよう話し出した。

「まだ学生だった頃っすかねえ。超頭はいいんすけど気い遣う女、てのとなんでかつきあったんすよ。さっきの左馬さんの話にも似たようなパターンあったっすね、そういや。

仕事の話はもちろん何でもツーカー、実生活に必要な心遣いもカンペキ、漢学の才はなまじっかのインテリ博士が裸足で逃げ出すほど、とにかく万事につけてこっちが口出す隙間ナシ!てな女でした。

出会いすか? えーと……自分、バカだったんで、いや今もバカですけど……ある博士に学問を習いに通ってたんすよね。その家には娘ばっかし何人もいると聞いてたもんすから、ちょこちょこ理由を見つけてはチョッカイかけてたんすけど、それを聞きつけた親が盃を手に出てきて

『私が両つの途を歌うのを聞け』

と迫るんす。つまりこれ、「親公認の正しい交際をしろ」てことっすから、正直ちょっと引いたんすけど(笑)さすがに自分の先生すからね、親心を完全スルーなんてわけにもいかなくて。
つかず離れずって感じでつきあってるうちに、何だか知らないすけど向こうさん、えらく自分を気に入って盛り立ててくれて、ピロートークつうんすか?そんなのでもいちいち実になる、仕事に役立つアレコレやなんか教えてくれたんす。

ちょっとしたメールを書くにも、顔文字やらナンやら女の子の使いそうなもんは使わず、難しい漢字や熟語や故事成語なんかもきっちり使いこなして、そりゃもう超超カンペキな文章なんすよ。すげぇなコイツと素直に尊敬したっすね。彼女を先生に、漢詩文(=外国語の作文)なんかも教えてもらったんすけど、まあ自分、ぶっちゃけ出来良くなくて、今もその辺はイマイチっす。

今でもその恩は忘れてないっすけど、いざ妻として長年連れそうことを考えると、自分は学がないっすから、向こうもなにかと粗がみえるようになるだろうなあ、こいつホントバカ!とか思われるんだろうなあとか。それは自分もさすがに恥ずかしいっていうか、惨めじゃないかと。

ヒカル王子様や中将様のように優秀でイケメンなセレブでしたら、逆にここまで何もかもパーフェクト!な奥様でなくてもいいっすよね?

自分はフツーの男っすから、デキる女には憧れるんすけど……うーん超残念すけど、すみませんついてけません(涙)て指をくわえるしかないっす。結局は自分の気持ちがもつか、ご縁があるかないかとか、みたいな感じすかね? ホント男って単純なもんっす」

と奥歯にものの挟まったようなもの言いをして思わせぶりに黙っているので、

「面白そうな彼女じゃん。で、結局どうなった?」

と周りがさらに煽る。でしょ?やっぱ続き聞きたいすよねーと鼻をこすりながら再度語り始めるのだった。

「そんなこんなで、だいぶ長い間行かないでいたんすけど、ふと、どうしてるかなーと思って立ち寄ってみましたら、いつものようにリビングにも出てこず、衝立までたてて超よそよそしいんす。
やっぱ怒ってるのかなー、なんだかなー、来るんじゃなかった自分バカみたい、もしかしてこれが潮時ってやつ?とも思ったんす。
なにしろ頭の良い女すから、普段からギャーギャー泣きわめいて怒り狂うなんてことはなく、世の中そういうもんよねーていつも冷静っていうかー、悟ってる、ていうかー、とにかく恨み言のひとつも聞いたことがなかったんす。

その彼女が、そん時は超焦ってる感じで早口でまくしたてたんす、

『ここ何ヶ月か風邪こじらしちゃってて……なかなか治らないから、熱冷ましのお薬飲んでるの。これがすっごい臭うのよね。だから面と向かって会うのはご遠慮申し上げます。直にでなければ、こまごました事は承りますわよ』

て、何か慇懃無礼っていうか、有無を言わさない感じで。答えに困ったんで、ただ『了解』って言ってサクっと帰ろうとしたんすけど、向こうもあんまりそっけなさ過ぎって思ったんすかね、
『この匂いが消えたころにまた来て頂戴ねー』

って大声で言ったんすよ。
それスルーしてさっさと帰るのも何かね、しばらくはそこに居なきゃいけないかなーとも思ったんすけど、そうも言ってられなくなったんす。何しろ……かぐわしく漂ってくる匂い……・どんだけ?!ありえねー!てくらい凄くて、とにかく逃げ出したくなって
『夕暮れの蜘蛛の振る舞いで

私が訪れることをご存知だったはずなのに

蒜(ひる;にんにく)の匂いの中で

昼間も過ごせというのは

なんということでしょうか



臭すぎっす、意味フメーっす(涙目)』


といい終わるのも待てず、とっとと飛び出していったんすけど、それを追うように


『毎日逢っているような

夫婦の間柄であれば

昼間、蒜(にんにく)の匂いがしたからといって

どうということもありませんでしょ



ホント間が悪いわー、こんなときに来るなんて。ちょっとKY過ぎよねー』


速攻で返歌が来たんす……」



他人事のようにトボけた感じで話し終わる右近兄。
ヒカル王子、頭の中将、他の皆も一斉に

「うっそ、つくってない?」「どう考えてもネタ」「ありえねー」

とさんざんに言って大笑い。
「ホントにいるのそんな女? ドン引きー。このにんにく女に比べたら、鬼と向かいあっとくほうがマシだよな。うえ、何かにんにくの匂い思い出しちゃった。気持ちわる」
(*平安時代の貴族はお香に凝っていたので匂いに大変敏感)
頭の中将は魔除けの爪弾きをして、「とてもリアルな話とは思えないので判定、不能~」と右近兄をくさす。

「もうちょっとマシな話はないのか?」

と責めたてられても、

「これ以上珍しい話、ないっすね自分的には」

と澄まし顔の藤田係長。
そこに再び出たがり・話したがりの左馬課長代理がずずいと身を乗り出し、誰も頼んでないのにまとめに入るのであった。


「男女ともに未熟者は、かじっただけのことをさもよく知っているかのように見せようとしがちですが、困ったことですなあ。

女が三史五経のような難しい学問をまるっと理解してるっちゅうのもいけ好かないことですけど、だからといって世の中の公私のもろもろを、私何も知りませーんできませーん、ちゅうわけにも参りませんわな。
特に勉強してなくても、ちょっとでも才のある人なら自然、誰かの耳にも目にもとまることも、すくなからずあるはずですな。

そういう、漢字をすらすら書けるような人が、何てことない女同士の手紙も、わざわざ半分以上漢字で書きつけるって、嫌味だねぇ。こんなに出来るアテクシ!て感じで。
(*平安時代、女性は主にかなを書き、漢字は男性が業務用もしくは学問に使用、というのが普通であった。漢字は外国語に近かったのだ)

そんなつもりないわーっていっても、なんつうか現代で言うとやたら横文字ばっかり使って、なんでこんなことまで英語? 日本語で言えや!それ自慢?自慢ですか?てな感じの女って、底辺の成り上がりだけじゃなくセレブの中にも意外に多いんですよね。

歌詠みヲタクが、和歌の世界にどっぷりつかって、趣ある古歌を初句から取り入れつつ、TPOも考えないで誰彼構わず・のべつまくなし詠みかける(=そこにいる誰もが知らない古いレアな歌をカラオケに入れる)っていうのも、超迷惑な話ですな。
貰ったら返さないといけませんし、歌ヘタだし面倒臭いし苦手だし、な人だったらヤメテーって感じでしょうし。

社長(帝)も出席する超重要なイベント(節会)、たとえば五月にあるあれ、あのイベント(端午の節会)の時は、朝いつもより早めに出勤しなきゃいけないし、どうしよどうしよ菖蒲もあやめも何も考える暇なーい!て程、慌しいですよね。そんなときに『珍しい根』にかこつけた歌を詠みかけてくる。

九月の宴会のために、まずは難しい漢詩の趣向を、と頭ぐるぐるになってるようなときに、『菊の露』にかこつけて詠みかけてくる。

と、いうような、はあ?今それをわざわざ言う?そりゃデキはいいですよ?後で聞けば面白くも味わい深くもあるでしょうよ。けどね、全然相手の都合もなにもお構いなしで詠む、ほんと気がきかないというかKYって言うか。

万事につけて、何故そうするのか、今それ必要?後でいいんじゃ、などTPOを考えて振舞うことができないようでは、気取ったり風流ぶったりせんほうが無難ですな。
総じて女というものは、知っていても知らん顔で流し、言いたいことがあっても一つ二つは抜かして言うくらいでいた方がいいのではないですかねぇ」
左馬課長代理がくどくどと語り続ける間、ヒカル王子は、ただ一人の面影を心の中に思い続ける。

「ああ……やっぱりあの人こそ(藤壺の宮)……過不足ない、完全無欠にパーフェクトな女性だなあ…」

父である社長(帝)の寵愛も厚い彼女、手が届かない・許されないからこそ余計に胸キュンする王子。

話の方向はあっちやこっち、いつ終わるともなく続き、挙句の果てにはシモネタ系、落ちるところまで落ちつつ、「雨夜の品定め」の長い夜はやっとのことで明けたのであった。

<雨夜の品定め終了>

「ふあーあ、よく寝た」

「侍従ちゃん、ヨダレ」

「あ」

拭きふき

「それにしても、右近ちゃん」

「なあに侍従ちゃん」

「男って、くっっっっだらないこと喋ってんのねえ。一晩中ずっとこれかよ!って感じ」

「あら侍従ちゃん、あたしたちだって似たよなもんじゃない。誰と誰が別れたくっついたとかいう噂話と、上司とか仕事とかの愚痴、イケメン男子の話、今イケてる化粧法とか香水とかファッションとか、今度のイベントとか……あら、けっこうあるじゃん」

「でしょ。女は割と話題が広いわよ。浅いけどさ」

「この場合しゃあないんじゃない?あのメンツで漢詩の話はありえないっしょ。女の話だって、下に合わせないと、場がシラケるってもんじゃない。王子や中将様の奥様なんて、絶対うちの兄や左馬親父には手の届かない高級な女性なんだからさ」

「なーるほど」

「ま、だからこそ男の本音が見えるってもんよ。上も下もなくね。結局、女は程よくバカがいいってこともさっ」

「っていうかさー……言っていい?右近ちゃん」

「何」

「にんにくの人さ、あれワザとじゃない?」

「あ、侍従ちゃんもそう思った?だよねー。実はさ、うちの兄貴にはもったいないくらい、って思ってたのってその人なのよー。私も以前職場が同じでさ、たまたま知ってたんだけどー、あったまいいしさー、何でも出来るし気もきくし、何故にこんな人があのバカ兄とつきあうことになったかなーと思ってたんだけど、やっぱりねえ、案の定捨てられてやんの。元々、他にいたんだよね。知らぬはバカ兄ばかりなり」

はー、とため息をつく右近。

「ちなみにさ、左馬オヤジの話も、アヤシクない?めっちゃ忙しいときに全然関係ない歌詠みかけるって、どう考えてもイヤガラセでしょ」

「侍従ちゃん、今日はやけに冴えてるじゃない♪」

「んふふ♪」

男ってバカだよねー、そーだよねー、といいながら墨をすったりしている二人であった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「雨夜の品定め」実は超モテ系と非モテ系の対談
当然ヒカル王子にはまったく役立たなかった……かというとそうでもなかった。
超モテ系が絶対に思いつかない非モテ系ならではの発想は、 超絶モテ男であるヒカルにも影響を与えずにはおかなかったのである。

それはまたのちのお話♪

<つづく>
参考HP「源氏物語の世界

2010年10月25日月曜日

10月に読んだ本 その一

図書館で大量に借りてきた本の数々。涼しくなったので読書もはかどるというもの。けっこう忙しい日々なのだがそういうときに限って読みたくなるのだ。


「流星ワゴン」重松清

不慮の死を遂げた親子が乗るワゴン車に、生きていたくなくなった人たちが吸い寄せられる。ターニングポイントはどこにあったかをそこで見せられるのだが、いちど決まった未来は簡単には変えられない・・・・・
変則なタイムスリップもの?未来が基本的には変えられないというのは宮部みゆきの「蒲生邸事件」と同じ。「バックトゥザフューチャー」のように都合よく何もかも解決はしないところが哀しいが、そこは重松さんなのでどこか明るく、けして陰々滅々とはならない。美しくロマンティックな世界なのだが、そこにハマるかどうかは読む人の状況によるかなあ、という感じ。
ひとつだけひっかかったのは主人公の妻かな。同じ女でもこれはまったく共感できん。



「名もなき毒」宮部みゆき

「誰か」の続編。だが読んでいなくても十分楽しめる。テンポも良くて一気読みしてしまった。
心ならずも逆玉の男になってしまった、心優しい主人公が今回もいい味を出している。
惜しむらくは原田さんの毒が強すぎて、他の「毒」がかすんでしまったこと。

「正しく生きようと努力し、ある程度達成している人」の存在自体が、思うようにいかなくて焦れる人の怒りの炎を増幅してしまう、というのは結構ショッキングだった。美しいもの、正しいものが毒を放出する触媒に成り得るというのは怖い話だ。



「光の帝国~常野物語~」恩田陸

中学生の娘が借りてきた。
実は長編は「夜のピクニック」くらいしか読んだことがなかったが、やっぱり面白かった。いろんな事情で離散してしまったある能力をもつ一族?が、次第に引き寄せられ同じ場所に収束していく様は、読んでいて楽しい。
ただ一族を「迫害」するのが旧日本軍、てところが個人的には違和感。脱走兵ということでやってきた若者が実はスパイ、言うことを聞かないと許嫁の村を焼くぞと脅されていた・・・というのは荒唐無稽すぎる。そんなところに人や兵器をさく余裕は当時の日本にはないだろうし、村ひとつ焼いたらさすがにバレるだろう。ていうか、普通の人間が隠し事しても常野の人にはバレちゃうのでは? などと野暮なツッコミはせず(笑)素直に楽しみましょう、うん。

2010年10月22日金曜日

10月に観た映画 その三


「シャーロック・ホームズ」ガイ・リッチー監督

ホームズ役のロバート・ダウニーJr.が観ているうちに阿部寛に見えてきて笑えた。真面目な顔で突拍子も無い行動に出るあたりが「トリック」の教授に重なるのかも。
さらに、鳥打帽被ってない、身なりを構わずうだつのあがらなさそうなこのホームズは金田一耕助を思わせる。もしかしてもしかしなくても、横溝氏は狙ってたか?まあ、フケは落としてないけど。
ストーリーは「ダ・ヴィンチ・コード」とオウムの事件をまぜくった感じだろうか。オカルトにだまされるな、大抵のことは科学的に説明がつく! という信念のもとに動くホームズとワトソンの二人の活躍は清々しい。

つくづく思うが、欧米は常々こういうカルトに悩まされ続けているのだろう。続編作る気満々なラストあたりで、その闘いは現在進行形なのだと実感。
まあまあ面白かったが、CGは極力やめようよ・・・と思った。なくても面白いもの作れるだろう、この監督なら。

2010年10月21日木曜日

箒木(六) ~雨夜の品定め~

さて、お次の語り手はイケメン・モテ男、頭の中将

家柄こそヒカル王子には及ばないが、容姿端麗・頭脳明晰・センスも良くお洒落で女性にも人気、今をときめく左大臣家の総領息子として生まれ何の苦労も屈折も知らずに育った真正のお坊ちゃまくんである。

馬鹿な男の話をしよう

と、超のつくナルシーな言葉も似合ってしまう美しい横顔。

内緒で見初めた女の子がいてね。(当然)向こうもまんざらでもなく、つきあうことになった。


最初は(カルーイ浮気のつもりで)きっと長続きしないだろうな~と思ってたんだけど、つきあう内にああ超可愛いなぁこの子、合間合間に会ってるだけなのに一向に気持ちが離れていかない、これは本物かも!なんてね。
完全にマジ恋モードに突入したもんだから、向こうもすっかり私を頼りにしてきたんだけど、そうはいっても本妻いるからねー、何でも彼女を優先てわけにもいかない。
あーこりゃいろいろとムクレられることもあるだろうな~と予想してた。
なのに彼女は全然気にしないふうで、行く回数が少なくても「フーン私はその程度の女なんだねー」などとスネることもなく、ただ朝な夕なに私のことを思ってます、て感じ。
あまりにいじらしいその姿に思わず、このままずっと頼りにしてていいんだよと言っちゃったりもしたんだ。


彼女には親もなく、本当に心細い様子で、何かにつけてただ私だけが頼りと思っていてるのがまた可愛いの可愛くないのってもう。とにかく大人しくてほわわん、としているものだから、すっかり安心しきってほったらかしちゃったりもしたんだけど、細く長く続いてたんだよね。


だけど、こういうことって何故かバレちゃうんだよね。私の行いをよく思ってない辺りから……本妻だよ、大きい声では言えないけどね。怖いんだよね……キッツイ言葉を人づてに言われたらしい。随分後になってから知ったんだけど。


そんな酷いことがあったとは夢にも思わず、心では通じ合ってる♪ なんて能天気にメールすら出さないでいたから、彼女もさぞかし心細かったんだろうね。その頃には子どもも産まれていたからなおさら、思い余って撫子の花を折り添えた手紙を寄越してきた

うっすらと涙ぐむ頭の中将。

(てか、子どもまでいたんかい!)
と周囲は心中密かに激ツッコミ。
「それで、その手紙には何と?」

さすがのヒカルも興味深々、平静を装いながら質問。

いや、特に何も……ていうか全然知らなかったからね。はぁ? どうしちゃったの? て感じ。

『山のあばら家の垣根は荒れても


折に触れ


哀れと思い出してください


せめて小さな撫子の涙を』

何だか寂しい感じの歌だったから心配になって、久しぶりに会いに行ったんだ。
彼女は、いつものように無邪気なんだけどどこか翳があって、何か悩んでいるような雰囲気だった。
露でしっとり濡れたあばら屋で、競いあうかのような虫の音に囲まれていると、まるで物語の中の世界にいるようだったよ。


『咲き乱れる花の色は


いずれも分かちがたいが


やはり常夏に咲く花が


一番だと思う』

娘の撫子はさておき、まず母親、彼女のほうの機嫌を取るべきだろうと思ってね。
ほら、『塵をだに』って言うじゃないですか……ちょっと、ダニじゃないですってもー。ヒカル、説明して

「凡河内躬恒の『塵をだに据ゑじとぞ思ふ咲きしより妹とわが寝る常夏の花』ですよ」

ありがと♪ まあ、ぶっちゃけ『僕たちこんなにラブラブ♪』て歌にかこつけて、『いろいろあっても君が一番さ♪』て言ったわけだ。

で、彼女のお返し。

『塵を払う袖も


涙に濡れている常夏に


嵐の吹きつける秋までが来ました』

かぼそい声でそんなこと言いながらも、本気でムクレてるようにも見えない。
涙をぽろっと落としたりしても、嫌だわ、久々だからって泣いたりして恥ずかしい……て感じで何気なく紛らわして誤魔化し、何も変わりない、元気でやってますわなんて笑ってみせる。
今考えれば相当に無理してそうしていたんだろうに、私は何も気づかず、愚かにもすっかり安心してしまい……また飛び飛びに逢っているうちに、彼女は跡形もなく消えうせてしまった。

まだ生きているのなら……一体何処でどうしているのやら。

ストーカー?!て思うほどまとわりついてくるウザイ女だったら、こんなことにはならなかった。
マメに通ってやらないと不平ダラダラの女だったならむしろ、正式に妻の一人として長く面倒をみてやるようにもなったかもね。


あの撫子(娘)も可愛い盛りだったから、何とか探し出そうと思ったんだけど……今にいたるもわからない。


これこそ、左馬さんの言う「悪感情を腹の中に溜め込んでいつか爆発する女」の例じゃないかな?


表向き平気そうにしてその実、わんさか内に抱えてる。愛してるという気持ちもはっきり伝えないから、イマイチ男に通じない。なんかやるせないよね。片思い状態じゃん。
今は私もだんだんと忘れかけてはいるけど、あの女のほうは思い続け、折々にひとかたならぬ胸焦がれる夕べもあるんじゃないかなあ。
やっぱり永続きのしない、ライトな縁ってやつだったのかもね。


さっき話に出てきた「嫉妬深い女」も、思い出とするぶんには忘れ難いけど、さて妻とするにはウザ過ぎるし、悪くすると、完全に嫌いになっちゃうかも。
いくら琴の音が素晴らしくても、浮気女は困りものだし、ふわふわして頼りない女は可愛いけど、何を考えているのか常に疑わざるをえないとなると……もう、どれをどうとも決められないよね。
世の中そんなもんだ。
何がいいのやら悪いのやら。
何処をとっても良いことばかりで、難点の一切ない女なんていないんだよね。
かといって吉祥天女のような折り目ただしいパーフェクトな女ならいいかというと、これまた堅苦しそうで、人間らしさが感じられない。面白くないよねぇそんなのも

「そうですなぁ」

「本当に。多少欠点があるからこそ面白いものなんですな」
どっ、と笑う男ども。

……

「ねえ右近ちゃん」

「なあに侍従ちゃん」

「なんか、ゲンメツー。頭の中将さんて、ヒカル王子の次に好きだったんだけどー、えっらい自己チューなヤツじゃん! 浮気しまくって本妻さんや彼女を悲しませた癖に、何大騒ぎしてんのー? なんて自分だけ余裕かましちゃってさ。超いけずって感じー」

「ふっ、今ごろわかったの侍従ちゃん。お子ちゃまね」

「かわいそうだよねえ、この常夏のヒト(もらい泣き)。子どもまでいるのにこんな扱いされて。好きな男に辛さをけどらせない、けなげな気持ちをなぜわからん、中将!」

「あ、呼びつけ」

「いいのよっ!男の身勝手炸裂の中将に、天誅うー!」

「侍従ちゃん、王子もね」

「え?」

「なんでもない。さ、最後はうちのバカ兄の話」

「……ぐー」

「寝るなっ!て、その反応であるていど正解だけどね。あまりにくっだらなくて笑えるから、話のネタに聞いときなよ。あとの話の伏線でも何でもないからさ、あとくされないよ」

「ふーい」



<「雨夜の品定め」最終話につづく>


参考HP「源氏物語の世界

2010年10月19日火曜日

10月に観た映画 その二

最近観たい映画がなくて・・・というか劇場に観に行く暇が微妙にない。専業主婦なのになぜだー。
というわけで、レンタルDVD。

「沈まぬ太陽」若松節朗監督

長い映画。公開時は休憩時間まであったほど。しかし原作の長さ、重厚さから考えるとこれでも足りないくらい。特に後半はバタついて、原作読んでないと何のことやらわけわかめ状態になるかも。特に渡辺謙演じる主人公の敵役である行天(三浦友和)の腹黒さがいまひとつだったのが残念。キャスティングは間違っていないと思うが、いかんせん時間が短すぎた。

だが御巣鷹山のあの事故、無数の白い棺が並ぶ体育館内の光景、墜落前の機内の状況、事故後の遺族の生活……をストレートに映像化したのは初めてのことであり、監督やスタッフはもちろん演じる俳優ひとりひとりが相当の緊張感を持って自分の仕事を行っているのが感じられる。
あの事故は当時学生だった私にも衝撃だったが、人の子の親になった今はさらにそのつらさが骨身に沁みる。息子夫婦と孫をいっぺんに喪い、妻とも死に別れお遍路に出る老人はフィクションだそうだが、語る言葉は遺族の心をも打ったといわれる。主人公は手紙にこう書く「自分はひどい目にあった、つらかったと思い悩んだり怒ったりしていたが、あなたの味わった苦しみや悲しみに到底追いつくことはできない。今までの自分を恥ずかしく思う」。
感動したとか涙が出たとか、浅薄な感想を述べることを許さない、両者の心持ちだと思う。

過去記事:「沈まぬ太陽」山崎豊子を読んだ

2010年10月18日月曜日

閑話休題(一)

「雨夜の品定め」もいよいよ終盤ですが、ちょっと休憩♪ しまして、源氏物語に対して私が思っていることもろもろを書きつけておきます。

はりめぐらされた門の中、きわめて狭い世界で生きている貴族達。

宮廷づとめは結構ハードだったらしいし(夜勤あり)、
恋愛がなかなか思うようにいかないところも、
子どもが親の思う通りには育たないってことも、
優雅に見える暮らしが「外の人たち」によって支えられていることも、
今の都市生活者と非常によく似ている。
違うところはといえば、「観念」みたいなものがはっきりと生きていたということかも。
目に見えるリアルより、目には見えない「意味」のほうがより重要視されていた。

例えば陰陽五行説。
完全に信じている人はいなかったかもしれないが、例えば現代でいう血液型や星座の話よりは、一般に信憑性があった。
「結界」という言葉もバリバリに生きていたころ、「方向が悪い」といわれれば「方違え」に走り、「神の通り道になっているから」と「物忌」に籠もる。

だがそのさまざまな「結界」の隙間を縫っていろんなことが起こる。それはもう神様も物の怪もびっくりである。

例えば御簾。
単なるすだれである。

物理的にはぱっと払えば終わり、のはかない隔てなのに、向こうにいる相手から入る許可をもらうまで入れない。(ここですでに呪術っぽい。てか明らかに結界だろうコレは)
一見さんお断りはデフォ、
ムリヤリ入れば犯罪人扱い、
狙いがあからさまなのも無粋の極み「お育ちが悪いんやおへんか? おととい来ておくれやす」。

どうする?(涙目)
 
男は悩む。入ってもいーい? とストレートに聞くのも子どもっぽいし、あまり婉曲だと相手に通じないかもしれない。 あまりに口説くのがうますぎても「こいつチャラい」と思われるかも。
女も悩む。あまりあっさり受け容れると、世間体も悪いし、相手に軽い女と思われるかも。かといって意固地に断り続けて本気で諦められちゃっても困るのよねえ。
はてさて。

ということで丁々発止の和歌のやりとりだ。それはもう一種のバトルである。
ルールに則り、相手の持ち札を慮りつつカードを切り、時には反則すれすれの技も駆使、見事ゲットできるかどうかを競う(お互いに) 、非常に遠まわしなバトル。

さらに、現代と違うような違わないような部分に「身分格差」がある。
一般に身分が上になればなるほど、行動の自由度は狭まる。
深窓に育つ女性などは、ひとたび年頃になれば、御簾の奥深く入って、お側仕えの女性にしか姿をみせない。異性のきょうだいはもちろん父親さえ、おいそれとは顔を合わせなくなるのだ。
これは男性にとっては神秘でありロマンの対象となる。女性とお近づきになる道がタイトであればあるほど、そこをかいくぐって起こした出来事はささいなことでもドラマになりうるのである。

その意味でも、源氏物語はとてもよくできた話である。
男性が書いた部分があるのではないか、と言われているのもよくわかる。

だけど私は、絶対作者は女性だと思う。男性なら恥ずかしくて(またはどうでもいいと思って)書かないような描写がわんさかと出てくるからだ。
さて。
戯言はこの辺にしておこう。

次はイケメン頭の中将の恋バナ、こうご期待である。

2010年10月14日木曜日

箒木(五)~雨夜の品定め~

左馬課長代理の、かなり自己チューな恋愛譚はおかまいなしに続く。

「先ほどの『浮気相手』の女のことなんですがね。

これが人品卑しからず、気配りもバッチリ、和歌を詠ませても、文字を書かせても、琴を弾かせても、けっこうな腕前でして。ルックスもそこそこよかったもんですからかなり入れ込んで、再々会っておりました。もちろん元カノには内緒で。

元カノが亡くなってからは、どうしようかな、悪いかなとは思いつつ、それでも死んじゃったもんは仕方ないですからね、自然デートの回数も増えていったんですが……慣れてくると、それまで魅力だった派手で色っぽいところなんかが、何か裏があるんじゃないか、なんとなく信用ならない、なんて思われてきまして、ちょっと引き気味に会ってたんですよね。
そしたら案の定、二股かけられちゃってて。

九月でしたか、月の綺麗な夜に、退社しようと車に乗りましたら、顔見知りの社員が乗せてってくれといってきたんです。その晩私は○×部長の家に呼ばれていたもんですから、そこまででもいいかと聞きましたら
『えへへ、実は彼女んちに寄るんです。何か今夜はそういう気分なんですよねー』
なんて言うんですよ。

例の彼女の家というのが、たまたま通る道筋にあたっていまして、塀の崩れかけた所から池の水に月が照り映えるのが見えました。月さえ宿る場所をこのまま通り過ぎるには惜しい、といってヤツは降りていったんです。
いやもう勝手知ったるって感じでしたね。
この男、そわそわしつつも正面の門を入り、玄関先のすのこの上に腰掛けて、月を眺めたりなんかしてるんですよ。菊の花が一面に、色とりどりに咲き乱れ、紅葉は吹く風のなか競うように舞い踊っている、その様子はなかなか見ごたえのあるものでした。

男は懐から横笛を取り出して吹き鳴らし、その合間に『月影も良し』などと謡うと、きっちり調律したらしい和琴の音が見事に合わせてきました。まあまあいい感じでしたね。イマドキの華やかな琴の音色が、家の奥からひかえめに柔らかく聞こえてくる様子は、月の清らかさに似つかわしい気もしました。その男はいたくご満悦で、簾の向こうにいる女に

『庭の紅葉を踏み分けた跡こそ見えませんが、あなたのことだからきっともう他にいい人がいらっしゃるんでしょうね』

などとすねてみせた。菊を手折って、

『琴の音色も月も

宿るところなのに

つれない心を

留め置くことは

かなわなかったようですね


今までほっといて悪かったのやら悪くないのやら』

などと言って、

『もう一曲お願いできますか?熱烈な聴衆がいるのに弾き惜しみなどしないでくださいね』

などとからかうと、女は気取った声で、


『あなたのほうこそ

その笛も冷たい木枯らしの方がピッタリ合うんじゃない?

どうしたらあなたを

留め置くことができるのか

わたしにはとんと見当もつかないわ』

と、聞くにたえない睦をいいあう始末。


……
(♪乱入♪)

「ちょっと待ったあ!」

「今度は何よ、侍従ちゃん」

「どこが『聞くにたえない睦言』なのか、ワカリマセーン、先生!」

「やあねえ、侍従ちゃん。こんなこと適当に受け流すものよ。えーとね、なんつったらいいのか……『もう一曲お願いします』ってつまり、またお願いしまーす、ってことよ」

「何を?」

「ふっ、お子ちゃまねえ。侍従ちゃんたら」

ため息をつき肩をぽんぽんたたく

「とりあえず今日お泊まりしていいかな?ってこと。言わせんな恥ずかしい」

「おおお。で、女のほうは、断ってんの?それともオッケー?」

「多分、というか絶対OKだよね。でもすぐにどうぞどうぞって入れるのはシャクじゃん?結構長いことほっとかれてたみたいだし。じらしてんだよね。男にもっといろいろ言わそうとして。そこがオトナの駆け引きってもんよ」

「へぇへぇへぇ、メモメモ♪」

(♪乱入終了♪)
……

女は私が車の中でちっくしょーと歯噛みしてるのも知らずに、今度は楽器を変えて、本格的にかき鳴らし始めました。上手く弾いてはいるんですが、それが他の男のためと思うと、もうとてもいたたまれない感じがしましてね。

たまーに話すだけのOLでも、色っぽくて雰囲気あるコなら、もしかしていつかナントカできるかも!なーんて思いますでしょ。

たまーに通うだけの相手でも、一応きっちり妻とするのであれば、あまりにフラフラと色っぽすぎるのも困る、とちょっと嫌気がさしてしまったので、この夜を境にもう通うのをやめてしまいました。


この二つの例を考え合わせますに、若い時のことといえ、あまりに派手な女というのはちょっと心配って感じでしたね。ましてや今後は一層警戒しなければ、と思います。

萩の露のように触れなば落ちんといった風情、玉笹の上に乗った露のように手に入れたと思うと消えてしまうような、そんな女はそりゃあオシャレでイケてて魅力的でしょうけど、やめといたほうがいいですよ。今わからなくても七年ぐらいのうちに絶対わかりますって。私のようなしがない親父が言うのもなんですけど、男好きのする、過剰にオンナっぽい女にはお気をつけてくださいねー。絶対浮気して、こちらの評判をも地に落とすことになりますから」


したり顔で忠告する左馬課長代理。

頭の中将は例によって素直に頷き、

ヒカルの君は、そういうもんかねえ、と苦笑する。

「ま、どっちにしても、けっこうイタイ話だよね」

「いやいや本当にお恥ずかしい」

照れる親父(だが満足げ)を囲んで皆どっと笑う。


……
(♪乱入♪)

「ねえ右近ちゃん」

「なあに侍従ちゃん」

「このオヤジ、自分から別れたーみたいに言ってるけど、逆じゃないの? 最初からその月の宿るなんちゃらの男が本命でしょどう考えても」

「そうねー、向こうにとってはそれこそ単なる浮気相手って感じだよね。てかこのオヤジ、ずっとこの二人を車の中から見てたって、キモくない?」

「超キモい! ドン引きだよねー。なのに女っぽくて魅力的な女は皆尻軽みたいなしっつれいな言い方してるしまったく。今後は一層警戒しなきゃ、なんて心配しなくても、もう相手にされませんから!残念ー!」

「でもこの親父、絶対またこういう女に引っかかる、と思う人ー♪」

「はーい」「はーい」「はーい」

「この部署のOL全員一致で、けってーい……て、私たちだけしかいないじゃん」

「ところでヒカル王子さー、つまんなさそーだねー」

「そりゃそうでしょ。めっさモテ男なのに、なにが悲しくてあんな親父のしょーもない長話をふたつも聞かなきゃいかんのだ、って思ってるよきっと」

「わはは、そうよねえ。その気になりゃいくらでもとっかえひっかえできるのに、あえてしないってのが本当のモテってもんだ」

「大体ヒカル王子と何かの間違いでつきあうことになったら!」

「いやーん♪ヤバーイ」

「浮気なんて、するわけ、ないじゃないのおおお!」

「右近ちゃんに一票ー!」



巻き上がる御簾。

「貴方たち、にぎやかだけど仕事は?」

「い、今やってまーす」

「もうすぐ終わるところでーす」

「蕎麦屋の出前じゃないのよ」

「はーい」「はーい」


<つづく>

参考HP「源氏物語の世界

2010年10月12日火曜日

箒木(四) ~雨夜の品定め~

遠い目をして語り始める左馬課長代理。

「まだほんのぺーぺーのヒラ社員だった頃、つきあっていた女性がおりましてね。いえいえ決して美人では。当時はまだ結婚まで考えてなかったですから、若気の至りでついつい他に目移りも、ねっ?」

わかるでしょ、いひひと周囲に同意を求める左馬。完全にオヤジである。

「ところが浮気がバレたときの、彼女の嫉妬がすごいのなんのって……。

ほとほとやんなっちゃいましてね、もうちょっとおっとり構えられないもんかなあと。
とにかく疑り深いしシメツケは厳しいし、たまらなかったですね。
反面、こんな男に愛想もつかさず、一途に愛してくれているのは有難いとも思ったし、何だか可哀想な気もして、結局元の鞘に戻ったりしてたんですけどね。

どんな女だったか?

そうですね……恋人のためなら、不可能をムリヤリ可能にするというか・・・イケてない女と思われたくないがために苦手ジャンルでも超努力してこなす、て感じの勝気な女でした。

つきあいが深くなるうちに、多少こちらにも合わせてくれるようにはなりましたし、美人ではないことを気にして、化粧を工夫したり、身だしなみに注意したり、と可愛いところもありましたが、根本の性格というのはついに変わりませんでした。

当時私は思いました。
こんなに嫌われまいと始終気にしている女なんだから、ちょっとビシっといってやって、度の過ぎた嫉妬心とキツすぎる性格をどうにかできないもんかと。このままだとオマエとはやっていけない、別れると脅せば、考え直すんじゃね? 

そこで私は、わざとつれなくしてみせた。

彼女は例によって、私に女が出来たものと思いこみ、怒り狂って恨み言のあめあられです。
その時こういってやったんですよ。

『もう沢山だこんなこと! あーあ終わりだ終わり!好きなだけ俺のことをメタクソ言ってればいいさ。俺はもう知らん。
ま、そのジェラシー癖を直して、少々のことは受け流せるような女になるってんなら、望みはあるかもなっ。俺が人並に出世して一人前になったら、もう一回結婚を前提としてつきあってやらなくもないけど?』

などと、ここぞとばかりに調子こいてまくしたてたら、彼女ふふんと笑って、

『わかってないわね。
アンタが何もかもイマイチで半人前なのは問題じゃないのよ。一人前になるまで待ってくれというなら、ええ、待ちますとも、いっくらでもね。
だけどあっちにフラフラこっちにフラフラ、いったいいつになったら浮気癖が直るのか、一生直らないんじゃないかしらん、て不安を抱えたまま年を重ねていくのはホントにしんどいもんよ。
仰るとおり、潮時なのかもね、私たち』

と憎まれ口をたたくので、こっちもつい腹立たしくなって言い返しますと、彼女も黙って引っ込むタマではない、指を一本引っ張って噛み付いてきました。私は大げさに

『あーああ、指まで食いちぎられちゃって、こんなじゃもう会社にも行けやしない。ずうっと下っ端のまま、出世も出来ないかもなあ。もう世を捨てて坊さんにでもなるかなマジ』

脅しつけたうえ

『終わったな。じゃ』

と言い放ち、噛まれた指を折り曲げてすたこらと去りました。

<<男の捨て台詞ポエム>>

指折り数える愛の日々

お前の折った一本が

そのままお前の悪い点

恨むなよっ


<<女の恨みごとポエム>>

辛さを心に秘めながら

数えた指はひとつ折れ

これが別れる折なのね

さすがの彼女も最後には涙目でした。

そうは言っても、本気で別れるつもりはなかったんですよね。なのに、意地で音信不通のまま、相変わらずフラフラ遊びほうける日々でした。

そんなとき臨時出勤がありまして、これがまた霙の降る寒い夜でしてね。
退社後三々五々に散っていく同僚を横目に、さて自分の帰るところはと思うと、やはり元カノの家以外にはないんですよ。

会社の宿直室で泊まるというのも気乗りがしないし、だからといって今カノの家もちょっと面倒臭い・・・て感じで。
そうだ元カノは今頃どうしてるだろう、様子を見るだけでもと雪を払いながら何気に行ってみました。

なんとも決まりが悪かったんですが、いくらなんでもこんな寒い夜に追い出すようなことはしないだろう、数日来の怒りも解けるかも、と思い戸をたたくと、ムーディーな間接照明の下で、着替えの服も用意万端、部屋もぴしっとととのえてあり、明らかに私の訪問を待っていたようなふしがありました。
ふふんやっぱりね、と得意になったものの本人がおりません。残っているお手伝い連中に聞くと、

ご実家のほうに今夜は帰られています』

という。
顔も見せないうえに書置きも何もなし、ただそっけなく事務的な対応であったので、すっかり拍子抜けしました。

もしやあのとき悪口雑言を吐きまくったのも、自分を嫌わせて別れるためだったのかそうなのか? などと思ってへこみそうになったのですが、用意してあった着物が色合いも仕立ても素晴らしいものでしたから、いやいやきっと別れた後でも私のことを考えていてくれたのだ、と嬉しくなりました。
私のほうはこれで、まだ望みがある、まったく愛想をつかされたわけではないんだと思い、何とかよりを戻そうといろいろ言ってもみたんですが、向こうは完全に別れるでもなく姿をくらますでもなく、無視するでもない。

『わかるでしょ、このままだとまた同じことよ? あなたがすっかり浮気癖を改めて落ち着くのなら、また一緒に暮らしても良いけど』

なんて繰り返すだけで。

そうは言ってもねえ、そんなにすぐハイそうですねと収まるもんでもないじゃないですか。オマエの方こそ改めるべきとこないか?とも思って、

『もう浮気しない。ゼッタイ』

とはっきり約束することもせず、強情を張っていましたら、彼女は本気でウツに入ったのか、とうとう亡くなってしまいました。しまった、シャレになんない、と猛省しましたね。
生涯を添い遂げる女性なら、あの程度でちょうどよかったのになあ、と今でも思います。
ちょっとした趣味ごとや実生活のイベントでも、それなりに相談しがいがあったし、染め物や縫い物は昔話の龍田姫か織姫か、というくらいの腕でしたし、本当に何の不足もなかったんですよね、今考えると」

……

(OLたち乱入)

「はぁー? 何ソレ、ありえなーい。サイッテー」

「でっしょー。あのセクハラ親父、ホントよっく言うよねー。顔合わせるたんびに必要以上ににじり寄ってきてさ、今日はやけに綺麗だね、あ、香水変わった? デートでもすんの? 彼氏どんな人? とか、いちいちいちいちウザイのなんの。とても反省してるとは思えないよ、普段の言動みてるとさ」

「彼女かわいそうじゃん(泣)正当なのはこっちなのにさ。二股三股かけられたら怒るの当たり前だろっ。挙句の果て死んじゃうなんて……ひーん、もらい泣き」

どーせこんな日には行くところもなくてウチに来るだろうって、すっかり行動パターン読まれ切ってんのに、あの程度でよかったーなんて超失礼よね。そういうオマエがどんだけの男なんだっつうの」

「ゼッタイ、とっくに愛想つかされてたんだよ!こんな奴に未練なんてありえなーい、より戻すなんて気さらさらなかったと思う、彼女。ただ家も知られてしストーカー化されちゃ困るからテキトーに相手してたんだよ」

「浮気親父に、天誅うー!」

「ところで右近ちゃん」

「なあに侍従ちゃん」

「王子はこの話、どう言ってたの?」

「王子はね、黙って聞いてるだけだったって。中将様がいろいろ突っ込んでたって。こんなふうに」

……

「織姫並みの技量ということはさて置いて、織姫・彦星の永く添い遂げる間柄♪ てところだけはあやかりたかったもんだねえ。

なるほど、龍田姫並みの染色の腕前はたいしたものだったんだろうけど、花や紅葉も季節にふさわしい微妙な色かげんをちょっとでもはずすと、台なしになっちゃうもんだしね。
だからこそ難しいんだよねー」

……

「右近ちゃん」

「何」

「後半、意味わかんないんだけど」

「んー、中将様ってイケメンでオシャレで素敵なんだけど、ちょっと気取りやさんだよねー。あのね、つまりは女がもうちょっと柔軟になればよかったんじゃない?て言ってんのよ」

「はあーーーーーーー?」

「私が言ったんじゃないって。ふっ、だから言ったでしょ、オトコの本音なんてそんなもんよ所詮」

「王子様も?」

「多分ね。おきのどくだけど」

「ひーん(涙)」

……


「ところでですね、やっぱりヒラの頃につきあってた女がいるんですが……」


(OLたちと他の男どもの心の声)
 「まだ、あんのかよ!」
「長げーよ!」
「やっぱり全然反省してないじゃん!」

左馬”セクハラ親父”課長代理の話はまだまだ尽きないのであった。

<つづく>

参考HP「源氏物語の世界」

2010年10月11日月曜日

10月に見た映画 その一

ひっさびさにレンタルDVD。しかも新作。つまりミーハー。

「シャッター・アイランド」マーティン・スコセッシ監督

えーとこれはネタバレになると全然駄目なのでいろいろ書くことは控える。控えるがしかし、なんというかいろいろ思い出したなー。雰囲気まんまツイン・ピークス。シャイニングもちと入ってるかも。とにかく監督がスコセッシなので、一筋縄ではいかないぞオーラがむんむんと立ち込めていて、目が離せない。家で観てたのにトイレに立てなかった(泣)。
ちなみに私、れお様はまったくタイプではない。世間ではイケメン俳優ということになっているが、今までただの一度もそう思ったことがないんである。ファニーフェイスだよなあどう考えても。なんかこう、強くて悪い男を演じていても、「こんなガキ臭い顔して何やってんの」と思ってしまうのだ。私の中では長年トムクルーズと同じ箱の中に入っていた(トム君は、トップガンのビーチバレーからイメージ不変)。
で今回はどうだったかというと、やっぱりカコいいとは全然思えなかったのだが、時折見せる表情にジャック・ニコルソンに通じる狂気が感じられてびっくりした。なんだ?もしかしてれお君、そのうち化けるかも?
なんてったってあのスコセッシ様に見込まれているれお君である。あと数年もしたらマーロン・ブランドやジャック・ニコルソンもびっくりのカコイイ親父俳優(褒め言葉である)になるのかもしれない。

映画の良し悪しはともかくとして、そこにちょっと感動した私であった。
ちなみに私の中でのスコセッシ映画イチオシはこれ、「エイジ・オブ・イノセンス」。
いわゆる「男受けのいい女(ウィノナ・ライダーが演じている。キャストもナイスだ(笑)」の嫌ったらしさをこれだけセキララに描いた映画は他に知らない。あったら教えてほしい。

2010年10月6日水曜日

「帚木」 その三

男性たちによる雨夜の品定めはいまだ続いておりますが、
なんとなくこの辺の会話はOL二人のほうがしっくり来るのでは?と思いましたので、現役平安ガール右近ちゃんと侍従ちゃんに、割り込んでいただくことにします。

今後も突然乱入アリってことで、ひとつよろしくお願いいたします(ぺこり)。

「ねえねえ、右近ちゃん」

「なあに侍従ちゃん」

「ぶっちゃけ、結婚って考えたことある?

「いきなしストレートにきたわね。何を聞きたいわけ」

「いやあ、恋愛と結婚って、何か別じゃないかなーなんて最近思ってて」

「侍従ちゃんたら(クス)」

 当然じゃないの、というように鼻で笑う右近。

「フツーにつきあってる分にはよくても、一生つれ添うってことになったらねー、考えることも違ってくるわよ。一緒になってみて初めてわかる食い違いとか必ずあるんだから、そういうのも上手に折り合いつけてやってけるかどうか、そこが問題よね」

「ほうほう、さすが右近姐さん♪」

「うちの兄貴みたいにさ、とっかえひっかえばっかりしてると、よさげな人が現れても、いざ!ってときに『もっといいのが出てくるかも……』とか迷いが出てさ、腰が引けるのよね。えり好みもたいがいにしろって感じ。ついこの間も、あたしの目からみたらカンペキー!ていうかあの兄貴には勿体無い!ってくらいのヒトがいたのに、若い女にフラフラしちゃってヘタ打ったわけ。ほんとオトコって阿呆よねー。自分の身を振り返ってみろってんだっ

「……右近ちゃん、それほんとにお兄さんの話?」

「え? そ、そうよっ。トーゼンじゃないっ。えーと、必ずしも相手が理想にかなってなくても、やっぱご縁てもんがあるじゃん? つきあってるうちに見えてくる、二人だけーのしんーじつ♪ てのもあるし。ま、たいていはみんな割と平凡に、落ち着くとこに落ち着くのよ。だから人を羨んだってしょうがないのよね、うん」

「オットナー、右近ちゃん♪ 私達の王子様もいつか現れるのかしらん」

「王子様ね。ま、あたしたちはフツーの人がいいと思うよ、ごく平凡なね。ホントの王子様たちは大変だよ、妻選び。どうしたって人の噂の種にされるし、社会的評価にも直結するからシャレになんないって」



さてここで、宿直室に戻る。

もはや上も下もなく、女性談義に花が咲く。

「若くてイケてる子と、メル友になったとする。センスもいいし礼儀も心得てる。なんとかゲットしようと頑張ってるうちはいいんだけど、会う回数も増えて慣れてくるとお互い油断が出る。そこが第一の危機かもね」

「主婦たるもの、やっぱり旦那の世話が第一だから、あんまり自分の趣味に走られても困りますけど、逆に身なりを構わなさすぎってのもどうよって感じですよねー。髪振り乱してカリカリしながら家事や育児されてもね、ゲンナリしちゃいますよ」

(ずきっ)

「会社や仕事の、あんまり他人にいえないような話を、妻には出来るかどうかってのもポイントですね。笑い話や感動話、腹立たしい話なんか、聞いてほしいこともあるじゃないですか。コイツに言っても無駄なんて妻だったらもう自分の胸にしまっとくしかないから、こっそり思い出し笑いしたり独り言いっちゃったりして『何なの?』ってヘンな顔されるだけ。寂しいもんですわ」

「なーんも知らない素直な性格の若い子に、いろいろ教えて育てるつもりで結婚するってのはどう? 男の夢だよねえ、そういうの」

「通い婚ですからね、いつも一緒にいるってわけにもいかない。すぐ男に頼ってくる女は可愛いですが、まったく何にも任せられないっていうのは困る。それだったら普段無愛想で冷たい感じでも、いざとなったらぴしっとキメてくれる方がいいと思いますね」

などなど、
皆で論議するも、結論はなかなか出ないまま夜は更けていく 。

「左馬課長代理、どうすか?イロイロあったんでしょ、聞きたいなあ」

右近兄・藤田係長(式部丞)がそそのかす。

「いやいや、今となっては家柄も容姿も問題じゃないですね、やっぱり性格です。
よっぽど頑固でひねくれてさえいなきゃ、まじめで落ち着いた感じの女性と、結婚を前提としておつきあいしたいもんです。
趣味のよさや気立てのよさがオマケについてくりゃ儲けもん、不満な部分があっても少々なら見逃す、多くを要求しすぎない。
肩のこらないおおらかな性格であれば、センスも後からみがかれるってものですよ。

恥ずかしげに黙りこんで、嫉妬ややきもちなんて、何のこと? って感じで腹の中に溜めてくタイプの女は厄介ですね、いつかは爆発しますから。
罵詈雑言・誹謗中傷の限りをつくして、死ぬの生きるのおお騒ぎして、尼になってやるうなんて失踪されたひにはねー、まいっちゃうよね。

子どもの頃、お手伝いさんが読んでくれた本があまりに真に迫ってたものだから、登場人物に本気で感情移入して泣いちゃったりしたこともありますけど、いい大人が物語のヒロインぶるのはイタイよね。

夫の気持ちを試すがために姿をくらまして慌てさせたり、気を引こうとして一生後悔するようなことになるなんて、オロカとしかいいようがない。
『そんなに傷ついてたのねえ、かわいそうにねえ、よく決心したわ』
なんてヘンに同情されて、調子こいてホントに尼になっちゃったりして、最初は自分でもその気なんだけど、親戚とかに
『早まったわねえ、とってもいい旦那さんだったのに』
なんて言われて、やって来た夫にも泣かれてやっと自分の間違いに気づく、なんてことになったら、尼としても煩悩多すぎてダメダメだし、にっちもさっちもいかなくなりますよね」

(そういう経験が、あるのか?あるのか?)と周囲は思いながらも黙って聞いている。

「まあ、いろいろあっても切れずに続く夫婦ってのが縁も深くて愛情も厚いと言えるけど、常にお互いを気遣うことは忘れちゃならんでしょう」

きれいにまとめた。が、話はまだ続く。
「またね、冷めてきたからって夫を恨んであからさまにないがしろにして離婚! なんてのも愚かしいよね。
若い女にフラフラ、ってことはあっても、これまで長いこと夫婦でいたわけでしょ。
新婚当時の気持ちを思い出してみなよ、ってね。そういう縁をむやみに切るべきじゃないですよね。

ほどほどに嫉妬してかるく嫌味のひとつも言うのはいいんだけど、穏やかにやってほしい、可愛げがある程度に。
そしたら夫の愛情もいや増すってもんじゃないですか。
大体、男の浮気心なんて、妻の態度ひとつなのよ。 
だからといってほったらかしの野放し状態でヘーキってのも、男にとっては可愛いを通り越して、え、俺って何? 単なる都合のいい男? こっちがフラフラしようがなんだろうがなーんも考えてないってことじゃないのこの女、みたいな感じでへこみますな」

頭の中将は納得したように、ふかーく頷き、口を挟む。

「今のところ、イケメンで性格もいいから気に入っている奴がいるんだけど、もしそいつに浮気の疑いがあるとしたら・・・て考えちゃうなあ。
俺があれこれ口出しせず大目にみてやっていれば、そのうちどうにかなるような気もするが、先のことは誰にもわからないしね。
夫婦仲がうまくいかないような時って、あまり騒ぎ立てずじっと堪えて待つ以上に良い手立てというのは、なかなかないんだよな

と、暗にヒカルと自分の妹のことを当てこすったりなんかしてみるが、当の本人は居眠りしている。
なんだよー余裕ぶっこいてシカトしてんじゃねえよヒカルとややムッとする頭の中将。

左馬課長代理はますます弁が冴え、もはや誰も止められない。

頭の中将は、身を乗り出して熱心に聴き入るのであった。

「いろんなことに通じるんですよ、こういうのは。
名人と呼ばれる職人が思いのままにいろいろ作り出すのと同じでね。
定型にこだわらず、雰囲気や趣向に合わせてその場でえいっと作ったものが意外に目新しくて洒落てる、ってこともありますけど、ここ一番というとき、やんごとなき人のために一定の様式を立派に作り上げることもできる、本当の名人と素人との違いはその辺にあるんですね。

絵描きでも名人は多いですが、それぞれに優劣をつけるのは、ちょっと見ただけでは出来ないですよね。
絵の題材も、架空のものだと、本物に似てるかどうか確かめようがないこともあって、案外素人でも描きやすい。
だけどどこにでもあるありふれた風景、山や川や人家のリアルな様子を描くと、それぞれのこだわりや配置のセンスの違いが出て、一発で画力がわかるというものです。
文字を書いたものでも、ぱっと見がよければひとかどのように思えますが、やはり正当な書法をきちんと習得している方はどこか違う、心が惹きつけられるものですな。

なんてことのない芸ごとでもこうですから、まして人の気持ち、愛情につきましても推してしるべし。

例えばこんな話があります。ややエロいとこもあってお恥ずかしいかぎりですが、思い切って申し上げましょう」

左馬課長代理は俺の話を聞けオーラむんむんでにじり寄って来たので、さすがの源氏も目を覚ます。
頭の中将はもう夢中で、頬杖をついたままかぶりつきに座っている。

見ようによっては坊さんに長々と世の道理を説教してもらってるような図ではあるが、何せ内容が内容。もうこうなったら皆でぶっちゃけちゃいましょ♪という気分なのだった。

皆寝静まった内裏のなか、
徹夜ハイの男たちの体験談が次々と展開されていく。

<つづく>

参考HP「源氏物語の世界

2010年10月5日火曜日

オフィスにて(二)

右近兄の武勇伝の前に、ちょっと時を進めてみる。 さて、
平安OLから見た「上・中・下」の品とは!

「おっはよ♪侍従ちゃん」

「おはよう、右近ちゃん。やっと雨上がったねえ」

「ほーんと。長かったよねえ」

「ほんとよねえ」

 しばらく縫い物などする二人。

「ねえ右近ちゃん」

「なあに侍従ちゃん」

「この間、右近ちゃんのお兄さん、ヒカル王子と一緒に宿直(とのい)だったって言ってたよね。どうだったって?」

「あーーーー、そうねー・・・何だか無駄にテンション高くってさ、帰ったらその話ばっかし。いいかげんウザかったよもー」

「ででで、どういう話したの?聞きたい聞きたーい」

「上中下、の話だって」

「は?」

「あたしたちみたいな中くらいの階層にいる女は狙い目よ、って結論に達したらしい」

「な、何それー! 何か失礼じゃない? 大体上・中・下、ってそれ何っ?」

「侍従ちゃんたら……」

 右近ははー、とためいきをついた。

上の品の女、というのはつまり生まれのいい女のことよ
あたしたちが仕えてる女御さまのクラス。先代とか、そのきょうだいの娘とか、とにかく由緒正しきお家柄の中でも最上級の真正セレブ」

「いわゆる宮腹(みやばら)、ってやつね♪」

「わかってんじゃん。どこでどう切るかは難しいけど、そうねー、たとえ外腹の娘でも、小さい頃からそういう格式あるお家で、誰の目にも触れずにしっかりお嬢教育された人なんかは『上』っていってもいいのかな」

「ふーん。で、『下』は?」

こういう大会社(宮仕え)にとうてい採用されっこない、外のお人ってことでしょ。ま、私はよく知らないけど?」

「それでいうとさ『中』って幅広くなーい? 
社長(帝)のきょうだいの嫁入り先の従兄弟の子ども、なんてほとんど他人じゃん? ていえるような家でも、お金と権力さえあれば娘をばーんと入社(入内)させられるよねー。
おんなじ社長の女でも、こういうのも『中』なんだよね、それでいったら」

「なかなか言うね侍従ちゃん。そう、女としてのグレードを決めるのは、まず家柄や血筋であり、見かけや才能や性格は二の次。もちろん男にとっても同じこと」

「え? だって『中』の女がいい、ってことになったんでしょ。あたしたちの時代ってことじゃーん♪ イエーイ」

「ばっか、何おノンキなこといってんの。あたしたちなめられてんのよ、気軽く相手してもらえるってさ。心の底では『上』が一番、理想! だけどリアルはこんなもん人生妥協も必要だYO! なーんて思ってんのよ。侍従ちゃん、騙されちゃダメだからねっ」

「う、右近ちゃん……何かあったの?」

「何もないわよっ」

「あなたたち、またっ!」

 典の局にまた叱られて、二人は渋々仕事に戻るのであった。


<「雨夜の品定め」後半につづく>

2010年10月3日日曜日

箒木(二)

さらに二人恋多き男が加わり、いやがうえにも盛り上がる宿直室(桐壺の局) 。

女性の品格の「上中下」というのはどこで区切られるのか?というヒカルの問いに答え、頭の中将アツく語る。

「家柄がイマイチなのに何かの拍子に成り上がっちゃった、にわかセレブ?とか、その逆に家柄はいいけど、コネ無し・生活力ゼロ、その癖やたらタカビーな元セレブ?なんてのもありがちだよね。両方とも、差し引きゼロの『中』ってとこかな?」

ふんふん、と聴衆。

「地方のノンキャリア(受領)組にもなかなかどうして、イマドキは結構いい人材がいるんだけど、だいたいはそんじょそこらの中堅キャリア(上達部)より、割り切りが良くてあっさりしてる。そりゃ、地位も家柄もそこそこで、世間の評判も悪くなくて経済的にも安定してれば、出世だの何のってあくせくせずとも悠々自適に暮らせるよね」

大きくうなずくノンキャリ組の二人。

「そういうヨユーのある家で大事に育てられた娘なら、けっこういい女に成長して、就職して(宮仕えに出て)から思いもよらない玉の輿、ってのもあながち夢じゃない」

つまり親が持ってる金次第ってことですかね

といってヒカルが笑うと

「あらま!皆の王子様がそんな身もふたもないこと言っちゃっていいの?!」

大げさに目をむいてみせる頭の中将。

「家柄・社会的地位・経済力の三拍子そろった家に生まれ育ったのに、なんでこんなんなっちゃったかなあ残念、ていうのもたまにいるけどね。そういういいお家のお嬢さんはデキが良かったとしても別にトーゼンっていうか、特に珍しくも面白くもないから、俺的にはイマイチ…だから『上』のあたりはちょっと勘弁、てかとりあえずスルーね」

よく言うよ、といわんばかりにしのび笑いがもれる。

「たとえば」

中将の目がきらりと光る。

「うらぶれた感じのボンビーな家に、思いもよらない純で可愛い娘がひっそり隠れ住んでた、とかいうシチュエーション、萌えるよねえ。なんでまたこんなとこにこんな素敵な子が、って予想外であればあるほど、胸が熱くなるね。
父親がうだつの上がらないメタボ親父で、兄弟もぶっさいく、イマイチな構えの家の奥に、とんでもなく品が良くて趣味のいいコがいた!なんてサプライズもいいよなあ。
『上』でも『下』でもない、特に難点もない『中』のなかから女性を見出すっていうのは難しいけど、なかなか面白みがあって捨てたもんじゃないよ」

語り終えた頭の中将は藤田係長(式部丞)を見て、意味ありげに笑う。
「中」のイケてる女って、俺の妹たちのことかなエヘヘ♪と係長つまり右近の兄は内心鼻高々である。

「そうは言っても……うまくいくのかな?『上』の女性でも難しいのに」

と、「極上」だが打ち解けない妻を持つヒカルは考え込む。

ただ一晩中居るだけの仕事なので、袴もはかず一重の着物に上着をはおってるだけの気楽な姿、
(つまり現代でいうとTシャツ短パンな感じ?)
薄暗い灯火のもとでしどけなく物に寄りかかっている様子は女にしてもいいくらい色っぽい。
なるほど「上」の中の上の女性でもなお足りないほどの魅力だと誰もが思う男っぷりである。

その後もさまざまな女性論議「雨夜の品定め」がいつ終わるともしれず、続いていくのであった。

<つづく>
参考HP「源氏物語の世界