オフィスにて(二)
平安OLから見た「上・中・下」の品とは!
「おっはよ♪侍従ちゃん」
「おはよう、右近ちゃん。やっと雨上がったねえ」
「ほーんと。長かったよねえ」
「ほんとよねえ」
しばらく縫い物などする二人。
「ねえ右近ちゃん」
「なあに侍従ちゃん」
「この間、右近ちゃんのお兄さん、ヒカル王子と一緒に宿直(とのい)だったって言ってたよね。どうだったって?」
「あーーーー、そうねー・・・何だか無駄にテンション高くってさ、帰ったらその話ばっかし。いいかげんウザかったよもー」
「ででで、どういう話したの?聞きたい聞きたーい」
「上中下、の話だって」
「は?」
「あたしたちみたいな中くらいの階層にいる女は狙い目よ、って結論に達したらしい」
「な、何それー! 何か失礼じゃない? 大体上・中・下、ってそれ何っ?」
「侍従ちゃんたら……」
右近ははー、とためいきをついた。
「上の品の女、というのはつまり生まれのいい女のことよ。
あたしたちが仕えてる女御さまのクラス。先代とか、そのきょうだいの娘とか、とにかく由緒正しきお家柄の中でも最上級の真正セレブ」
「いわゆる宮腹(みやばら)、ってやつね♪」
「わかってんじゃん。どこでどう切るかは難しいけど、そうねー、たとえ外腹の娘でも、小さい頃からそういう格式あるお家で、誰の目にも触れずにしっかりお嬢教育された人なんかは『上』っていってもいいのかな」
「ふーん。で、『下』は?」
「こういう大会社(宮仕え)にとうてい採用されっこない、外のお人ってことでしょ。ま、私はよく知らないけど?」
「それでいうとさ『中』って幅広くなーい?
社長(帝)のきょうだいの嫁入り先の従兄弟の子ども、なんてほとんど他人じゃん? ていえるような家でも、お金と権力さえあれば娘をばーんと入社(入内)させられるよねー。
おんなじ社長の女でも、こういうのも『中』なんだよね、それでいったら」
「なかなか言うね侍従ちゃん。そう、女としてのグレードを決めるのは、まず家柄や血筋であり、見かけや才能や性格は二の次。もちろん男にとっても同じこと」
「え? だって『中』の女がいい、ってことになったんでしょ。あたしたちの時代ってことじゃーん♪ イエーイ」
「ばっか、何おノンキなこといってんの。あたしたちなめられてんのよ、気軽く相手してもらえるってさ。心の底では『上』が一番、理想! だけどリアルはこんなもん人生妥協も必要だYO! なーんて思ってんのよ。侍従ちゃん、騙されちゃダメだからねっ」
「う、右近ちゃん……何かあったの?」
「何もないわよっ」
「あなたたち、またっ!」
典の局にまた叱られて、二人は渋々仕事に戻るのであった。
<「帚木 その三 につづく>
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