2010年10月6日水曜日

「帚木」 その三

男性たちによる雨夜の品定めはいまだ続いておりますが、
なんとなくこの辺の会話はOL二人のほうがしっくり来るのでは?と思いましたので、現役平安ガール右近ちゃんと侍従ちゃんに、割り込んでいただくことにします。

今後も突然乱入アリってことで、ひとつよろしくお願いいたします(ぺこり)。

「ねえねえ、右近ちゃん」

「なあに侍従ちゃん」

「ぶっちゃけ、結婚って考えたことある?

「いきなしストレートにきたわね。何を聞きたいわけ」

「いやあ、恋愛と結婚って、何か別じゃないかなーなんて最近思ってて」

「侍従ちゃんたら(クス)」

 当然じゃないの、というように鼻で笑う右近。

「フツーにつきあってる分にはよくても、一生つれ添うってことになったらねー、考えることも違ってくるわよ。一緒になってみて初めてわかる食い違いとか必ずあるんだから、そういうのも上手に折り合いつけてやってけるかどうか、そこが問題よね」

「ほうほう、さすが右近姐さん♪」

「うちの兄貴みたいにさ、とっかえひっかえばっかりしてると、よさげな人が現れても、いざ!ってときに『もっといいのが出てくるかも……』とか迷いが出てさ、腰が引けるのよね。えり好みもたいがいにしろって感じ。ついこの間も、あたしの目からみたらカンペキー!ていうかあの兄貴には勿体無い!ってくらいのヒトがいたのに、若い女にフラフラしちゃってヘタ打ったわけ。ほんとオトコって阿呆よねー。自分の身を振り返ってみろってんだっ

「……右近ちゃん、それほんとにお兄さんの話?」

「え? そ、そうよっ。トーゼンじゃないっ。えーと、必ずしも相手が理想にかなってなくても、やっぱご縁てもんがあるじゃん? つきあってるうちに見えてくる、二人だけーのしんーじつ♪ てのもあるし。ま、たいていはみんな割と平凡に、落ち着くとこに落ち着くのよ。だから人を羨んだってしょうがないのよね、うん」

「オットナー、右近ちゃん♪ 私達の王子様もいつか現れるのかしらん」

「王子様ね。ま、あたしたちはフツーの人がいいと思うよ、ごく平凡なね。ホントの王子様たちは大変だよ、妻選び。どうしたって人の噂の種にされるし、社会的評価にも直結するからシャレになんないって」



さてここで、宿直室に戻る。

もはや上も下もなく、女性談義に花が咲く。

「若くてイケてる子と、メル友になったとする。センスもいいし礼儀も心得てる。なんとかゲットしようと頑張ってるうちはいいんだけど、会う回数も増えて慣れてくるとお互い油断が出る。そこが第一の危機かもね」

「主婦たるもの、やっぱり旦那の世話が第一だから、あんまり自分の趣味に走られても困りますけど、逆に身なりを構わなさすぎってのもどうよって感じですよねー。髪振り乱してカリカリしながら家事や育児されてもね、ゲンナリしちゃいますよ」

(ずきっ)

「会社や仕事の、あんまり他人にいえないような話を、妻には出来るかどうかってのもポイントですね。笑い話や感動話、腹立たしい話なんか、聞いてほしいこともあるじゃないですか。コイツに言っても無駄なんて妻だったらもう自分の胸にしまっとくしかないから、こっそり思い出し笑いしたり独り言いっちゃったりして『何なの?』ってヘンな顔されるだけ。寂しいもんですわ」

「なーんも知らない素直な性格の若い子に、いろいろ教えて育てるつもりで結婚するってのはどう? 男の夢だよねえ、そういうの」

「通い婚ですからね、いつも一緒にいるってわけにもいかない。すぐ男に頼ってくる女は可愛いですが、まったく何にも任せられないっていうのは困る。それだったら普段無愛想で冷たい感じでも、いざとなったらぴしっとキメてくれる方がいいと思いますね」

などなど、
皆で論議するも、結論はなかなか出ないまま夜は更けていく 。

「左馬課長代理、どうすか?イロイロあったんでしょ、聞きたいなあ」

右近兄・藤田係長(式部丞)がそそのかす。

「いやいや、今となっては家柄も容姿も問題じゃないですね、やっぱり性格です。
よっぽど頑固でひねくれてさえいなきゃ、まじめで落ち着いた感じの女性と、結婚を前提としておつきあいしたいもんです。
趣味のよさや気立てのよさがオマケについてくりゃ儲けもん、不満な部分があっても少々なら見逃す、多くを要求しすぎない。
肩のこらないおおらかな性格であれば、センスも後からみがかれるってものですよ。

恥ずかしげに黙りこんで、嫉妬ややきもちなんて、何のこと? って感じで腹の中に溜めてくタイプの女は厄介ですね、いつかは爆発しますから。
罵詈雑言・誹謗中傷の限りをつくして、死ぬの生きるのおお騒ぎして、尼になってやるうなんて失踪されたひにはねー、まいっちゃうよね。

子どもの頃、お手伝いさんが読んでくれた本があまりに真に迫ってたものだから、登場人物に本気で感情移入して泣いちゃったりしたこともありますけど、いい大人が物語のヒロインぶるのはイタイよね。

夫の気持ちを試すがために姿をくらまして慌てさせたり、気を引こうとして一生後悔するようなことになるなんて、オロカとしかいいようがない。
『そんなに傷ついてたのねえ、かわいそうにねえ、よく決心したわ』
なんてヘンに同情されて、調子こいてホントに尼になっちゃったりして、最初は自分でもその気なんだけど、親戚とかに
『早まったわねえ、とってもいい旦那さんだったのに』
なんて言われて、やって来た夫にも泣かれてやっと自分の間違いに気づく、なんてことになったら、尼としても煩悩多すぎてダメダメだし、にっちもさっちもいかなくなりますよね」

(そういう経験が、あるのか?あるのか?)と周囲は思いながらも黙って聞いている。

「まあ、いろいろあっても切れずに続く夫婦ってのが縁も深くて愛情も厚いと言えるけど、常にお互いを気遣うことは忘れちゃならんでしょう」

きれいにまとめた。が、話はまだ続く。
「またね、冷めてきたからって夫を恨んであからさまにないがしろにして離婚! なんてのも愚かしいよね。
若い女にフラフラ、ってことはあっても、これまで長いこと夫婦でいたわけでしょ。
新婚当時の気持ちを思い出してみなよ、ってね。そういう縁をむやみに切るべきじゃないですよね。

ほどほどに嫉妬してかるく嫌味のひとつも言うのはいいんだけど、穏やかにやってほしい、可愛げがある程度に。
そしたら夫の愛情もいや増すってもんじゃないですか。
大体、男の浮気心なんて、妻の態度ひとつなのよ。 
だからといってほったらかしの野放し状態でヘーキってのも、男にとっては可愛いを通り越して、え、俺って何? 単なる都合のいい男? こっちがフラフラしようがなんだろうがなーんも考えてないってことじゃないのこの女、みたいな感じでへこみますな」

頭の中将は納得したように、ふかーく頷き、口を挟む。

「今のところ、イケメンで性格もいいから気に入っている奴がいるんだけど、もしそいつに浮気の疑いがあるとしたら・・・て考えちゃうなあ。
俺があれこれ口出しせず大目にみてやっていれば、そのうちどうにかなるような気もするが、先のことは誰にもわからないしね。
夫婦仲がうまくいかないような時って、あまり騒ぎ立てずじっと堪えて待つ以上に良い手立てというのは、なかなかないんだよな

と、暗にヒカルと自分の妹のことを当てこすったりなんかしてみるが、当の本人は居眠りしている。
なんだよー余裕ぶっこいてシカトしてんじゃねえよヒカルとややムッとする頭の中将。

左馬課長代理はますます弁が冴え、もはや誰も止められない。

頭の中将は、身を乗り出して熱心に聴き入るのであった。

「いろんなことに通じるんですよ、こういうのは。
名人と呼ばれる職人が思いのままにいろいろ作り出すのと同じでね。
定型にこだわらず、雰囲気や趣向に合わせてその場でえいっと作ったものが意外に目新しくて洒落てる、ってこともありますけど、ここ一番というとき、やんごとなき人のために一定の様式を立派に作り上げることもできる、本当の名人と素人との違いはその辺にあるんですね。

絵描きでも名人は多いですが、それぞれに優劣をつけるのは、ちょっと見ただけでは出来ないですよね。
絵の題材も、架空のものだと、本物に似てるかどうか確かめようがないこともあって、案外素人でも描きやすい。
だけどどこにでもあるありふれた風景、山や川や人家のリアルな様子を描くと、それぞれのこだわりや配置のセンスの違いが出て、一発で画力がわかるというものです。
文字を書いたものでも、ぱっと見がよければひとかどのように思えますが、やはり正当な書法をきちんと習得している方はどこか違う、心が惹きつけられるものですな。

なんてことのない芸ごとでもこうですから、まして人の気持ち、愛情につきましても推してしるべし。

例えばこんな話があります。ややエロいとこもあってお恥ずかしいかぎりですが、思い切って申し上げましょう」

左馬課長代理は俺の話を聞けオーラむんむんでにじり寄って来たので、さすがの源氏も目を覚ます。
頭の中将はもう夢中で、頬杖をついたままかぶりつきに座っている。

見ようによっては坊さんに長々と世の道理を説教してもらってるような図ではあるが、何せ内容が内容。もうこうなったら皆でぶっちゃけちゃいましょ♪という気分なのだった。

皆寝静まった内裏のなか、
徹夜ハイの男たちの体験談が次々と展開されていく。

<つづく>

参考HP「源氏物語の世界

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