箒木(二)
女性の品格の「上中下」というのはどこで区切られるのか?というヒカルの問いに答え、頭の中将アツく語る。
「家柄がイマイチなのに何かの拍子に成り上がっちゃった、にわかセレブ?とか、その逆に家柄はいいけど、コネ無し・生活力ゼロ、その癖やたらタカビーな元セレブ?なんてのもありがちだよね。両方とも、差し引きゼロの『中』ってとこかな?」
ふんふん、と聴衆。
「地方のノンキャリア(受領)組にもなかなかどうして、イマドキは結構いい人材がいるんだけど、だいたいはそんじょそこらの中堅キャリア(上達部)より、割り切りが良くてあっさりしてる。そりゃ、地位も家柄もそこそこで、世間の評判も悪くなくて経済的にも安定してれば、出世だの何のってあくせくせずとも悠々自適に暮らせるよね」
大きくうなずくノンキャリ組の二人。
「そういうヨユーのある家で大事に育てられた娘なら、けっこういい女に成長して、就職して(宮仕えに出て)から思いもよらない玉の輿、ってのもあながち夢じゃない」
「つまり親が持ってる金次第ってことですかね」
といってヒカルが笑うと
「あらま!皆の王子様がそんな身もふたもないこと言っちゃっていいの?!」
大げさに目をむいてみせる頭の中将。
「家柄・社会的地位・経済力の三拍子そろった家に生まれ育ったのに、なんでこんなんなっちゃったかなあ残念、ていうのもたまにいるけどね。そういういいお家のお嬢さんはデキが良かったとしても別にトーゼンっていうか、特に珍しくも面白くもないから、俺的にはイマイチ…だから『上』のあたりはちょっと勘弁、てかとりあえずスルーね」
よく言うよ、といわんばかりにしのび笑いがもれる。
「たとえば」
中将の目がきらりと光る。
「うらぶれた感じのボンビーな家に、思いもよらない純で可愛い娘がひっそり隠れ住んでた、とかいうシチュエーション、萌えるよねえ。なんでまたこんなとこにこんな素敵な子が、って予想外であればあるほど、胸が熱くなるね。
父親がうだつの上がらないメタボ親父で、兄弟もぶっさいく、イマイチな構えの家の奥に、とんでもなく品が良くて趣味のいいコがいた!なんてサプライズもいいよなあ。
『上』でも『下』でもない、特に難点もない『中』のなかから女性を見出すっていうのは難しいけど、なかなか面白みがあって捨てたもんじゃないよ」
語り終えた頭の中将は藤田係長(式部丞)を見て、意味ありげに笑う。
「中」のイケてる女って、俺の妹たちのことかなエヘヘ♪と係長つまり右近の兄は内心鼻高々である。
「そうは言っても……うまくいくのかな?『上』の女性でも難しいのに」
と、「極上」だが打ち解けない妻を持つヒカルは考え込む。
ただ一晩中居るだけの仕事なので、袴もはかず一重の着物に上着をはおってるだけの気楽な姿、
(つまり現代でいうとTシャツ短パンな感じ?)
薄暗い灯火のもとでしどけなく物に寄りかかっている様子は女にしてもいいくらい色っぽい。
なるほど「上」の中の上の女性でもなお足りないほどの魅力だと誰もが思う男っぷりである。
その後もさまざまな女性論議「雨夜の品定め」がいつ終わるともしれず、続いていくのであった。
<「オフィスにて(二)」につづく>
参考HP「源氏物語の世界」
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