閑話休題(一)
はりめぐらされた門の中、きわめて狭い世界で生きている貴族達。
宮廷づとめは結構ハードだったらしいし(夜勤あり)、
恋愛がなかなか思うようにいかないところも、
子どもが親の思う通りには育たないってことも、
優雅に見える暮らしが「外の人たち」によって支えられていることも、
今の都市生活者と非常によく似ている。
違うところはといえば、「観念」みたいなものがはっきりと生きていたということかも。
目に見えるリアルより、目には見えない「意味」のほうがより重要視されていた。
例えば陰陽五行説。
完全に信じている人はいなかったかもしれないが、例えば現代でいう血液型や星座の話よりは、一般に信憑性があった。
「結界」という言葉もバリバリに生きていたころ、「方向が悪い」といわれれば「方違え」に走り、「神の通り道になっているから」と「物忌」に籠もる。
だがそのさまざまな「結界」の隙間を縫っていろんなことが起こる。それはもう神様も物の怪もびっくりである。
例えば御簾。
単なるすだれである。
物理的にはぱっと払えば終わり、のはかない隔てなのに、向こうにいる相手から入る許可をもらうまで入れない。(ここですでに呪術っぽい。てか明らかに結界だろうコレは)
一見さんお断りはデフォ、
ムリヤリ入れば犯罪人扱い、
狙いがあからさまなのも無粋の極み「お育ちが悪いんやおへんか? おととい来ておくれやす」。
どうする?(涙目)
男は悩む。入ってもいーい? とストレートに聞くのも子どもっぽいし、あまり婉曲だと相手に通じないかもしれない。 あまりに口説くのがうますぎても「こいつチャラい」と思われるかも。
女も悩む。あまりあっさり受け容れると、世間体も悪いし、相手に軽い女と思われるかも。かといって意固地に断り続けて本気で諦められちゃっても困るのよねえ。
はてさて。
ということで丁々発止の和歌のやりとりだ。それはもう一種のバトルである。
ルールに則り、相手の持ち札を慮りつつカードを切り、時には反則すれすれの技も駆使、見事ゲットできるかどうかを競う(お互いに) 、非常に遠まわしなバトル。
さらに、現代と違うような違わないような部分に「身分格差」がある。
一般に身分が上になればなるほど、行動の自由度は狭まる。
深窓に育つ女性などは、ひとたび年頃になれば、御簾の奥深く入って、お側仕えの女性にしか姿をみせない。異性のきょうだいはもちろん父親さえ、おいそれとは顔を合わせなくなるのだ。
これは男性にとっては神秘でありロマンの対象となる。女性とお近づきになる道がタイトであればあるほど、そこをかいくぐって起こした出来事はささいなことでもドラマになりうるのである。
その意味でも、源氏物語はとてもよくできた話である。
男性が書いた部分があるのではないか、と言われているのもよくわかる。
だけど私は、絶対作者は女性だと思う。男性なら恥ずかしくて(またはどうでもいいと思って)書かないような描写がわんさかと出てくるからだ。
さて。
戯言はこの辺にしておこう。
次はイケメン頭の中将の恋バナ、こうご期待である。
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