箒木(四) ~雨夜の品定め~

遠い目をして語り始める左馬課長代理。

「まだほんのぺーぺーのヒラ社員だった頃、つきあっていた女性がおりましてね。いえいえ決して美人では。当時はまだ結婚まで考えてなかったですから、若気の至りでついつい他に目移りも、ねっ?」

わかるでしょ、いひひと周囲に同意を求める左馬。完全にオヤジである。

「ところが浮気がバレたときの、彼女の嫉妬がすごいのなんのって……。

ほとほとやんなっちゃいましてね、もうちょっとおっとり構えられないもんかなあと。
とにかく疑り深いしシメツケは厳しいし、たまらなかったですね。
反面、こんな男に愛想もつかさず、一途に愛してくれているのは有難いとも思ったし、何だか可哀想な気もして、結局元の鞘に戻ったりしてたんですけどね。

どんな女だったか?

そうですね……恋人のためなら、不可能をムリヤリ可能にするというか・・・イケてない女と思われたくないがために苦手ジャンルでも超努力してこなす、て感じの勝気な女でした。

つきあいが深くなるうちに、多少こちらにも合わせてくれるようにはなりましたし、美人ではないことを気にして、化粧を工夫したり、身だしなみに注意したり、と可愛いところもありましたが、根本の性格というのはついに変わりませんでした。

当時私は思いました。
こんなに嫌われまいと始終気にしている女なんだから、ちょっとビシっといってやって、度の過ぎた嫉妬心とキツすぎる性格をどうにかできないもんかと。このままだとオマエとはやっていけない、別れると脅せば、考え直すんじゃね? 

そこで私は、わざとつれなくしてみせた。

彼女は例によって、私に女が出来たものと思いこみ、怒り狂って恨み言のあめあられです。
その時こういってやったんですよ。

『もう沢山だこんなこと! あーあ終わりだ終わり!好きなだけ俺のことをメタクソ言ってればいいさ。俺はもう知らん。
ま、そのジェラシー癖を直して、少々のことは受け流せるような女になるってんなら、望みはあるかもなっ。俺が人並に出世して一人前になったら、もう一回結婚を前提としてつきあってやらなくもないけど?』

などと、ここぞとばかりに調子こいてまくしたてたら、彼女ふふんと笑って、

『わかってないわね。
アンタが何もかもイマイチで半人前なのは問題じゃないのよ。一人前になるまで待ってくれというなら、ええ、待ちますとも、いっくらでもね。
だけどあっちにフラフラこっちにフラフラ、いったいいつになったら浮気癖が直るのか、一生直らないんじゃないかしらん、て不安を抱えたまま年を重ねていくのはホントにしんどいもんよ。
仰るとおり、潮時なのかもね、私たち』

と憎まれ口をたたくので、こっちもつい腹立たしくなって言い返しますと、彼女も黙って引っ込むタマではない、指を一本引っ張って噛み付いてきました。私は大げさに

『あーああ、指まで食いちぎられちゃって、こんなじゃもう会社にも行けやしない。ずうっと下っ端のまま、出世も出来ないかもなあ。もう世を捨てて坊さんにでもなるかなマジ』

脅しつけたうえ

『終わったな。じゃ』

と言い放ち、噛まれた指を折り曲げてすたこらと去りました。

<<男の捨て台詞ポエム>>

指折り数える愛の日々

お前の折った一本が

そのままお前の悪い点

恨むなよっ


<<女の恨みごとポエム>>

辛さを心に秘めながら

数えた指はひとつ折れ

これが別れる折なのね

さすがの彼女も最後には涙目でした。

そうは言っても、本気で別れるつもりはなかったんですよね。なのに、意地で音信不通のまま、相変わらずフラフラ遊びほうける日々でした。

そんなとき臨時出勤がありまして、これがまた霙の降る寒い夜でしてね。
退社後三々五々に散っていく同僚を横目に、さて自分の帰るところはと思うと、やはり元カノの家以外にはないんですよ。

会社の宿直室で泊まるというのも気乗りがしないし、だからといって今カノの家もちょっと面倒臭い・・・て感じで。
そうだ元カノは今頃どうしてるだろう、様子を見るだけでもと雪を払いながら何気に行ってみました。

なんとも決まりが悪かったんですが、いくらなんでもこんな寒い夜に追い出すようなことはしないだろう、数日来の怒りも解けるかも、と思い戸をたたくと、ムーディーな間接照明の下で、着替えの服も用意万端、部屋もぴしっとととのえてあり、明らかに私の訪問を待っていたようなふしがありました。
ふふんやっぱりね、と得意になったものの本人がおりません。残っているお手伝い連中に聞くと、

ご実家のほうに今夜は帰られています』

という。
顔も見せないうえに書置きも何もなし、ただそっけなく事務的な対応であったので、すっかり拍子抜けしました。

もしやあのとき悪口雑言を吐きまくったのも、自分を嫌わせて別れるためだったのかそうなのか? などと思ってへこみそうになったのですが、用意してあった着物が色合いも仕立ても素晴らしいものでしたから、いやいやきっと別れた後でも私のことを考えていてくれたのだ、と嬉しくなりました。
私のほうはこれで、まだ望みがある、まったく愛想をつかされたわけではないんだと思い、何とかよりを戻そうといろいろ言ってもみたんですが、向こうは完全に別れるでもなく姿をくらますでもなく、無視するでもない。

『わかるでしょ、このままだとまた同じことよ? あなたがすっかり浮気癖を改めて落ち着くのなら、また一緒に暮らしても良いけど』

なんて繰り返すだけで。

そうは言ってもねえ、そんなにすぐハイそうですねと収まるもんでもないじゃないですか。オマエの方こそ改めるべきとこないか?とも思って、

『もう浮気しない。ゼッタイ』

とはっきり約束することもせず、強情を張っていましたら、彼女は本気でウツに入ったのか、とうとう亡くなってしまいました。しまった、シャレになんない、と猛省しましたね。
生涯を添い遂げる女性なら、あの程度でちょうどよかったのになあ、と今でも思います。
ちょっとした趣味ごとや実生活のイベントでも、それなりに相談しがいがあったし、染め物や縫い物は昔話の龍田姫か織姫か、というくらいの腕でしたし、本当に何の不足もなかったんですよね、今考えると」

……

(OLたち乱入)

「はぁー? 何ソレ、ありえなーい。サイッテー」

「でっしょー。あのセクハラ親父、ホントよっく言うよねー。顔合わせるたんびに必要以上ににじり寄ってきてさ、今日はやけに綺麗だね、あ、香水変わった? デートでもすんの? 彼氏どんな人? とか、いちいちいちいちウザイのなんの。とても反省してるとは思えないよ、普段の言動みてるとさ」

「彼女かわいそうじゃん(泣)正当なのはこっちなのにさ。二股三股かけられたら怒るの当たり前だろっ。挙句の果て死んじゃうなんて……ひーん、もらい泣き」

どーせこんな日には行くところもなくてウチに来るだろうって、すっかり行動パターン読まれ切ってんのに、あの程度でよかったーなんて超失礼よね。そういうオマエがどんだけの男なんだっつうの」

「ゼッタイ、とっくに愛想つかされてたんだよ!こんな奴に未練なんてありえなーい、より戻すなんて気さらさらなかったと思う、彼女。ただ家も知られてしストーカー化されちゃ困るからテキトーに相手してたんだよ」

「浮気親父に、天誅うー!」

「ところで右近ちゃん」

「なあに侍従ちゃん」

「王子はこの話、どう言ってたの?」

「王子はね、黙って聞いてるだけだったって。中将様がいろいろ突っ込んでたって。こんなふうに」

……

「織姫並みの技量ということはさて置いて、織姫・彦星の永く添い遂げる間柄♪ てところだけはあやかりたかったもんだねえ。

なるほど、龍田姫並みの染色の腕前はたいしたものだったんだろうけど、花や紅葉も季節にふさわしい微妙な色かげんをちょっとでもはずすと、台なしになっちゃうもんだしね。
だからこそ難しいんだよねー」

……

「右近ちゃん」

「何」

「後半、意味わかんないんだけど」

「んー、中将様ってイケメンでオシャレで素敵なんだけど、ちょっと気取りやさんだよねー。あのね、つまりは女がもうちょっと柔軟になればよかったんじゃない?て言ってんのよ」

「はあーーーーーーー?」

「私が言ったんじゃないって。ふっ、だから言ったでしょ、オトコの本音なんてそんなもんよ所詮」

「王子様も?」

「多分ね。おきのどくだけど」

「ひーん(涙)」

……


「ところでですね、やっぱりヒラの頃につきあってた女がいるんですが……」


(OLたちと他の男どもの心の声)
 「まだ、あんのかよ!」
「長げーよ!」
「やっぱり全然反省してないじゃん!」

左馬”セクハラ親父”課長代理の話はまだまだ尽きないのであった。

<帚木(五)につづく>

参考HP「源氏物語の世界」

10月に見た映画 その一

ひっさびさにレンタルDVD。しかも新作。つまりミーハー。


「シャッター・アイランド」マーティン・スコセッシ監督

えーとこれはネタバレになると全然駄目なのでいろいろ書くことは控える。控えるがしかし、なんというかいろいろ思い出したなー。雰囲気まんまツイン・ピークス。シャイニングもちと入ってるかも。とにかく監督がスコセッシなので、一筋縄ではいかないぞオーラがむんむんと立ち込めていて、目が離せない。家で観てたのにトイレに立てなかった(泣)。
ちなみに私、れお様はまったくタイプではない。世間ではイケメン俳優ということになっているが、今までただの一度もそう思ったことがないんである。ファニーフェイスだよなあどう考えても。なんかこう、強くて悪い男を演じていても、「こんなガキ臭い顔して何やってんの」と思ってしまうのだ。私の中では長年トムクルーズと同じ箱の中に入っていた(トム君は、トップガンのビーチバレーからイメージ不変)。
で今回はどうだったかというと、やっぱりカコいいとは全然思えなかったのだが、時折見せる表情にジャック・ニコルソンに通じる狂気が感じられてびっくりした。なんだ?もしかしてれお君、そのうち化けるかも?
なんてったってあのスコセッシ様に見込まれているれお君である。あと数年もしたらマーロン・ブランドやジャック・ニコルソンもびっくりのカコイイ親父俳優(褒め言葉である)になるのかもしれない。

映画の良し悪しはともかくとして、そこにちょっと感動した私であった。
ちなみに私の中でのスコセッシ映画イチオシはこれ、「エイジ・オブ・イノセンス」。
いわゆる「男受けのいい女(ウィノナ・ライダーが演じている。キャストもナイスだ(笑)」の嫌ったらしさをこれだけセキララに描いた映画は他に知らない。あったら教えてほしい。

「帚木」 その三

男性たちによる雨夜の品定めはいまだ続いておりますが、
なんとなくこの辺の会話はOL二人のほうがしっくり来るのでは?と思いましたので、現役平安ガール右近ちゃんと侍従ちゃんに、割り込んでいただくことにします。

今後も突然乱入アリってことで、ひとつよろしくお願いいたします(ぺこり)。

「ねえねえ、右近ちゃん」

「なあに侍従ちゃん」

「ぶっちゃけ、結婚って考えたことある?」

「いきなしストレートにきたわね。何を聞きたいわけ」

「いやあ、恋愛と結婚って、何か別じゃないかなーなんて最近思ってて」

「侍従ちゃんたら(クス)」

 当然じゃないの、というように鼻で笑う右近。

「フツーにつきあってる分にはよくても、一生つれ添うってことになったらねー、考えることも違ってくるわよ。一緒になってみて初めてわかる食い違いとか必ずあるんだから、そういうのも上手に折り合いつけてやってけるかどうか、そこが問題よね」

「ほうほう、さすが右近姐さん♪」

「うちの兄貴みたいにさ、とっかえひっかえばっかりしてると、よさげな人が現れても、いざ!ってときに『もっといいのが出てくるかも……』とか迷いが出てさ、腰が引けるのよね。えり好みもたいがいにしろって感じ。ついこの間も、あたしの目からみたらカンペキー!ていうかあの兄貴には勿体無い!ってくらいのヒトがいたのに、若い女にフラフラしちゃってヘタ打ったわけ。ほんとオトコって阿呆よねー。自分の身を振り返ってみろってんだっ」

「……右近ちゃん、それほんとにお兄さんの話?」

「え? そ、そうよっ。トーゼンじゃないっ。えーと、必ずしも相手が理想にかなってなくても、やっぱご縁てもんがあるじゃん? つきあってるうちに見えてくる、二人だけーのしんーじつ♪ てのもあるし。ま、たいていはみんな割と平凡に、落ち着くとこに落ち着くのよ。だから人を羨んだってしょうがないのよね、うん」

「オットナー、右近ちゃん♪ 私達の王子様もいつか現れるのかしらん」

「王子様ね。ま、あたしたちはフツーの人がいいと思うよ、ごく平凡なね。ホントの王子様たちは大変だよ、妻選び。どうしたって人の噂の種にされるし、社会的評価にも直結するからシャレになんないって」



さてここで、宿直室に戻る。

もはや上も下もなく、女性談義に花が咲く。

「若くてイケてる子と、メル友になったとする。センスもいいし礼儀も心得てる。なんとかゲットしようと頑張ってるうちはいいんだけど、会う回数も増えて慣れてくるとお互い油断が出る。そこが第一の危機かもね」

「主婦たるもの、やっぱり旦那の世話が第一だから、あんまり自分の趣味に走られても困りますけど、逆に身なりを構わなさすぎってのもどうよって感じですよねー。髪振り乱してカリカリしながら家事や育児されてもね、ゲンナリしちゃいますよ」

(ずきっ)

「会社や仕事の、あんまり他人にいえないような話を、妻には出来るかどうかってのもポイントですね。笑い話や感動話、腹立たしい話なんか、聞いてほしいこともあるじゃないですか。コイツに言っても無駄なんて妻だったらもう自分の胸にしまっとくしかないから、こっそり思い出し笑いしたり独り言いっちゃったりして『何なの?』ってヘンな顔されるだけ。寂しいもんですわ」

「なーんも知らない素直な性格の若い子に、いろいろ教えて育てるつもりで結婚するってのはどう? 男の夢だよねえ、そういうの」

「通い婚ですからね、いつも一緒にいるってわけにもいかない。すぐ男に頼ってくる女は可愛いですが、まったく何にも任せられないっていうのは困る。それだったら普段無愛想で冷たい感じでも、いざとなったらぴしっとキメてくれる方がいいと思いますね」

などなど、
皆で論議するも、結論はなかなか出ないまま夜は更けていく 。

「左馬課長代理、どうすか?イロイロあったんでしょ、聞きたいなあ」

右近兄・藤田係長(式部丞)がそそのかす。

「いやいや、今となっては家柄も容姿も問題じゃないですね、やっぱり性格です。
よっぽど頑固でひねくれてさえいなきゃ、まじめで落ち着いた感じの女性と、結婚を前提としておつきあいしたいもんです。
趣味のよさや気立てのよさがオマケについてくりゃ儲けもん、不満な部分があっても少々なら見逃す、多くを要求しすぎない。
肩のこらないおおらかな性格であれば、センスも後からみがかれるってものですよ。

恥ずかしげに黙りこんで、嫉妬ややきもちなんて、何のこと? って感じで腹の中に溜めてくタイプの女は厄介ですね、いつかは爆発しますから。
罵詈雑言・誹謗中傷の限りをつくして、死ぬの生きるのおお騒ぎして、尼になってやるうなんて失踪されたひにはねー、まいっちゃうよね。

子どもの頃、お手伝いさんが読んでくれた本があまりに真に迫ってたものだから、登場人物に本気で感情移入して泣いちゃったりしたこともありますけど、いい大人が物語のヒロインぶるのはイタイよね。

夫の気持ちを試すがために姿をくらまして慌てさせたり、気を引こうとして一生後悔するようなことになるなんて、オロカとしかいいようがない。
『そんなに傷ついてたのねえ、かわいそうにねえ、よく決心したわ』
なんてヘンに同情されて、調子こいてホントに尼になっちゃったりして、最初は自分でもその気なんだけど、親戚とかに
『早まったわねえ、とってもいい旦那さんだったのに』
なんて言われて、やって来た夫にも泣かれてやっと自分の間違いに気づく、なんてことになったら、尼としても煩悩多すぎてダメダメだし、にっちもさっちもいかなくなりますよね」

(そういう経験が、あるのか?あるのか?)と周囲は思いながらも黙って聞いている。

「まあ、いろいろあっても切れずに続く夫婦ってのが縁も深くて愛情も厚いと言えるけど、常にお互いを気遣うことは忘れちゃならんでしょう」

きれいにまとめた。が、話はまだ続く。
「またね、冷めてきたからって夫を恨んであからさまにないがしろにして離婚! なんてのも愚かしいよね。
若い女にフラフラ、ってことはあっても、これまで長いこと夫婦でいたわけでしょ。
新婚当時の気持ちを思い出してみなよ、ってね。そういう縁をむやみに切るべきじゃないですよね。

ほどほどに嫉妬してかるく嫌味のひとつも言うのはいいんだけど、穏やかにやってほしい、可愛げがある程度に。
そしたら夫の愛情もいや増すってもんじゃないですか。
大体、男の浮気心なんて、妻の態度ひとつなのよ。 
だからといってほったらかしの野放し状態でヘーキってのも、男にとっては可愛いを通り越して、え、俺って何? 単なる都合のいい男? こっちがフラフラしようがなんだろうがなーんも考えてないってことじゃないのこの女、みたいな感じでへこみますな」

頭の中将は納得したように、ふかーく頷き、口を挟む。

「今のところ、イケメンで性格もいいから気に入っている奴がいるんだけど、もしそいつに浮気の疑いがあるとしたら・・・て考えちゃうなあ。
俺があれこれ口出しせず大目にみてやっていれば、そのうちどうにかなるような気もするが、先のことは誰にもわからないしね。
夫婦仲がうまくいかないような時って、あまり騒ぎ立てずじっと堪えて待つ以上に良い手立てというのは、なかなかないんだよな」

と、暗にヒカルと自分の妹のことを当てこすったりなんかしてみるが、当の本人は居眠りしている。
なんだよー余裕ぶっこいてシカトしてんじゃねえよヒカルとややムッとする頭の中将。

左馬課長代理はますます弁が冴え、もはや誰も止められない。

頭の中将は、身を乗り出して熱心に聴き入るのであった。

「いろんなことに通じるんですよ、こういうのは。
名人と呼ばれる職人が思いのままにいろいろ作り出すのと同じでね。
定型にこだわらず、雰囲気や趣向に合わせてその場でえいっと作ったものが意外に目新しくて洒落てる、ってこともありますけど、ここ一番というとき、やんごとなき人のために一定の様式を立派に作り上げることもできる、本当の名人と素人との違いはその辺にあるんですね。

絵描きでも名人は多いですが、それぞれに優劣をつけるのは、ちょっと見ただけでは出来ないですよね。
絵の題材も、架空のものだと、本物に似てるかどうか確かめようがないこともあって、案外素人でも描きやすい。
だけどどこにでもあるありふれた風景、山や川や人家のリアルな様子を描くと、それぞれのこだわりや配置のセンスの違いが出て、一発で画力がわかるというものです。
文字を書いたものでも、ぱっと見がよければひとかどのように思えますが、やはり正当な書法をきちんと習得している方はどこか違う、心が惹きつけられるものですな。

なんてことのない芸ごとでもこうですから、まして人の気持ち、愛情につきましても推してしるべし。

例えばこんな話があります。ややエロいとこもあってお恥ずかしいかぎりですが、思い切って申し上げましょう」

左馬課長代理は俺の話を聞けオーラむんむんでにじり寄って来たので、さすがの源氏も目を覚ます。
頭の中将はもう夢中で、頬杖をついたままかぶりつきに座っている。

見ようによっては坊さんに長々と世の道理を説教してもらってるような図ではあるが、何せ内容が内容。もうこうなったら皆でぶっちゃけちゃいましょ♪という気分なのだった。

皆寝静まった内裏のなか、
徹夜ハイの男たちの体験談が次々と展開されていく。

<帚木(四)につづく>

参考HP「源氏物語の世界」

オフィスにて(二)

右近兄の武勇伝の前に、ちょっと時を進めてみる。 さて、
平安OLから見た「上・中・下」の品とは!

「おっはよ♪侍従ちゃん」

「おはよう、右近ちゃん。やっと雨上がったねえ」

「ほーんと。長かったよねえ」

「ほんとよねえ」

 しばらく縫い物などする二人。

「ねえ右近ちゃん」

「なあに侍従ちゃん」

「この間、右近ちゃんのお兄さん、ヒカル王子と一緒に宿直(とのい)だったって言ってたよね。どうだったって?」

「あーーーー、そうねー・・・何だか無駄にテンション高くってさ、帰ったらその話ばっかし。いいかげんウザかったよもー」

「ででで、どういう話したの?聞きたい聞きたーい」

「上中下、の話だって」

「は?」

「あたしたちみたいな中くらいの階層にいる女は狙い目よ、って結論に達したらしい」

「な、何それー! 何か失礼じゃない? 大体上・中・下、ってそれ何っ?」

「侍従ちゃんたら……」

 右近ははー、とためいきをついた。

「上の品の女、というのはつまり生まれのいい女のことよ。
あたしたちが仕えてる女御さまのクラス。先代とか、そのきょうだいの娘とか、とにかく由緒正しきお家柄の中でも最上級の真正セレブ」

「いわゆる宮腹(みやばら)、ってやつね♪」

「わかってんじゃん。どこでどう切るかは難しいけど、そうねー、たとえ外腹の娘でも、小さい頃からそういう格式あるお家で、誰の目にも触れずにしっかりお嬢教育された人なんかは『上』っていってもいいのかな」

「ふーん。で、『下』は?」

「こういう大会社(宮仕え)にとうてい採用されっこない、外のお人ってことでしょ。ま、私はよく知らないけど?」

「それでいうとさ『中』って幅広くなーい? 
社長(帝)のきょうだいの嫁入り先の従兄弟の子ども、なんてほとんど他人じゃん? ていえるような家でも、お金と権力さえあれば娘をばーんと入社(入内)させられるよねー。
おんなじ社長の女でも、こういうのも『中』なんだよね、それでいったら」

「なかなか言うね侍従ちゃん。そう、女としてのグレードを決めるのは、まず家柄や血筋であり、見かけや才能や性格は二の次。もちろん男にとっても同じこと」

「え? だって『中』の女がいい、ってことになったんでしょ。あたしたちの時代ってことじゃーん♪ イエーイ」

「ばっか、何おノンキなこといってんの。あたしたちなめられてんのよ、気軽く相手してもらえるってさ。心の底では『上』が一番、理想! だけどリアルはこんなもん人生妥協も必要だYO! なーんて思ってんのよ。侍従ちゃん、騙されちゃダメだからねっ」

「う、右近ちゃん……何かあったの?」

「何もないわよっ」

「あなたたち、またっ!」

 典の局にまた叱られて、二人は渋々仕事に戻るのであった。


<「帚木 その三 につづく>

箒木(二)

さらに二人恋多き男が加わり、いやがうえにも盛り上がる宿直室(桐壺の局) 。

女性の品格の「上中下」というのはどこで区切られるのか?というヒカルの問いに答え、頭の中将アツく語る。

「家柄がイマイチなのに何かの拍子に成り上がっちゃった、にわかセレブ?とか、その逆に家柄はいいけど、コネ無し・生活力ゼロ、その癖やたらタカビーな元セレブ?なんてのもありがちだよね。両方とも、差し引きゼロの『中』ってとこかな?」

ふんふん、と聴衆。

「地方のノンキャリア(受領)組にもなかなかどうして、イマドキは結構いい人材がいるんだけど、だいたいはそんじょそこらの中堅キャリア(上達部)より、割り切りが良くてあっさりしてる。そりゃ、地位も家柄もそこそこで、世間の評判も悪くなくて経済的にも安定してれば、出世だの何のってあくせくせずとも悠々自適に暮らせるよね」

大きくうなずくノンキャリ組の二人。

「そういうヨユーのある家で大事に育てられた娘なら、けっこういい女に成長して、就職して(宮仕えに出て)から思いもよらない玉の輿、ってのもあながち夢じゃない」

「つまり親が持ってる金次第ってことですかね」

といってヒカルが笑うと

「あらま!皆の王子様がそんな身もふたもないこと言っちゃっていいの?!」

大げさに目をむいてみせる頭の中将。

「家柄・社会的地位・経済力の三拍子そろった家に生まれ育ったのに、なんでこんなんなっちゃったかなあ残念、ていうのもたまにいるけどね。そういういいお家のお嬢さんはデキが良かったとしても別にトーゼンっていうか、特に珍しくも面白くもないから、俺的にはイマイチ…だから『上』のあたりはちょっと勘弁、てかとりあえずスルーね」

よく言うよ、といわんばかりにしのび笑いがもれる。

「たとえば」

中将の目がきらりと光る。

「うらぶれた感じのボンビーな家に、思いもよらない純で可愛い娘がひっそり隠れ住んでた、とかいうシチュエーション、萌えるよねえ。なんでまたこんなとこにこんな素敵な子が、って予想外であればあるほど、胸が熱くなるね。
父親がうだつの上がらないメタボ親父で、兄弟もぶっさいく、イマイチな構えの家の奥に、とんでもなく品が良くて趣味のいいコがいた!なんてサプライズもいいよなあ。
『上』でも『下』でもない、特に難点もない『中』のなかから女性を見出すっていうのは難しいけど、なかなか面白みがあって捨てたもんじゃないよ」

語り終えた頭の中将は藤田係長(式部丞)を見て、意味ありげに笑う。
「中」のイケてる女って、俺の妹たちのことかなエヘヘ♪と係長つまり右近の兄は内心鼻高々である。

「そうは言っても……うまくいくのかな?『上』の女性でも難しいのに」

と、「極上」だが打ち解けない妻を持つヒカルは考え込む。

ただ一晩中居るだけの仕事なので、袴もはかず一重の着物に上着をはおってるだけの気楽な姿、
(つまり現代でいうとTシャツ短パンな感じ?)
薄暗い灯火のもとでしどけなく物に寄りかかっている様子は女にしてもいいくらい色っぽい。
なるほど「上」の中の上の女性でもなお足りないほどの魅力だと誰もが思う男っぷりである。

その後もさまざまな女性論議「雨夜の品定め」がいつ終わるともしれず、続いていくのであった。

<「オフィスにて(二)」につづく>
参考HP「源氏物語の世界」