「ふー、さぶっ。まだまだ外は寒いわね侍従ちゃん」
「えー右近ちゃん、でも昨日より大分マシじゃない?天気いいしさ。まさに三寒四温てやつ?」
「確かに。節分過ぎると春に向かうってホントね。昔の人は凄いわー」
・・・しばしお茶を啜る二人・・・
「では行きますか。空蝉最終話ー♪」
「いよっまってましたー♪」
…
「さて、空蝉の術にまんまとしてやられてすっかりヘコんだヒカル王子、少年を車の後部座席に乗せ、すごすごとおうち(二条院)に帰る」
「あら、少年またおつきあい?」
「そうよー。ヒカル王子、もう誰かに愚痴らないとやってらんない状態、
『あんなふうに逃げ出すなんて、何も知らない小娘じゃあるまいし。そう思わなーい?少年』
なんて、爪をプチプチ弾きながら恨み言をぶつぶつ」
「少年、大変ね……つか王子、オヤジくさい」
「確かにミットモナイことになっちゃったからね、少年もさすがに王子が気の毒で、何とも慰めようもない。
『どんだけとことん嫌われてんのかな俺。自分がイヤになっちゃうよ。なんで、逢ってくれなくてもせめて、お返事だけでもしてくんないかなー。俺、あの伊予介じいさんにも劣るってことなんだね。超冷たくない?』」
「あ、どさくさに紛れてまた失礼なことを(笑)」
「なんていいつつも、さっき持ってきた空蝉さんの小袿を、掛け布団と一緒にはおったりなんかして」
「えー?ヤダなにそれ…ドン引き…」
「少年はまたも空蝉さんの代わりに夜のおもてなし」
「ヒカル王子、ヤケくそだね、もう(笑)」
「『君は可愛いけど、あんなつれない女の弟なんだもんねー。いつまでかわいがってやれるかわかったもんじゃないもんねーっ』
少年、しょんぼり」
「ひっどー。完全八つ当たりじゃん」
「そんなこんなでゴロゴロうだうだしてて眠れないヒカル王子、突然思いたって硯を持ってこさせる」
「お、後朝の文ですか♪」
「一応ね。でもヒカル王子完全にやさぐれちゃってるから、空蝉ちゃんとは最初の一回きりで、今夜もその前もナーんにもなかったんだもんねーだからちゃんとした形式じゃあ書きたくないんだもーん、て、いかにもいい加減に流し書きしましたよって感じの紙を少年に持たせたわけ。 こんなふうに
『殻を脱ぎ捨てた蝉のように逃げ去った貴方ですが
それでもなお、その人柄が恋しくてたまりません』」
「ほうほう、殻と柄をかけてるわけね。で、軒端の萩ちゃんには?」
「な し」
「えぇえ、やることやっといてスルーですかー?」
「あまり事をはっきりさせると、萩ちゃんにもつらいことになるしねー。特に人間違いされちゃったなんてことバレたら、とんでもなくまずいじゃん」
「うわーそれショックなんてもんじゃないわよね。まだ若い盛りだってのに。いくら現代よりユルイ感じの通い婚っていっても、今後の縁談にも差し支えるってもんよね」
「王子にとっても不名誉だし、こじれること確実だから、要はこれ以上関わりあいたくない(笑)。だけど王子は未練がましく、空蝉さんの香りつきの小袿を身近に置いて眺めてんのよね」
「おいおい、匂いフェチ?って平安時代の特徴ね、そこにこだわるのは」
「さて、お手紙を受け取った空蝉さんはどうしたかというと」
「少年をめたくそ叱り飛ばしたっ」
「ピンポーン♪
『とんでもないことをしてくれたわねっ。なんとか人目はごまかしても、誰がどう思うかなんて知れたものではなくてよっ。本当に困ったこと。アナタみたいな幼い子供にこんな浅はかなことやらせて、ヒカル王子だってナニ考えてらっしゃるのかしらっ』
とえらい剣幕」
「あーあ少年、あっちでもこっちでも叱られて(泣)」
「それでも空蝉さん、さすがに例のお手紙は手に取って見てみた。私が脱ぎ捨てた衣【伊勢の海人のように】汗臭くなかったかしら、と思うと、いてもたってもいられず、ざわざわと心は乱れる」
「そうよねえ、わかるわあその女心。で、荻ちゃんはどうしてんの?」
「うかうか人に言える話でもないしさ、なんか恥ずかしいしーなんて、一人物思いにふける日々よ」
「ふむふむ」
「少年が行き来するたびに胸キュンするんだけど、何の音沙汰もない」
「か、かなしー」
「もともと陽気であまりものにこだわらない性格だから、それほどヘコんだりはしなかったのが救いだけどね」
「うーん…荻ちゃんにとってどういう思い出になるのかしらん、これ」
「このままいくと真相を知ることは一生ないだろうから、なんとなーく都合の悪いことは忘れていって、年取ってから
『実は私、あのヒカル王子とラブラブだったことがあるのよー♪』
『まーた始まった、おばあちゃんてば』
『その話もう十回目よ』
てな感じの、周りには嘘かホントかわからない『思い出』になるんじゃないかしら」
「・・・ま、若いし先も長いんだから、いっか」
「そうそう。でも、そうはいかないのが空蝉さん。なまじっかすべてを諦めて平穏無事な生活をしてたから、突然のヒカルの情熱に対応できなかった。でも完全に悟り澄ましてるわけでもないから、忘れることも出来ない。心の底に押し込めてたものを呼び覚まされて、せめて独身だったなら…なんて思ったりもして」
「でもさ、ホントに身軽な独り身だったらヒカル、ここまで執着しなかったんじゃない?空蝉さんが中の品ていう完全に自分より下の身分の人妻、要するに普段なら対象外の接点なし・自分の周りにはいないタイプだったから興味を持ったんだし、予想外に拒否られてさらに燃え上がっちゃったっていうか。単にかるーく遊ぶだけなんだったら、若くて可愛い触れなば落ちんの軒端の萩ちゃんでいいわけだし」
「あら、いつになくキッツイわね侍従ちゃん。でもそのとおりなのよね。いまさら身分も生活も変えられるもんじゃないし、『もし~だったら』なんてこといってもはじまんない。空蝉さんもその辺はよーくわかってはいるんだけど、思いを抑えきれず、ヒカルの寄越した手紙の片方にこう書き付けずにはいられなかった。
『空蝉の羽に置く露が木に隠れて見えないように
私も人知れず袖を濡らして泣いております』」
「ううう(泣)泣けるわ。ヒカル、やっぱ若いっていうか、ノーテンキよねえ…空蝉さんの心の綾とか機微とか、なーんもわかっちゃいないんだろうね」
「だねー」
<夕顔 その一につづく>
参考HP「源氏物語の世界」
空蝉(二)オフィスにて♪
遂に追い詰めた!微笑むヒカル、危うし人妻!頼れるものは自分だけ!回避できるか、今そこにある危機!
「侍従ちゃんてば・・・今時B級映画でもこんなベタな煽りしないって」
「あら右近ちゃん、わかってないわね。時代はいつも王道を求めるものなのよ♪」
「(王道の解釈ちがくない?)まあいいわ、続きつづき」
・・・・・・
「まさかヒカルが三たび忍び込んでいるとは、夢にも思ってない空蝉さん。きっと私のことなんてもうお忘れね、やれよかった、と思いつつも、あの妖しい夢のような一夜が昼も夜も頭から離れない」
「ほうほう。つれないそぶりをしてはいても、やっぱテキは超絶モテ男のセレブイケメン。とても平静ではいられないわっ」
「春先に次々と芽吹く木の芽のように」
「……木の目さん?」
「(笑)ありありと目に浮かぶアレコレで、とてもじゃないけど熟睡できない日々が続いたりして」
「ヤバーイ、やっぱり羨ましー」
「そこに何も知らない軒端の荻ちゃんが無邪気に『一緒に寝ましょ♪』なんてやってきた」
「ふむふむ。さっきのエロ可愛い若い娘ね、むひひ」
「侍従ちゃん、オヤジくさい。で、キャッキャッおしゃべりしてたと思ったら荻ちゃんあっというまに爆睡」
「ほうほう♪」
「空蝉さん、ふと、そこはかとない気配に気づく」
「お!さっすが勘がいいわねん♪」
「と同時に、あたり一面にぱーっと広がる、覚えのある香り。こ、これはもしかして!」
「もしかしなくてもー♪」
「ヒカル王子、またしても!几帳に引っ掛けてある着物の隙間、暗いなかでもはっきりわかる、にじり寄る人影」
「ドキドキ!」
「これはなんとしたことかしら、どうしよう、どうしたらいいのかしらとパニクる空蝉さん、やおら身を起こし、やわ絹の薄い着物一つはおって、そうっと床を這い出した」
「え?一人で?」
「そ。一人よ。
そうとも知らず入ってきたヒカル、女性がたった一人寝ている様子に、心の中でガッツポーズ。
一段下のところには二人ほど誰か寝てるようだけど、かまうもんかい、と、布団代わりの着物を押しやって、そっと寄り添う」
「きゃー!狼が来たー!荻ちゃんっ、逃げるのよっ」
「ん?なんかこの間より大柄なような気がする??」
「失礼ねーヒカル」
「しかも荻ちゃん、寝起きが悪くてなかなか目を覚まさない。
なんかおかしいな?あんときはすぐ……あれれ全然違うじゃん、と徐々に事情がわかってきた」
「ぷっ(笑)」
「王子、マジかよ!と驚愕するも、頭の中は素早く計算。
『人違いでしたごめんねーなんてオロオロすんのもカッコ悪いし、お間抜けだよな。かといって本命の空蝉ちゃん、こんなふうに逃げるばっかりの女を今からまた探しにいくってのも、なんかストーカーみたいだし、ダサ……』などと思う」
「みたいじゃなく、そのものじゃんねえ。ストーカー」
「『それにこのコ、あのとき灯りの下で見た、あの可愛いコだよね。別にこっちでも全然OK♪なわけだしー』」
「きゃー、サイテー!ていうか空蝉さんもたいしたタマじゃない?義理の娘を置いてきぼりにするとは」
「あはは。さて当の軒端の荻ちゃん、やっと目が覚めたものの何がなんだかわからない。知らない間に知らない男が枕元にいる、という事実に、ただただビックリ仰天、深く考える余裕もないから、ヒカルの様子がおかしいことにもゼーンゼン気がつかない」
「そりゃそうよ、怖いってフツー」
「ところが案外、この荻ちゃん、おマセさんだった」
「え。経験アリ?」
「いや、なかったんだけどさ。耳年増っていうの?なんとなく心得てるっていうかー、とにかく空蝉さんみたいに、全身で拒否!ってことはしなかった」
「なーるほど。まあ、王子カッコいいしね。女扱いも慣れてるだろうし。あたしだって拒否る自信ないわー、ていうかもう、即カモナマイハウス♪かもー、きゃー言っちゃったきゃー」
「はいはい。で、ヒカルは、自分の素性を明かしたくはなかったんだけど、
『なーんにも知らないこのコにしたら、どういう事情でこういうことになったのか、後々悩むかもなあ、俺的にはなんてことないけど、あの強情な女はやたら世間体を気にしてたし、ヘンにこの家がもめるのもさすがに後ろめたい』
なーんて思って、何度か方違えに来てたご縁でたまたま忍んできたんだよん、てことにして、うまくとりつくろったわけ」
「ほうほう、その辺は百戦錬磨の二枚舌ってやつですな」
「まあね。空蝉さんみたいな人なら、嘘とか言い訳だとかすぐ気づくだろうけど、間違えられた軒端の荻ちゃんはまだ若いし突然のことでテンパってるし、とてもそこまでは頭がまわらないのね」
「まあ、いくらおませに見えたとしても、男の本音を見抜けるまでにはねー♪まだまだ修行が必要よねー♪」
「そうね。王子にとって荻ちゃんは、決してキライなタイプじゃないんだけど、とりたててどう、っていうこともなかったわけね。だからなおさら『あの忌々しい女』の気持ちが恨めしい~」
「オイオイやることやっててそりゃないでしょヒカルっ」
「『こそこそ逃げ出して、今頃はしてやったりと思っているんだろうなあ。ここまで強情な女はめったにいないよマジ』
と思いつつ、忘れることも出来ずついつい考えてしまう」
「うーん、目の前の可愛いピチピチ娘より、ツンデレ……ていうかツンツン?人妻ですか(笑)」
「だから侍従ちゃんオヤジくさいって(笑)ま、そうはいっても荻ちゃんの素直で若々しい様子もなかなかイケてるので、ヒカルも悪い気はせず、愛情こまやかに口説き倒す」
「ふんふん、聞かせてもらおうじゃないの」
「『世間に認められた仲よりも、こういう秘密の仲のほうが燃えるもの、と昔の人も言ってます。私があなたを思うのと同じくらい、あなたも私のことを思ってください。隠さねばならぬ事情がなきにしもあらずな(つまり妻もちの)私ですから、わが身ながらも思うに任せないのです。また親御さんたちにもきっと許してもらえないだろうと、今から胸を痛めております。忘れないで待っていてくださいねー』」
「あらまあ、教科書に載せたいくらいの常套句ねえ」
「何の教科書よ侍従ちゃん。ま、とにかく歯の浮くようなセリフを恥ずかしげもなく連発したわけね。若い荻ちゃん、
『他人がどう思うかと恥ずかしくて、お手紙も差し上げられませんわ』
なんて無邪気に言ったりして、ヒカルもにこやかに
『むやみに誰彼となく言わないで、この小さい殿上童(少年のこと)にこっそりお手紙を託しますからね。どうか何気なく振舞っていてください』
なんて適当に言いくるめて、とりあえずその場をおさめて出てったわけ。空蝉さんが脱ぎ捨てたとおぼしき薄衣を手に取って、ね」
「ゲットー!と思ったら中からっぽ。あ、なーるほど。『空蝉』の術ー♪てわけね(笑)」
「そうそう♪
で、少年ね。屋敷の外に出るには、やっぱり少年が必要。すぐ近くに寝ていたのを起こしたら、彼もちょっと後ろめたい気持ちがしていたのかぱっと目を覚ました」
「気の毒ねえ、少年(泣)」
「そうっと戸を押し開けると、年老いたメイドさん(女房)が向こうから
『誰?そこにいるのは』
なんて大声で聞いてきた」
「ピーンチ!少年」
「面倒だなと思いながらも少年『僕だよ』と答えるんだけど、オババしつこい
『こんな夜中に、なんで外を出歩くわけ?』
と余計な世話を焼き、外に出てくる。少年うわー、やめてくれよう状態で
『出歩くわけじゃありません。ちょっとその辺に出るだけですからっ』
といいながら、急いでヒカルを押し出すと、夜明け近い月の光があたり一面明るく照らし出したもんだから、ふと影が見えちゃったのね、オババに。
『あら、もうお一方は、はてどなたかしら』」
「げげっ!見つかっちゃった?」
「オババ、年だからね。
『あら、民部のおもとさんなのね。けっこうな背丈ですこと』
と勝手に間違えてくれた」
「平安時代って、背の高さは美点じゃなかったからねえ、女子には」
「そうそう。だからオババ、てっきり少年がそのおもとさんと内緒で夜の散歩、だと思い込んだみたいで
『ま、そのうちにあなたも同じくらいの背丈になるでしょうよ』
なんてからかいながら、ずかずか自分も外に出てきた」
「ヤバイじゃん!(笑)」
「そ、非常にキッツイ状況(笑)だけどまさか押し返すわけにもいかないから、渡り廊下の戸口にヒカル王子を隠して立ってたんだけど、このオババさらににじり寄って
『あなた、今宵は上の棟にいらしたの?おとといから私はお腹の具合が悪くてねえ、どうも調子が出ないもんだから奥に下がってたのに、人が少ないからって昨夜呼ばれちゃってさ。う、やっぱりダメみたいだわ』
と顔をしかめる」
「誰かに聞いてほしかったわけね、オババ」
「そうかもね。結局オババ『腹が、腹が、いたたた。ではまた後で』
なんつって一切気がつかないまま通り過ぎてっちゃったから、やっとこ二人は外に出られたってわけ」
「間一髪ってやつねー」
「そうね。ヒカル王子も、さすがに『こんな、コドモを手引きに使って忍び歩きなんて無謀な真似、やめときゃよかったなあ。ふー。なんか疲れた。もうコリゴリ』と思った……かもしれない」
「でもまたやるよね、きっと。このヒト」
「あはは。どうだかね」
・・・・・・・
「ところでさ、右近ちゃん」
「なあに、侍従ちゃん」
「この『オババ』っていくつくらいなんだろ」
「三十過ぎってとこじゃない?平安時代なんて、結婚は普通十代だし、二十歳過ぎたらもう年増扱い、三十路なんかもうオバサンどころか婆……あら?なんか石が」
「キャー!なんか一杯投げられてきたー!何ー?!ポルターガイストー?!」
「逃げるのよー!」
<空蝉 その3最終話 につづくっ>
参考HP「源氏物語の世界」
「侍従ちゃんてば・・・今時B級映画でもこんなベタな煽りしないって」
「あら右近ちゃん、わかってないわね。時代はいつも王道を求めるものなのよ♪」
「(王道の解釈ちがくない?)まあいいわ、続きつづき」
・・・・・・
「まさかヒカルが三たび忍び込んでいるとは、夢にも思ってない空蝉さん。きっと私のことなんてもうお忘れね、やれよかった、と思いつつも、あの妖しい夢のような一夜が昼も夜も頭から離れない」
「ほうほう。つれないそぶりをしてはいても、やっぱテキは超絶モテ男のセレブイケメン。とても平静ではいられないわっ」
「春先に次々と芽吹く木の芽のように」
「……木の目さん?」
「(笑)ありありと目に浮かぶアレコレで、とてもじゃないけど熟睡できない日々が続いたりして」
「ヤバーイ、やっぱり羨ましー」
「そこに何も知らない軒端の荻ちゃんが無邪気に『一緒に寝ましょ♪』なんてやってきた」
「ふむふむ。さっきのエロ可愛い若い娘ね、むひひ」
「侍従ちゃん、オヤジくさい。で、キャッキャッおしゃべりしてたと思ったら荻ちゃんあっというまに爆睡」
「ほうほう♪」
「空蝉さん、ふと、そこはかとない気配に気づく」
「お!さっすが勘がいいわねん♪」
「と同時に、あたり一面にぱーっと広がる、覚えのある香り。こ、これはもしかして!」
「もしかしなくてもー♪」
「ヒカル王子、またしても!几帳に引っ掛けてある着物の隙間、暗いなかでもはっきりわかる、にじり寄る人影」
「ドキドキ!」
「これはなんとしたことかしら、どうしよう、どうしたらいいのかしらとパニクる空蝉さん、やおら身を起こし、やわ絹の薄い着物一つはおって、そうっと床を這い出した」
「え?一人で?」
「そ。一人よ。
そうとも知らず入ってきたヒカル、女性がたった一人寝ている様子に、心の中でガッツポーズ。
一段下のところには二人ほど誰か寝てるようだけど、かまうもんかい、と、布団代わりの着物を押しやって、そっと寄り添う」
「きゃー!狼が来たー!荻ちゃんっ、逃げるのよっ」
「ん?なんかこの間より大柄なような気がする??」
「失礼ねーヒカル」
「しかも荻ちゃん、寝起きが悪くてなかなか目を覚まさない。
なんかおかしいな?あんときはすぐ……あれれ全然違うじゃん、と徐々に事情がわかってきた」
「ぷっ(笑)」
「王子、マジかよ!と驚愕するも、頭の中は素早く計算。
『人違いでしたごめんねーなんてオロオロすんのもカッコ悪いし、お間抜けだよな。かといって本命の空蝉ちゃん、こんなふうに逃げるばっかりの女を今からまた探しにいくってのも、なんかストーカーみたいだし、ダサ……』などと思う」
「みたいじゃなく、そのものじゃんねえ。ストーカー」
「『それにこのコ、あのとき灯りの下で見た、あの可愛いコだよね。別にこっちでも全然OK♪なわけだしー』」
「きゃー、サイテー!ていうか空蝉さんもたいしたタマじゃない?義理の娘を置いてきぼりにするとは」
「あはは。さて当の軒端の荻ちゃん、やっと目が覚めたものの何がなんだかわからない。知らない間に知らない男が枕元にいる、という事実に、ただただビックリ仰天、深く考える余裕もないから、ヒカルの様子がおかしいことにもゼーンゼン気がつかない」
「そりゃそうよ、怖いってフツー」
「ところが案外、この荻ちゃん、おマセさんだった」
「え。経験アリ?」
「いや、なかったんだけどさ。耳年増っていうの?なんとなく心得てるっていうかー、とにかく空蝉さんみたいに、全身で拒否!ってことはしなかった」
「なーるほど。まあ、王子カッコいいしね。女扱いも慣れてるだろうし。あたしだって拒否る自信ないわー、ていうかもう、即カモナマイハウス♪かもー、きゃー言っちゃったきゃー」
「はいはい。で、ヒカルは、自分の素性を明かしたくはなかったんだけど、
『なーんにも知らないこのコにしたら、どういう事情でこういうことになったのか、後々悩むかもなあ、俺的にはなんてことないけど、あの強情な女はやたら世間体を気にしてたし、ヘンにこの家がもめるのもさすがに後ろめたい』
なーんて思って、何度か方違えに来てたご縁でたまたま忍んできたんだよん、てことにして、うまくとりつくろったわけ」
「ほうほう、その辺は百戦錬磨の二枚舌ってやつですな」
「まあね。空蝉さんみたいな人なら、嘘とか言い訳だとかすぐ気づくだろうけど、間違えられた軒端の荻ちゃんはまだ若いし突然のことでテンパってるし、とてもそこまでは頭がまわらないのね」
「まあ、いくらおませに見えたとしても、男の本音を見抜けるまでにはねー♪まだまだ修行が必要よねー♪」
「そうね。王子にとって荻ちゃんは、決してキライなタイプじゃないんだけど、とりたててどう、っていうこともなかったわけね。だからなおさら『あの忌々しい女』の気持ちが恨めしい~」
「オイオイやることやっててそりゃないでしょヒカルっ」
「『こそこそ逃げ出して、今頃はしてやったりと思っているんだろうなあ。ここまで強情な女はめったにいないよマジ』
と思いつつ、忘れることも出来ずついつい考えてしまう」
「うーん、目の前の可愛いピチピチ娘より、ツンデレ……ていうかツンツン?人妻ですか(笑)」
「だから侍従ちゃんオヤジくさいって(笑)ま、そうはいっても荻ちゃんの素直で若々しい様子もなかなかイケてるので、ヒカルも悪い気はせず、愛情こまやかに口説き倒す」
「ふんふん、聞かせてもらおうじゃないの」
「『世間に認められた仲よりも、こういう秘密の仲のほうが燃えるもの、と昔の人も言ってます。私があなたを思うのと同じくらい、あなたも私のことを思ってください。隠さねばならぬ事情がなきにしもあらずな(つまり妻もちの)私ですから、わが身ながらも思うに任せないのです。また親御さんたちにもきっと許してもらえないだろうと、今から胸を痛めております。忘れないで待っていてくださいねー』」
「あらまあ、教科書に載せたいくらいの常套句ねえ」
「何の教科書よ侍従ちゃん。ま、とにかく歯の浮くようなセリフを恥ずかしげもなく連発したわけね。若い荻ちゃん、
『他人がどう思うかと恥ずかしくて、お手紙も差し上げられませんわ』
なんて無邪気に言ったりして、ヒカルもにこやかに
『むやみに誰彼となく言わないで、この小さい殿上童(少年のこと)にこっそりお手紙を託しますからね。どうか何気なく振舞っていてください』
なんて適当に言いくるめて、とりあえずその場をおさめて出てったわけ。空蝉さんが脱ぎ捨てたとおぼしき薄衣を手に取って、ね」
「ゲットー!と思ったら中からっぽ。あ、なーるほど。『空蝉』の術ー♪てわけね(笑)」
「そうそう♪
で、少年ね。屋敷の外に出るには、やっぱり少年が必要。すぐ近くに寝ていたのを起こしたら、彼もちょっと後ろめたい気持ちがしていたのかぱっと目を覚ました」
「気の毒ねえ、少年(泣)」
「そうっと戸を押し開けると、年老いたメイドさん(女房)が向こうから
『誰?そこにいるのは』
なんて大声で聞いてきた」
「ピーンチ!少年」
「面倒だなと思いながらも少年『僕だよ』と答えるんだけど、オババしつこい
『こんな夜中に、なんで外を出歩くわけ?』
と余計な世話を焼き、外に出てくる。少年うわー、やめてくれよう状態で
『出歩くわけじゃありません。ちょっとその辺に出るだけですからっ』
といいながら、急いでヒカルを押し出すと、夜明け近い月の光があたり一面明るく照らし出したもんだから、ふと影が見えちゃったのね、オババに。
『あら、もうお一方は、はてどなたかしら』」
「げげっ!見つかっちゃった?」
「オババ、年だからね。
『あら、民部のおもとさんなのね。けっこうな背丈ですこと』
と勝手に間違えてくれた」
「平安時代って、背の高さは美点じゃなかったからねえ、女子には」
「そうそう。だからオババ、てっきり少年がそのおもとさんと内緒で夜の散歩、だと思い込んだみたいで
『ま、そのうちにあなたも同じくらいの背丈になるでしょうよ』
なんてからかいながら、ずかずか自分も外に出てきた」
「ヤバイじゃん!(笑)」
「そ、非常にキッツイ状況(笑)だけどまさか押し返すわけにもいかないから、渡り廊下の戸口にヒカル王子を隠して立ってたんだけど、このオババさらににじり寄って
『あなた、今宵は上の棟にいらしたの?おとといから私はお腹の具合が悪くてねえ、どうも調子が出ないもんだから奥に下がってたのに、人が少ないからって昨夜呼ばれちゃってさ。う、やっぱりダメみたいだわ』
と顔をしかめる」
「誰かに聞いてほしかったわけね、オババ」
「そうかもね。結局オババ『腹が、腹が、いたたた。ではまた後で』
なんつって一切気がつかないまま通り過ぎてっちゃったから、やっとこ二人は外に出られたってわけ」
「間一髪ってやつねー」
「そうね。ヒカル王子も、さすがに『こんな、コドモを手引きに使って忍び歩きなんて無謀な真似、やめときゃよかったなあ。ふー。なんか疲れた。もうコリゴリ』と思った……かもしれない」
「でもまたやるよね、きっと。このヒト」
「あはは。どうだかね」
・・・・・・・
「ところでさ、右近ちゃん」
「なあに、侍従ちゃん」
「この『オババ』っていくつくらいなんだろ」
「三十過ぎってとこじゃない?平安時代なんて、結婚は普通十代だし、二十歳過ぎたらもう年増扱い、三十路なんかもうオバサンどころか婆……あら?なんか石が」
「キャー!なんか一杯投げられてきたー!何ー?!ポルターガイストー?!」
「逃げるのよー!」
<空蝉 その3最終話 につづくっ>
参考HP「源氏物語の世界」
空蝉(一)
「でさ、侍従ちゃん」
「なあに?右近ちゃん」
「この彼女……伊予介の奥さんね、こっから『空蝉さん』て呼ぶから」
「うつせみ・・・・って、蝉の抜け殻のことだよね。なんで?」
「理由を言っちゃうとネタバレしちゃうから、内緒♪」
初めての敗北、屈辱にまみれ眠れない夜を過したヒカルに明日はあるか?!次の一手は?乞うご期待!
「だから、アオリはもういいって侍従ちゃん(笑)」
「や、つい(笑)」
「さて、プライドズッタズタのヒカル王子、
『こんなの初めて。世の中のキビシサを思い知ったよ、うう。恥ずかしくてもう死んでしまいたい』
とめそめそ泣きながらも、次への布石は忘れない」
「何それ、どゆこと」
「あの少年よ、少年」
「・・・え?まだいたの?」
「そうよー。空蝉さんの代わりだもの」
「ふーん・・・・って!えええ!代わりってソレは何の代わりっ」
「やあねえ侍従ちゃんたら、こういうことはスルーなさいっていつも言ってるのに。珍しい話じゃないでしょ今も昔も。とにかく彼をおさえとかないことには、次もないしね」
「お、王子ったら(絶句)見境ないわね…ていうか手段を選ばないってか」
「おかげで少年、すっかり舞い上がる。とっとと帰っちゃったヒカル王子を
『本来ならお歌でもかわして、後朝の別れってやつなのに』
なんてちょっと恨んだりなんかして」
「罪深いやつよのう…で、空蝉さんは?あーせいせいしたわって感じ?」
「いや、こっちはこっちで複雑なのよー。
『ちょっとやり過ぎちゃったかしら・・・あれきりお手紙も来ないし。きっともうコリゴリだと思ってらっしゃるのね。
でもでも!もしつきあったとしても…私みたいな身分も低いパッとしない女とそんなに長続きするとは思えない。最初はよくても、だんだん関係が冷えてって、ついには自然消滅ってパターンよね絶対。 こんなに強引で傲慢、上から目線なやり口が続くのもなーんか微妙だし。
やっぱり、最初から何もなかったことにするのが一番無難なの!そうなのよ!そうに決まった!』
なーんて思いつつ、心は乱れて物思いにふける日々なわけよ」
「うーん、羨ましいような、気の毒なような」
「王子の方も、超ムカツクーと思いながらも気になって仕方ない。迂闊に誰にも言えないから余計。話せるのはただ一人あの少年だけ。
『もうほんとにつらいやら情けないやらで、忘れようにも忘れられないよー。またチャンスがあったら、今度こそ会えるようにしてよ!ねっ頼むよ!』」
「で、がんばるわけね、少年(笑)」
「そ。チャンスはまた巡ってくる、それも完全無欠なチャンスが!」
「わくわく!それは?!」
「息子の紀伊守が、仕事でいったん地元に戻ることに」
「とすると家には、男あるじは居ない状態」
「夕闇に紛れて、屋敷に向かう牛車。早く早く、門に鎖がかかる前に。だがあくまで目立たず地味にひっそりと」
「ふんふん。やるね少年」
「番人たちも、相手が子どもだからあっさりスルー。まんまと、ヒカル王子を中に入れることに成功」
「よっしゃあバッチコーイ!」
「って侍従ちゃん、どっちの味方なのよ(笑)
とりあえず王子を東の妻戸の前に立たせておいて、自分は南側の部屋の格子を叩いて声をかけた。ま、ちょっと大げさにやったわけね。隠れてるヒカルに注意を向けないため。
『そんなに叩かなくても丸見えよー』
とメイドさんたちの声。
『この暑いのに、なんで格子なんか下ろしてるの?』
『昼から、西のお嬢さんがいらしてて、碁を打って遊んでるから、一応見えないようにしてるのよ』
おお、なんとラッキー。これは是非拝見せねば、と色めき立つヒカル王子、簾の間からすっと中に入る」
「西のお嬢さんって、伊予介の娘でしょ。たしか軒端の荻ちゃんって言うんだっけ、イマドキな感じで可愛いコよね」
「そ。王子はそうっと隅っこに寄って覗き込むんだけど、なにしろ暑いもんだから屏風も衝立(几帳)も置き方がいい加減で、ほとんどゼーンブ見通せたわけ」
「ほうほう、つまりスキだらけだったと」
「まあ、『中の品』、つまりはフツーのお家だもんね。王子の正妻さんのお屋敷みたいに、奥の奥まで格式ばってるワケないわよ。
とにかく目当ての人はすぐ察しがついた。二人のすぐ近くに灯りが置いてあったしね。空蝉さんは濃い紫の綾の単がさねっていうの?その上にもう一枚長めの上着着てた」
「なんか…地味?つかオバサンくさくね?真夏なのに」
「いやいや、それが『お品がある』っていうのよ。ダンナも紀伊守もいないし、お客が来てるわけでもない、普通なら気抜いてもおかしくないシチュエーションなのに、顔や手があらわにならないようさりげなく気をつかう平安女性のたしなみっつうかね」
「へー。継娘ちゃん相手にねえ。アタシなんか実家じゃ、羽伸ばしーのぐーたら放題だけどなあ」
「ドコで誰が見てるかわかんないんだから、オンナは常に気を抜いちゃダメってことなのよ、侍従ちゃん♪ 現に軒端の荻ちゃんは油断しすぎて、超くだけた格好だったわけ。まさか覗かれてるなんて思ってないんだから無理ないけどさ」
「えぇ?どどど、どんな」
「白い羅紗の単がさねに、水色の短い上着みたいなやつを適当にはおってるだけ。胸もガバっとあいてて腰紐の結んでるとこから下の袴も丸見え状態」
「ヒエー!白の羅紗って、それシースルーじゃん!しかもヘソ出し同然!エロすぎー!」
「侍従ちゃん、喜びすぎ。まあヒカル王子も男だからね、おぉお♪ こっちのほうが若くて可愛いじゃん!いいじゃん!とワクテカしたものの、なぜか大して美人でもなく華やかでもない年増の空蝉さんの方に目がいってしまう」
「へー、なんでー?男はやっぱり若い方がいいんちゃうん?」
「なんで急に関西弁に(笑)侍従ちゃん、なんか身に覚えでも?ま、いいや。やっぱりさ、あけっぴろげで素直なのも若さゆえのご愛嬌ってもんだけど、度が過ぎると単なるガサツよね。空蝉さんはすべてにおいて控えめで女らしくて、またそれが人前だから繕ってるのではなく、本当に素がソレなんだから貴重ってことに王子も気がついたわけ。
ほら例の、『こんな下賎な場所にこんなイイ女が!』ってパターンよ」
「ふむふむ。一見地味で目立たない感じだけど、他の女にはない、一本筋の通った空蝉さんだからこそ、王子のハートを鷲掴みして離さなかったわけね」
「そゆこと。さて、夜も更けてまいりました」
「あちこちで戸や格子を閉める音♪」
「何食わぬ顔で、メイドさんたちに指示出しする少年。もちろん姉さんがどこに寝るのかチェックは忘れない♪」
「物陰で待機中のヒカル王子はもう待ち遠しさMAX。少年に
『ねーねーマダー?今日もまたダメ、ってゆわれたら僕しんじゃうかも』
なんて文句をたれる」
「ワガママねー。で少年は」
「”今は人が居ますから、お待ち下さい。必ずなんとかいたします”」
「少年のほうが冷静じゃん(笑)」
「そ・の・う・え、王子がナニ聞いたと思う?
『そういえばさ、紀伊守の妹もここにいるって言うじゃない?ちょっと覗かしてよ』」
「サイテー(笑)さっきシッカリ見たくせに」
「少年
『ムリです。仕切りや衝立もきっちり置いてありますから』
とバッサリ」
「あたりまえじゃん(呆)…どんだけ図々しいのヒカル」
「さてみんなしかるべき場所に落ち着いたあと、少年が入り口近くに寝るといって最後に入る、ここ風通しがいいからねーなんていいつつ」
「でも本当は通るのは風ばかりではなく♪」
「冴えてるわねー侍従ちゃん♪
しんと静まり返った屋敷内に、あるかなきかの風のごと、かすかに響く衣擦れの音」
「まだ、誰も気づかない」
「物思いがちで眠れない、空蝉さえもまだ」
「夜は長いわねー♪右近ちゃん」
「長いのよー♪侍従ちゃん」
<空蝉その2につづく>
参考HP「源氏物語の世界」
「なあに?右近ちゃん」
「この彼女……伊予介の奥さんね、こっから『空蝉さん』て呼ぶから」
「うつせみ・・・・って、蝉の抜け殻のことだよね。なんで?」
「理由を言っちゃうとネタバレしちゃうから、内緒♪」
初めての敗北、屈辱にまみれ眠れない夜を過したヒカルに明日はあるか?!次の一手は?乞うご期待!
「だから、アオリはもういいって侍従ちゃん(笑)」
「や、つい(笑)」
「さて、プライドズッタズタのヒカル王子、
『こんなの初めて。世の中のキビシサを思い知ったよ、うう。恥ずかしくてもう死んでしまいたい』
とめそめそ泣きながらも、次への布石は忘れない」
「何それ、どゆこと」
「あの少年よ、少年」
「・・・え?まだいたの?」
「そうよー。空蝉さんの代わりだもの」
「ふーん・・・・って!えええ!代わりってソレは何の代わりっ」
「やあねえ侍従ちゃんたら、こういうことはスルーなさいっていつも言ってるのに。珍しい話じゃないでしょ今も昔も。とにかく彼をおさえとかないことには、次もないしね」
「お、王子ったら(絶句)見境ないわね…ていうか手段を選ばないってか」
「おかげで少年、すっかり舞い上がる。とっとと帰っちゃったヒカル王子を
『本来ならお歌でもかわして、後朝の別れってやつなのに』
なんてちょっと恨んだりなんかして」
「罪深いやつよのう…で、空蝉さんは?あーせいせいしたわって感じ?」
「いや、こっちはこっちで複雑なのよー。
『ちょっとやり過ぎちゃったかしら・・・あれきりお手紙も来ないし。きっともうコリゴリだと思ってらっしゃるのね。
でもでも!もしつきあったとしても…私みたいな身分も低いパッとしない女とそんなに長続きするとは思えない。最初はよくても、だんだん関係が冷えてって、ついには自然消滅ってパターンよね絶対。 こんなに強引で傲慢、上から目線なやり口が続くのもなーんか微妙だし。
やっぱり、最初から何もなかったことにするのが一番無難なの!そうなのよ!そうに決まった!』
なーんて思いつつ、心は乱れて物思いにふける日々なわけよ」
「うーん、羨ましいような、気の毒なような」
「王子の方も、超ムカツクーと思いながらも気になって仕方ない。迂闊に誰にも言えないから余計。話せるのはただ一人あの少年だけ。
『もうほんとにつらいやら情けないやらで、忘れようにも忘れられないよー。またチャンスがあったら、今度こそ会えるようにしてよ!ねっ頼むよ!』」
「で、がんばるわけね、少年(笑)」
「そ。チャンスはまた巡ってくる、それも完全無欠なチャンスが!」
「わくわく!それは?!」
「息子の紀伊守が、仕事でいったん地元に戻ることに」
「とすると家には、男あるじは居ない状態」
「夕闇に紛れて、屋敷に向かう牛車。早く早く、門に鎖がかかる前に。だがあくまで目立たず地味にひっそりと」
「ふんふん。やるね少年」
「番人たちも、相手が子どもだからあっさりスルー。まんまと、ヒカル王子を中に入れることに成功」
「よっしゃあバッチコーイ!」
「って侍従ちゃん、どっちの味方なのよ(笑)
とりあえず王子を東の妻戸の前に立たせておいて、自分は南側の部屋の格子を叩いて声をかけた。ま、ちょっと大げさにやったわけね。隠れてるヒカルに注意を向けないため。
『そんなに叩かなくても丸見えよー』
とメイドさんたちの声。
『この暑いのに、なんで格子なんか下ろしてるの?』
『昼から、西のお嬢さんがいらしてて、碁を打って遊んでるから、一応見えないようにしてるのよ』
おお、なんとラッキー。これは是非拝見せねば、と色めき立つヒカル王子、簾の間からすっと中に入る」
「西のお嬢さんって、伊予介の娘でしょ。たしか軒端の荻ちゃんって言うんだっけ、イマドキな感じで可愛いコよね」
「そ。王子はそうっと隅っこに寄って覗き込むんだけど、なにしろ暑いもんだから屏風も衝立(几帳)も置き方がいい加減で、ほとんどゼーンブ見通せたわけ」
「ほうほう、つまりスキだらけだったと」
「まあ、『中の品』、つまりはフツーのお家だもんね。王子の正妻さんのお屋敷みたいに、奥の奥まで格式ばってるワケないわよ。
とにかく目当ての人はすぐ察しがついた。二人のすぐ近くに灯りが置いてあったしね。空蝉さんは濃い紫の綾の単がさねっていうの?その上にもう一枚長めの上着着てた」
「なんか…地味?つかオバサンくさくね?真夏なのに」
「いやいや、それが『お品がある』っていうのよ。ダンナも紀伊守もいないし、お客が来てるわけでもない、普通なら気抜いてもおかしくないシチュエーションなのに、顔や手があらわにならないようさりげなく気をつかう平安女性のたしなみっつうかね」
「へー。継娘ちゃん相手にねえ。アタシなんか実家じゃ、羽伸ばしーのぐーたら放題だけどなあ」
「ドコで誰が見てるかわかんないんだから、オンナは常に気を抜いちゃダメってことなのよ、侍従ちゃん♪ 現に軒端の荻ちゃんは油断しすぎて、超くだけた格好だったわけ。まさか覗かれてるなんて思ってないんだから無理ないけどさ」
「えぇ?どどど、どんな」
「白い羅紗の単がさねに、水色の短い上着みたいなやつを適当にはおってるだけ。胸もガバっとあいてて腰紐の結んでるとこから下の袴も丸見え状態」
「ヒエー!白の羅紗って、それシースルーじゃん!しかもヘソ出し同然!エロすぎー!」
「侍従ちゃん、喜びすぎ。まあヒカル王子も男だからね、おぉお♪ こっちのほうが若くて可愛いじゃん!いいじゃん!とワクテカしたものの、なぜか大して美人でもなく華やかでもない年増の空蝉さんの方に目がいってしまう」
「へー、なんでー?男はやっぱり若い方がいいんちゃうん?」
「なんで急に関西弁に(笑)侍従ちゃん、なんか身に覚えでも?ま、いいや。やっぱりさ、あけっぴろげで素直なのも若さゆえのご愛嬌ってもんだけど、度が過ぎると単なるガサツよね。空蝉さんはすべてにおいて控えめで女らしくて、またそれが人前だから繕ってるのではなく、本当に素がソレなんだから貴重ってことに王子も気がついたわけ。
ほら例の、『こんな下賎な場所にこんなイイ女が!』ってパターンよ」
「ふむふむ。一見地味で目立たない感じだけど、他の女にはない、一本筋の通った空蝉さんだからこそ、王子のハートを鷲掴みして離さなかったわけね」
「そゆこと。さて、夜も更けてまいりました」
「あちこちで戸や格子を閉める音♪」
「何食わぬ顔で、メイドさんたちに指示出しする少年。もちろん姉さんがどこに寝るのかチェックは忘れない♪」
「物陰で待機中のヒカル王子はもう待ち遠しさMAX。少年に
『ねーねーマダー?今日もまたダメ、ってゆわれたら僕しんじゃうかも』
なんて文句をたれる」
「ワガママねー。で少年は」
「”今は人が居ますから、お待ち下さい。必ずなんとかいたします”」
「少年のほうが冷静じゃん(笑)」
「そ・の・う・え、王子がナニ聞いたと思う?
『そういえばさ、紀伊守の妹もここにいるって言うじゃない?ちょっと覗かしてよ』」
「サイテー(笑)さっきシッカリ見たくせに」
「少年
『ムリです。仕切りや衝立もきっちり置いてありますから』
とバッサリ」
「あたりまえじゃん(呆)…どんだけ図々しいのヒカル」
「さてみんなしかるべき場所に落ち着いたあと、少年が入り口近くに寝るといって最後に入る、ここ風通しがいいからねーなんていいつつ」
「でも本当は通るのは風ばかりではなく♪」
「冴えてるわねー侍従ちゃん♪
しんと静まり返った屋敷内に、あるかなきかの風のごと、かすかに響く衣擦れの音」
「まだ、誰も気づかない」
「物思いがちで眠れない、空蝉さえもまだ」
「夜は長いわねー♪右近ちゃん」
「長いのよー♪侍従ちゃん」
<空蝉その2につづく>
参考HP「源氏物語の世界」
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