2013年2月22日金曜日

空蝉(三)最終話

「ふー、さぶっ。まだまだ外は寒いわね侍従ちゃん」
「えー右近ちゃん、でも昨日より大分マシじゃない?天気いいしさ。まさに三寒四温てやつ?」
「確かに。節分過ぎると春に向かうってホントね。昔の人は凄いわー」

・・・しばしお茶を啜る二人・・・

「では行きますか。空蝉最終話ー♪」
「いよっまってましたー♪」



「さて、空蝉の術にまんまとしてやられてすっかりヘコんだヒカル王子、少年を車の後部座席に乗せ、すごすごとおうち(二条院)に帰る」


「あら、少年またおつきあい?」

「そうよー。ヒカル王子、もう誰かに愚痴らないとやってらんない状態、
『あんなふうに逃げ出すなんて、何も知らない小娘じゃあるまいし。そう思わなーい?少年』
なんて、爪をプチプチ弾きながら恨み言をぶつぶつ」

「少年、大変ね……つか王子、オヤジくさい」

「確かにミットモナイことになっちゃったからね、少年もさすがに王子が気の毒で、何とも慰めようもない。

『どんだけとことん嫌われてんのかな俺。自分がイヤになっちゃうよ。なんで、逢ってくれなくてもせめて、お返事だけでもしてくんないかなー。俺、あの伊予介じいさんにも劣るってことなんだね。超冷たくない?』」

「あ、どさくさに紛れてまた失礼なことを(笑)」

「なんていいつつも、さっき持ってきた空蝉さんの小袿を、掛け布団と一緒にはおったりなんかして

「えー?ヤダなにそれ…ドン引き…」

「少年はまたも空蝉さんの代わりに夜のおもてなし」

「ヒカル王子、ヤケくそだね、もう(笑)」

「『君は可愛いけど、あんなつれない女の弟なんだもんねー。いつまでかわいがってやれるかわかったもんじゃないもんねーっ』
少年、しょんぼり」

「ひっどー。完全八つ当たりじゃん」

「そんなこんなでゴロゴロうだうだしてて眠れないヒカル王子、突然思いたって硯を持ってこさせる」

「お、後朝の文ですか♪」

「一応ね。でもヒカル王子完全にやさぐれちゃってるから、空蝉ちゃんとは最初の一回きりで、今夜もその前もナーんにもなかったんだもんねーだからちゃんとした形式じゃあ書きたくないんだもーん、て、いかにもいい加減に流し書きしましたよって感じの紙を少年に持たせたわけ。 こんなふうに

『殻を脱ぎ捨てた蝉のように逃げ去った貴方ですが

それでもなお、その人柄が恋しくてたまりません』」

「ほうほう、殻と柄をかけてるわけね。で、軒端の萩ちゃんには?」

「な し」

「えぇえ、やることやっといてスルーですかー?」

「あまり事をはっきりさせると、萩ちゃんにもつらいことになるしねー。特に人間違いされちゃったなんてことバレたら、とんでもなくまずいじゃん」

「うわーそれショックなんてもんじゃないわよね。まだ若い盛りだってのに。いくら現代よりユルイ感じの通い婚っていっても、今後の縁談にも差し支えるってもんよね」

「王子にとっても不名誉だし、こじれること確実だから、要はこれ以上関わりあいたくない(笑)。だけど王子は未練がましく、空蝉さんの香りつきの小袿を身近に置いて眺めてんのよね」

「おいおい、匂いフェチ?って平安時代の特徴ね、そこにこだわるのは」

「さて、お手紙を受け取った空蝉さんはどうしたかというと」

「少年をめたくそ叱り飛ばしたっ」

「ピンポーン♪

『とんでもないことをしてくれたわねっ。なんとか人目はごまかしても、誰がどう思うかなんて知れたものではなくてよっ。本当に困ったこと。アナタみたいな幼い子供にこんな浅はかなことやらせて、ヒカル王子だってナニ考えてらっしゃるのかしらっ』

とえらい剣幕」

「あーあ少年、あっちでもこっちでも叱られて(泣)」

「それでも空蝉さん、さすがに例のお手紙は手に取って見てみた。私が脱ぎ捨てた衣【伊勢の海人のように】汗臭くなかったかしら、と思うと、いてもたってもいられず、ざわざわと心は乱れる」

「そうよねえ、わかるわあその女心。で、荻ちゃんはどうしてんの?」

「うかうか人に言える話でもないしさ、なんか恥ずかしいしーなんて、一人物思いにふける日々よ」

「ふむふむ」

「少年が行き来するたびに胸キュンするんだけど、何の音沙汰もない」

「か、かなしー」

「もともと陽気であまりものにこだわらない性格だから、それほどヘコんだりはしなかったのが救いだけどね」

「うーん…荻ちゃんにとってどういう思い出になるのかしらん、これ」

「このままいくと真相を知ることは一生ないだろうから、なんとなーく都合の悪いことは忘れていって、年取ってから
『実は私、あのヒカル王子とラブラブだったことがあるのよー♪』
『まーた始まった、おばあちゃんてば』
『その話もう十回目よ』
てな感じの、周りには嘘かホントかわからない『思い出』になるんじゃないかしら」

「・・・ま、若いし先も長いんだから、いっか」

「そうそう。でも、そうはいかないのが空蝉さん。なまじっかすべてを諦めて平穏無事な生活をしてたから、突然のヒカルの情熱に対応できなかった。でも完全に悟り澄ましてるわけでもないから、忘れることも出来ない。心の底に押し込めてたものを呼び覚まされて、せめて独身だったなら…なんて思ったりもして」

「でもさ、ホントに身軽な独り身だったらヒカル、ここまで執着しなかったんじゃない?空蝉さんが中の品ていう完全に自分より下の身分の人妻、要するに普段なら対象外の接点なし・自分の周りにはいないタイプだったから興味を持ったんだし、予想外に拒否られてさらに燃え上がっちゃったっていうか。単にかるーく遊ぶだけなんだったら、若くて可愛い触れなば落ちんの軒端の萩ちゃんでいいわけだし」

「あら、いつになくキッツイわね侍従ちゃん。でもそのとおりなのよね。いまさら身分も生活も変えられるもんじゃないし、『もし~だったら』なんてこといってもはじまんない。空蝉さんもその辺はよーくわかってはいるんだけど、思いを抑えきれず、ヒカルの寄越した手紙の片方にこう書き付けずにはいられなかった。

空蝉の羽に置く露が木に隠れて見えないように

  私も人知れず袖を濡らして泣いております』」

「ううう(泣)泣けるわ。ヒカル、やっぱ若いっていうか、ノーテンキよねえ…空蝉さんの心の綾とか機微とか、なーんもわかっちゃいないんだろうね」

「だねー」



<夕顔につづく>

参考HP「源氏物語の世界

2013年2月21日木曜日

2月に読んだ本 その2

「銀婚式」篠田節子 

例によって新聞で連載してた小説の続きが気になって。うちは三大新聞を六ヶ月ずつローテーションしてるのでこういうことになる。ただ、まったく読む気になれないものも中にはあるので、新聞連載だからといってすべて面白く読めるとは限らない。好みもあるけど、大多数の読者に訴えるとしたらある程度その日の分のトピックみたいな部分て必要なのだろうなあ。毎回でなくとも、だいたい◯◯字くらいで引きを作る、みたいな。

この作品は日曜版掲載なので字数はわりと多く読み応えがあった。もちろん篠田さんなのでいつも期待を裏切らない安心のクオリティ。毎週楽しみだったので新聞が切り替わるときは少々悲しかった(といいつつ店頭で当該新聞を買うところまではいかなかったけど)。

今回全部通して読んでみて思った、これはまごうかたなき「新聞小説」だと。一人の男の十数年が描かれているのだが、いわゆる一面に載るような大事件から、三面記事、家庭欄にいたるまですべて読者の「目を引く」ようなファクターが詰め込まれている。大会社破綻や世界的なテロ事件に巻き込まれた普通の人々、熟年離婚、大学生の学力低下、嫁姑・介護問題、子の受験、中年の恋愛・・・要するに「下世話」なのだ。個々のエピソードがまたいちいち極端というか、ありそうで無さそう、無さそうでありそうな感がまるで2ちゃんのまとめサイトみたいだった。広大なネットの海の片隅で、嘘か本当か、誰が書いているのかもわからない書き込みが、下手な小説より面白い場合が往々にしてあるのだが、これはもしかして篠田さんの、作家としての挑戦なのか、それとも諦めまじりの敗北宣言なのか。よくわからないがとにかく、読み出すと止まらない面白さではあった。タイトルも秀逸。その理由は読めばわかる。

2013年2月11日月曜日

2月に読んだ本

「血霧」パトリシア・コーンウェル

おお、もう19作目になるのか…最初からのファンとしては感慨深い。
主要な登場人物たちは相変わらず完全無欠、なのに(だから?)様々なトラブルに巻き込まれる。ちょっとやそっとのトラブルではない、心身ともに傷つき疲れ果て、命の危険に何度も晒される。何でも持っているはずなのに幸せになれない。誰もかれも悲惨な殺人現場や状況を知りすぎている故か、あまり神を信じてるようにみえない。真に信じられるのはただ自分のみ。
日本のように八百万の神がいるわけではなく、自然からもたらされる恵みや災害を荒御魂・和御魂とみなし、人の力の及ばないものとしてある意味「諦める」といった宗教観もない。個人の能力には限界があり、いくら努力しても細心の注意を払っていても、抜けることはあるしミスもする、どうにもならないことはあるのに、人並み外れた優秀な頭脳を持つがゆえに納得することができない。能力に見合う高いプライドが、負けることを認めず、許さないのだ。
シリーズを通してずっと作者が書き続けているのは、ひたすらに個人を磨き高めていくというアメリカの「理想」の限界ではないのかなと思う。

個人的に大好きなマリーノが、今回とくに情けないというかかわいそうな立場で胸が痛んだ。この人には幸せになってほしい。ケイやベントンやルーシー、といった人たちに囲まれてはさぞかし普段から辛い思いばかりだろう。カウンターパートとしての役割なんだろうけど、ならばもうちょっと平凡な幸せを与えてあげてもよいのでは・・・でももう、マリーノ自身もこのメンバーから離れたらそれはそれで面白くないのかもなあ。極度に魅力的な集団(しかも自分は絶対にその一員=完全に対等な立場にはなれない)というのも罪つくりだ。

2013年2月6日水曜日

1月に読んだ本

門田隆将さん二連発

「太平洋戦争 最後の証言」陸軍玉砕編

自分の感情や推測や予断といったものをなるべく排し、あくまで調査した内容・インタビューしたそのままを忠実に再現しようという強い意図がみえる。シンプルで端正な文章が相まって、濃い、辛い内容ながらとても読みやすい。あの戦争を兵士として戦った人の生の話を聞いて、本としてまとめることはこの先もう難しいだろう。タイトルの通り事実上最後だ。そういう意味でも相当な覚悟を以て書いた本だと思った。父の叔父がフィリピンで亡くなっているので「陸軍玉砕編」から買ってみたが、他のも読みたい。
どこでどのように亡くなったかわからないままの人は沢山いるのだろうけど、このような本が書かれるあたり、魂はちゃんと日本に還ってきているのだと思う。

「死の淵を見た男」吉田昌郎と福島第一原発の500日

あの頃、テレビに出てくる吉田所長の言動をみて「きっとこの人で持っているんだろうな」と思ったのは私だけではないだろう。このタイミングでこのような本を出せるそのパワーと執念に並々ならぬものがある。いつも冷静で抑制された文章を書く門田さんが、この本では時折、隠し切れない怒り、憤りを感じた。いまだ完全に収束したとはいえない状況なので、今後また新たな事実や証言が出てくる可能性もあるが、とりあえずこの本で、「最高責任者が本来の持ち場を離れ必死で作業中の現場に乗り込む」というのがいかに迷惑で無責任で愚かでサイテーな行為か、骨の髄まで理解できることは間違いない。