第143回芥川賞・「乙女の密告」赤染晶子について

小説の書き方にはいろいろあって、ストーリー重視か、人物・キャラクター重視か、文体にこだわるか、またはある世界を構築することにこだわるか。いずれにせよ、書きたいことの核からブレることなく、常に必然性を持った手法で読者に伝えていかねばならない。


「乙女の密告」赤染晶子
最初の数行であっというまに「乙女の世界」に引きずり込まれる。「乙女」という言葉じたい、ちょっと気恥ずかしく照れくさい響きがあるのだが、独特のリズムを刻む短めのセンテンスに、案外抵抗なくするりと乗れる。読む人が乙女かどうかは関係なく(笑)その世界に入り浸ることが出来るという、小説ならではの醍醐味を感じさせる。
その世界は特異だが、ストーリーとしては単純でわかりやすい。ただ構造としては幾重にも層があり、思ったより奥行きがある。お菓子の家のように甘く儚い平屋だと思っていたら、実はその後ろにも地下にも部屋がたくさんあったという感じ。
忘れてはいけないと言う教授、忘れることの恐怖にとらえられ、言葉をみつけられない主人公が迷うさま、忘れることを恐れず、むしろ「自分の一番大事な言葉」に出会うまで努力を重ねる麗子様、作家にとっても一番大事な「言葉」の持つ意味が、教授の、麗子様の、主人公の口を借りて語られる。それが、ユダヤ人として生きることを許されず隠れていたアンネの立場に重なる。危うく見つかりそうになったが運良く事無きを得た夜、アンネは「戦争が終わったら、私はオランダ人になる」ことを決意する。それを重大な喪失、とみるか、新たな言葉との出会い、とみるか。私は両方ありだと思ったが、それは私がユダヤ人ではなく日本人であるからかもしれない。
「アンネ・フランク」というあまりにも有名な、悲惨な運命をたどった少女の世界と、架空の「乙女の世界」を並び立てることに違和感がないわけではないが、同じ体験をしたこともない、何を共有すべくもない生活をしている現代の人間が彼女の「言葉」に触れようとするなら、この方法もありだ―――こういう形で語ることの、紛れもない必然性がある、と思った。

さらにこの「乙女の世界」が京都弁てところが重要でもある。ここで京都弁はズルい(笑)。なぜか京都弁は、いちど用いるとそれ以外の方言が考えられないほど、こういう世界にしっくり嵌るのだ。福井弁じゃこうはいかないもんなあ。

残暑お見舞い申し上げます

残暑というより酷暑!

夏休みの宿題処理活動が本格化するまえに記録しておこう、八月に読んだ本。



「オーデュポンの祈り」伊坂幸太郎

伊坂さんの本はこれが初めて。以前、知り合いに、伊坂さんを読むならやっぱりここから、と言われていたことを思い出し手にとった。デビュー作だったのね。中身はひたすら若い! という感じだが、物語の核がしっかりあって、そこに迷いなくまっすぐ向かう力は非凡。自分に足りないものがよくわかる(泣)。やっぱり才能あるんだなあ。他のもまた読んでみよう。



「黒祠の島」小野不由美
設定がかなり複雑なのでそこに振り回された?ような感がある。「極度に閉鎖的な孤島」「いわくつきの旧家」「鬼とよばれる神」「もみ消された殺人」「素性を明かさない、だが優秀な女性の失踪」「神社に吊るされた死体」・・・要素ひとつひとつは魅力的なのだが、ちょい盛り込み過ぎ。途中、会話だけで状況説明が延々と続くところがあって辛かった。
書き下ろしらしいが、枚数が少なすぎたのでは?
内容の濃さからして、やはり「屍鬼」のような大長編で書くべきと思われる。

なーんて書いてはみたが、全部自分にはねかえるようなことばっかり(泣)。
「屍鬼」で確信したが小野さんはきっと少女漫画好き。角川映画全盛期をリアルタイムで体感、横溝正史や森村誠一なんかを読みふけった私としては勝手に仲間だと思っている。そうなんだついついこうやって足し算しちゃうんだ、この世代は。



「告白」湊かなえ
実家にて、女子中学生二名が絶賛。早読みの長女はもちろんのこと「本読むのっていつもは時間かかるんだけど、これはご飯食べるのもそこそこに一気よみした!」という姪の言葉に、これは読まねばなるまいと手にとった。
娘を喪った女性教師による衝撃の「告白」、関係者の独白がそれに続く。善玉・悪玉という単純なくくりではないし、誰も幸せになれないが、基本的には勧善懲悪。日頃さまざまに割り切れない思いを抱える中学生の溜飲を下げるのにちょうどいいポイントを突いていると思った。
大人として面白かったのはやっぱり先生の独白。表立っては言えない大人の本音みたいなのがちょこちょこ書かれていて、こっそり頷く部分も。小説として素直に面白かった。フィクションならではのこの明快さは確かに映画向きかも。




「総員玉砕せよ!」水木しげる
徹頭徹尾、いち兵卒としての視点から描かれているこれを、夫はつらくて熟読出来ないという。「仕事として」戦地に行かされ、上司の意思ひとつで生き死にが決まるあたりが、非常に身につまされるらしい。確かに、職業軍人はともかく、徴兵された一般の国民からすれば戦争は「逃れられない厄介な仕事」という意識だったかもしれない。
極端に美化された、また極端に残酷な話などなくても、戦地での日々、人々の振る舞いや出来事を淡々と描くことでそのきつさ、つらさ、悲惨さは十分に伝わる。戦争経験の全くない私たちだからこそ、感じられるのかもしれないが。

余談。「ゲゲゲの女房」が人気だが、あのようなぶっきらぼうかつある意味横暴で頑固な男性、今の若者的にはどうなのだろう。新鮮なのか? 私なんかは父親世代を思い出してかなりツボにハマる。向井さんはイケメンだし(あれ?笑)。

七月に読んだ本 その 二



「1Q84」村上春樹
ご多分にもれずというか、やはりというか、買ってしまった三部作。先日やっと三巻目を読み終えた。
単純に面白かった。とっっくに読み終わっていた中二の娘と、よくもまあこんな話が書けるわねえと感心しつつも「でも中二病っぽい話だよね」と言ったら娘激しく同意しつつ「だけど構成スゲー!めちゃうまい!そこらへんのラノベとはぜんぜん違う!」(←当たり前。ある意味両方に失礼)とほざいた。

というわけで「1Q84」三部作は「中二病の最高峰」と認定。これ以上のこなれた中二病話は誰にも書けまい。……ん? こなれてたら中二病じゃないか。

 
「女たちのジハード」篠田節子
勧誘が面倒くさいので、うちでは三大新聞を六ヶ月ずつ交替で契約している。争いにもならず、必ず契約が取れる固い客として重宝がられる上に、それぞれの新聞の違いがよくわかってなかなか興味深い。
今は毎日新聞なのだが、日曜版で連載中の「銀婚式」、この作者が篠田さんなのだ。実はそれまで篠田さんの作品はひとつも読んだことがなかった。同じ新聞の土曜日朝刊に連載しているよしもとばななさんとは対照的に、硬質な文章だが、読みだすと止まらない。語り口のテンポに安定感があって、自然に引き込まれていく。

それで今さらながら、タイトルだけは知っていたこの作品を図書館で借りてきたのだった。「銀婚式」と比べると、若く熱い感じがまたいい。年代が自分とかぶっていることもあって、どれもこれもいちいち共感できる。救いようのないバカではないが特別に優秀でもない、どこにでもいる平凡な女たちが、自分の戦いを戦う姿のなんとカッコいいことよ。
一種のお伽話ではあるが、読んで元気が出る。今の若者が読んだらどうなんだろう? こんなことアリエナーイ、と醒めるだろうか。

「銀婚式」の方は、妻に離婚され、長年勤めた会社も潰れ、小さな損保会社で再起をはかる中年男性の話である。現在主人公はかなりひどい目にあっているが、そこは篠田さん、きっとよむ人に元気を与えるような展開に走っていくのだろう。日曜日が待ち遠しい。

龍馬よりステキ女子

「龍馬伝」を観ている。が、最近リアルタイムではなく、ブルーレイ様に録画していただいたものを、誰もいない日中に有難く観させていただいている。ちなみに私は特に福山ファンというわけではない。単に歴史物が好きなんである。

ドラマの出来としては悪くないのかもしれないが、時折むずがゆくて仕方なくなる。
私は坂本龍馬という人を詳しく知っているわけではないし、龍馬について書かれたものをたくさん読んでるわけでもない。だけどやっぱり違う気がするんだよなあ。特に色恋絡みが。
しつこいようだが加尾さんが本当に不自然。かといってヒロスエさんのイメージでもない。強いて言えば、脚本家自身が持つヒロスエという女優のイメージ?

あまりに腑に落ちないのでちとぐぐってみる。

日本歴史 武将・人物伝より

平井加尾

・幼なじみの龍馬より四歳年上。一番下だが一応上士なので、身分も坂本家よりは上。
・和歌も嗜む才色兼備。

土佐藩十五代藩主・山内容堂の妹、友姫が三条家(尊皇攘夷派)に嫁ぐ際、御付役(奥女中)としてともに上洛(このとき21歳)。現地では土佐の貧乏下士や脱藩浪士などを助け、土佐勤王党の関係者を世話したり、兄・収二郎に京の動静を報告したりしていた。土佐に戻ったのは三年後(24歳)。

これによると、
龍馬とは、脱藩するまでは接点があるものの、どちらかというと京という都会でバリバリ働いている加尾を頼りにし、何かと助けてもらおうとしていた感がある。
しかも、千葉道場の娘・さなと比べて「(容姿が)落ちる」なんて失礼なことを乙女姉さん宛の手紙に書いている。

・・・・・

やっぱりドラマのような関係じゃないわいな。

加尾さんは土佐に帰った後、切腹した兄の代わりに平井家の存続をはかり、同じ土佐勤王党だった西山志澄を婿に取る。志澄は戊辰戦争にも土佐藩兵として出兵、会津戦争では戦功をあげる。
そののち二人は西山家に入るが、加尾は自分の娘に平井家を再興させている。
志澄は大隈内閣で警視総監をつとめた。

つまりなんだ、加尾さんは20歳そこそこからセレブな職場でがしがし働き、兄の死という不幸にもめげずエリート&有能な男性をゲット。夫が地道に出世していくところで夫の実家を立て、のちに自分の実家も立て直す。

加尾さんステキすぎる(はぁと)。
マジで龍馬なんかめじゃないじゃないですか。

加尾さん物語を誰か書いてー。てか書こうかな私。

7月に読んだ本

本を買うとき自分はどうするだろう? 買う理由は何? どんな時に買う?



「フリー」クリス・アンダーソン  


たまにはビジネス書の類も読むのであった。といいつつ実はずっと前に買ってて放置していた。面白くなかったわけではなく、もうひとつのコレを先に一気読みしちゃったから(そしてこれも読んだのは6月。タイトルに偽りありだな)。

「電子書籍の衝撃」佐々木俊尚

これ、発売当初はなんと¥150というキャンペーン価格でダウンロード販売していた。たまたま覗いていたブログでそれを知った私、速攻でクリック。自販機でペットボトル一本買うくらいのお手軽さにちょっと感激して、うっかりツイッターまでアカウント作ってしまった(近々ここに掲載します。あんまり呟いてないけど)。今は普通の新書の値段で本屋の店頭に並んでいるので、なんだかすっごい得した気分だ。

・・・と、¥150という対価を払った人間に思わせる、のがウマイところだな。
とにかく出版業界も、いろいろ動きがあるようである。

「フリー」にしろこの「電子書籍の衝撃」にしろ、共通して言っているのは「お客さんが自発的に買う行為をする、またはせざるを得ないようなシステムを作れ」ということ。それって、一般人が個人の力だけでやっていくにはかなり難しいのではないか? 既に売れっ子・有名人になっている人間ならともかく。

なので今このブログを課金する気など毛頭ないが、例えば中編・長編なんかをブログで発表する場合、どういう見せ方がいいのかな? と常々考えている。何かのご縁でここに来ていただいた人たちに、楽しく継続的に読んで貰うためには、どういうツールを使ったらいいかしらん。ある程度オープンで、ある程度閉鎖的な部分もあり、ふらっと来てもよし・入り浸ってもよし、な場を作れるといいのだけど。
いやもちろん、内容が良くなくては元も子もないのだが。

暑くて頭がまとまらない(いつもか)。また何か思いついたら書きます。アンド、ご意見募集。