子の蔵書から借りてみたシリーズ。「黒牢城」の米澤穂信さん。
「氷菓」米澤穂信(2001)
角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞受賞のデビュー作。謎めいたお手紙から始まり、さあ何かの壮大なミステリーが繰り広げられるかと思いきや、非常に緩く平和な「古典部」生活が始まる。しかし当たり前だがただのホンワカ文系部活ものではない。日常にありそうでなさそうな謎を、「生命活動以外に極力リソースを割きたくない」折木奉太朗くんが嫌々ながら関わって、嫌々ながら解決する。いやー高校時代に見たことあるぞこういう話し方する男子。とはいえこんなに親切でもないし頭もキレなかったよな多分(つまりいなかった)。きっと作者自身なんだろなと思いつつ、あとがき読んでビックリ。実話ア?!この知的好奇心に溢れた楽しくも羨ましい青春が?!ありえん!(嫉妬)。まあ、なーんも考えてなかった・漫画と本ばかり読んでいたノーテンキな女子高生ライフも悪くなかったんですよ。よ。
粗筋だけだと読まないかもしんない。だけど内容は粗筋以上。堅苦しくない、ふわんと緩いのにテンション高く、謎の正体は全くショボくなく何なら洒落にならん苦しさ、で最後まで止まらぬ。大変に面白かったです。この、いちめんに張り巡らされたトリックに誰もがまんまと引っかかり唸ると思う。才能に嫉妬。
「ボトルネック」(2009)
此方はなんと舞台が石川と福井。東尋坊が出てきます、火サスか!サスペンス系はやっぱね!となりますが全然そういう話じゃない。いやそういう話か(どっちやねん)。SFかはたまたオカルトか不条理系か、いややっぱりサスペンスなのか、最後の最後までわからないまま突っ走ります。読み切っても、どういう話だったかは人によって意見が分かれると思う。凄いね、よくこんな話が書けるもんだ(才能に嫉妬再)。以下ちょいネタバレします(しないと感想が書けぬ)注意。
タイムスリップして不幸な過去をよりよく変える、という話は世に溢れているけれど、「自分がいない世界」の方がずっと良い世界だった、というパターンは初めて見たかも。これはキツイ。マジで辛い。ある場面での言動ひとつでオセロのようにパタパタパタっと白黒入れ替わってしまう……必ずしも何もかもが主人公リョウくんのせいばかりとも言えないものの、明らかにこの性格と行動によって引き起こされたことではあるのだ。つまりリョウくんはこの世界にとっての「ボトルネック」。排除されたほうがうまく動くという、存在全否定にも等しい「現実」が畳みかけるように突きつけられる。
ただこの話、額面通りの「あり得たもうひとつの未来もの」とも言い切れないところがある。最後にサキが「私はツユだ」と明かしたことで、私はこの話、
「ノゾミを悼むために東尋坊に来たリョウの脳内で起きた考察」
と解釈もできるよなあと思った。この最悪な結果に対し自分はどうすればよかったのか。何か手があったのならどこが分岐だったのか。考えに考えて「自分のいなかった世界」を自分の中に創り出した。リョウはずっと東尋坊に立っていた。そこでノゾミの真に望んでいたことを理解し、まさに生と死の分岐に直面させられたが、ほかならぬ「親」からのメールで「生きる」ルートへと進むことになった……と解釈した。彼の優柔不断、深く関わらず考えない癖は、なんだかんだ親に囚われすぎだったんだと思う。これで心身ともに親離れし、自分は自分、親は親として、この先生きていくことができる……と解釈した。
勿論、これが「死」ルートへの後押しになった可能性も捨てきれない。初めにも書いたように、読んだ人によってかなり変わるのではないかと思われる。何にしろようもまあこんな小説を書けるものだ。本当天才としかいいようがない。面白かった!

