2013年9月25日水曜日

9月に読んだ本

戦前生まれの父からは、「日本は元々、中国とは仲が良かった」という話をよく聞く。正直半信半疑だったが、このところ戦中の本を何冊か読む機会があり、考えをあらためつつある。ただ、相当に複雑な国ではあるので、そういう側面もある(あった)のだろうというくらいの認識に留まってはいる。歴史的にも距離的にも近い国ではあるので理解する努力はしないとね。

「この命、義に捧ぐ」門田隆将

まず驚いたのが「内蒙古『奇跡の脱出』」。根本博海軍中将は、終戦後の武装解除を拒否し、戦犯にするとの脅しにも引かず、祖国に引き揚げる在留邦人を守りぬいた。これまで、中国大陸からの引揚げは満州を筆頭にとにかく悲惨だったという印象しかなく、このように司令官の判断ひとつで明暗を分けていたという認識はなかった。負けた相手に勝った側がどう出るか、武器を捨てた時にその現場で何が起こるか。知り抜いた上での「自分がすべての責任を負う」という言葉は重い。
さらに受けた恩義を忘れず、命を賭して台湾の危機を救う。しかもその事実は長年極秘中の極秘、日本人はおろか助けられた側の国の人間ですらほとんど知らない。それだけでも十分にカッコイイのだが、釣り竿を担いで日本に帰国しマスコミに囲まれても、報道する側の意図を看破し、利用しつつ見事煙に巻く、その知性と胆力と器の大きさにはシビれる。それに較べてマスコミの、嫉妬心の絡んだ嫌ったらしさ、狡さ、卑劣さ、カッコ悪いことこの上ない。戦前も戦後もそして今も、一番こういう大人物から遠いのがマスコミというものなんだろうなあ。


「チャーズ 中国建国の残火」遠藤 誉

対してこちらはやはり義に従い尽くしきった「一般人」の話。中国で製薬会社を経営し暮らしていた一家の壮絶な脱出行だが、こちらの方は家族を守り切ったのではなくむしろ犠牲にして自分の信念を貫き通した感が強く、なんとも言えない気持ちになる。
しかしその愚直なほどの「信念」に基づいた言動により奇跡のような救いの手がさしのべられ、著者は心身ともに大きなトラウマを負いつつも生き残り、このような本を書いて世に訴えることが出来ているので、何が正しくて何が間違っているのかは本当にわからない。
真の「悲惨」を直接に引き起こすのは国とか最高権力者ではなく、現場にいる極めて狭く小さい単位での「権力を持つ個人」とそれに唯々諾々と従い阿る個人、だと思う。洗脳の話も怖かった。自分が攻撃されないように自分以外を槍玉にあげる…中世の魔女狩りしかり、日本赤軍のリンチ事件しかり。今の平和な日本でさえ、このような図式は至る所に存在する。小さな集団でも常に外界に通じる門は開けておくようにしないと、出口のない狭く閉じた空間には「悲惨」がすぐに忍び寄る。

2013年9月11日水曜日

8月に読んだ本

長かったそして暑かった夏もようやく終わり、朝晩は一気に秋の気配。心機一転頑張らなきゃだな。えっと例によってネタバレ注意。

「俺たちバブル入行組」池井戸潤

言うまでもないがドラマの「半沢直樹」とは別物。池井戸さんの文章は、あまり読書が好きではない息子にも読みやすくわかりやすいらしい。さっくり読める。無駄なくきちんと整理された掛け値なしに面白い作品を、ドラマではヴィジュアルを最大限に活かしテンポよく畳み掛ける。どっちもどっちで面白いが、強いていえばドラマ側に「バブル」な時代の雰囲気がないかな。まあなくても全然困らないけど。


「青の炎」貴志祐介

この方の小説は初めて。家族を苦しめる男を排除するため完全犯罪をもくろむ高校生の話だが、なんというかのっけからいろいろと甘い。結果はネタバレになるので書かないが、「ドロレス・クレイボーン」「1922」など比較すると男性の「殺す理由」は、今ひとつ煮え切らないというか、腹を括りきれていないような。優しい日本の若者の、その「甘さ」「弱さ」「中途半端さ」を意図して書いたとすれば相当秀逸な出来と思う。


「プリンセストヨトミ」万城目学

こちらも初めて。映画化もされていたので気にはなっていたが読み損ねたものの一つ。主人公?の男の子の性癖をはじめ登場人物の言動に今ひとつ共感できなかったためか、この世界に最後まで乗れず。大阪が独立国?!という映画の宣伝から、勝手に井上ひさしの「吉里吉里人」のようなイメージを抱いていたが、全然違った。なんというか、大阪国についてもう少し突っ込んでほしかった。でないと「プリンセス」、完全に脇役じゃん。守る理由がよくわからないというか、守りきれてないわけだし。


「ばらばら死体の夜」桜庭一樹

こちらは安定の桜庭さん。登場人物それぞれの視点からの語りは、桐野夏生さんの「グロテスク」などの作品、多重債務の話は宮部みゆきさんの「火車」を思わせるが、こちらは社会的にというのではなくあくまで個人的な資質、生まれや育ちといったところに視点を置きつつ、より突き放した感で書いている。まあ、そういう「素人がハマりやすい制度」があったにせよ、全員が全員引っかかるわけではないからなあ。

最初、バラバラにされた・・・のは男性側とばかり思っていたので意外だった。もともと事情上「バラバラ」だった女を本当にバラバラにしただけ、とまるで「自然の理」かのようにとらえていて、殺すときも一切ためらいがなく、罪の意識もほとんどない男の内面が薄ら寒い。だが前述の「青の炎」の男子高校生よりいっそはっきりしていて潔いとも言える。推理小説やミステリーなんかだと完全犯罪は難しいことになってるが、昔、無人の山や野や川での殺人が容易に露見しなかったように、多くの人が周囲にいても目を向けない(向かない)、何もかもが調和をなくし「ばらばら」になった場で行われた殺人は認識されづらいのかもしれない。