「悪魔の右手」「天使の羽ばたき」「神の左手 悪魔の右手」

 「神の左手」に続く三部作。



「悪魔の右手」(2012) The Last Four Things

「天使の羽ばたき」(2014) The Beating of His Wings

 ポール・ホフマン Paul Hoffman

 訳 金原瑞人、井上里

 これほど粗筋を書きにくい作品もないかもしれないな。(以下ややネタバレ注意)


 舞台は異世界、ただし歴史的事実や地名が現世のそれと何気なく被っている。時代的には十九世紀から近現代辺りまで錯綜する感じ。主人公はトマス・ケイルという「世界を破壊し再生する」役割を担った者として壮絶な訓練を課せられて育った十代の少年とその仲間二人。「親友」と書きたいところではあるが、どうにもそういう情愛のこもった言葉が似つかわしくない。戦友の方が近いが、悪友、といったほうがいいのかもしれない。

 一作目を読んだ後、詰めつめすぎて構成が粗い、もう少し詳しく書いてほしいなどと書いたが、最後まで読んでそれは意図的だったのだとはっきりわかった。いわゆるよくある英雄譚の、輝かしい表側ではなく、誰も普通書かない裏側を描いたものだ。戦いもただ勝った負けたではなく、どんな準備をしてどういう戦い方をしたか、記録に残らない優れた戦法や勇気、反面どうしようもない愚かさや目を覆うような悲惨を、そのまま一緒くたに突っ込んだという体である。

 なので、ケイルはちっとも英雄という感じではないし、全くカッコよくない。読者がみているのは最初から最後まで、ただのトラウマを抱え世を拗ねた年相応の少年なのだ。恋愛沙汰もまったくロマンティックではない。甘く、素敵なロマンス風に描こうと思えば描ける素材を使いながら、あえて露悪的に「そのまんま」なのだ。ケイル以外のヘンリやクライストにしても同じ(ヘンリはまだマシかな)。ただ、あのサンクチュアリを生き延びてきた三人だけあって、どれだけPTSDに苦しもうとも、権力を得ようとも、ケイルはケイルのまま、ヘンリはヘンリのまま、クライストもクライストのままなのだ。それはもう最後の最後まで。

 神がかった伝説として残る物語の内実を、普通そんなこと書かないぞというところまで書き切った、異世界ものの中でも相当に異色な超大作。ヒーローも、極悪人も、ただ一時だけの、一面的な評価によって出来上がるんだなというのがとてもよくわかる。

 個人的にはもうちょっとバーッと売れてもいいんじゃないかと思う面白さなんだけど、長すぎなのとあんまりカタルシスがないのがネックなのかな。イケメン・美女はわんさか出て来るし怒涛の展開ではあるから、映像化すれば絵面は相当派手で華やかになるはずだからドラマ化もいいかもしれない。でも作者の意図を汲んだ感じには中々ならないだろうなあ、うーん。とにかく読んだら色々と予想を裏切られる、レアな体験が出来る作品ではあると思う。



「神の左手、悪魔の右手」楳図かずお(1997)

 タイトル繋がりでつい読んでしまった(笑)。

 いやーこれはまた……昔読んだはずなのに、こんなに凄かったっけ!と驚くほど超絶スプラッタ漫画だった。何が怖いって絵がリアルで痛そうなのがたまらん。ハサミ怖い。全編これ閲覧注意だらけ。進撃の巨人どころじゃない。「ビッグコミックスピリッツ」に連載してたけど、今じゃ青年誌でもキツくないかコレ?

 で、以前「おろち」を読み直した時も思ったんだけど、スティーヴン・キングとの親和性がヤバイ。1997年だともうキングも日本上陸して久しい頃だが、影響はあったんだろうか?何かコミカライズしてくれないかな。「浮き台」とか「マイル81」とか。ご本人も絶対気に入ると思うんだよね。

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