おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

藤裏葉 二

2020年12月25日  2022年6月9日 

桂の葉
桂の葉(庭木図鑑植木ペディアより)

「ねえねえ右近ちゃん」

「なあに侍従ちゃん」

「明石の姫君の入内、四月二十日に決まったんだってね!いよいよだわね。はーーー、せっちゃんに抱っこされてふええええって言ってた顔しか浮かばないわあ……あんなにちっちゃかった子がもうお嫁さんだなんて」

「侍従ちゃん、オバサン通り越してそれもう孫じゃん(笑)ああでもわかる、早いよねー。まして母親代わりだった紫ちゃん寂しいんだろうね。この間の賀茂祭りの時さ、思い立って御阿礼(みあれ)神事ってやつを早朝に観に行ったんだよね」

「みあれ?何?」

「神様を召喚する、つまり神様が産まれる神事のこと。賀茂祭のいっちばん初めにやるんだよね。朝早いっていうかまだ夜中っていってもいいくらい。真っ暗な中でやる」

「へーえ。右近ちゃんもついてった?」

「うん一応。眠かったわ……他の、夏冬の町の人たちも誘ったは誘ったんだけど断られたのよね。まあ大勢で行かなくて正解。うちらだけでも車二十台に随身さんそれなりに付くしさ、これ以上増えると何ごと?!ってなっちゃうわ」

「そうだねー。紫ちゃんについてく形になるから、外から見たら

『六条院の北の方さまが大行列よ!あんなに他の奥方様たちを付き従えて……大変なご威勢だこと

 ってなっちゃってお互い気まずくなりそうだもんねー。わかるー」

「そうそう。実際は特に序列もないんだけど、世間はそう見ないからね。地味~に静か~に行ったことで、エラソーなところがなくてイイ感じーって好ましい印象に」

「さっすがー!で、その後の賀茂祭り見物にも繋がるのねん。あの時は凄かったもんね、六条院関係者の車と人の数ヤバ!アタシまでお席いただいちゃってホントありがとねー♪桟敷席のすぐ近くで王子の顔もよく見えたしサイコーだった♪」

「いえいえそんなのお安いご用よ。紫ちゃん以外、各町のお方さまたちは院に残留だったからね、気楽なもんよ。女房さん達が圧倒的多数で、どんどん誰でもオッケー状態だったからさ。日帰り社員旅行のノリよね」

「ビバ☆福利厚生@六条院じゃん太っ腹ア!沿道にいる人たち皆、コッチを指さしてアレがヒカル太政大臣だってーキャーイケメーンなんて騒いでたもんね。ふっ下々どもが……って気分になったわん。右近ちゃんは紫ちゃんの近くにいたんでそ?何話してたの?」

「それがさ、よりによってアレよ『車争い』の話。いや縁起悪くないかって思ったんだけどさ、物見車がわさわさいる感じで思い出したんだろうね」

「えっあの……『葵』で六条御息所さまの車が葵上の一行に押しのけられちゃったやつかー。アレ酷かったもんね。お忍びだったせいでなんかウヤムヤになっちゃったし」

「ヒカル王子はあの後一応フォローしようとはしたんだよね、受け入れて貰えなかったけど。だけど当時の葵上……左大臣家側からは何ひとつなかった。

『家来どもが仕出かしたこととはいえ、時勢に乗って驕り高ぶった結果あんなことになったのはホント、心無いことだったよね……全く知らんぷりでいた人は、その恨みを負うように亡くなってしまったし』

「あら、結構踏み込んでるのねん。でも葵上は車中にいたし妊婦だったし、酔っぱらって暴走しちゃった家来を止めるなんて無理じゃん?さすがに責任はないっしょ」

「うん、葵上個人の責任は問えないと私も思う。ただ相手は前春宮のお后だからね。噂は回ってたわけだから、左大臣家として家来の不始末に一言あってもよかったよね。そこは驕りって言われても仕方ないんじゃないかな。まあ王子自身の立ち回りもイマイチだったのを自覚してるからか、その辺は濁してたわ。

『後に残された夕霧は、臣下としてようやく立身した程度だけど、貶められた方の娘である秋好中宮はいまや並ぶ者なき地位にいらっしゃる。実に感無量だね。定めはない世の中だから、何事も思うままに現世を過したいものだけど、私の後に残される人々が甚だしく衰退するようなことがあってはと、そればかり心配でね』

 だって。充分気ままに過ごしてると思うけどね。欲深いわあ」

「こんにちは」

「あっ王命婦さんだ!」

「こんにちは。ささどうぞ中へ」

「賀茂祭の時はお席ありがとね。堪能したわ。ハイこれ、お礼といっちゃなんだけど」

「キャー、八種のドライフルーツ蘇仕立てシュトーレン!」

「凄いわね。おさ子がこれ書いてる時期がクリスマスだからなんだろうけど」

「ふふ、姫君が入内するまでちょっとずつ切って食べるのよ。なんてね」

「完全シュトーレンじゃん!ていうか今いただきましょ!お茶入れてきまっす♪」

 給湯室に消える侍従。

王「玉鬘ちゃんも夕霧くんも無事片付いたし、明石の姫君の入内も目前だし、ヒカル大臣はもう悠々自適って感じね」

右「そうねー。一気に六条院の平均年齢上がっちゃうけどね。王子も来年四十?侍従ちゃんがいない間に言うけど、平安時代じゃもうお爺さんの部類よね」

侍「お待たせー♪何か言った?」

右「ううん何も。わー美味しそう!いただきまーす」

 しばしシュトーレンをつまみつつ歓談する三人。

王「ところでさ、藤典侍ちゃん覚えてる?五節の舞姫やった、惟光さんの娘さん」

右「覚えてる覚えてる。この間のお祭りでも勅使だったわよね。もうひとりは近衛府の柏木中将だっけ」

侍「ハイハーイ!五節の舞姫といえばアタシに聞いて!藤典侍ちゃんはねー、何年かに一度の逸材よ?見た目は勿論のこと、妙に人好きがするんだよね。お父さま譲りの気働きっていうのかな、目端がきいてナチュラルに人の警戒心を解くのが上手い。何をさせても安心なあの感じ、いそうでいないのよね。今回勅使に選ばれたのも納得!すっごい色んなところからお祝い来たらしいよ、帝と春宮さまと、六条院と」

王「さすがの舞姫ウォッチャーね。推し愛が半端ない(笑)実際、内裏でもすごく評判がいいのよね、仕事も出来るし愛想も良いしで。さしもの新婚ラブラブの夕霧くんもこの子はまだ手離せないみたいね」

侍「そうそう、出立前にお手紙渡してたよね!あっでも、多分他の人はほとんど気が付かなかったと思う。牛車乗るドサクサにささっと、て感じだったから」

右「侍従ちゃんたら凄すぎ。私も近くにはいたけど全然知らなかったわ」

王「身分からして正妻になることはないって両者納得の上のつきあいだろうから、平安時代的にはいいっちゃいいんだけどね。手紙がさ(ごそごそ)これどう思う?写しだけどね(ファサー)

『何だろう……今日のかざしの葵(逢う日)を目前に

よくわからなくなってしまった

 呆れたものだね自分』」

侍「……えっとー、ちょっといつ逢えるかよくわかんなーい僕新婚だから☆でも一応こんな時も逃さずに出してみたよ!みたいな?」

右「ないわーいくら新婚で浮かれてるからってコレはないわー。出さない方がマシ」

王「でしょ。さすがの気立てのいい藤典侍ちゃんも激オコよ。こっちが返しね、写しだけど(ファサー)

『かざしてもなおはっきりと思い出せない草の名は

桂を折られた貴方ならご存知でしょう?

 博士さまではない私にはわかりかねますわ』」

※久方の月の桂も折るばかり家の風をも吹かせてしかな(拾遺集雑上-四七三 菅原道真の母)

右「わお、さすがの切り返し!」

侍「エッ何?!解説よろ!」

王「ダブルミーニングよ。桂を折るって、省試を受けて進士に合格することをいうんだけど、藤典侍ちゃんは勅使だから頭に葵と桂の葉をつけてる。なーに白ばっくれてんのよ私を手折ったのは貴方でしょ?その『桂を折った』お偉いオツムで考えなさいよって感じ」

侍「なーるほど、つまり最後まで責任持ちなさいね!ってことか!やるねー!」

右「この機転と切れ味に引きかえ、夕霧くんの朴念仁っぷりよ……やっぱり勉強だけでもダメね。出世はするだろうけどさあ」

王「正直、藤典侍ちゃんは彼には勿体ない気もしなくはないけど、あのレベルのイケメンかつ将来盤石な若者なんてそうそういないからね。このまま続いてくんじゃない?」

侍「ああもう、あのピュアホワイトだった夕霧くんはいないのね……グッバイ青春……」

右「いや最初から単なる誤解でしょそこは。王子よりはマシとはいえ、普通の健康な平安貴族男子ってやつよ」

王「(笑)何でもいいのよ、幸せならば。うん」

参考HP「源氏物語の世界」他

<藤裏葉 三 につづく

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