おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

便乗企画♪ きまぐれロボット

2010年11月1日  2010年11月1日 
「あなた、これはどういうことかしら?」
 妻は眉を片方上げながら私の顔を睨みつけた。その拍子に、使っていたシャープペンシルの芯がぽきっと折れた。急いでノックしたが、芯は出てこない。
「どういうことって、そこに書いてあるとおり」
「書いてあるとおりのことなんか聞いてませんよ。これは本当に必要で、本当に無駄がない仕事なの?!」
 だから今説明しようとしてるのに。私はうんざりしながら、芯のなくなったシャーペンを持ったまま、机の上にばらまかれたA4のコピー用紙をまとめて妻に差し出した。顧客とやりとりしたメールをプリントアウトしたものだ。
「それはもう見たわよ。結局は相手の我儘ということよね?」
「いやそれは違」
「あなたまさかお客様は神様だとか、本気で思ってるわけじゃないでしょうね?あのね、利潤を追求するということは・・・」

 また始まった。
 こうなると小一時間は終わらない。私は神妙な顔で頷くふりをして、シャーペンをカチカチいわせながら、もう一度顧客からの最後のメールを読み返した。

---貴殿の製品に不具合はなく、むしろ忠実に当方の依頼に応えていただいたと考えております。しかしながら想定外の事象が発生し、これ以上当方にてこの製品を所持し使用し続けることは不可能という判断に至りました。大変恐縮ではございますが、通販ロボットクーリングオフの規定に従い、契約を解除させていただきます。---

 何がいけなかったのだろう、あのロボットは完ぺきなデキだった。日常のストレスから離れ、無人島で気楽に暮らす金持ちのためのお手伝いロボット。

「あなた、聞いてるの?! 大体あなたはね、真剣味が足りないのよ。この家の経済状況をより良くしていく、夫婦なら共通の目的であるはずでしょ?」
「そうだけど……向こうの希望に忠実に作ったのに、それが気に入らなかった、て言うんだからもう仕方ないじゃないか」
「仕方ない? は! あなたはいつもそうよね」
 妻のこめかみが青白くなる。怒りが頂点に近くなるとこうなるのだ。初めの頃はその色の美しさにうっとりしていたものだったが、この頃はもう見るのも嫌だ。 
「悪いけどあなたのこの仕事からは、その目的を真剣に達成しようという気持ちはうかがえないわ」
 それは違う、と私は思わず人差し指を妻に向けて抗議しようとした。妻は目をむいた。

「あなた、人を指さすなんて失礼よ!」

 今まで見たことのないほど傲慢な顔だった。美しかったはずの妻はいまや鬼か修羅だ。

 ふざけるな。お前はいつも俺を指差して糾弾し続けているじゃないか。
 
 私の中で何かがぷちんとはじけた。

「お金はね……あ、何をするの…・ヴ・・・」

 ヴーーーーーーーーーーとブザーが鳴り、妻の上半身はだらりと前に傾いた。横から見るとちょうど綺麗なUの字を描いている。計算通りだ。私はリモコンのリセットボタンを押すのに使ったシャーペンを机の上に置き、彼女の背中にある主電源スイッチを押してブザーを止めた。
 静まり返った部屋の中で、私は大きな溜息をついた。

 見たことのないほど傲慢、だって? そうじゃない。今までだってずっと同じ顔をしていた。この……美しく賢いしっかり者の妻……ロボットは。何もかわっちゃいない。変わったのは、私の気持ちだ。あの顧客と同じ、完ぺきに望みをかなえたはずなのに満足できない。永久機関を作るのが不可能なように、永久に変わらない気持ちというものはないのだろう。

 私は妻の形をしたロボットの背中からメモリを引きぬき、パソコンのスロットに挿した。

 今度はどういう女にしようか。前の前の妻は、ひたすら大人しく従順な性格をインストールした。数日で飽きた。だから今度は、テレビで国の役人相手にものおじせずハキハキと弁を振るっていた美人の国会議員をモデルにした。こういう女に怒られるのもいいかもしれないと思ったからだ。だが、こいつは人の仕事にさしたる根拠もなくケチをつけ、ただ責めたり貶めたりして自分を優位に立たせたいだけの、他人の話を聞かない・理解しようともしない(できない)、愚かで性悪な女にすぎなかった。

 静かな部屋にカタカタとキーボードの音が響く。次はどんな女にしようか。大人しすぎるのも怖すぎるのも嫌になったから、お笑い芸人のような女にしようか。一日で飽きるかもしれないが……まあ、また組み直せばいいんだし。まったく、人間とは気まぐれなものだ。

 私は溜息をつきながら、PC画面に向かった。プログラミングに熱中しているうち、目が乾いてきた。引き出しから目薬を出し、目に……おっと、こぼしてしまった。キーボードの端に小さなシミが出来る。私は舌打ちをして、洗剤つきの濡れティッシュでふく。これでしか取れないからだ。ロボット用特製機械油はすみやかに目に行き渡り、不快感は解消された。

 まったく、こんな小さなミスや感覚までシステムに組み込まなければならないとは、人間とは面倒なものだ。

<了>

*この物語は、トゥーサ・ヴァッキーノ氏のブログ「星新一をぶっとばせ!」に便乗して書いてみたショートショートの真似事です。


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コメント

  1. 時事ネタか?って思わせるような、仕分けチックな奥さんが出てきたかと思うと、なるほど、オチはそういうことだったんですね!
    このお話、いろんな伏線が張られていそうで、それを想像するのが楽しかったです。
    きまぐれロボット。
    いいタイトルですよね。
    こういうセンスがほしいです。

    返信削除
  2. ヴァッキーさん
    いらさいましー♪
    時事ネタ、あはは。ちょうど小泉息子との対決場面を
    テレビで観たのさ(笑)。
    何かこう、あの人じたいが漫画ちっくだよね。
    オーバーリアクションでいじりやすい。

    そうそう、タイトルがいい。シンプルだけど
    いろいろ想像が膨らむというか。
    端から端まで細かく神経使って書いてるんだよね。

    返信削除
  3. 僕はちょっとお姉さまな感じの女の人にあこがれるところがあるんで、ワクワク読んじゃいました。「悪いところは悪いと叱ってくれる良妻」ロボットの不具合じゃなくって、男の見方が変わったってのがいいですね。案外、僕が女の人に腹を立てたりしているけど、実は己のメガネがくもっているのかもしれませんねぇ。
    人間のほうが気まぐれなお話だったなんて、ヴァッキーノさんの全部きまぐれロボットも面白かったですが、これまた傑作です。
    でも仕分けの前からレンホーさんはちょっと苦手です(泣)

    返信削除
  4. 矢菱虎犇さん
    いらさいませー♪
    レン4さんで感心するのは、よくぞここまでポンポンポンポン言葉が出てくるよなあというところですね。中身があるかないかはともかくとして(笑)。
    ただ周囲にいたらかなりウザ・・・・・・まあいいか(笑)。

    読んでいただいてありがとうございます♪
    このブログ自体どこに向かっているのかわからない気まぐれぶろぐ(ものぐさブログか?)なのですが、今後ともよろしくです♪

    返信削除
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