おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

「日本史 敗者の条件」

2025年8月26日  2025年8月26日 

  なんでまだ暑いんだあーー。積読消化がさすがに進まないーー。

「日本史 敗者の条件」呉座雄一(2025)

 やっぱり外れなしの呉座さん。「軽い読み物」風なんだけど中身は濃ゆい。取り上げられている歴史上の人物は、【現場主義・プレーヤー型】として源義経、西郷隆盛、山本五十六、【サラリーマン社長型】として明智光秀、石田三成、田沼意次、【オーナー社長型】として後鳥羽上皇、織田信長。そうそうたる面々の上に、この分け方が絶妙。日本の軍隊は戦術は上手いが戦略がダメ、とよく亡父が言ってたけど、それを地でいくのがこの三人かもしれない。義経は政治的な動きはからきしだし、西郷隆盛も「情」が強めのイメージ。山本五十六にいたっては真珠湾攻撃の成功により海軍のトップとして重要な決定に関わっていたものの、結局は軍令部と連合艦隊とをまとめ上げるには至らず、中途半端で詰めの甘い作戦によってミッドウェーの大敗北を舐めてしまった。

 残り二つのサラリーマン社長にしてもオーナー社長にしても、「絶対的な独裁者」はここにはいない。こういうのはやはり日本の特性なんだろうか?織田信長が「ブラック企業のワンマン社長」になぞらえられてたのは笑った。それはどこの「どうする家康」か。軍事にはめっぽう強いものの、目下の者の状況や思惑には無関心で、不満を持っていることすら気づかない。明智光秀が本能寺の変を起こしたのはさしたる理由があったわけでなく、

「そこに無防備な信長がいたから」

という説、これも呉座さんだったっけ。そうだこれ「戦国武将、虚像と実像」。徳富蘇峰の説ですね。

 そしてそして、田沼意次!この方だけは武将ではない、政治家、もしくは官僚?将軍家治の全面的な信頼をバックに、身内で固めて政治権力を掌握した人。

「田沼が重視していたのは幕府財政の再建である。”無駄な支出”を削り、印旛沼干拓工事などの”大規模公共事業”によって税収増を図った」「大名を救済するための銀行をつくる費用を集めるといって百姓・町人から御用金を取り立てようとした」「そこには国家全体の経済をどうするかという視点が欠落している」

 今大河ではかなり良い風に描かれている意次だけれど、蝦夷地の上知にしたって確かに呉座さんの言う通り国家観に立った所業、というにはちょっと酷い。松前藩をあのくらい悪辣な感じで描写しないとそりゃ擁護しにくいですわ。言うて横取りには違いない。藩がお咎めを食らうのは仕方ないにしても、現地で利益を得ていた一般人はどうなったんでしょうね。

 と、思ったところでタイムリーにも放映してた

「歴史探偵 べらぼうコラボスペシャル 田沼意次VS.松平定信」。

 大河ドラマに沿った企画であるからして、前半のテーマは勿論「意次の再評価」。後年の悪評は松平定信一派である松浦静山が著した「甲子夜話」(かしやわ)が元ネタで、相当もりもりにdisられているらしい。当の意次本人は極めて質素な生活をしていたそうで、賄賂といってもブリとか博多織とか干し魚といった地元の特産品。塩田開発つながりの「菰塩鰆(こもしおさわら)」美味しそうだったわ!
 失脚後お取り潰しになった城の一部がこっそり地元の寺の建築に使われるなど(現存してる)、相良では愛されていた。しかしこれもまた裏を返すと、
「狭い範囲の限られた地域であれば成功できる」
ということであり、やっぱり現場型・戦術型で、国家全体を動かすには少々器が足りなかった、ともいえるのかも。とはいえ難しいよな……邪魔もされるしねいろんなものに。この自然災害多い日本で、運も味方につけないといけないのがまた。当時の出来る限りを、精一杯知恵を絞って頑張った人ではあるのは確か。
 さて同じ番組で松平定信が、筋金入りの「源氏物語」オタクだった!ことを暴露、いや紹介してた。生涯で七回も書き写したばかりか「今波恋」という源氏物語愛を語る日記まで書いてたんだそうな。「自分は目が良いからこんなに書き写せたんだ」という言い訳にならない言い訳つき。芸術家肌で絵も上手い。
 そんな定信が出版統制をおこなったのは、風紀を取り締まるだけでなく素人による売買禁止・同業者同士でチェックしあう、つまりは版元を守るルールを定めたということらしい。蔦重や京伝が罰せられたのは「見せしめ」だと(ドラマだと多分意次との関わりでやられるんだろな)。この定信にしても、意次と方向性は違えど諸問題をなんとかしようと奔走した人ではある。
 
 ついこの間「族長の秋」を読んだところなので余計にそう思うのかもしれないが、日本に本当の意味での(南米でのそれのような)独裁者っていたことあるんだろうか?日本という国の体裁が出来て以来、ずーーーっとああでもないこうでもないとワチャワチャしながら物事を進めてきたんじゃなかろうか、という気がしてきた。強力なリーダーが生まれにくいのはそのせいなのかも。

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