「日本史 敗者の条件」
なんでまだ暑いんだあーー。積読消化がさすがに進まないーー。

「日本史 敗者の条件」呉座雄一(2025)
やっぱり外れなしの呉座さん。「軽い読み物」風なんだけど中身は濃ゆい。取り上げられている歴史上の人物は、【現場主義・プレーヤー型】として源義経、西郷隆盛、山本五十六、【サラリーマン社長型】として明智光秀、石田三成、田沼意次、【オーナー社長型】として後鳥羽上皇、織田信長。そうそうたる面々の上に、この分け方が絶妙。日本の軍隊は戦術は上手いが戦略がダメ、とよく亡父が言ってたけど、それを地でいくのがこの三人かもしれない。義経は政治的な動きはからきしだし、西郷隆盛も「情」が強めのイメージ。山本五十六にいたっては真珠湾攻撃の成功により海軍のトップとして重要な決定に関わっていたものの、結局は軍令部と連合艦隊とをまとめ上げるには至らず、中途半端で詰めの甘い作戦によってミッドウェーの大敗北を舐めてしまった。
残り二つのサラリーマン社長にしてもオーナー社長にしても、「絶対的な独裁者」はここにはいない。こういうのはやはり日本の特性なんだろうか?織田信長が「ブラック企業のワンマン社長」になぞらえられてたのは笑った。それはどこの「どうする家康」か。軍事にはめっぽう強いものの、目下の者の状況や思惑には無関心で、不満を持っていることすら気づかない。明智光秀が本能寺の変を起こしたのはさしたる理由があったわけでなく、
「そこに無防備な信長がいたから」
という説、これも呉座さんだったっけ。そうだこれ「戦国武将、虚像と実像」。徳富蘇峰の説ですね。
そしてそして、田沼意次!この方だけは武将ではない、政治家、もしくは官僚?将軍家治の全面的な信頼をバックに、身内で固めて政治権力を掌握した人。
「田沼が重視していたのは幕府財政の再建である。”無駄な支出”を削り、印旛沼干拓工事などの”大規模公共事業”によって税収増を図った」「大名を救済するための銀行をつくる費用を集めるといって百姓・町人から御用金を取り立てようとした」「そこには国家全体の経済をどうするかという視点が欠落している」
今大河ではかなり良い風に描かれている意次だけれど、蝦夷地の上知にしたって確かに呉座さんの言う通り国家観に立った所業、というにはちょっと酷い。松前藩をあのくらい悪辣な感じで描写しないとそりゃ擁護しにくいですわ。言うて横取りには違いない。藩がお咎めを食らうのは仕方ないにしても、現地で利益を得ていた一般人はどうなったんでしょうね。
と、思ったところでタイムリーにも放映してた
大河ドラマに沿った企画であるからして、前半のテーマは勿論「意次の再評価」。後年の悪評は松平定信一派である松浦静山が著した「甲子夜話」(かしやわ)が元ネタで、相当もりもりにdisられているらしい。当の意次本人は極めて質素な生活をしていたそうで、賄賂といってもブリとか博多織とか干し魚といった地元の特産品。塩田開発つながりの「菰塩鰆(こもしおさわら)」美味しそうだったわ!

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