「戦国武将、虚像と実像」「日本中世への招待」
呉座さん連発。
研究者ではない普通の一般大衆が抱く歴史上の人物に対するイメージ、それは時代ごとの価値観によって左右され、変遷していく。現代人の多くは小説やドラマ、映画などに影響されて一定のイメージを共有しているが、今までにない斬新な人物像と思われたものも実はずっと以前に元ネタがあったりする――――この変遷の様相を追っていくことはすなわち、日本人の価値観、自己認識、(理想化された)自画像の変遷を明らかにすること。それを知らずして日本社会の未来を描くことはできないだろう、と。
ああ、この冒頭だけで読んだ甲斐がありました。と思いつつ本編。
私は歴史好きと言いつつも、実は戦国武士には全く詳しくない。呉座さんの仰る、小説やドラマや映画、も特に多く見てるわけでもない。そんな私の極めて貧困なイメージがこの本でどう変わったか。
【明智光秀】
NHK大河「麒麟がくる」は観てない(痛恨)。関連した歴史番組ならいくつか。地元では名君扱いで慕われてたと。なお私の光秀に対する評価はコレ。
「いや主君討つとかないわ引くわ。しかもアッサリ秀吉にやられて三日天下とか。何がしたかったん」
明治期から戦後にかけて活躍したジャーナリストにして評論家、徳富蘇峰の大著「近世日本国民史」が多くの歴史小説の種本となり、後世にも多大な影響を与え続けているという。その徳富蘇峰が本能寺の変について、
「(光秀は)野心も怨恨もあったのかもしれないが、特に前々から計画していたようには思えない。たまたま目の前に無防備な織田信長がいたから攻めたのではないか」
などと述べている。評して「猫に鰹節」だと。なるほど、つまりそこに山があるから登るという山男的な?つまり武士としてチャンスを逃したくなかったと。
うーん、やっぱり私の評価であってんじゃん(え?)
【斎藤道三】
あの眼光鋭い肖像画のイメージは強烈だけど、ごめんよくしらない…戦国時代、織田家と天下取りを争った実力者?(適当
戦はそこそこ強い猛将だが国内統治はイマイチ、身内には煙たがられ、しまいには実子に殺されてしまうワンマン独裁者。てとこだろうか。
【織田信長】
江戸時代には全然評価が低く人気もなかった、というのが意外だった。臣下に裏切られて殺されたのは徳がないせい。だから不徳の君主なのであると(酷くない?)。その後は時代の趨勢により勤王派だとか風雲児、革命児だとか二転三転。
実際のところ、信長は当時の朝廷及び周辺国、自国内の事情に合わせてより有益と思われる行動をとってただけじゃないだろうか。冷酷な独裁者でもないし、斬新な改革者ともいえないと思う。むしろ他人を信じすぎる、案外人を見る目がないというか、甘いところがあったんじゃ?育ちの良さが災いしたか元の性格なのかはわからないが。
それにつけても「麒麟がくる」真面目に観とけばよかった。革命児でも勤王でもない等身大の信長に近い姿…観たい。
【豊臣秀吉】
「足軽から天下人になった日本史上空前絶後のサクセスストーリー」は江戸時代の庶民の心を鷲掴み。ただ江戸幕府からすると豊臣家は敵方、儒教的な考え方と徳川史観で当時の学者には相当に批判された。ところが尊王攘夷論が華やかなりし幕末には朝鮮出兵が絶賛され、日清戦争の勝利によってまた評価爆上げ。第二次大戦の敗戦後にはまたひっくり返る、と浮き沈みが激しい。
私自身のイメージはNHK大河「おんな太閤記」の秀吉なんだよね。頭がいい機転も利くお調子者、女好きで家族にベタ甘、成り上がりのハデ好き…
現場での瞬発力はピカイチだったけど、およそ陰謀なんぞ縁がない、あまり先々を考えられない人だったんじゃないかと思った。光秀を唆して信長を討ち取らせるみたいな器用なことは出来ない気がする。結局ほぼ一代で終わっちゃったしね。
【石田三成】
こちらも実はあまり知らない。ツイッターアカウントはフォローしてるけど笑
豊臣秀吉の忠臣で、最後の最後まで豊臣家に尽くしたというフワンとしたイメージは、大して変わらなかった。真面目で、段取りとかキッチリ考えてから動く人って感じがする。思い立つとすぐ実行に移してしまいがちな秀吉の手綱をうまく取ってたんじゃないだろか。
【真田信康】
え、誰…と思ったら真田幸村のことだった。NHK大河「真田丸」で取り上げられたらしい。私が知ってるのはやはり「真田十勇士」。当時は、全くのフィクションだと思っていた。実在する人物をモチーフにしてると知ったのはいつだったか。
関ヶ原の戦いにて活躍した武将であることは本当らしい。だが江戸時代に徳川家康を持ち上げる目的で、好敵手としてかなり盛られたということもあると。
個人的に気になるのは、子供向け小説群として明治から大正にかけ刊行されたという立川文庫。一世を風靡してその後の真田関係の創作の先鞭をつけ、ことによると少年漫画の走りと言えるかもって、良いではないか!これも観たい!
【徳川家康】
狸親父は狸親父なんじゃないかなあ。ただ権謀術数に特に長けてたというわけじゃなく、能力的には信長や秀吉と大差ないが、周囲と上手くやるコミュ力と計画性が勝ってたんじゃないだろか。総合力においてバランスよく揃ってる人だったからこそ戦乱の世も終えられたのかなと。これもまた非凡な才だと思う。
と、ここまで書いてみて自分が如何に知識がないか、本を読んでないか思い知らされて辛い。司馬遼太郎も吉川英治も一応読んではいるけど全部では勿論ないし、ほぼ忘れてる。うう。
一方呉座さんときたら、巻末に山と載ってる参考文献の他、チラホラ名前が出てくる小説もきっと読んでる。歴史小説って得てして長いのが多いのに、一体全部で何冊読まれたんだろうか。本当に学者さんってヤバイわ。
呉座さんが某作家さんたちとバトルした理由は決して彼らの仕事を馬鹿にしたり全否定したりすることではなく、歴史学への入口としての創作とはどうあるべきかの問題提起であり、学者としての知的追求なんですよね。人気のある作家さんだから影響が大きいのも心配だったんでしょう。本当のところ、優れた創作者と歴史学者がうまくタッグを組めれば最強の布陣となる気がするんだけど…お互いにプライドあるから難しいね。思想信条も絡んでくると尚更ややこしい。
「日本中世への招待」
此方はぐっと砕けた感じの、まさにタイトル通りの一冊。
「歴史」といえば大きな合戦や武将、統治者の振る舞いなどに偏りがちだが、文書や記録に中々残ることのない日々の営みはどうだったか、というところに目を向けた本はなかなか見当たらない。無いなら自分で書けばいいということで生まれたのが本書である、と。
はい、此方も冒頭だけで読んだ甲斐あります。うん。
内容は連載記事や講座をまとめて加筆したものだけれど、中世という社会の暮らしというものをわかりやすく端的に、かつ濃く書いてくださってる。最初から最後まですっごく面白いです。
あっという間に読み切って、私は確信した。これははっきりと創作者のための本であると。
どうせ種本にするのなら、昔の作家を参考になんぞせず、より正確なものを使おうぜ。何読めばいいかわかんない?仕方ない俺が手え引いて連れてってやるわ、みたいな?
例によって膨大な参考文献だが、付録として
さらに中世を知りたい人のためのブックガイド
まである!!!
いやマジで、中世フィクションを描きたい人は、小説であれドラマであれ映画であれ、まずこの本を読むべき。本当に。
てか、
どこのテレビ局でも映画監督でも良いから早く時代もの作品の監修させたげて!待ってる!
他の時代のこういう本もあったら欲しいわあ。

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