「コロラド・キッド」「SGU 警視庁特別銃装班」
積読も日々順調に消化し、日々順調に積まれている(つまり減ってない)。
「コロラド・キッド」スティーヴン・キング 白石朗/高山真由美 訳(2024)
日本オリジナル中編集ということで、三篇とも新作というわけではない。最初の以外はもしかしてどこかで読んでるのかも?と思ったが読んでみたら未読だった、多分。最初に言っておくと、三篇とも怖くはない。恐怖要素はあるものの、過ぎ去るもの過ぎ去ったものへの愛が溢れる、おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな系。ただし私の恐怖感度は激低いので注意。
1.浮かびゆく男 ELEVATION(2018)
これといった理由もなく毎日体重が減っていくという話(体型は変わらず)。キングのさらに昔の長編で「痩せゆく男」というのがあるが、それとは全く雰囲気が違う。荒唐無稽なアイディアながら、ちゃんと現実に即した展開になっていくのが面白い。アメリカの保守層の多い地域で、マイノリティがどういう扱いになるかも結構赤裸々。主人公がナイスガイで、古き良きアメリカンヒーローという趣もあるのもよい。よくよく考えたらかなり怖い状況なのに何故か美しく感動的な不思議なラスト。
2.コロラド・キッド COLORADO KID(2005)
うわーこれはしてやられた。ようもこんなネタというか会話劇をここまで延々とやれるもんだ。このじれったさと煽られる感じ、嫌いじゃない。嫌いじゃないがゆえにまんまと乗せられてしまった。おそらくキングのコアな読者であればあるほど騙されると思う。お腹立ちの読者へ的なあとがきまでついてて、ハアーなおさらイラっとくるわこんのクッソ親父め!!となる。って2005年かー。今から二十年近く前にこんなの書いてるのか。俺天才すぎてヤバいでしょ?ニヤニヤって感じー?憎たらしい親父だわ全く。好き。
3.ライディング・ザ・ブレット RIDING THE BULLET(2000)
これはまたキングらしい、家族愛と直球ホラーの合わせ技。短いのに緊迫感半端ない。いろんな種類の「怖さ」がまじりあい溶け合ったかと思えばまた離れ散り、最後はしんみり切ない。いつも思うけどキングは日本の仏教とか神道とか向いてるんじゃなかろうか。作品に諸行無常の響きがあるよなんだか。
「SGU 警視庁特別銃装班」冲方丁(2023)
何の気なしに読んだがドラマ化されてたのね(ドコモの独占配信だったらしい)。
銃犯罪が増えた近未来の東京で、フルアーマーな強盗団による事件が頻発。重装備の敵に対抗するため選び抜かれた精鋭のみで結成された特別銃装班、という設定で既にワクワクする。悪者キャラが如何にもな悪者キャラなのもよい。こういう輩に裏の事情なんて要らないのよね別に。
何しろフル装備での戦闘に特化した班ということで出てくる銃の種類が半端ない。都心の交通事情を鑑みた本格カーチェイスと相まって、ドローンがあくまで「偵察用」「追跡用」として使われてるところがリアル。ただ後半に明らかになる壮大な「計画」は正直ムリじゃなーい?と思ってしまった。某銀行の某トラブルがベースになった発想というが、いやーうーん。それより今話題の「貸金庫」のちょろまかしの方がよほど手っ取り早く足もつきにくいというね。現実の方がフィクションを超えてる。してみると世の中の大部分はまだまだアナログな信用で成り立ってるんだなあ……特に日本は。脆いものよのう。
それとこの「悪の組織」ね。大人数をまとめるにはやはり何らかの軸が必要なんだなと思わされた。組織をちゃんと機能するように保つのって難しい。金や脅しだけの繋がりではより高額の報酬・より強大な力に対すればたやすく寝返られてしまう。カリスマ的なリーダーに心酔し忠誠を誓うというきわめてウェットな繋がりは一見統制がとれていて強そうだが、ひとたびリーダーが崩れれば瓦解するし継続性もないし、これも組織としてはきわめて弱い気がする。
翻ってリアルの闇バイトの図式を考えてみると、あれってはなから「組織立てる」ことは目指してないんよね。あるメソッドに従ってターゲットを選び人を選び集め、指示通り実行させるという短期決戦。トップにいる者は決してその存在を明らかにせず、複数の手駒を操つりつつも実行犯はそのまた下の「赤の他人」。捕まえたところで、そもそも上との繋がりは皆無なのでトップにまで届かない。この手の犯罪にはSGUも役立たないだろうな。ここでも現実はフィクションより一筋縄ではいかない。
とはいえストーリー自体かなり凝ってて面白かった。ドラマも観てみたい。
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