「悪霊島」
カドカワがSONYに買収されると聞いて。というわけじゃ全然ないけど、何となく。
「悪霊島」篠田正浩(1981)
この映画、以前観たのか観てないのか、多分観てない(どっちや)。あまりにあのCMの印象が強すぎて(鵺の鳴く夜はおそろしいってやつね)内容の印象がかき消えてるのかも。鵺はトラツグミとも呼ばれて、私の実家の方でも夜中から明け方によく聞くのだ。
さて映画。のっけからジョン・レノンの死が伝えられる。1980年暮れのあのニュースに衝撃を受ける人々、から一転、時代は1969年へ遡る。刑部村、という名前からしておどろおどろしい村にまつわる暗い因縁、戦後の混乱、狭い島の中での権力争い、などなど如何にも横溝正史っぽい設定。何より巴御寮人役の岩下志麻がすごい。娘の双子(岸本加世子の二役!)の若さよりはるかに圧倒的なその美しさに目を奪われる、というごく短い場面をこれほど完璧に演じきれる女優はなかなかいない。男を惑わせる、狂わせる魔性の美貌。今なら誰だろう?
当時、角川春樹が「金田一ものはこれで最後」という意気込みで制作したというだけあって、これまでの横溝映画の集大成プラス新たな試み(金田一役が鹿賀丈史というのもその一例)といった趣。令和の今観てみると「新たな試み」も含めもう二度と撮れない文化遺産的な意味合いが大きい。町並みも家の中のつくりも、俳優さんたちも、エキストラの人達も。体型、顔つきはもちろん所作から違う。人間関係が結構複雑で、やや詰込みすぎ感は否めなかったけど、ジョン・レノンの死を冒頭に持ってきた意味はわかった。ひとつの時代の終わりと始まりをオーバーラップさせたということか。最後まで面白く観ました。
で、小説の方も読んでみた。こっちは未読だったと思う多分(あやふや)。
「悪霊島」上下巻 横溝正史(1981)
えーーーーーと……
ぜんっぜん!まったく!違う話だったア!
まあ映画という時間空間限定のメディアで原作のすべてを網羅するには難しいんだけれども。別物と考えて差支えはないんだけれども。大体は「映画すごいけど原作には敵わないわよね」と感じることが殆どだが今回は逆。映画よう頑張った!ようもまああんないい感じにまとめたよねという感想。その理由はある程度ネタバレしないとかけないので、空ける。
小説の「金田一シリーズ」としても最後の作だったらしい。私はてっきり「病院坂の首縊りの家」が最後かと思っていたが、そちらは作中の時系列として最後ということであって、実際最後に書いたのは「悪霊島」だと(ややこしいぞ)。
もちろん文章はいたって読みやすく、すいすい行けるっちゃ行けるのだが、なんというか進みがやたら遅い。いや、前振りが長いのはいいのよキングで慣れてるし。そうじゃないんだ、なんか話がダラ長い・くどい感があった。「悪魔のひじの家」を読んだ時と似た印象を持った。あれも作者がだいぶ年取ってからの作品なんだけど、加齢のせいだとしたら悲しすぎる。いやむしろ私が年取ったせいなのか?うわあああん(しょっく)。
横溝作品ではお馴染みの瀬戸内海・平家落人言い伝えから始まって、孤島の栄枯盛衰、人間の金や色の欲にまつわる色々がああなってこうなって、という設定と展開はよかった。特に越智竜平の最終的な役回りには唸らされた。え、もうちょっと人となりや事情を出してよかったんじゃないのこの人。島に溜まった古いドロドロなしがらみや塵芥を一掃して新たな未来を創るキーマンじゃん?
まず以てヒロインともいえる巴!巴のキャラがイマイチ立ってない。これまでの横溝作品だと主要女性キャラというものは、最初から微に入り細に穿つ勢いでガッツリ書き込んでたじゃないの。最重要人物だというのに「美しい」以外の特徴がみられない。途中で狂ったにしては狂い方が常軌を逸しすぎてるんで、せめて読者にだけわかる「兆候」なり「匂わせ」なりあってほしかったなあ。長年に渡ってあれほどの所業を続けていたら、いくら吉太郎がいるったって普段から違和感あるだろうし、夫も気づくだろ。まして駆け落ちから連れ戻して子も始末をつけた父親の大膳なら尚更。映画では巴が二重人格発症した設定だったから、もちろん父親関わってて隠蔽もしてたもんね。此方の方がいつもの横溝っぽいとは何たること。
その意味で、越智がもっと初めのうちから「巴の異常さ」を感知しててもよかった気がするんだよね。初手から犯人が察せられたところで、この話の場合問題なかったと思う。吉太郎も、ある意味巴以上にオカシイ奴なんだから、その辺の描写も先に欲しかった。
などと文句言いまくりだが、最後まで引きつけられて上下巻を三日ほどで読破してしまった私。映画も小説もキーワードが「蒸発」なんだけれども、ちょっと聞いてくださる奥さん。小説の最後がね……
かくて外面似菩薩内心如夜叉を地でいったような巴御寮人は、櫛ひとつこの世に遺して、完全に雲隠れしてしまったのである。「源氏物語」の書かれざる最後の巻のように。
これだよ!!!この一文書くためにコレ書いたんじゃないのこの人!!!
ちうか自分の「何となく」が怖いわ。もしかしてこれに引っ張られたんか私。ひいいい。
コメント
コメントを投稿