柏木 六
夕霧左大将は、親友の柏木が思い余って洩らしたことが気になって仕方がない。
(いったい何があった……もう少し頭がはっきりした状態だったら、自ら言い出したことなんだしうまく事情を聞き出せたろうに。あんな……今わの際ではどうしようもなかった。可哀想に……最期の姿が頭から離れない)
実のきょうだい以上にその死を悼み、嘆き悲しんでいた。
(それにしても女三の宮……さして重病というわけでもないのにあっさり出家したよね。ていうか、よく父君がお許しになったものだ。二条院の紫上が危篤状態の時も泣く泣く懇願されたらしいけど、とんでもない!絶対にダメだ!って拒否ってたのに)
考えれば色々と思い当たる。
(やはりあの垣間見からずっと思い続けて、遂に抑えきれなくなったんだろうな。表向き冷静沈着で、人より思慮深く穏やかで、周りからは心の内が窺い知れない感じに見られてたけど、少々情に溺れやすいところがあった。繊細すぎたのかもしれない。どんなに深い思いだったとしても、許されない恋の熱に浮かされて我が身を犠牲にすることはない。相手にも迷惑がかかるし、第一死んで何になる?前世からの宿縁だったとしても、余りに軽率だし無意味じゃないか……)
さすがに妻の雲居雁には言えない。適当な機会もなく、ヒカルとも話せていない。
(こんなことを小耳に挟みました、とか何とかほのめかして反応を見てみたいけど、あの父を誤魔化せる気がしない。誰から聞いた?とか言われても困るしな……うーん)
独り考え込む夕霧であった。
柏木の両親は涙が涸れる間もなく、儚く過ぎる日を数えることも出来ない。法要の装束その他の準備は弟妹たちがそれぞれ分担した。読経や仏像の差配は次男の弁の君である。七日ごとの誦経を両親にも促すが、父大臣は、
「私に何も聞かせてくれるな……こんな有様では、往生の道の妨げにもなろう……」
と、死人のように呆けているばかりであった。
参考HP「源氏物語の世界」他
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