おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

若菜下 四

2021年3月29日  2022年6月9日 


 「ねえねえ右近ちゃん」

「なあに侍従ちゃん」

「聞いたー?桐壺女御さまって、この頃はハッキリ明石女御さまって呼ばれてるんだってー」

「知ってる。明石一族ってもう、開運招福の象徴!みたいになってるもんね。この間まで、身分が低いだの田舎者だのって見下してた人たちまでアッサリ手のひらクルーで、ホントにもう世の中ってさーって思ったわ」

「ま、いいじゃん。これでだーれも明石の君のことも、女御さまのことも悪く言う人はいなくなったわけだしさ。なんたって今旬のハッピーワード♪」

「ハッピーといえば、三宮ちゃんってまた位階が上がったらしいよ。二品だって」

「エエー!二品って二位ってこと?!上から二番目……え、ちょっとまって。明石女御さまでも従三位だよ?今上帝のご寵愛深い一の后なのに」

「ホントそれ。朱雀院さまって勤行三昧でもう内裏には一切口出さないスタンスって聞いたけど、やっぱり最愛の三宮ちゃんのことだけは放っとけないのかね」

「(小声)出家された方としては如何なものかと思いますけどね」

「わっビックリした!少納言さん!」

「いらっしゃい。……ささ、中へ中へ」

 すみやかに奥に入る三人。

「ごめんなさいね、突然来たりして。しかも手ぶらで」

「何を仰るやら、いつでも歓迎ですよ少納言さんなら」

「お茶入れてきまっす!」

 侍従、給湯室へ。

 溜息をつきつつ黙り込む少納言。

「えっと……大丈夫?」

「お待たせー♪今日のおやつはみたらし団子♪」

「ありがとうございます……何だか嬉しい(涙ぐむ)」

「……とりあえず、食べよっか」

「いっただっきまーす♪」

 しばしお茶とみたらし団子を楽しむ三人。

少「ああ、美味しい。沁みますわ……」

侍「ありがとうございまーす♪こういうふっつーの和スイーツもイイですよね!」

 微笑む少納言。再びふーっと溜息をつく。

右「言いたいことは全部吐き出していったらいいと思うわよ?遠慮しないで」

侍「ですです♪」

少「そう……ですね。まあ……結局はどちらが上か下かって話なんですよ」

右「三宮ちゃんが昇格した件?」

少「ええ。別に位階なんて形式的なものだってことはわかってます。宮仕えもしていないのに業績も何もないですし、父院のたっての願いを宮さまのごきょうだいでもある今上帝が聞き入れられた、単なるコネ枠と誰しも承知はしてらっしゃるでしょう。でも、だからこそコレはヒカル院に対してダイレクトに

『ウチの娘を一番大事にしてくださいね!なんたって二品なんだから!』

っていうメッセージになり得るんですよ。事実、御封(収入)はぐっと増えるわけですし、世間向けにも扱いを変えざるを得ない」

右「……確かに、お渡りが最近三宮ちゃん多めになってる気はするわね」

侍「エっそうなんだ!やっぱりそういうのでヤバい!ってなったりするの?ヒカル王子みたいな身分でも」

右「そりゃそうよ、明らかにプレッシャーかけてきてるじゃん。他に理由ないでしょ。六条院に降嫁した時点で女君の中じゃ最も高い身分なのに、今になって位階を上げる意味って少納言さんの言った通り、名実ともに一の妻として扱えよ!ってことよ。紫ちゃんが事実上トップの座にいることは周知の事実だから心配なのはわかるけど、やり過ぎよね明らかに。別に三宮ちゃん自身が不満抱えてるわけでもないのにさ」

少「そうです……!そうなんですよ!何も足りないところはなかったんです。昇格なんてさせなくても、北の方としてキチンと立てておりました。なのに、もう今じゃヒカル院は完全に意識的に、お泊りが半々になるよう気を遣ってらして……紫上の方も、更に引かざるを得ません。女房達の憤懣も一人で受けとめられて、平気な振りをしなければいけない」

右「そりゃ紫ちゃん付きの女房さん達は怒るよねえ。『宮さまの女房さんたち、普段良い顔をしておきながらその実朱雀院さまにイチイチご注進してたのかしらー』なんて要らない邪推もしちゃいそう」

少「ほんっとうに、とんでもない方ですよ朱雀院さまは。紫上はあの宮さまの母君じゃないのに。

『わたくし自身はただ殿のご寵愛だけは他人には劣らないけれど……これから年月が過ぎていけばそのお心もしまいには衰えるでしょう。そんな目に遭わないうちに何とかしたいものだわ』

 って、そんなお言葉、私も聞きたくはありませんでした……他の女房達には気取らせませんけどね……」

侍「ど、どういうこと?何とかしたいって」

右「出家したいってことよね?」

少「そうです。前々からチラチラと漏らしてはおられたのですが、このことで更にその思いを強くされたようで。ただ、今女一の宮さま……明石女御さまの娘御ですね、春宮さまのすぐ下の妹君……をお世話しているので、見た目はとても楽しそうにしてらっしゃいます。まだまだ手のかかるお年頃ですから、殿がいない夜も慰められてはいると思います。ですが……あまりにもあまりなやり方だと……」

侍「紫ちゃん……不憫すぎるう泣」

右「なるほど。お孫ちゃんたち可愛さになんとか引き留められてる感じか。辛いね」

少「このところ六条院は小さい子だらけなんですよ。夏の町の花散里の御方さまの所では、夕霧さまと藤典侍さんの間に産まれた男の子を預かられて、それは大事に可愛がってらっしゃいます」

右「ああ、あの子そうだったのね!凄い可愛い子よね、お喋り上手で利発そうな」

侍「えー見たーい!あの惟光さんの孫ってことでしょ?顔も良くて口も立つとか、王子と惟光さん両方のいいとこどりしてるのねん」

少「今度遊びに来てくださいね。賑やかですよ。そうそう、玉鬘さんも時々見えられます、紫上のところに。仲良く話し込んでおられますよ」

右「あれはいい絵面よね。タイプの違う美人姉妹って感じ。結婚のいきさつはともかくとして(鬚黒は未だに嫌いよ!)お幸せそうでよかったわ」

侍「なんかさー、マジで完璧なハッピーファミリーじゃん六条院。お子さま少ないのに孫はわんさか生まれてさ。三宮ちゃんにしろ、位階上がったからって威張るとかマウント取りだしたとかもないんでそ?」

少「そうですね、あの方は不思議な程お変わりにならないです。もう二十歳を超えられましたけど、今も少女のよう。ヒカル院も明石女御がすっかり大人になられたものですから、宮さまを娘代わりとして色々と教えていらっしゃいますね」

侍「え、じゃあもう別によくなーい?気にしなくても。今紫ちゃんが一番なのは確かなんだしさ。先の事心配したって仕方ないよー。可愛いお孫ちゃんたちに囲まれて、楽しいことだけ考えてればいいと思う!」

右「そもそも王子の気持ちが離れるなんて今更あり得ないわよ。もうあの歳で、新たに誰かに粉かけるなんてこともないだろうし、紫ちゃんがいなかったら六条院の平和もないしさ。自信もって支えてたらいいと思うわ」

少「そう……ですね。本当にそうです。私、何か見失ってた気がします。余りにも紫上の気持ちに寄り添いすぎて」

侍「寄り添ってるのはいいんじゃなーい?紫ちゃんが本音を漏らせる唯一の女房として、一緒に泣いたり怒ったりするの当たり前体操ー!」

右「そうそう。少納言さんの存在は紫ちゃんにとってすごく力になってると思う」

少「ありがとうございます……嫌だ、涙出てきちゃった。最近ピリピリしてたもんですからつい」

右「もっと早く此処に来て愚痴ってくれたらよかったのに。いつでも歓迎するわよ」

侍「ですです♪お茶も速攻用意しますし♪」

少「ありがとう……本当に、お二人には感謝ですわ。元気が出て来ました。実は来年、朱雀院さまが五十になられるということでヒカル院が色々お祝いを考えておられて。おそらく以前玉鬘さんが若菜献上の名目で此方にいらした時のように、宮さまを彼方に派遣されると思うんですが、すっぱり割り切って準備にかかれそうです」

右「あらいいわね。あのサプライズ、王子すっごく喜んでたもんね」

侍「王子やさしい……自分がされて嬉しかったことを兄貴にも!って、流石はアタシのいち推し王子だわん♪」

少「朱雀院さまは音楽がお好きで造詣も深い方ですので、舞人や楽人なども今から良さそうな方を見繕っておられます。あとお孫さまたちも揃って童殿上なされるついでに、童舞としてデビューもさせようというお心積もりのようですわ」

右「お孫ちゃん、典侍ちゃんの所も加えると三人男子いるもんね。あと玉鬘ちゃんのところの男子二人。兵部卿宮さまのところも一人いるわよね。わ、けっこう多い」

侍「えーすごーい!観たい!でも流石に朱雀御所には行けないよねしょぼん」

少「きっと試楽めいたことを六条院でなさいますよ。そしたらお二人はVIP待遇で、ベストなお席をご用意しますわ」

右・侍「ヒャッホウ!!!」

 しばし三人でキャッキャしつつお喋り三昧後、少納言帰る。


「少納言さん、元気になってよかったわ。来た時はしにそうな顔してたもんね」

「うん!もっと遊びに来てくれればいいよね!アタシたちも楽しいし」

「ああ、でもこれから超多忙になるんじゃないかなあ。だって相手は朱雀院さまよ?王子も、自分の時みたいに地味にー簡素にーってわけにはいかないじゃん。そりゃ出家なさってるから超派手派手ーにはならないだろうけど、逆に大変よ。色や柄で誤魔化せない分、本気でイイものを用意しないと衣装も道具も。精進料理とかも素材に凝らなきゃだし」

「うわーうわーメッチャお金かかりそう……増えた分の御封なんて吹っ飛ぶよね。経済回してるう」

「何にせよちょっと楽しみね。今度という今度は王子の本気が観られるかも」

「わくわーく♪」

参考HP「源氏物語の世界」他

<若菜下 五 につづく

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