おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

若菜上 十六

2021年3月2日  2022年6月9日 


「ねえねえ右近ちゃん」

「なあに侍従ちゃん」

「明石の人ってさー、前からあんなだったっけ?!結構サラっと凄いこと言ってない?!」

「源氏物語屈指の波乱万丈人生だもんね。実際、身分的には六条院にお部屋を確保してるだけでも破格なのに、実の娘は次期帝のご寵愛も深い女御で男子出産。お付きの女房としてみてもそりゃあもう怖いもんなしよ」

「初めの頃はあんなに自信なさげに謙遜ばっかしてて大丈夫?自己評価低すぎじゃない?って心配してたんだけど、とんでもなかった……『計 画 通 り』って感じじゃん!つよつよじゃん!」

「どう立ち回れば自分に有利な状況を得られるか瞬時に判断して動ける人よね。もちろん相手には毛ほども意図を気づかれずに、さりげなーく。まあそのくらいじゃないと後宮でドンパチできないわよ」

「女のドンパチねー。こわこわ!」

「それを考えるとさ、たしかに無理なのよね宮仕え、三宮ちゃんには。ていうか周りも無理」

エッ女房さんたちもあんななの?!朱雀院さまが厳選して付けてる人たちじゃないの?!」

「もちろん一定のレベルには達してるのよ。家柄も見目もいいし教養もそれなりにある。ただ若い子が多いからさ、どうしても浮つきがちなのよね。トップがピシッとしてれば下の方も自然に締まるんだけど、アレだから……一人がキャッキャすると止める人いないからもう皆引っ張られちゃう。しかも未だにお人形遊びとか小さい子がするような遊びで盛り上がってんのよね、三宮ちゃんが好きだからって。うるさすぎてあのヒカル院が見かねて注意するくらいだから相当なもん」

「へええええー、そうなんだあ。てっきりああいうお嬢な人たちはお淑やかに高尚なことばっかりやってるもんかと思ってた!」

「ナイナイ、やっぱり環境よ。緩いとこじゃどこまでも緩くなる。あの乳母さんも厳しそう~と思ったけど全然で、ベッタベタに甘やかしてる。とにかく女房側に、この人に言っておけば大丈夫っていう人がいない。王子がいちいち一人一人に小言いってまわるわけにもいかないから、三宮ちゃんだけ優しく窘めてるって感じ?無駄っぽいけどね。朱雀院さまにお育てくださいって頼まれたそのまんま、まさに妻というより娘。しかも超絶わかりの悪い」

「いやん右近ちゃんてば辛辣うー☆やっぱり三宮ちゃんって、言われれば素直に聞くしその通りにするけど、それ以上のことは出来ないんだね。自分で考えて動くっていう発想自体ないかんじ?六条院内だからまだしも、宮仕えなんかしたひにゃ一気にバレちゃうね」

「院内でももうバレバレよ。そもそも王子が嫌々なのは見てればわかるしさ。夕霧くんもさ、なんだかんだ気にはなるみたいで事あるごとにあの辺ウロウロしてるけど、どうも何かオカシイぞ?って察しては来てるらしい」

「こんにちはー」

「あれっ、小侍従ちゃんじゃん!珍しい」

「こんにちは、お久しぶり。入って入って」

「ありがとうございます♪ちょっと近くまで来たもので。お邪魔しまーす。あっこちら、つまらないものですけど」

「わー、桜餅!!!美味しそう、ありがとう!お茶入れて来まーす♪」

「雲居雁ちゃんはお元気?あっもう北の方さまだわ」

「はい、お蔭さまで雲居雁の御方さまもお子様たちも元気いっぱいで、三条宮邸は毎日とっても賑やかですよ!」

「お待たせー♪」

「侍従ちゃんはやっ」

「だって色々話聞きたいじゃーん?小侍従ちゃんって結婚したんでそ?」

「あっ何故それを。そうなんです、先月に」

「こういう話は速いわよ。おめでとう!お茶だけど乾杯しよっか。小侍従ちゃんのご結婚を祝って、せーの」

(三人一緒に)「かんぱーーーーい!!!」「オメデトー!!!」

 しばし小侍従の結婚相手について審議中(個人情報のため音声オフとします。ご了承ください)。

右「っと、仕事はやめないのよね?」

小「ええ、当分は。子供が出来たらまた考えますけど、その場合も健康に問題なければ継続ってことになってます」

侍「いいないいなー。あーああーうらやましい!!!(久々)」

右「最近、ご夫婦仲はどう?やたら最近夕霧くん、じゃなかった夕霧右大将がこっちに詰めてるけど」

小「あー……そうですね、今って御方さまが妊娠中で、お子さまたち絶賛イヤイヤ期の上に赤ちゃん返りも加わってえらいことになってますんで、たまには逃げたいのかも。到底ラブラブしてるどころじゃないですからね(笑)」

侍「えっまた妊娠?!ほぼ年子だよね。充分ラブラブしてるう!」

右「もう女御さまと若宮さまも宮中に戻っちゃったし、大人しかいない六条院は落ち着くんでしょうね。右大将もまだ二十歳そこそこだし仕方ないかそこは」

小「うーん……」

侍「え、何々?!」

右「何かモヤモヤしてることあったら吐き出していってね。無理にとは言わないけど」

小「……いや、ご夫婦仲はすごく円満で、私も出来ることならああなりたいなって感じなんですけど、やっぱり男の人はどうしても余所に目が行っちゃうのかなって」

侍「余所って?!どゆことー!」

右「まあまあ侍従ちゃん、聞きましょ」

小「別に、具体的に誰ってことじゃないんですよ。お手紙のやりとりだの逢瀬だのしてたら流石にバレます。でも何ていうんですかね、そこはかとなく、夕霧さまは誰か別の人と御方さまとを比べて見てる気がするんです。いつもじゃなく、たまーにですけど」

右「ああ……なるほど」

侍「(言えない、夕霧くんが紫上と玉鬘ちゃんを垣間見たことがあるだなんて)ま、まあ……桐壺女御さまにしても超絶美少女だし、亡きお祖母さまも美形だったし、理想が高いのかも!でも雲居雁ちゃんだって並以上でそ?」

小「容姿の問題ならまだいいと思うんですよ。そうじゃなくて、何て言うんだろ……振舞い?とか雰囲気的なところですかね……雲居雁の御方さまって、家柄にしても見目にしても、教養の度合いにしてもバランスのとれた方だと思うんですけど、それって裏を返せば特に突出したところはないってことなんですよね。六条院でレベルの高い方々ばかり見慣れておられるせいか、その辺目が厳しい気もして。いや、何を仰るわけでもないので、単なる私の気のせいかもしれないです」

右「雲居雁ちゃんはそういう態度に気づいてるの?」

小「どうでしょう……何しろ今子育てが大変すぎて、正直構っていられないかも。そういう面でも隙はあるでしょうね」

侍「そっかー。んー、でもあれだけ長い間雲居雁ちゃん一筋で、ウワキっていったらせいぜい藤典侍ちゃんくらいでしょ?さすがに大丈夫じゃなーい?」

右「うん。育児疲れなんじゃないのかな単に。生真面目にイクメンしてるんでしょどうせ」

小「はい、それはもう!あやすのもお上手ですし、私たちも助かってます。理想の夫にして父よね~って皆で言ってます」

侍「いいじゃーん♪」

右「まだ若いからいろいろあるだろうけど、家庭を壊すほどの無茶はしないでしょ。とりあえず安心してていいんじゃないかな」

小「ですよね!子煩悩なお方だし、万一何かあっても別れるようなことはまずないですもんね……ああ、何だか心がスッキリしました!」

右「それよりもっとお相手の話を」

(個人情報により以下同文)

小「あっいけない!ついゆっくりしすぎちゃって。そろそろお暇しますね。お茶御馳走さまでした!」

侍「いいのよーん、こちらこそ桜餅ありがと♪美味しかった!」

右「楽しかったわ。また来てね!」

 手を振りながら去っていく小侍従、ふと立ち止まる。

小「忘れてた!

「えっ何なに」「特に忘れ物はなさそうだけど」

小「違うんです、ひとつ言い忘れてました大事なことを。あの、六条院に女三の宮さまいらっしゃるじゃないですか。其方にも同じ『小侍従』という女房さんがいるらしいんですけど」

侍「そうなんだ!右近ちゃん知ってる?」

右「うーん、呼び名までは。顔見ればわかるかもだけど。小侍従ちゃんご親族とか?」

小「いいえ!ぜんっぜん!まったく関係ありません。宮さまの乳母子だそうですけど、私とは親戚でもないし、知り合いとかでもないです。それを是非お二人に知っておいてほしくて!」

侍「アッハイ」

右「わかった。でもなぜそこまで?」

小「あまり詳しくは言えないんですけど……どうもそっちの小侍従さんって柏木衛門督さまとイロイロあるらしくて。だから、万一私と一緒にされちゃったら困るなーって」

侍「あーもう、ほんっと平安時代って呼び名が被りまくるの何とかしてほしいよねー」

右「普通は出身地とかも付けて呼んだりするんだけどね。まあとにかく了解」

小「ありがとうございます。では本当にこれで、失礼しまーす!」

 小走りに去っていく小侍従。

「……よっぽどイヤなんだね」

「まあ新婚さんだしね、変な噂立ったら確かに面倒くさい。そっかー柏木くんね。三宮ちゃんの婿候補の一人ではあったけど、良いとも悪いとも言われないまんま蚊帳の外に放られたって感じだから納得してないんだねきっと」

「それでお付きの女房に手を出したと……中々やるねー。玉鬘ちゃんの時はアッサリ諦めてたから、もっとクールなタイプかと思ってた!」

「玉鬘ちゃんは身分がそこまで高くないからね。実姉ってことで切り替えもしやすかったんじゃない?三宮ちゃんの件は、前々から内親王クラスの嫁がほしいって公言してて、さらに父大臣からも推し、朧月夜の君からも推しって強力なコネがあったにもかかわらず、鼻にも引っ掛けられなかったんだもんね、プライド傷ついたと思うわ」

「や、ちょっと待って?考えてみれば、そういう人と恋仲になるってヤバくない?三宮ちゃんの乳母子だって言ってたよね。メッチャ近いじゃん」

「たしかに。やっぱりユルッユルだわねあのお部屋は。とりあえずどんな子かちょっと見に行ってみるわ」

「嵐の予感……ってもうコレ予感どころか前兆じゃん!ゼッタイヤバいやつじゃん!

「それがこの『若菜』巻なのよ侍従ちゃん」

「ぶるる……」

参考HP「源氏物語の世界」他

<若菜上 十七 につづく  

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