真木柱 三
「こんにちは、いらっしゃる?」
「あっ王命婦さん!いらっしゃーい!」
「お待ちしてたわ、ささ、こっちへ」
三人、密談エリアへ。
王「あら、もうお茶が用意してある。しかもあったかい。すごい、何でわかったの?」
侍「以心伝心でーす♪なーんて、本当はついさっき、小走りで近づいてくる王命婦さんを目撃したから、ソッコーで用意しちゃった!だって聞き逃したくないし!」
右「侍従ちゃん、仕事もそのくらい……」
王「まあまあ、これも仕事のうちよ(笑)早速だけど、鬚黒さんの正妻さん情報、ご病気というのは本当らしい。でも体じゃなく、心の方。えらくたちの悪い物の怪が憑いてるって」
右「えっそうなの?うつ病とか?平安時代はぜーんぶ物の怪のせいになっちゃうもんね」
王「それがね……ちょっと気落ちしてるとかそういうレベルじゃなく、急に人が変わったように暴れるんだって、発作みたいに。元は式部卿宮が手塩にかけて育てた娘さんだから、並以上の美人で人柄も良かったらしいのよ。それがここ数年でおかしくなって、一旦スイッチが入ると罵詈雑言や暴力行為が半端ないらしい」
侍「エエー!そうなんだ……そりゃあ鬚黒さんも寄りつかなくなるわけだ。お子さんはいるの?」
右「たしか三人いるよね。女・男・男だっけ。男の子は童殿上してた気がする。少なくとも末っ子が生まれるまでは何もなかったってことかな」
王「今でも普段はまったく普通の人、いやむしろハイスペックな方なのよ。大将の正妻さんとして相応しい感じ。だけどいつどこでスイッチが入るかはわかんないから、お客をもてなすのも無理だし、邸を手入れする人もおちおち呼べなくて放置状態だったらしい。それが、玉鬘ちゃんをお迎えしなきゃ!ってことで一転、バタバタ修理だの片づけだのやり出した」
右「いやちょっと待って……それ、同居なんて無理じゃないの?いくらキレイにしたって、正妻さんの病気が治るわけじゃないし、子供達もいるのに。お互い気まずいことこの上ないよ。っていうか、今の時点で既にいい気はしないでしょ。あんなに六条院に通い詰めて、すっごい噂にもなっちゃってるし」
侍「あーもー、普段真面目な人が恋に狂うとホントダメよね!舞い上がっちゃって、玉鬘ちゃんとのスイーツな新婚生活!しか頭にないんだよ。向こうの奥さんも、子供達もかわいそすぎる……」
王「本当そうよね。あの方、決して悪い人ではないんだけど、頑固一徹で融通がきかないのよ。仕事だとそのブレなさ加減が安心感に繋がったりもするけど、細かい機微が見えてなくてたまにイラっとさせられることもあるわ」
右「つまり、普段から無神経な上に今超絶色ボケ状態だから、更に火に油を注いでると(ギリリ)」
侍「まさに右近ちゃんの怒りの炎にガソリンぶっかけてるう!」
ピコーン♪
王「あっ、まさにその大将邸からの秘密連絡来たわ(タブレット取り出す)木工(もく)の君ちゃんよ、よろしくね」
侍「便利よねー♪平安時代、コレあったら絶対みんな使いまくってるよね。なくてもこんなに話回るの速いんだし」
右「そこは王命婦ネットワークのすさまじさでしょ、半端ないわ」
こ、こんにちは……えーと、これでもう繋がってるんでしょうか。まだ慣れなくてすみません。私、鬚黒大将邸の、北の方付きの女房で、木工の君と呼ばれています。よろしくどうぞ。
まず、北の方……お方さまについてですが、正気でいらっしゃる間は本当に、どなたにもひけをとることのない素晴らしい女性でいらっしゃいます。だからこそ、大将殿も簡単にお見捨てになることもなく、懸命に関わってこられたのです。お子様たちも、それはそれは可愛がっておいででした。
ところが……やはりあの姫君が、あまりにも若く美しすぎた。あまりにも……今のお方さまとは違いすぎた。さらに、実の父親でもない太政大臣さまのお邸におられ、数多の殿方に言い寄られていらっしゃいましたのに、しっかりと身持ちを堅くいらしたことが余計に、殿の心を燃え上がらせてしまったのだと思います。
この突然の知らせに、お方さまの父君、式部卿宮さまはたいそう憤られたとか。不仲の事情もご承知であった故、
「此方に戻っておいで。婿があのような若い女を邸に迎え入れて大事に傅く片隅で、形ばかりの妻の座にみっともなくしがみつくのも、人聞きも悪いし身の置き所もないだろう。人に笑われるような暮らしを我慢して続けずとも、私の目が黒いうちは此方で過ごせばよい。東の対を住まいとして空けてやろう」
と仰って、本格的にお迎えの準備にかかられました。お方さまは、
「実家とはいえもう長く離れて、自分の家という感じはしない……まして夫に捨てられた身のわたくしが、出戻ってまた親と顔を合わせるなど……でも、このまま此処にいても殿に見捨てられてしまうなら、せめて子供達はどうにか……」
などと迷い悩まれているうち、調子を崩し寝ついてしまわれました。あまり良い兆候ではありません。例の物の怪が出て来るのは、決まってこのようにくよくよと思いつめられた時でしたから。
侍「な、なんかドキドキする……」
右「マジで気の毒すぎるわ。邸の改修とかよりコッチをまずケアしなさいよって感じね」
そうこうしているうちに、殿がお渡りになりました。玉の御殿の六条院を見慣れたお目には、此方の邸はとんでもなく乱雑で汚らしく見えたのでしょう、入るなり顔をすこししかめられましたが、それでも優しくお方さまにお見舞いの言葉をかけられ、傍に座られました。久しぶりに顔を合わせられたお二方を見て、やはり長年連れ添って三人ものお子さまをもうけられた宿縁は浅いものではないのだわ、と女房一同思いましたが、次に聞こえて来たのは耳を疑うようなお言葉でした。
「昨日今日に結ばれたばかりの浅い夫婦仲であっても、それなりの身分の人同士であれば、何かと呑み込んで添い遂げるものだ。貴女がそんなふうに具合悪そうにしていらっしゃるものだから、申し上げねばならないことも言いにくくてね」
右「ハア?!何なのコイツ!」
侍「う、右近ちゃん落ち着いて」
王「まだ序の口よ。聞きましょう」
私たちと同じ所で引っかかってくださってありがとうございます。そうです、あのご結婚をきっかけに体調を崩されたわけで、因果がオカシイですよね……続きます。
「長年添い遂げてきた仲ではないか。貴女の……世間の人と違ったご様子を最後までお世話申そうと、随分我慢して過ごして来たというのに、そうはさせまいとお疎みになる。幼い子供たちもいるのだからと、何事につけてもいい加減にはしないと申し上げてきた。なのに女心の乱りがましさからか、こうして怨み続けていらっしゃる。最後まで見届けぬうちはお疑いになるのも無理はないが、どうか信頼して、もう少し見守ってはいただけないものだろうか。式部卿宮にもご不興をかったようで、何やら今度ばかりはきっと貴女がたを迎え取ろうとお考えだとか。なんと軽率なことを。本気のお言葉だとお思いか?暫く私を懲らしめてやれということでは?」
一気に、最後は笑いながら仰いました。そう、笑ったのです!しおしおと泣いてらっしゃるお方さまを前にして。
右「キイイー!!!私が代わりに成敗してくれるわっ!!!」
侍「落ち着いて右近ちゃーん!」
王「ああまさにコレよ、大将の困ったとこ。相手の気持ちに寄り添えないのよね……言ってることは間違いではないんだけどさ、そういう言い方アリ?しかも今この時に?ってやつ。嘘でも何でも、口先だけでもいいから傷つけてゴメンって言えないのかしらね全く」
ですよね!
もう一人、中将の御許(おもと)さんが私と同じく殿の召人(愛人)だったんですけど、二人で手取り合ってヤキモキしてました。まあ私らも殿の浮気相手っちゃそうですけど、それもこれも北の方がいらしてこそ。お方さまの危機は私らの危機でもあります。
お方さまは涙ながらに仰いました。
「私を、惚けているの僻んでいるのと仰って、バカにするのは致し方のないことです。けれど、父宮まで引き合いに出して仰るのは……もしお耳に入ったらお労しいことになりましょうね、打ち棄てられたわたくしの縁者だからそのような軽々しい扱いを受けるのかと。わたくしは何を言われようと耳慣れておりますから、今更何とも思いませんが……」
目を合わせることもなく横を向いていらっしゃる、まことに痛々しいお姿にございました。もとより小柄な方でしたのが、病みつかれてからはすっかり痩せ衰えられ、いかにも弱弱しい感じです。豊かで清らかだった髪も半ば抜け落ちて細くなり、梳ることも殆どなく所々涙で固まっています。とにかく身なりをまったく構われないので、父宮さまに似て目鼻立ちの整ったそのご容貌から、生き生きした華やかさはすっかりなくなってしまいました。
「宮を軽んじていると仰るか。怖ろしい、人聞きの悪い事を」
殿は即座に否定され、
「今、通っております所が……余りにも眩い玉の御殿でね。私のような物慣れない、無粋な恰好の者が出入りしては何かと人目に立つだろうと気が引けるので、いっそ此方に迎えてしまおうかと思っています。あの太政大臣の、世に類なきご声望は今更申し上げるまでもなく、恥ずかしくなるほど行き届いてらっしゃるお邸に、よくない噂が漏れ聞こえては申し訳も立ちませんし、畏れ多いことです。どうか心穏やかに、お二人仲良く、親しくなさってください。もし宮邸にお移りになったとしても忘れたりはしません。いずれにせよ、今更私の気持ちが貴女から遠ざかるわけはないのです。むざむざと世間の噂や物笑いの種になることはない。長年連れ添って来た約束を違えず、お互いのために力を合わせると、そうお考え下さい」
懸命になだめられますが、お方さまははっきりと仰られました。
「あなたの酷さをどうこうは申しません。世間の人と違ったわたくしの病を父宮もお嘆きになり、今更に物笑いになることと心を痛めていらっしゃる。申し訳なさすぎて、どうして顔向けできましょうか、と思うのです。大殿の……六条院の北の方と申し上げる方も、わたくしとは縁のない方ではございません。あの方は、わたくしの与り知らぬところで生い立たれた腹違いの姉妹ですが、この期に及んで何をなさるやら……父宮の方では親を親とも思わぬ仕打ちと思し召しのようですが、わたくしの方は何とも思っていませんわ。ただなさりようを見ているばかり」
「いやいや、まるで本当かのように仰るが、いつもの世迷言でしょうそれは。困ったことだね。あの北の方がご存知のはずはない。大臣に、皇女のように大事に育てられた方ですよ?あのような目下の者の動向まで関知するはずもない。人の親として表に出ていらっしゃるような方ではないのです。そんな風にお考えだということがもし彼方に聞こえたりしたら、私はますます立場が無くなってしまう」
こんな具合に、一日中お傍で話し、慰め、なだめすかす大将殿にございました。
侍「まさかの紫ちゃんに流れ弾?!いや、ぜんっぜん、まるっと関係ないっしょ!」
右「……何だか雲行きが怪しくなってきたわね。大将の言う通り、一見筋が通ってるかのように思えるんだけど、何か違う」
王「うーん、これは話すの疲れそうね。わたくしは何とも思ってません、わたくしはいいけど父宮がってその繰り返し。やっぱりちょっと……普通じゃないかも」
はい……やはり、わかりますよね。話が堂々巡りになって、まったく終わらなくなるんです。あっという間に日も暮れて、殿はもう出かけたくて気もそぞろになっておられるのがわかりました。ただ外はもう真っ暗で、雪が降っています。こんな悪天候の中をおして外出されればどうしても人目に立ってしまいますし、こうして落ち着いていらっしゃる北の方を置いていくのはさすがに心苦しいようでした。そわそわなさいながらも、格子なども上げたまま端近にて視線をさまよわせてらっしゃいました。
お方さまはそのご様子をご覧になり、
「あいにくな雪ですが、どう踏み分けてお出かけになるのでしょう。夜も更けたようですが」
とそれとなく促されます。今はもう引き留めたところで……と大方は諦めておられながらも、思案されている様子がまことに不憫でございました。大将殿は、
「この雪では……」
と仰る一方で、
「とはいえ、ここ当分の間だけは行かねばなりませんね。私の気持ちも知らない者たちが何かと噂し、大臣がたにも要らぬご注進に及ぶことを考えると、途絶えを置くのは可哀想です。思う所もおありでしょうがどうか鎮めて、お見届けください。此方にお迎えした暁には、何の気兼ねも要らなくなる。……貴女がこんな風に普通にしていらっしゃる時は、他の女に分ける心も失せて、ただいとおしいと思うよ」
やはり行く気は満々です。
「お留まりになっても、お心が余所に行っていれば、かえって辛い事にございましょう。余所にいらしてもせめて思い出してくださるなら、涙に濡れた『袖の氷』もきっと解けることでしょう」
※思ひつつ寝泣くに明くる冬の夜の袖の氷は解けずもあるかな(後撰集冬-四八一 読人しらず)
穏やかな声で応えられたお方さまに再度促され、大将殿は不承不承の体でお出かけの準備にかかられました。
右「こんな雪だし夜も遅いしあー行きたくなーい(棒読み)でも仕方ないよねー色々言われちゃうかもだし!チラチラッてね。ハイハイ」
侍「何か……何か怖いんだけど!!!アタシだけ?!」
王「私も怖い……」
香炉を取り寄せて、お出かけ用の衣装にしっかり香を焚き染めます。お方さまご自身はすっかり皺がよってくたびれた衣を着たきりで、ますます細くか弱いお姿でした。その憂いに満ちたお顔、泣きはらした目に、大将殿もお心を動かされたか、見つめるまなざしには少なからず愛情も感じられました。ただその一方で、やはり心は彼方に飛んでおられるのです。はやる気持ちを抑え、わざとらしく溜息をつきながら、入念に身なりを整えられ、小さい香炉も取り寄せて袖に入れ焚き染めておられました。
六条院のあの並ぶものなきお方には到底敵いませんが、大将殿もこうしてこなれた衣装をすっきり着こなされると、なかなかどうして野性味といいましょうか、男らしさが引き立って並の人ともみえず、気後れするほどのいでたちでいらっしゃいました。
侍所で供人達が声を立てます。
「雪が小やみになった」「夜が更けてしまうなあ」
などどはっきりこちらに向けては言いませんが、咳ばらいをしあっています。
中将の御許さんと私は下がって、寝支度をしながら「おいたわしいこと」とひそひそ話しておりました。いつになく落ち着いてあれこれ差配をなさったお方さまはお疲れになったのか、何かに寄りかかっていらっしゃいました。
と、お方さまがすっと立ち上がられました。大きい籠の下にあった香炉を手に取ると、殿の背後にゆっくり近づき、そのまま
ばさあ
と頭から灰を浴びせかけたのです。
一瞬、何が起こったのかわかりませんでした。お方さまの動きがあまりにも自然でしたので、誰も止めることなど思いもよらなかったのです。
「な、何だ?!……何を?!」
灰塗れになった殿はむせ返り、激しく咳き込まれました。細かい灰が目といわず鼻といわず入り込んで、暫くはものも見えないご様子でした。慌てて中将さんと一緒に出て行って払い落としましたが、灰がもうもうと部屋中に立ちこめてどうにもなりません。衣装も脱がれました。
お方さまは、悲鳴のような引きつった笑い声を上げ続けておられます。
右「ええ……」
侍「な、何で?! 実はメッチャ怒ってたの?! にしてもいきなり?!」
王「それが物の怪の成せる技なのよ……心の中に押し込んでいたものがそうやって出てくる。おそろしいわ」
そうなんです。正気の方がこんなことを仕出かしたら、それこそ驚きですし二度と見向きもされませんが、
「いつもの物の怪が、人から疎まれるような振舞いをわざとしている」
ということですから、お気の毒というしかありません。
静かだった邸内は一転、騒然となりました。大将殿は着替えられたものの、髭のあたりまで白くなられて、動くとどこからともなく灰が舞いあがります。塵ひとつなく磨き立てられた六条院に、とてもこのまま参上することはできません。お方さまは殿を指さして笑いながら、訳のわからないことをわめき叫んでおられました。
「物の怪とはいえ、これ程酷い状態は初めてだ。まったくの別人じゃないか……」
殿は嫌悪感と憤りに顔を歪ませておられましたが、怒ったり叱ったりしたところでどうにもなるものではありません。夜中ではありましたが急きょ僧を呼び、加持祈祷をさせる騒ぎとなりました。
物の怪の調伏のためお方さまは一晩中打たれたり引っ張られたりで、それはおそろしい声で泣き喚いておられました。夜が明ける頃少し静かになったので、殿は彼方へお手紙を遣わされました。
「昨夜、急に気を失った人が出まして、雪の降りしきる中出かけるにも躊躇っておりましたところ、冷え切ったわが身だけで夜を明かしてしまいました。あなたのお心はもちろんのこと、周りの人にはどう取り沙汰されたでしょう。
心までが中空に思い乱れた雪模様に
一人冷たい片袖を敷いて寝ました
……耐えられませんでした」
白い薄様に、生真面目に重々しく書いておられました。特に風情のあるお手紙とも言えませんが、漢学の才は高くいらっしゃる殿なので、筆跡はたいそうお見事でした。
ところが、待てども暮らせども返事は来ません。殿はすっかり落胆されて、一日中ぼんやり物思いに耽ってらっしゃいました。
お方さまは依然として苦しそうなご様子ですので、御修法なども始まりました。
「せめてもうしばらくの間だけでも、何事もなく正気でいてくれまいか……元は気立ての良い女だということを知らなければ、どうにも我慢できない気味悪さだ」
独りそっと呟かれていた殿も、おいたわしいことでございました。
右「な、なんといっていいのか……呼びつけとかオッサン呼ばわりしてちょっと悪かったわ、大将殿」
侍「怖すぎるし大変すぎるう!そりゃ玉鬘ちゃんに執着するよね、わかるう!」
王「とはいえ北の方も哀れね。ご自分じゃどうしようもできないんだもの。元々真面目で几帳面で、我慢強い方なのが災いしたのかもね……夫婦どちらもお気の毒」
ありがとうございます。
そうなんです……あくまで、いつものお方さまが本性であるとわかっていますから私たちも仕えていられるので。
日が暮れるのを待ちかねたように、殿は外出のお支度を始められました。とはいえあの騒ぎで上等な直衣には穴が開いてしまい、焦げた匂いもします。あからさまに、嫉妬にかられた誰かにやられたという体ですし、下着にまで移り香がしみてしまっているので、全て脱ぎかえて、湯殿で入念に洗い流されました。
わたくしは薫物をしつつ殿に歌を詠みかけました。
「北の方が一人残されて焦がれる胸の苦しさが
思い余って炎となったその跡と拝見しました
うって変わったお仕打ちは、傍で見ている者からしても穏やかではないですね」
殿は私を冷たく一瞥されると、溜息交じりにこう返されました。
「嫌なことを思って心が騒ぐのであれこれと
くゆる(悔ゆる)煙がますます立つのだ
まったくもってのほかの出来事がもし先方の耳に入ったら、宙ぶらりんな身の上になるだろう」
この私にも、かつて「木工は目元が可愛いね」なんて口説かれた頃もあったんですけどね……本当に、殿方の心など当てにはなりません。
殿はいつもより長い事彼方にいらしたようでした。たった一晩間を置いただけで、此方と彼方の違いがよりいっそう際立ったのでしょうね。致し方のないことですが、面白くはありません。
大将邸からのご報告は以上です。木工の君でした!
王「木工の君ちゃん、ありがとね。これからも大変だと思うけど頑張って」
木「ありがとうございます!次は多分中将の御許ちゃんがご報告すると思いますので、宜しくお願いしますね。ではでは!」
侍「じゃあねー♪」右「またねー!」
侍「ハア……どっと疲れた。あれは逃げたくもなるよね、わかる」
右「ますます同居なんて無理じゃない?王子がこの実態知ったら絶対行かせないよ?」
王「やっぱりご実家に戻ることになるんでしょうね。下手に外の人入れて、同じような騒ぎになったらもう収拾つかなくなるもの。それよりはまだ、若い妻に遠慮して出たってやったほうがマシかも」
右「式部卿宮さまのところも大変よね。あそこって北の方が随分気が強いじゃない?紫ちゃんが云々って話も出元そこかもよ?」
侍「ウエー、今になってソレ……完全とばっちりじゃん」
王「北の方っていっても、人生安泰じゃないのねえ……(しんみり)」
右「やめてー、悲しくなってくるう」
侍「人生は嵐……人は嵐に巻かれる木の葉の如く……(悟り)」
参考HP「源氏物語の世界」他
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