「医者が診つめた『源氏物語』」 鹿島友義
この方、内科のお医者様である。何と70歳超えてから一念発起して「源氏」を原文で(!)読み始めたという。若い頃は「なんだこんな女々しい話!」と決めつけて見向きもしなかったらしいが、「(年を取り経験も積んだ今となってみれば)文化の違い、価値観から自由になって、物語を楽しむことができるようになった」と。素晴らしい。人はいつでも何でも始められる、健康でいさえすれば。私も精進しようっと。
そして「平安時代の人で、医学知識もない紫式部が書いたフィクションの登場人物の病を、ああだこうだと判定するのは無意味」、このスタンスも素晴らしい。さすがはお医者様、専門職の言葉の重みを充分理解してらっしゃる。
ちょっと前に、紫上の死因は結核!なんて記事がネットに上がって驚愕したのだが、元をただせばとある研究者?が書いた文章のたった一行だった……なんてことがあった。速攻で記事元にメール送って訂正していただいたので、世間におかしな風聞が広がることは阻止できたと思うが、文字に書いて残す怖さを実感したものだ。まあ私も大概好き勝手に書いてるので人の事は言えないが、範を越えないように細心の注意を払わねばと改めて思った。フィクションだからこそ勝手に何でも書いていいわけじゃないのよ……と自分にも言い聞かせて。
前置き長すぎた。
内容は、はっきりした診断を下すというよりはエッセイといった趣。「空想科学読本」のような感じをイメージしてるとちょっと肩透かしをくらうかも。どちらかというと精神方面に焦点をあてて(そもそも作品自体がそれ)、文化や宗教にからめて解説してくださっている。加持祈祷が現代で言う「プライマリーケア」であるとか、脚気だの風邪だのは現代と意味がほぼ同じとか、柏木が女三宮と密通後に陥ったのは「反応性うつ状態」だとか、興味深かった。そして、何より感激したのはこの方も「紫式部がオカルト的なことを信じていなかった」説をとっていたこと。六条御息所の生霊なんてものはいない、様々な要因が組み合わさってこういうことが起きた、という解釈は私と同じだぜイエーイ!「ひかるのきみ」の「葵」読んでいただいて感想聞きたいくらいだわ(よしなさい)。
終末医療やメンタルケアにも関わっている方なので、自殺未遂をする浮舟の状態をよく分析しておられる。自殺の危険のある人は
・「生きたい」と「死ぬしかない」の間で心が揺れている
・視野狭窄的思考にはまっている
ので、近くにいる人が気づくチャンスはある、この二つの特徴を知ってほしいとのこと。
平安時代は歌を詠む事、仏教を信じることで精神の安定をはかっていたが、現代は何が代わりになるだろうという問いも。
そしてもう折り返し地点にいる「ひかるのきみ」、あと少しで「若菜上下」に到達する。源氏はもうここだけ読めばいいというくらいの、長く濃密なこの巻。鹿島さんも、
四十賀というのは現代で言うと還暦のようなもの。いわば老齢期の始まりである。そこで盛大に祝福され名実ともに「老人」となった源氏が、若い女三の宮を正妻に迎えるという流れは、紫式部の痛烈な皮肉ではないか
と仰ってて、ますます楽しみだ。これまででも大概だった紫式部パイセンが、容赦ないイケズ全開で臨む若菜。ぞくぞくします。
というわけでとても面白かったです。この記事を書くために貸出期間延長するか、と思ったらもう予約入ってた!人気なのね。仕方なくメモ書きから起こして書いたので、細かいところは違ってるかも。ご了承くださいまし。
余談:朧月夜?だったかな、源氏と「ステッディな関係」と書かれてて感動した。ステッディ……ここ最近ではついぞ聞いたことのないこの言い回し、イイ。萌える。ぴえんの次はこれで(違
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