おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

初音 二

2020年10月4日  2022年6月9日 


  皆さんこんにちは、侍従でーす!此方では今お正月ですが、令和のそちらは読書の秋ですね。すっかり涼しくなって何よりでございます。あとコロナ、早く終息するといいですね。アタシも平安の世から念を飛ばしまーす、ではハイご一緒に!

 疫・病・退・散!!!


 え?何しに出て来たのって?そりゃあ、アタシの出番といったら決まってるじゃないですかヤダー。ハイ、あの方ですよあの方。「末摘花」「蓬生」で出て来た常陸宮の姫君……って年でもなくなっちゃったからお方さまにしましょうか、うん。


 ヒカル王子の奥様方はね、皆が皆六条院に移ったわけじゃないのよ。一部は二条東院に残ってるのね。

 正直いって、六条院にいる人たちよりご寵愛の度合いは全然格下ってかんじ。昔関係はあったにしても、今どうにかする気はない、他に面倒見てくれるような人もいないから保護するね、くらいの扱い。節目節目のご機嫌伺いはするけど普段訪れることはまずない。女としてはちょっと寂しい気もするけど、常に男の動向に一喜一憂して、繋ぎとめようと必死になるのってしんどいし、生活の不安がなくって好きなように過せるってサイコーじゃない?ほら「世の憂き目見えぬ山路」って歌もあるし、あんまり執着しすぎるのもね。

※世の憂きめ見えぬ山路へ入らむには思ふ人こそほだしなりけれ(古今集雑下-九五五 物部吉名)

 そんな感じである意味気楽な東院、主だった女君といえば空蝉の尼君と、常陸宮のお方さまの二人かな。空蝉さんは出家なさってるから別枠って感じで質素にはしてるけど、今でも結構キレイな人よ、元々センスもいいしね。真面目に仏道修行に専念なさってるみたい。

 で、正月は何やかやと多忙なヒカル王子だから、東院には年明け数日してやっとご挨拶。そこはまあ仕方ないよね。

 まずは常陸宮のお方さまよ。曲がりなりにも皇統だし、何年間か忘れ去って窮乏生活送らせちゃった負い目もあるから、傍目にもそれなりに別格に扱ってるのはわかるんだよね。だけど、ホント王子は凄いと思うわ。まだ若い頃はツヤッツヤの、滝が流れ落ちるようにキレイだった、唯一の取り柄というべき長い髪も、いまや白髪まみれの、白滝?って惨状……もう、見てる方がキツい。アタシでもそうなんだから王子なんて正視に堪えないわけよ。当然几帳やら何やらメッチャ置いて絶対直には見えないようにしてたんだけど、お正月用の晴れ着贈ってるからね……あの、オッシャレーな柳襲ね。例によって全然無頓着なヒトだから、碌に着替えもしないで、何も考えず貰ったものを上に着た、みたいな?いやいくらなんでもまだ寒い頃なのに、なんか糊付け過ぎでパリッパリの掻練一枚の上に直接ってそりゃないわよ。しかも黒って……なんでやねんって感じでしょ?

 え?何でアンタがちゃんとしてあげなかったのって?

 いや、だからさアタシは単なる昔の誼でたまにヘルプ来るだけの立場なわけ。前もって、この日辺りに王子来るよ!って知らせてくれればさーちゃんと合わせて色々準備もしようってもんなのに、あのお方がそんな周到な根回し、するわけないじゃん……来てみてビックリ!よ。もう着替える暇も無いし、お部屋調えるだけで精いっぱいだった……痛恨。

 王子もさすがに気づいてヤバいと思ったよね。

「えっと……衣裳のお世話などなさる人は足りてないのかな?お客も滅多に来ない東院だから、毎日ひたすらくつろいでダラダラされていて結構なんですけれど、寒い時には我慢しないでしっかり着こまないと」

 鼻が真っ赤ですし……ってそれはいつものことなんで、呑み込んだわね。

「そうなんですけれど、兄君が……醍醐にいる阿闍梨の君がみな布を持って行ってしまって、自分の分の衣裳を縫うことが出来なかったのです。冬用のあの皮衣まで持っていかれて寒うございますわ」

 まーたあの兄君!ほんとチャッカリしてるよね!妹が困ってる時には何の支援もしなかったくせにさ。それでも結構坊主としては有能だっていうんだから世も末だわホント。あ、ちなみにその兄君も鼻が大きくて先が赤いのよ……遺伝ね。

「ああ、皮衣はそれでいいです。山伏が蓑代衣として着るようなものですからね、お譲りになってまことに結構。それより、普段使いにとお渡しした白妙の布はどうしました?沢山ありましたよね?」

「あれも、兄君が欲しいと仰るものですから」

「……全部、ですか」

 微笑みつつ、こっくり頷くお方さま。

「あー……その、いいですか?足りないものがあれば、何でもその都度仰ってください。私も元より気遣いが足りない男で、まして忙しい時なぞついポロっと抜けることがありますからね!……侍従ちゃん、いるかな?ちょっと手伝ってもらっていい?」

 ええ、一緒に向かいの院の倉に走ったわよ。絹やら綾やら、在庫してるやつをたーくさん引っ張り出して運んだわ。

「新年早々悪いけど、あの兄君に持っていかれないように、サクっと女装束作っちゃってくれる?」

「はいっ、了解ですっ!」

「よろしくね。頼りにしてるよ(ニコ)」

 ハイ、キラキラ☆オーラ大放出ー!!!まともに全身に浴びちゃってもう何でもします状態!!!のアタシをよそに、ふとお庭に目を向ける王子。

「人も少ない割に手入れが行き届いてて、いい感じだね。木立もキレイだし、咲き出した紅梅もほのかに良い香りだ。誰も観る人がいないのが何とも哀れな……」

 ふーっ、と溜息ひとつ。

「世の常ならぬ花(鼻)を見た……」

 なーんて独り言が聴こえたような気もするけど、キラキラ☆オーラ効果で頭がボーっとしてて、あんまり定かじゃないわ。ってことにしておくね、うん。


 で、次は空蝉の尼君のところね。(コッソリついてった☆)

 全体はすごく余裕のあるスペースなんだけど、まるで女房さんたちの仕事部屋みたいにこじんまり機能的に、仏道関係の調度やお道具きちんと置いて、勤行三昧の日常って感じだった。それでいて経本とか仏様の飾りとか、ちょっとした閼伽の道具なんかも何かイイ!のよ。全然派手さはなくて、シンプルすぎるかなってくらいなんだけど本当にいいものでを絶妙選んでる。センス抜群なのよねえ。

 しっかり隔てた青鈍色の几帳や意匠も素敵で、完璧に身は隠してるんだけど、袖口だけはちょい見せで、それがまた色合いがキレイなのよねえ。例の、青鈍と梔子色の組み合わせよ。王子ったら何かしんみりしちゃったのか涙ぐんじゃって、

「貴女を、遙か遠くの『松が浦島』に住む方と思ってすぐに諦めるべきだったのかもしれない。昔からなかなかうまくいかないご縁だったね。でも今、こうして尼となった貴女が目の前にいらっしゃる。こんなに近いのに、決して手が届かないところは同じですけどね」

※音に聞く松が浦島今日ぞ見るむべも心ある海人は住みけり(後撰集雑一-一〇九三 素性法師)

「尼姿になり果てましてから……殿にすっかりお頼み申し上げていますのも、元々の御縁は浅くはなかったのだと存じられます」

「つらい日々を重ね心惑わされたことを罪障として、仏に懺悔し続けるのもお辛いでしょう。どうですか、私ほど正直な男はそうそういないのだと、そうは思いませんか?」

 空蝉さんが継子に言い寄られて大変な目に遭ったこと、そのせいで出家して逃げたこと、王子は家来の右近靫負さんから聞いてるのよね。でも空蝉さんはビックリよ。え、知ってるんだ……って。

「……お恥ずかしゅうございます。わたくしにしてみれば、こうして髪を下ろした姿を貴方に隠れなくお見せしてしまったこと以外に、何の報いがございましょうか」

 泣いちゃった。マジ泣き。常陸宮の姫君とは方向が全然違うけど、こちらはこちらで相当頑固な人だからね、うかうか冗談のつもりで軽く言っちゃったことが深々刺さっちゃうから、割と厄介。

 まあそこは王子だから速攻で普通の昔話とか世間話に切り替えて、空蝉さんも大人だから涙は止めて、素知らぬ顔でうまく合わせてた。そこら辺は、お隣の姫君、いやお方さまとは全然違うとこよねー。いやまあ、いいんだけどさ。

 他にも、ただ生活全般の面倒みてるだけって女君はけっこうたくさんいるんだけど、王子ってば一人一人いちいち顔出して、

「忙しくてお目にかかれない日が続くこともあるけど、心の中じゃ忘れてないからね。ただどうしても『限りある道の別れ』はある……そう思うとつらくてたまらない。誰にもわからないことなんだけど、ね……」

 なーんて、寂しげな微笑みを浮かべながら言っちゃうわけよ!太政大臣ともあろう人が、よ?もう、色々不満とかあっても、まあいいやどうでも、ってなるよね?ならない?

 ただお金持ちで権力者ってだけじゃない、こういうマメさと優しさと心配り、そんじょそこらの男には絶対に、無い。さすがはこの侍従ちゃんが見込んだ男よ……永遠にいち推しを誓うわ、アタシ。


 さて、サッサとあの衣裳縫っちゃおっと。王子のたーめなーらエーンヤコラ♪ってねウフフン。

参考HP「源氏物語の世界」他

<初音 三 につづく 

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