おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

玉鬘 七

2020年9月25日  2022年6月9日 

 

国立博物館所蔵品統合検索システムより

 これにて「右近ひとり語り(二役)」を終了させていただきます。ご視聴、まことにありがとうございました。

~終~


 タブレットスリープ解除。会議アプリ立ち上げ。


 侍従、王命婦入室。

侍「やっほー♪右近ちゃん、お疲れさま!すっごい良かったよー!」

右「侍従ちゃんありがと!無観客も案外疲れるわね、はー」

王「右近ちゃんお疲れ。面白かったわ。凄いわね、後半の方が長かったのにあっという間だった」

右「王命婦さんもありがとう。ぶっちゃけると一瞬、どっちをやってるのかわかんなくなっちゃったときもあったわ(笑)バレなかったならよかったー」

 少納言、宣旨乳母(せっちゃん)入室。

せ「お疲れさまでーす!いやー面白かったです、最高!

少「右近さん、私すっかり感動しちゃって……まだ涙が」

右「嬉しい、二人ともありがとね」

 しばし歓談。

侍「しっかしアレね、王子超うかれてんじゃん。紫上にまであんなにぶっちゃけちゃって大丈夫なんかしら」

右「まあ実の娘であってもあれだけ長く離れてたら、急に若い可愛い女子キター!ヒャッホウってなっちゃうわよオジサンだし」

侍「オジサンじゃないもん!王子だもん!」

王「まあまあ(笑)しかし玉鬘ちゃん、つくづく凄い経歴よね。あれだけの波乱万丈を経験してもなお品を失わずお嬢様然として、あの王子の目にもかなうよう振る舞えるっていうのは半端じゃないわ」

せ「まず周りの皆さまが素晴らしいですよね。あんなに大変な中で、自分たちのことそっちのけにして姫君を守りぬく、なかなか出来ることじゃないと思います」

右「それね、むしろ姫君がいたからこそ頑張れたんじゃないかな。あらゆる行動の指針が姫君第一!だったから、それが精神的支柱になって思い切ったことも出来た。人間、自分だけのためにっていうより誰かのために動く方が動けるものよ」

少「ああ、それ何となくわかります。私たち女房も常に主中心で、主のためになることをやりたいって思うから毎日働ける、っていうところありますもの」

王「そういえば少納言さん、ここのところ忙しかったんじゃない?六条院に大勢ヘルプの女房さんたちが集まってたでしょ。ウチの職場からも何人か応援要請あったからさ」

少「ああ、ありがとうございますその節は。助かりました。私はさほど大変でもなかったんですよ、玉鬘の姫君とその女房さんや童女たちのために沢山衣裳を誂えましたけど、夏の町との共同作業でしたし。それより、ヒカルさまがこの際だから作ったやつ全部集めて!自分で選定して皆に分けたい!と仰ったものですから、そっちの方が大変でした。お正月用の装束なんですけど」

侍「えっ六条院全体ってこと?ヤッバ、集めるだけでも数がすごそう」

せ「ああー確かにやってましたね。春の町の、一番広いお部屋をいっぱいに使って広げてました。そりゃもう壮観でしたわ」

少「六条院で作られた衣裳は大方、紫上プロデュースなんですよ。染からカッティングから縫製から。色の指定が何しろセンスの見せどころで、あれこれ根を詰めすぎるところもあるので、そこは心配でした」

せ「紫上はいつも本当に素敵な色目のご衣裳ですよねえ。ご自分に似合うものをわかってらっしゃる。さすがですわ」

右「え、誰にどんなご衣裳?ちょっと興味あるかも」

少「えっと、ちょっと待ってくださいね(ゴソゴソ)(画像アップ)まず、紫上にはこちらです。紅梅の紋がくっきり浮き出た葡萄(えび)染めの小袿と流行り色の上衣。明石の姫君には、桜の細長につややかな掻練ですね」

王「あら素敵。華やかでぱっと目を惹く感じで、まさに今をときめく六条院の女主・紫上にピッタリね。姫君のは定番中の定番だけど、すっごい質がよくないこの布?ゴージャスねえ」

せ「ちょうど姫君もその時見てらしたんですよ。お正月の晴れ着ですよって申し上げたら、明日目が覚めたらお正月ならいいのにーって」

侍「うわーんきゃわわわわー!」

少「さて次はこちら、夏の町の花散里の御方に。浅縹の海賦(かいぶ)模様の織物に濃い目の紅の掻練をつけてございまーす」

右「少納言さんノリノリね(笑)これも素敵、お顔のうつりが良さそう」

少「で、こちらがどなたのかわかりますか?」

侍「おおー眩しい赤!に、山吹色の細長かー。斬新で若々しいわねん」

王「蘇芳染めね。もちろん、玉鬘の姫君でしょ」

少「さすが!当たりです。何となくですけど、このパッとした華やかさ、内大臣さまのイメージもありますよね。さて次」

せ「ハイハーイ!その気品あふれる一対は明石のお方さまですね!」

少「速い!当たりです!さすがせっちゃん」

王「白の小袿、梅の折枝や蝶や鳥の織り模様か。唐風ね。それにしっとりした艶のある濃紫の袿。とてつもなく色っぽいわねえ、オシャレ上級者用って感じ。こういうのを着こなされるのね、明石のお方は」

せ「そうなんです!さすがはヒカルさま、よくおわかりになってます!」

少「紫上もこの衣装には目を引かれてましたね。ご自身とも、他の女君ともタイプがかなり異なりますので」

右「なるほどね。面白いわね、どういう衣裳を選ぶかで容姿とか人となりとかわかっちゃうって」

少「次は空蝉の尼君です。青鈍色の表着に、梔子(くちなし)色の衣を添えられて、出家した方に相応しい色目ですわね」

王「あら、シックでいい感じね。まだ全然お若い方でしょ?お洒落だわ」

少「さて、最後ですね。この柳の色目に唐草模様の乱れ織りの表着、どなたでしょう?」

 えー、わかんない、あと誰がいたっけ?と皆が迷う中、侍従がゆっくりと手を挙げる。

侍「……常陸宮の姫君、ですよね?」

少「はい♪さすがです!こちらもとっても素敵な一枚ですよね、きっとお似合いに」

侍「ハアーーー(溜息)」

右「侍従ちゃん、語る事あり?あるなら語っちゃえば、みんないる時に」

せ「ですよね!どうぞどうぞ!」

少「大体察してますので、合いの手途中で入れますね♪」


 いや、別に今女房としてお勤めしてるわけじゃないけどね?単なる昔の知人として、たまに様子を見てるだけ。うん。結婚?ああ、適当に誤魔化したわよその辺は。

 常陸宮の姫君は今、二条東院におられるのよね。残留組。まあ彼方の邸だって十分キレイだし広いし豪華だし、超のつくコミュ障だから人少なめくらいでちょうどいいと思う。

 王子セレクトの衣裳、お正月に着てねってことで配られたでしょ?もちろんこちらにもちゃんと来たわけよ使者が。六条院および二条院東院の主にして太政大臣からの贈り物、しかおお正月の晴れ着よ?使者への禄も半端ないわよね、普通は。

右「普通じゃなかったわけね……例によって」

少「ああ……私も見ました、随分と古式ゆかしいご衣裳を」


 古式ゆかしい……うまい言い方よね、さすが少納言さん。そう、確かに身分の高い人が自分の衣を禄として家来に下げ渡すっていうのはまあ、ある。そういうお作法は確かに今でもまだ生きてる。でもさ、いくらなんでも、もう何十年も前に亡くなった宮様の衣裳よ?衣櫃の中で古びて袖口も煤けた、山吹色の袿。しかも重ねる衣も何もなしで。シツコイようだけど、相手は太政大臣のお使いよ?そこそこ身分も高い家来さんよ?もう唖然茫然て感じよ。


せ「山吹色、ですか……よりによって。玉鬘の姫君と被るなんて」

王「すごいわね色々と。侍従ちゃん、そのセレクトには関わってないの?」


 関わってるわけ、ないじゃないですかあ!!!

 アタシがいたら、そんなもん衣櫃ごと断捨離ですよ断捨離!以前捨てまくったはずなのに、あのボロ邸の一体どこに隠し持ってたんだろう……マジ信じらんない。

 しかも、ですよ?お手紙!!!お手紙がまた凄すぎた!

 少納言さん、ご覧になりました?あの、ボコボコした厚手の、ふっるーい陸奥紙のお手紙……。アタシは下書きしたやつを見ただけなんだけど、おそらくあの紙で出してるわよね?


少「あ……はい、確かに陸奥紙で……ちょっと、いえかなり、古そうな感じはしたかも」

右「いっつもそれしか聞かないんだけど、他に紙はないわけ?」


 あるわよ!

 あるのよ……たっくさん。もっと薄くて、色もキレイで、書きやすいイマドキの紙が。

 でも使わないの!練習にすら!亡き父宮が遺してくれた上等な紙だし~こっちが慣れてるから~っていって、頑として使わないのよ……周りをどんなにオシャレで気の利いた女房さんたちで固めても、ぜーーーったいに言うことなんか聞かない。まあ紙は貴重だからさ、アタシもさすがに無下に捨てらんなかったっていうのはあるんだけど、清書用じゃないでしょいっくらなんでも。筆跡は相変わらずカックカクの古文書だし、しかも内容……

「いやはや、結構な物をいただきましたが、かえって……

 着てみると恨めしく思われます唐衣

 お返ししましょう、袖を涙で濡らして」


少「ああ、思い出しました。ヒカルさまが広げるなりクスクス笑い出して止まらなくなってしまわれて、紫上がなんですの?って覗き込んでましたね」

侍「ああーやっぱり!そうなりますよね!少納言さん、その時の様子詳しく!」


 了解です。

 相手はやんごとなき筋の方ですから、ヒカルさまもあからさまに笑いものにすることはなさらなかったんですが、 

「いやまったく、昔風の歌詠みは『唐衣』とか『袂濡るる』とかいう古代の言い回しから離れないね。そりゃ私も使っちゃうことはあるけど……まったく一つの型に凝り固まって、今風の言の葉に変えようとしないのは、ある意味ご立派といえばご立派なものだよ。何かの折節、例えば、帝の御前で特別に歌を詠むなんて時に、人が大勢集まっている中にいることを表して『まとゐ』が欠かせない三文字だったり、恋歌のやりとりといえば『あだ人=徒人』を含んだ五文字を休め所の第三句に置く、さすれば言の葉の流れが落ち着く、とかね。さまざまな草子や歌枕によく精通し、見尽くして、その中の言葉を取り出したところで、その人なりの詠み慣れた型ってたいして変わらないんだよね」

 和歌論とみせかけて、やはり面白がってはおられました。

「この手紙を下さった方はね、亡き常陸親王の書き残した紙屋紙の草子を私に、読んでみなさいとばかりに贈ってよこしたことがあって。それが和歌の規則……歌の病として避けるべきことは?とか、そんなことが細かくびっしり書かれてたんだよね。元々苦手な上に、こんな四角四面な教則本みたいなのを読んだら、ますます筆がすすまなくなるような気がしたから、面倒くさくなって返しちゃった。あの草子の内容をよくご存知の方の割には、ありふれた詠みっぷりだよね」

 紫上は笑ったりなどせず、真面目な顔で仰いました。

「どうしてお返ししてしまいましたの?書き写して、姫君にもお見せするべきでしたのに。此方にもそのような教本らしきものはありましたが、みな虫食いにやられてしまいました。そういうものを読まないままでは、わたくしも含めやはり心得が足りないといえるのでは」

「姫君のお勉強には必要ないよ。総じて女性は、あまりに拘りが過ぎてしまうのもよろしくない。何事も、似合わないことはしないことだ。ただ心の筋だけをふらふらさせずに鎮めつつ、少しずつ自分の言葉というものを育てていくことこそ、たしかな道というものでしょう」

「……お返ししましょう、とありますのに、此方からは返歌されないのですか?礼儀に外れません?」

「貴女はまた優しいお方だね。じゃあ、軽く返しておこうか。

返そうと仰るにつけても独り寝の

夜の衣が思いやられます

 まことにごもっとも」


侍「……え、これ常陸宮の姫君には」

少「実際には出しておりません、書かれただけで」

王「元々返事出す気なかったもんね(笑)まあ、気にしないでしょあの方は」

侍「その通り……ああ……返す返すも、いたたまれない」

せ「皆さん、色々あるんですね……」

右「まあとにかく、お疲れさまってことでひとまず解散しますか。女子会は改めて開催するってことで」

少「あっそうですよ!年明けて落ち着いたら、六条院いらしてください。新年会やりましょう!皆さまご招待します」

全員「わーーーーい!!!」

 じゃあねー、とそれぞれ退室。

 タブレット、電源オフ。


参考HP「源氏物語の世界」他

<初音 一 につづく 

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