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明石 九 ~源典侍日記②~

2020年6月4日  2022年6月9日 
※以下は明石よりお帰りになられたばかりのご家来さんへのインタビューを典の局がまとめたものです。

---惟光さん、良清さん、右近将監さん、長らくの須磨・明石勤務お疲れさまでした。では、お三方にさっそくインタビューしていきたいと思います。吉報が届いた時、明石はどんな様子でしたか?惟光さんから、順にお願いします。(以下、惟・良・右と表記します)

惟「どうもどうも、惟光です。たしか七月末(現八月)くらいだったかな、けっこう特急で届いたね。受け取ったのは私なんだけど、そりゃもう天にも昇るような心地とはこれかと。早速ヒカルさまにもお知らせして、全員で大歓喜の嵐だった。明石入道も『ようございました』ってニコニコしてたけど、ちょい引きつってたね」
良「そうそう、涙目だった。あ、私良清です。あーあ、だから私にしといてくれればよかったのに……私なら一緒に連れて帰るよ……」
右「まあまあ、良清センパイならきっと都でモッテモテ!っスよ!おっと、自分は右近将監でーす☆あの時は京から続々お迎え要員が来て、毎日どんちゃん騒ぎだったスね。楽しかったっス」

ーーーありがとうございました。では次、明石の君は妊娠なさってるとか。ヒカルの君とはさぞかしラブラブだったんでしょうね?

右「いやいやいや(笑)んー、まあラブラブっちゃあラブラブなんスけど」
惟「どっちなんだよ(笑)まあね、ご縁はあったんだろうね。あんなにとびっとびで通ってたのに命中したんだから。妊娠発覚してつわりが酷くなった頃に多少回数が増えて、都に帰る日が決まるや激増したね。最後の方はほぼ毎晩通ってたんじゃないの?」
良「あの人、いっつもそうですよね……それまで超冷たくしてたくせに、いざ離れるってなると急に張り切り出して、メッチャ優しくするんですよ。伊勢の御息所さんとか、正妻の葵さんとかの時と同じ。あれじゃ女は辛くなっちゃいますよね……」
惟「良清……ドンマイ。ホントそれ。八月(現九月)に入ってからは特に酷かったな。『ああつらい。何で自分で悩みを増やす方向にいってしまうんだろう。明石の君と別れたくない……』なんておセンチに秋の空を眺めたりして」
右「最初の頃は、え?いつ行ったの?ってくらいこーっそり、たっまーにしか通ってなかったっスよね。俺、てっきり良清さんに気イ使ってるんかなーって思ってたんスけど、単に乗り気じゃなかったんスね」
良「あああ……もうやめてくれよう俺の名をそこで出すの。北山でウッカリ明石の話しちゃったのはホント痛恨なんだから。あの時は、まさかヒカルさまもろとも明石に行くことになるとは露ほども思ってなかったからさ……多少は気遣われてたかもって思うと余計惨めになるんだよね。何から何まで勝てるわけないし。でも、どうせならもっと大事にしてあげてほしかったよね、最初から」

ーーーまあ、一部女房の間でも有名ですからね、ヒカルさまのそういうところ。次の質問に行きましょう。明石の君はお琴の名手だそうですが、いかがでしたか?

良「それだよ!俺は知ってた、前々から評判も高かったし、まず父入道が盛んに自慢してたからね。なのにヒカルさまは全く弾かせようとしなかったんだよ。初めて聴いたのが帰る二日前ってオイオイ……ぶっちゃけ忘れてたよねその話。そのくせ、何で今まで聴かせてくれなかったの?とかシレッと相手のせいにしちゃってさ。マジ酷いよなあ」
惟「良清……後で飲みに行こうな、うん。彼女の演奏凄かったよ!都の管弦の催しでも滅多にないようなクオリティだった。今まで聴いた中で一番は入道の宮さまだったけど、甲乙つけ難いね。宮さまは何というか、斬新な中にもお人柄が表れるような優しい音なんだけど、明石の君のそれは、弾き伝えられて来た伝統の重みを感じさせつつも冴え冴えと一音一音が響き渡る、まさにクール!って感じなんだよ。海と山の自然に囲まれた、明石の地で生まれ育った彼女だから出せる音色。いや、もう少し聴いてみたかったね」
良「だよねえ……はー。きりりと気品のある、雰囲気のある子で魅力的だったよなあ……」
右「あっ良清センパイ、いつの間に!自分も見たかったっス」
良「いやそれがさ、ヒカルさまも勤行三昧で顔がシュッとして、甘いマスクに野性味まで加味されちゃってイケメン無双状態じゃん?明石じゃまず見たこともない、スーパーキラキラ☆イケメンが悲壮な顔して涙ぐみつつ寄り添って、必ず迎えに来るよって耳元で囁くんだよ?たまったもんじゃないよね、明石の君みたいな、免疫ゼロの箱入り娘には。
『ダメ……頭がクラクラする。もう、これだけで満足して終わり!ってしないと神罰が下りそうな勢いだわ。尊すぎて無理
 て思ったかどうかは知らんけどそんな感じで、見てられなかったよ」

ーーーそうですか。けっこうキレイなお人で、琴の腕も抜群と。ヒカルの君はどういう反応でしたか?

惟「そりゃあもちろん大喜びで、絶対いつか京に呼ぶ!』って散々何度も約束なさってましたよ。『この絃の調子が変わる前に必ず逢いましょう』って自分の琴を下げ渡してね」
良「だーかーら最初から……」

ーーーさて次の質問です。出立の日はどのような感じでしたか?出来ればお歌のご紹介もお願いいたします。

惟「結構当日はバタバタしてましたねえ。早朝、っていうかまだ深夜だったからね。右近、お手紙の担当お前じゃなかった?」
右「あっそうでした。えーと、まずヒカルさまはと(メモを探る)あ、あったあった。
『貴方を置いて明石を旅立つ、私も悲しい
 浦波の名残はどうだろう、貴女はどういう気持ちだろうか』
明石の君の返歌:
『年を経た苫屋も、あなたの立ち去った後は荒れて辛い思いをするでしょうから
 打ち返す波に身を任せてしまいましょうか』
 メッチャ泣いてたみたいっスねお二方とも」
良「あーイラっとくるわー何十年も熱愛してたみたいなこの感じ」
惟「まあまあ。ところで、明石入道が用意してくれた土産は凄かったです。一体いつのまに準備したのか、私ら供人にまで立派な旅装束を揃えてくれましてね。それも上から下まで満遍なくですよ?剛毅な事です。ヒカルさまは勿論別格で、とんでもなく沢山の衣装櫃を供人に背負わせて京まで持って行かせたくらいです。他の贈り物も、どれも由緒ある逸品ばかりで最高でしたね」
右「そうだ、思い出した。ヒカルさまのために用意された狩衣の包みを開けたら、ひらひらっと落ちたんスよ、歌が。
『寄る波に、ご用意いたしました旅の装束は
涙に濡れています、厭われましょうか』
って。周りが超バッタバタで騒がしい中、ヒカルさまは慣れたもんでサラサラーっと返歌書いて、せっかくの好意だからいただいた衣裳に着替えようってことになって。それはいいんスけど、脱いだインナー(下着じゃなくて上着の下に着てたやつっすよもちろん)を歌と一緒に持って行かされたっていう……」
惟「ああ、形見ってやつね。匂い付きのインナーって現代語でいうとアヤシすぎだけど、平安時代ならアリでしょ別に」
右「いやー自分はちょっと、意味わかんないスね。平安男子だけど」
良「……妬ましい。私なら、そんな愁嘆場など最初から作らないようにするのに」
惟「まあ、お子さまも生まれることだし、ヒカルさまのことだから見捨てたりはないと思うよ?明石入道はじめ散々世話になった人たちを、いつまでも放置しとくような方じゃない。何やかんやマメで義理堅いからね、うちの御主人は」

ーーーでは最後の質問です。明石入道の「大願」は結局何だったと思いますか?また、叶う見込みはありますでしょうか。見解を述べてください。

惟「それは間違いなく、自分の血縁を京の中枢に送り込むことでしょ。生まれる子が女子ならば更にわかりやすい。ズバリ、目標は一族から『国母』を出すこと」
右「都の貴族と同じじゃないスかそれ。皆が血眼になって宮仕えレースに何とか参加しようとするのもそれっしょ?」
良「結局、あの入道は都が一番!と思ってるんだよなあ。明石に住んでて出家までしてる癖に、俗世への未練タラタラなんだよね。それはいいけど娘はそれで幸せなのかな」
惟「そうだよな。いくら教養も嗜みも上流貴族並っていったって、実際身分らしい身分がないからなあ……どうするんだろうねこれから」
右「まあヒカルさまが何とかするんじゃないッスか。相当上のポストに就くこと間違いなしだろうし」
良「ハア……」
惟「良清、お前もきっとこれからは出世街道大爆走確定なんだから元気出せ!女は他にも沢山いるぞ!」
右「飲み行きましょ、飲み。あ、インタビュアーさんも一緒にどうスか?」

ーーー これをもちまして、インタビューを終了させていただきます。ご協力ありがとうございました。また、どこかでお逢いいたしましょう。

 プツッ。

 ヒカル一行が去った明石では、早速夫婦喧嘩が勃発する。
「娘はもう朝から晩まで泣いてばかりですわ……お腹の子に障らないか心配でたまりません。どうしてこんな、精も根も尽き果てるような結婚をさせてしまったんでしょう……すべて、こんな偏屈者の夫に従った私の失敗ですわ」
「何を言うか。あのヒカルさまが娘とお腹の子を見捨てるはずもない。きっとよきように計らってくださるはずだ。娘はお前が何とか落ち着かせて、薬湯でも飲ませておけ。まったく、婿殿の晴れの門出だというのに縁起でもない」
 明石入道はまくしたて、部屋の片隅にどっかと腰を下ろす。まだ言い足りない乳母や母君はなおも愚痴り合う。
「いつかは……と思って長年大事に育てて来て、さあ願いが叶った、これから幸せに、というところでお別れなんて。初めての結婚でここまで悲しい思いをさせてしまうなんて親失格だわ……」
「そもそも、身分が違いすぎる婚姻がうまくいくわけもないのですよ。お可哀想に」
 嘆く声を聞くのもいたたまれず、家族さえ避けて暮らすようになった明石入道、何のことは無い、誰よりも一番打撃を受けていたのはこの人だった。常に頭に霞がかかったような状態が続き、昼は一日寝っぱなし、夜はすっくと起きだして、
「数珠は何処だ、数珠の在処すら忘れてしまった」
とぶつぶつ言いながら、呆けたように手を擦り合わせる。
 しまいには弟子たちにまで見放されて、月夜に独り庭先に出て行道をするも、足を滑らせて遣水の中に倒れ込んでしまった。物寂びた岩の角に腰をぶつけて怪我をした入道は、寝込むほどの痛みの中でようやく少し自分を取り戻したのだった。
参考HP「源氏物語の世界」他
<明石 十につづく>
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