「燕は戻ってこない」
読書の秋、アグレッシブに満喫ちう。
「燕は戻ってこない」桐野夏生(2022)
NHKの夜ドラ?だったかな、ちょっとだけ観てた。終盤の二話くらい(殆どみとらんやんけ)。代理母を引き受けた女と依頼した夫婦の話。夫の基役が吾郎ちゃん、今思い返してもナイスキャスティングだった。彼は「手練手管系ではなく素でヤバい人」の役がどうしてあんなに似合うんだろか。バラエティ等で観るご本人にそういったヤバさは全く感じないんだけど。役者さんとしてただただ凄い。対する女性二人は、原作よりかなりいい感じだった。つまり……(以下ややネタバレにつき注意)
率直に言おう。この小説、真ん中辺りまでけっこう読むのが辛かった。胸糞系が好物の私なのにどうした?!と自分で不思議になるほどに。主人公が我が子くらいの年だったせいかもしれないがそれだけじゃない。20代後半のこの女子があまりにも短慮というか性的に緩すぎてゲンナリする。他にやりたいことはないんか……これといった趣味もなく当然特技もなく、よって目的や目標があるわけでもない。何となく就職先を決め何となく辞めて、何となく上京して極貧の派遣生活。何も目指してないから成功確率はゼロに決まってる。なんだこいつ何がしたいねん……それでいて郷里の両親や友人知人をえらく下に見てる。いやいやいやいや。自己責任という言葉は作中にも出てきて、そんなこと言うべきじゃないみたいな扱いだったけど、この子に関しては流石に少しはあるんじゃないか?(と読む者に思わせる仕掛け凄い)
依頼する側の夫婦も夫婦で不倫の果ての略奪婚だし、とにかく全員が「考えなし」の「行きあたりばったり」。熟慮してる風だけど結局は自分自身の欲望にだけ忠実。先のことなんぞ考えてない。欲しいはずの子供の将来すらも。なんだこの馬鹿どもはあああああと真面目にイライラした。
主人公も夫婦も(両者の学歴の差がそこここで匂わされる)決して頭が悪いわけじゃない。むしろ平均以上に仕事は出来そうだし見目も人当たりも良い。一体何が欠落してるんだろう?基本的な道徳観や倫理感?生まれ育ちは違っても、なるほどこういう人間同士だから「マッチング」できたんだなあと納得の愚かさ加減ではある。
思うに、桐野さんは「代理母」というビジネスには大反対なのではないか。こういった「ビジネス」がもし日本において行われたら、一体何がもたらされるか「一番わかりやすい最悪パターン」の一つとして明示してみせたんじゃなかろうか。インタビュー等読むと、「怒り」が原動力とある。何に対しての怒りかというと主に「女性が被る不利益」みたいなことを仰っていらしたが、「代理母」なんてその最たるものだもんね。金持ちの身勝手なエゴが貧しい女の身体を搾取する、という言葉だけでは伝わらない、圧倒的な醜悪さ理不尽さを、「両方の立場から」これでもかと書き切った。絶対にこの日本でこんな商売をさせたらイカンと心の底から実感させられる作品でした。面白かった。
コメント
コメントを投稿