おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

澪標 七 ~オフィスにて~

2020年6月29日  2022年6月9日 
「ねえ右近ちゃん」
「なあに侍従ちゃん」
「何回もおんなじこと言ってる気がするけどさー、スペック高い美人ってほんっと大変よねー」
「ああ、前斎宮さまのこと?」
「どっちかというとお母様の方。娘さんは適齢期だからある程度仕方ないかって感じだけど、六条御息所は若くして夫の春宮さまに先立たれた後、再三桐壺帝に内裏にいらっしゃいって誘われてたわけでしょ。で、今また娘さんまでってヤバくなーい?」
「そうねー。帝クラスの方からしたら、身元・家柄・品質(容姿と教養)が安定保証の相手だから、そりゃダメ元でも言ってみるかーってなるよね。女性側からしても、男性の後ろ盾がないと厳しい社会だから生活保障の意味合いもある。なのに長年ワンオペで、あの素敵なお邸と超有能な女房さんたちを回してきた故御息所って相当なお方だと思うわ。後見無しの入内が如何にヤバイかよーく心得てて、のらりくらりと逃げつつ、失礼にならない・見捨てられない程度の距離を保ってたたわけだから。王子と付き合っちゃったのだけは誤算だったろうけど、最期にしっかり頼んでなおかつ釘もガッツリ刺してる辺りは、さすがというべきよね」
「なるほど、そんなお母様なら宮さまもマザコンになっちゃうのも仕方ないかー。ヘタな男より頼り甲斐あるわ」
「箱入り娘で元斎宮、お母様にベッタリで男っ気まるでなしっていう正真正銘まっさらな人だから、案外内裏ぐらしは性に合うんじゃないかな。なんたって後見は今をときめく内大臣さまだし無敵」
「少納言さんに聞いたけど、宮さま二条院に移るらしいよ。入内後はあそこが里下がり先になるんだって。紫ちゃん、もとい紫上は超大歓迎!でいそいそ準備してるって。年も近いんだよね」
「そうなんだ。王子は鼻高々だろうね」
 御簾がサラリと揺れる。
「相変わらず早いわねえ情報が」
「あっ王命婦さん!こんにちは!」
「こんにちは。ごめんね、女子会の後送って貰っておきながら全然覚えてないのよ……ありがとう」
「あー全然大丈夫、右近ちゃん寝てただけだから何てことなかったわ。気にしないで」
 お茶とお菓子を運んで来る侍従。
「随分速いわね侍従ちゃん」
「そろそろいらっしゃるかなって思って用意してたんでーす!さあさあ、奥へずいいっと」
「いつもこのくらい仕事が速ければお小言食らわなくて済むのに(笑)」
「いや実際有能よ侍従ちゃん。典局さんの所じゃなきゃ右近ちゃんともどもスカウトしたいくらい」
 固まる侍従。
「……どうしたの侍従ちゃん?」
「褒められて石化するなんてらしくないわね。何かあった?」
 黙ってぶんぶん首を振る侍従。
何でもない!で、どうなんです?王命婦さんのお話聞きたい!」
「アヤシイわねえ」
「まあ、いいでしょ。こっちの話はすぐ終わるわよ。ただ王子が、宮さまの処遇について藤壺にご相談しに来たってだけだから」
「え?そうなの?てっきり既定路線なのかと」
「もちろん最初からそのつもりではあったんだけど、まあぶっちゃければ女院さまへの根回し&営業活動みたいなもんね。話長かったわよ。
『前斎宮の母君である故御息所は元々身持ちが堅く慎重な方だったのに、私のつまらない戯れ心のせいで不本意な浮名を流され、大変なご迷惑をかけてしまい誠にお気の毒なことをしてしまったと反省しきりです……今生では遂にそのお恨みの心は解けずじまいでしたが、今わの際に娘の将来を頼むと遺言されました。私のような者を頼るしかなかったお心の内は察するに余りあります』ここでポロリと涙ね。
『それは……おいたわしいこと。前斎宮はこれからどうなさるのかしら』
『私の性分として、普段から少しでも気がかりなことは放置できないものですから、お亡くなりになった後もずっと、どうしたらご遺言が果たせるかと考えておりました。そこでふと思いついたのです……主上に如何かと』
『後宮にお入りいただくということ?たしか前斎宮はかなりお歳が上では』
『ええ。しかし主上におかれましては、随分大人びておられるとはいえまだまだお若いお歳です。今おられる女御さまがたは失礼ながら皆同じような年回りですから、もうすこし年かさの、分別のある方がお傍にいらしてもよいのでは?と思いまして』
って感じで推せ推せ」
「なるほどねえ。先に遺言であることをガッツリ印象づけた後、母目線で気になってるところをしっかり突いてくる。さすがだわ王子」
「確かに、今の後宮って中学校入りたてみたいな雰囲気だよね。キャッキャ言って遊んじゃってウェーイみたいな?年齢的に仕方ないっちゃ仕方ないけどさー、昔の弘徽殿の派手さとはまた違う、ひたすらお若いノリ」
「いやホント仰る通りなのよ。女院さまもすっかりその気で、
『よくそこまでお考えになってくださいました。朱雀院のお気持ちはたしかに勿体なく、お気の毒なことではありますが、母君のご遺言をたてに何も知らぬ存ぜぬ体で内裏に入られてはどうかしら。院もこのところ勤行にいそしんでおられて、そこまで強く押し切ろうという気はなかろうと思います。きっと深くはお咎めにならないでしょう』
『では、主上からのご意向で前斎宮を数に入れていただける、ということでよろしいですね?私は促す程度に口添えすることにいたしましょう。ああ、これで少し肩の荷が下りました。ああでもないこうでもないと考え続けて、全方位に配慮し尽くしたと判断したからこそこうして全てをお話ししたのですが、それでも世の人々がどう取りざたするかは心配ですね』
 とかなんとか神妙なこと言いながら、女院さまの言質取れた!とばかりに速攻で話を進めていったのは大臣その人、というわけ」
「すごい、まさに密談。よくここまで口が回るわよね王子。感心するわ。てか王命婦さんイタコ技が更に磨かれてる」
「あのさあのさ、よくよく考えたらこれって(小声)父と母が息子の縁談を考えるって図じゃなーい?」
「侍従ちゃんたらそれは言わない約束よ☆でも、たしかに傍で見てても息ピッタリだったわね。色恋って感じじゃなく、……親族としてね」
「王子、成長したのねえ……」
「アタシたち年取るわけよねえ(よぼよぼ)」
「ちょっと(笑)それこそ言わない約束よ。ヒカル大臣はね、成長した部分もアリ、そのままの部分もアリって感じね。平静を装ってはいたけど、宮さまをやたら自分の娘と同じように!って強調しすぎてて、逆にそこまで自分に言い聞かせないといけない理由があるのかしらね?なんて話してたわ私たち」
「藤壺メンバーズの洞察力怖っ。お顔を見てる朱雀院がご所望ってことは美人確定!だし、好み同じっぽいし、そりゃ気になるわよね。全く男ってやつは」
「それでこそ王子よん♪いつまでもイケイケでいてほしいわアタシ的には」
「とはいえ、大人げないところもまだまだあるのよ。娘さんを入内させようとしてる兵部卿宮さまへのイケズな対応は相変わらずで、女院さまも頭を悩ませてらっしゃる。まさか虐めたりはないだろうけど、特に引き立てたりはまあ、しないよねえって感じ」
「兵部卿宮さまってある意味お育ちも人も良すぎなんだよね。そういう悪意みたいなのに気づかないし、そもそも自分がどれだけひんしゅく買ってるかもあんまりわかってない」
「奥さんの方は身に沁みてんじゃなーい?ただ、謝ったりはしないだろうねえ、この先もきっと」
「しないでしょうね。まあそこは置いとくとして、主上に対しては完璧ね。政治の補佐はもちろん、生活全般細々したところまでキッチリ行き届いたサポート態勢で、実際頼り甲斐は凄くあるのよ。女院さまがこの頃あんまり体調が良くなくて、思うように内裏に出入りできないから尚更有り難い」
「えっ大丈夫?」
「大丈夫よ、今のところは。季節の変わり目にちょっと疲れやすいかなーくらい。まあでも、極力ストレスかかるようなことは避けたいわね。頑張るわ」
「王命婦さんも無理しないでね」
「私は平気、何かイラっとすることあったらここに駆け込むから!……で、侍従ちゃん?何か話すことがあるんじゃないの?」
「……アレ?いない」
「ほんとだ、逃げられたわ。ますますらしくないわね。ん?何コレ」
「侍従ちゃんの字だ!手記?!いつのまに!」

 次回、侍従ちゃんのひとり語りです。
参考HP「源氏物語の世界」他
<蓬生 一 につづく
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