澪標 四 ~第三回平安女子会@二条院②~
「こんにちはー。初めまして。宣旨の娘です。あっ王命婦さん、お世話になりまーす」
王「こんにちは。お忙しい所ごめんね。少しだけ付き合ってくれる?えーと呼び名どうしよう。宣旨の娘じゃ長いから、せっちゃんでいいか」
せ「はい(笑)なんだか可愛い感じで嬉しいです!授乳二人分なんで、ここにいられるのせいぜい二十分くらいですけどそれでよろしければ」
王「全然OK。しんどかったらいつでもブチっと切っちゃっていいからね。手短にいきましょ。こっちはタブレット人数分は無いから交替でよろしく」
(しばし一言自己紹介タイム)
侍「ハイハーイせっちゃんに質問!明石にはどうやって行ったの?王子……もとい、ヒカル大臣はついてった?」
せ「京の中は牛車、摂津の国(大阪)に入ってからは舟、明石に着いてからは馬でした。快適な旅でしたよ!ヒカル大臣はもちろんついては来られませんでしたが、見送ってくださってお手紙もいただきました」
侍「内容もよろでーす♪」
せ「えーと、くれぐれも大事にお世話してね!決しておろそかに扱っていい子じゃないからね!っていうことが長々と。あとお歌ですね。
『早く私の手元に引き取って世話をしたい
天女が羽衣で岩を撫でるように、幾千万年も行く末を祝って』」
少「……きっとお土産も山ほど持っていかれたのでしょうね……」
せ「あ、はい。お祝いの御佩刀(みはかし)から日常品まで、何から何まで行き届いてましたね。私の持ち物まで細かく揃えてくださって。それほどに大切なお方なのだと少々緊張しました」
王「(侍従ちゃん、少納言さんに注いであげて!)明石に着いてから如何でした?入道さまや、他の方々は」
せ「明石入道さまは随分先まで迎えに出ていらして、それはそれは丁重に、屋敷をあげて大歓迎していただきました。使者の皆さまはすぐにでも京へ帰りたかったらしいのですがかなり長時間引き留められて、困っておられたくらいです」
少「赤ちゃんのお母様の、明石の君は……どんなお方なのでしょうか」
せ「上品でお綺麗ですよ!体つきもスラーっとしてて立ち居振る舞いもお美しいです。私たちが到着した日、使者にお歌を言付けてらっしゃいましたが、
『一人で姫君をお世話するには袖が足りないので、
覆うばかりのご加護を待っております』
って中々こういう言いまわし咄嗟に出ないですよね、まだお産疲れも取れないお体で。さすがはあのヒカル大臣を射止めた方だと日々実感してます」
右「え、えーと。職場環境はどうですか?どんな女房さんたちがいらっしゃる?」
せ「もとは都にお住まいで、宮仕え経験のある方が殆どですね。出家して田舎に引っ込もうとしていた方々を入道さまがセレクトして引っ張ったみたいです。なので、年配の方が多いのかも……年の近いのは私くらいです。まあでも、皆さん良い方ばかりですよ」
少「五月でしたか、生後五十日のお祝いありましたよね。きっと大臣からも沢山お祝いが贈られたのでしょうね」
せ「はい!明石でも盛大にお祝いはしたのですが、やはり大臣のお心遣いはレベルが違いましたね。ぴったり五十日目の五月五日に着くように使者を差し向けられて、山ほどの品々が何から何まで見事で完璧すぎて、入道様は嬉し泣きをなさってました。あの方、一見強面ですけどかなり涙もろいんですよね(笑)」
少「お手紙などは」
せ「えーとですね。ちょっと待ってくださいね(ごそごそ)
『常に海辺の岩陰に隠れている海松(みる:海草)のように田舎暮らししている娘よ
五日の節句が五十日(いか)の祝いと如何にしてお分かりになりましょうか
飛んで行きたいくらいです。やはりこのままではいられません。上京をご決心ください。ご心配なさるようなことは一切ありません』」
少「お返しはこうでしたね。
『数ならぬ島に隠れて鳴く鶴を
今日という五十日(いか)の祝いは如何にと尋ねる人もありません
思うことは多々ありますが、このようにたまさかのお慰めにかけてようやく儚い命をつないでおります。本当に、仰る通り安心させていただきたいものです』
お見事な歌でした」
せ「……ご覧になったのですか」
少「はい。でも、私だけです。紫上は上包みのみご覧になりました。とても素晴らしい筆跡に大層感心されておられましたわ」
せ「ごめんなさい、お気持ちも考えず無神経なことをベラベラと。私ちょっと調子に乗りすぎました」
少「いいえ、そんなこと全然。ただ、大臣がね……例によってその時も、明石からのお手紙をこれみよがしにチラチラさせて、紫上の前でギリギリ聞こえるか聞こえないかくらいの独り言&ため息つきながら読んでらして」
右「ハア?!何なのかしらね一体。一人で黙ってこっそり読めばいいのに」
少「当然誰からかは察しがついてらしたので
『浦から遠方に漕ぎ出す舟のよう(まーた始まった。心は明石の海辺ですわね)』
と少々当てつけた独り言を仰ったら、これが飛んで火に入る夏の虫というやつですよ」
右「どゆこと?早く言って!」
少「『聞き逃しませんね(笑)まったく、そこまで曲解なさるとは。これはただの近況報告の手紙ですよ。かつて暮らした土地を思い出すたびに、昔の色んな出来事が頭に浮かんで、知らず知らず漏らしてしまった独り言だというのに。疑うなら中身も見ていいですよ、ほら』」
右「うわーキタキタ。そんなこと言われて見られるわけないわよね。それをわかっててのこの行動。引くわー」
せ「め、面目ないです」
王「いやせっちゃんは何も悪くないから。もっといえば明石の君も別に悪くないから」
ふえーん、と泣き声。
せ「あ、いけない。姫君の方が起きちゃいました。ちょっと失礼して……」
少「待って!せっちゃんさん、差支えなければでいいのですが、姫君のお顔を見せていただけないでしょうか?」
せ「わかりました、お連れしますね。ただ『さん』は外してください(笑)少々お待ちを」
侍「せっちゃんさん(笑)少納言さんらしいー」
少「つ、つい……ちゃんづけって立場的にアレかしらと思って。恥ずかしい……」
王「女房同士は別に敵対する必要もないからね。ましてこの女子会中は一切しがらみゼロ、無礼講で行きましょ☆」
せ「お待たせしましたー。はあーい姫でーす、こんにちはー」
明石の姫「ふえええ」
侍「いやーん、きゃわわわわ!」
右「可愛い!超可愛いいいい!」
王「抱っこ出来ないのが残念だわー。おーよちよち」
少「目元がヒカルさまそっくりですねえ……本当に可愛い。やだ、涙が」
せ「うふふ、可愛いですよね。私も初めて見た時から姫のトリコですよ。さて、お腹が空いてるみたいなので、そろそろ失礼しますね」
少「せっちゃんさん、じゃないせっちゃん!あの、どうかお体大事に、明石の皆さまともども。京にいらっしゃる日を楽しみにお待ちしてます!本当に!」
せ「ありがとうございます少納言さん!しかとお気持ち受け取りました。またお会いできる日を私も楽しみに、乳母仕事頑張ります!皆さまもお元気で。今日は楽しかったです、ありがとうございました!」
「まったねー♪」「女子会、次回はリアル参加してね!待ってる」「またお手紙書くわね、ではでは」
姫の小さな手のバイバイ(byせっちゃん)に、全員我を忘れて手を振る。
プチっ。
王「可愛かったわねえ……」
少「(涙を拭く)……本当に」
右「はー、何か盛りだくさん過ぎてヘンな汗かいた」
侍「はいはい、お注ぎしますよう皆さん。ってあんまり飲んでる暇もなかったか」
王「せっちゃんって面白い子でしょ。天然なんだけど頭の回転速いのよね。何であんな、子供出来た途端逃走するような男に引っかかっちゃったんだか」
侍「エー、サイテー!」
少「人生わかりませんよね。そのサイテー男のお子さんを生んだおかげで、今こうなっているわけですし」
王「確かに。この先もう生活の心配は無いもんね。ある意味これも玉の輿ってやつかも」
少「二条院のどこに住まわせるのでしょうね。やはり今新しく造っている所なんでしょうか。あの姫……紫上の小さい頃を思い出しました。是非お世話してみたいものですわ」
右「あの新しい建物って、やっぱりそういう目的?この二条院だってけっこうなお邸なのに、総面積すごいことになるわね」
侍「ねー。内裏とどっちが広いかなー」
王「花散里の元女御さまと妹さんもそこに住まわす気でいるんじゃないかな。ついこの間、帰京以来やっとあちらに訪問されたって風の便りに聞いたわ。あの中川のお邸も大概古くて今にも崩れそうだし、早急に引っ越しは考えるべきね」
侍「二条院が内裏みたいになるのかなあ?他の、例えば五節の君ちゃんみたいな子も呼ばれちゃうとか?きゃーん羨ましい!」
右「あー、あるかもね。あの子も大宰府から帰ってきたものの、縁談に全然乗らないらしい。ヘタに王子レベルの男と付き合っちゃうともう普通の男は難しいのかも」
侍「……ん?」
右「どうしたの侍従ちゃん」
侍「何か今、引っかかったような……何か忘れてる気がする」
右「仕事は全部終わらせて来たじゃん。なーに?プライベート?」
侍「何だろ。思い出せない……」
王「飲みが足りないんじゃない?ささ、一杯(どぼぼぼぼ)」
記憶寸断。
ということで、第三回平安女子会の実況を終了いたします。遠隔地にいるのがせっちゃん一人だけだから、ぶっちゃけ会議アプリじゃなくスカイプとかで良かったんじゃね的な感じですが、一回やってみたかったんですよー会議アプリ飲み会。やっぱり楽しそう!だけどリアルでやるなら顔は別物に差し替えたい(笑)。
それにしてもこの「澪標」、前半はけっこう細切れに色んな話が点在していて、久々に噂話のノリで、女子会のとりとめない会話には非常に親和性が高いです。何となくですが、作者もここで出て来た人物を一人一人振り返って、整理整頓してみたんじゃないでしょうか。最初に書いた人物設定と出来事を改めて確認し、年月を経てその人物と取り巻く状況がどう変わっていったか考えていくと、いくらでも書けるネタが出来上がる。最初にどこまで構想していたのかはわかりませんが、この「澪標」がタイトル通りひとつの「しるし」、分岐点の役割を担っているのは確かかな、と思います。
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