明石 五 ~オフィスにて&閑話休題~
「なあに侍従ちゃん」
「なんかさー、最近大丈夫なのかな内裏。雰囲気おかしくなーい?」
「色々滞ってはいるわね。無理もないけど」
「ビックリだよね、まさかあの右大臣……いや、太政大臣になってたかあの時は。急死しちゃうなんて」
「六十過ぎてるからお歳的にはまあ、あるかなって感じだけどいきなりだもんね。しかも大后さまも調子悪いんでしょ今。朱雀帝の目の具合もイマイチらしいし、踏んだり蹴ったりだわね」
「マジで管弦遊びも何も、ぜーんぶ無くなっちゃったよね。季節の行事や儀式も中止か縮小。あんなにウェイウェイやってたのに」
「王命婦さんにチラっと聞いたけど(小声)帝はもう王子を都に戻そうってお考えらしいよ。夢のお告げ云々はともかくとして、実際高度な政務が出来る人材がいないのよね。致仕大臣……元の左大臣さまにも打診はしてるらしいけど、あちらもご高齢ではあるから」
「でも、大后さまがうんと言わない……」
「そうそう。『世間には何だ、朝廷の決定など軽々しいものか、と非難されるでしょうね。罪を恐れて都を去った人を、三年もたたずに赦すなどと、どのように言い伝えられることか』だって」
「あああ、やっぱり!つか右近ちゃん、うまくなったね大后さまのモノマネ」
「私のは所詮真似であってイタコ技には至ってないけどね。ヤダ、ダジャレっぽくなっちゃった☆でもまあ、大后さまの言うことって間違ってはないよね。ご不幸続きなら尚更、このタイミングで赦免すると完全に朝廷の威厳が損なわれそう」
「なるほどー。アタシ的には一日も早く王子に戻って来てほしいけど、確かに今だとあの嵐も、右大臣の急死も、お二方の病気もゼーンブ王子がいないせい!的な印象になっちゃうよね。上に立つヒトってホント大変だわ!アタシはずっと普通のOLでいいやー」
「王子と言えば、明石の娘さんといよいよ……らしいわよ。侍従ちゃんにはちょっとショックかもしれないけどさ」
「いや、アレに関してはあんまり羨ましくはないかなー。だってさ、かんっぜんに父親の思惑通りってかんじじゃん?しかもいちいち干渉してきてさ、お手紙まで代筆して、どう?どう?って毎日親にプレッシャーかけ続けられるってマジありえない!すっごいイヤかもいくら相手が王子でも!……いや、王子なら、アリ、かな……ギリ」
「結局それかい(笑)」
「ええそうよ!(やけくそ)あーああーあ、羨ましい!(定期)」
閑話休題。
「明石」は話の流れとしては定番の「玉の輿」パターンですが、そこは紫式部さんなので単純には書きません。昔話だとメデタシメデタシで終わりだけど、実際相手があまりに自分とかけ離れたハイスペックだと色々辛いよ?ちっとも簡単じゃないよ?っとビシバシ現実を突きつけてきます。
何となく思ったのですが「明石の娘」って実は紫式部の分身じゃないでしょうか。
「もしも私が地方のそこそこ富裕な家の娘で、ヒカルみたいな男性と結婚するとしたら……」
と考えて作った「もう一人の自分」なのではと。
身分こそ低いが親の知的レベルが高く、ガッツリ教育を受けている。賢くて機転がきいて、和歌や楽への造詣も深く審美眼があり、身分的に見合う人とは中々話が合わない。さらに「女は気位を高くもて」=プライドを持て、という持論。私の中での紫式部のイメージと合致しまくってます。
ちなみに明石の娘は、生涯を通じヒカルに一目置かれる唯一の「上流でない」女性として、物語を最後まで見届ける役割をも担っています。男にとっての理想の女性が紫上としたら、女のそれは明石の娘、なのかもしれません。もちろん作者にとって、ですが。
参考HP「源氏物語の世界」他
<明石 六につづく>
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