賢木 十五 ~オフィスにて中納言が語る~
「なあに侍従ちゃ」「こんにちはぁ!弘徽殿の中納言です!椿油お返しにうかがいましたぁ!」
「は、はーい(声デカっ)」
「あら、お土産まで。お気を遣わせてしまいましたね、申し訳ないです」
「いいえー!とんでもない、すごおく助かりましたので!どうぞ皆さんで召しあがってくださーい!」
「ありがとうございます、尚侍の君にもよろしくお伝えくださいね」
営業スマイルを向ける右近。やや引きつった愛想笑いの侍従。
「……うっ、ひっ、ひえっぐ、うぅーーー」
いきなり泣き出す中納言。
「ちょっ、どうしたの」「お腹痛いの?大丈夫?」
慌てる二人の前でもはや号泣状態に。
「えーと、とりあえず中入って。そこじゃ目立ちすぎるわ」
しゃくりあげる中納言の背中を押す右近。侍従がお茶の用意に向かう。
「……落ち着いた?」
湯呑を両手で持ったまま、こくこく頷く中納言。
「じゃあ、そろそろ帰」「あの!すこしだけ、お話を、聞いていただいても、いいですか……?」
「私たちに?」「何で???」
「聞いていただくだけで、いいんです……駄目、でしょうか……」
またエグエグし出す中納言。顔を見合わせる右近と侍従。
「お願いしますう……イロイロ考えてるともう、爆発しそうなんですう」
「(どっかで聞いたような)その話って、アタシたちが聞いてもイイの?(絶対めんどくさい……)」
「漏らすなと言われればそうするけど、特にアドヴァイスとかは出来ないし、本当に聞くだけになるわよ。それでもいい?」
「だっ、大丈夫です……どうせもう、皆知ってるし。内裏中に広まるのももう時間の問題なんです。自分、いつまでここにいられるかわかんないしえぐっひくっ」
再び顔を見合わせる二人。右近が頷いて口を開く。
「……とりあえず聞きましょうか」
「何の話か先に言いますね。つまり、バレちゃったんですよ。ウチの姫君とその……ヒカル大将の仲が」
「まだ続いてたんだ……(しょっく)」「そういえば、尚侍の君ってこの間からお宿下がりしてたわよね?まさか」
「そのまさかですう……」
尚侍の君の体調が悪かったのはホントなんですよ。瘧病がずうっと治りきらなくて、内裏じゃイマイチ休まらないし、あんまり頻繁な加持祈祷も気が引けるってことで、ご実家の右大臣家に下がられたんです。
で、気楽な環境で修法とかガッツリ始めたら、ソッコー治ってきたんで、皆喜んでたんですよ。そしたら……
「滅多にないチャーンス!ってことでヒカル大将来た!」「ああ、元々文通はしてたんだもんねあの二人。尚侍の君自らお知らせしたってことよね」
お二人とも流石です、ビンゴです。でも、まさかとは思ったんですよ、よりによって大后さまもお住まいの、右大臣さまも出入りするお邸ですよ?寸前まで冗談だと思ってました……エーっマジで来たの?!って感じでー。それもひと晩だけじゃないんですよ、結構続けて何度も。超ビックリでしたよもー。
「手引きしたってことか……」「しっ、侍従ちゃん黙って聞くのよ」
あっでも自分だけじゃないですよお。一人だけじゃ絶ーっ対、無理でしたもん。いつも煩いこと言うお局女房さん達の目をかいくぐって、ミッションコンプリート!するのって、そりゃドッキドキでしたけどー、ちょっと快感☆だったんですよね……誰も、まさかこのお邸にヒカル大将が忍び込んでるなんて思いもしないから、案外気がつかないんですよー。だからいい気になっちゃっててー、油断しちゃったかも……でもでも、お二人ともすっごい、ラブラブオブラブラブ!で、見てるだけでもハッピーになれるって感じでー。何しろ、尚侍の君が病みやつれ?っていうかー、ちょいお痩せになって、それはそれは超お美しく色っぽくなられて、女同士でもドキドキしちゃうくらいだったんですー。ヒカル大将が夢中になっちゃうのもわかりみーって感じだったんですよホント。
「そ、そうなんだ……大胆ね(こわ)」
「さすがに、すぐ近くにいる女房さんたちは気づいてたんじゃないの?」
あー、ですね確かに。でも、大后さまってほんっとうにエキセントリックっていうかー、ご機嫌な時は気前が良くて何でもして下さるんですけど、いったん頭に血が昇っちゃうともう誰彼構わず、ずううううっと当たり散らし続けますからね。皆、極力面倒は避けたいんですよ。だから告げ口は全っ然、ありませんでした。むしろわかんないように庇ってくれてた感じですね。
大后さまからしてこうなんですから、まして右大臣様なんてこれっぽっちも気づいてませんでした。あの夜までは……。
「ごくり……」
「侍従ちゃんしーっ(定期)」
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