「野火」塚本晋也(2014)
大岡昇平の原作は随分前に読んで、多分実家に置きっぱなし。持って来ればよかった。今度発掘してみよう。ただ、昔の文庫はもう紙もくすんでしまって字が読みづらいものも多い。電子で買おうかしらん。
物凄く出来が良かった。どこまでが現実でどこまでが妄想や幻覚なのか、時系列は合っているのか、観ているうちにわからなくなってくる。まさに体験者の記憶のフラッシュバックを映像で見せられている感。原作の筆致は冷静で事細かだったと記憶しているけれど、この映画のラストの通りに、思い出す毎に酷いフラッシュバックに襲われて、うめき苦しみながら書いたのではないか。結局何が本当にあったことなのかは、体験した本人にも定かではないのかもしれない。それ程に非日常で酷薄な世界にいたということだ。
ハリウッドのように大々的で本物そっくりの戦闘シーンこそないが、音と光と揺れの演出が素晴らしい。何より実際にフィリピンでロケしたという何処までも続く緑のジャングル、これほど空虚で絶望的な映像は他にない。そこをたった一人で人の痕跡と食べ物を探しながら彷徨う。いつ抜け出られるかもわからない、だだっ広い牢獄。敵の照明弾の強い光に照らされ、さっきまで話していた人が一瞬で吹っ飛ぶ。戦場の外での日常とあまりにも落差が激しすぎて頭がついていかない。自分さえも信用ならない。夢か現か、自分と相手の境界も時間の経過さえも曖昧にぼやけて散逸していく様が、今ここにあるリアルとして迫って来る。人肉食のショッキングさが有名だけれど、それ自体がどうとかではなく、そこに至るまでのすべてが出口のない地獄なのだ。
亡き父は、自らの叔父が戦争末期に「迫撃砲を運ぶ」名目で南方に送られたのを
「死にに行かせたようなもんだ」
と憤っていた。ただ、「無謀な作戦で責任云々~」と声高にわけ知り顔で上から語る戦後生まれの知識人()にはもっと怒っていた。感謝するのも、敬意を払うのも何かちがう、ただただ、あの頃あのような状況で斃れていった人々、生き抜いていくしかなかった人々に、黙って手を合わせるしかない。「絶対にこんな状況に陥りたくない」と思いながら。

大岡昇平の原作は随分前に読んで、多分実家に置きっぱなし。持って来ればよかった。今度発掘してみよう。ただ、昔の文庫はもう紙もくすんでしまって字が読みづらいものも多い。電子で買おうかしらん。
物凄く出来が良かった。どこまでが現実でどこまでが妄想や幻覚なのか、時系列は合っているのか、観ているうちにわからなくなってくる。まさに体験者の記憶のフラッシュバックを映像で見せられている感。原作の筆致は冷静で事細かだったと記憶しているけれど、この映画のラストの通りに、思い出す毎に酷いフラッシュバックに襲われて、うめき苦しみながら書いたのではないか。結局何が本当にあったことなのかは、体験した本人にも定かではないのかもしれない。それ程に非日常で酷薄な世界にいたということだ。
ハリウッドのように大々的で本物そっくりの戦闘シーンこそないが、音と光と揺れの演出が素晴らしい。何より実際にフィリピンでロケしたという何処までも続く緑のジャングル、これほど空虚で絶望的な映像は他にない。そこをたった一人で人の痕跡と食べ物を探しながら彷徨う。いつ抜け出られるかもわからない、だだっ広い牢獄。敵の照明弾の強い光に照らされ、さっきまで話していた人が一瞬で吹っ飛ぶ。戦場の外での日常とあまりにも落差が激しすぎて頭がついていかない。自分さえも信用ならない。夢か現か、自分と相手の境界も時間の経過さえも曖昧にぼやけて散逸していく様が、今ここにあるリアルとして迫って来る。人肉食のショッキングさが有名だけれど、それ自体がどうとかではなく、そこに至るまでのすべてが出口のない地獄なのだ。
亡き父は、自らの叔父が戦争末期に「迫撃砲を運ぶ」名目で南方に送られたのを
「死にに行かせたようなもんだ」
と憤っていた。ただ、「無謀な作戦で責任云々~」と声高にわけ知り顔で上から語る戦後生まれの知識人()にはもっと怒っていた。感謝するのも、敬意を払うのも何かちがう、ただただ、あの頃あのような状況で斃れていった人々、生き抜いていくしかなかった人々に、黙って手を合わせるしかない。「絶対にこんな状況に陥りたくない」と思いながら。
「君の名前で僕を呼んで」ルカ・グァダニーノ
Call Me by Your Name Luca Guadagnino(2017伊仏伯米)
こちらも原作があるらしい。子はそっちを読んだ方がいい、買って来るから読んで!と親を布教中(笑)仕方ない乗ってやろう、と思う位にはとてもいい映画だった。脚本を担当したジェイムズ・アイヴォリーが2018年アカデミー賞で脚色賞を受賞。
【60字梗概】
1980年代のイタリア、学者の家に夏の間だけ滞在した青年と学者の息子が恋に落ち、性別の枠を超えた深い絆で身心ともに結ばれる。
印象派の絵画を思わせる拘り抜いた映像がとんでもなくキレイ。色も構図も一分の隙もない。カメラを長く引いて、風景の中に溶け込む二人の姿はただただ美しい。かなり奔放であけすけな表現はあるものの、純度の高い真のラブストーリーと言っていいと思う。流石はジェイムズ・アイヴォリー脚本(「眺めのいい部屋」の人!)。
面白いのは、二人とも全くゲイではないこと。主人公の17歳少年にもちゃんとラブラブのガールフレンドはいるし、相手の24歳青年も後に女性と婚約した旨知らせを寄越す。男だから惹かれたのではなく対等な人間同士として自然に惹かれあい、当然の帰結として体も結ばれる。そのシーンで繰り返し囁かれるのがタイトルの言葉なのだが男女間ではまず無い言い方ではないかしら。二人が自転車で出かけ、一緒に走っていくその光景も。まさにそれと同じ男女ではありえない関係性を如実に語っていてとてもよかった。
圧巻なのは、青年がアメリカに帰り気落ちする少年に優しく語りかける父親の場面。全て状況をわかった上で見守って、なおこのような心に響く言葉を息子にかけられる親が一体どこにいるだろうか。よきシーン満載の、よき映画でございました。

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Call Me by Your Name Luca Guadagnino(2017伊仏伯米)
こちらも原作があるらしい。子はそっちを読んだ方がいい、買って来るから読んで!と親を布教中(笑)仕方ない乗ってやろう、と思う位にはとてもいい映画だった。脚本を担当したジェイムズ・アイヴォリーが2018年アカデミー賞で脚色賞を受賞。
【60字梗概】
1980年代のイタリア、学者の家に夏の間だけ滞在した青年と学者の息子が恋に落ち、性別の枠を超えた深い絆で身心ともに結ばれる。
印象派の絵画を思わせる拘り抜いた映像がとんでもなくキレイ。色も構図も一分の隙もない。カメラを長く引いて、風景の中に溶け込む二人の姿はただただ美しい。かなり奔放であけすけな表現はあるものの、純度の高い真のラブストーリーと言っていいと思う。流石はジェイムズ・アイヴォリー脚本(「眺めのいい部屋」の人!)。
面白いのは、二人とも全くゲイではないこと。主人公の17歳少年にもちゃんとラブラブのガールフレンドはいるし、相手の24歳青年も後に女性と婚約した旨知らせを寄越す。男だから惹かれたのではなく対等な人間同士として自然に惹かれあい、当然の帰結として体も結ばれる。そのシーンで繰り返し囁かれるのがタイトルの言葉なのだが男女間ではまず無い言い方ではないかしら。二人が自転車で出かけ、一緒に走っていくその光景も。まさにそれと同じ男女ではありえない関係性を如実に語っていてとてもよかった。
圧巻なのは、青年がアメリカに帰り気落ちする少年に優しく語りかける父親の場面。全て状況をわかった上で見守って、なおこのような心に響く言葉を息子にかけられる親が一体どこにいるだろうか。よきシーン満載の、よき映画でございました。
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