おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

賢木 四 ~オフィスにて

2019年12月22日  2022年6月8日 
「ねえねえ右近ちゃん」
「なあに侍従ちゃん」
「この間出掛けたついでに二条院に寄ったのね。それで新年の挨拶がてら少納言さんとお喋りしたんだけど」
「そうなんだ。皆さんお元気だった?」
「元気元気。若紫ちゃん、今は父君の兵部卿宮さまと文通してるらしいよ」
「良かったじゃない。ということは少納言さんが誘拐に加担してたって誤解も解けたのかしら」
「どうかなーそこは。
 身寄りのなくなった高貴な生まれの不憫な子を玉の輿に乗せて一発逆転したデキる女房
 って評価にチェンジしただけかも。
『もういいんです、姫が幸せであればそれで。これも信心深かった亡き尼君のご加護ですわ』
って少納言さん謙虚に受けとめてた。それより向こうの奥様が凄い羨ましがって大変らしい。自分とこの娘はこれといってパッとしないのにってさ」
「外から見れば平安女子サクセスストーリーそのままだもんね。ところでヒカル王子は?最近宮中じゃ見ないけど」
「基本引き籠ってるみたいよ。出かけるのは左大臣家にお子さんの顔見に行くくらい、まして夜歩きなんて全然って健全?な生活らしい。ご不幸続きでいたく傷心してるから、流石の若紫ちゃんも態度が軟化してる。アタシもチラっとお姿拝見したけど、少し窶れ気味の憂いを含んだ王子、イケメン度が三倍はアップしてたわね(うっとり)」
「なるほど。侍従ちゃん言うところの『弱ってるイケメン』、破壊力凄いわね。私の趣味ではないけど」
「あーああー羨ましい(定期)!
 あっところでさ、もうすぐ誰かおつかい来るって?典の局さんが言ってた」
「うん聞いた。椿油切らしたから貸してって、弘徽殿の中納言さんだっけか」
「どういう風の吹き回し?弘徽殿の人って、以前は絶対にこっちの部屋には来なかったよね」
「今の弘徽殿は大后さまじゃなくて、その妹さんが住んでるのよ。ほら例の朧月夜の君。登花殿含めすごい雰囲気変わったじゃん」
「ああーそうか。そういや大后さまって今は梅壺だよね。梅壺の大后って何かババく……いや落ち着きすぎな感じよねー。もっともこの頃は殆どお里の右大臣家にいて、滅多に参内してこないけど」
「朧月夜の君も今や尚侍(ないしのかみ)だもんね。女官としては最上級、実質女御さまに匹敵するハイクラース。国母を出した右大臣家の威勢ここにありって感じ……」
「こんにちはあーーー!お世話になりまあああす!」
 同時に振り向く二人。 
「弘徽殿の中納言と申します!はじめまして!」
「ど、どうも侍従です」
「右近です。えっと椿油でしたっけ。此方で良いでしょうか」
 すかさず用意していた椿油を差し出す右近。
「はいっ!ありがとうございます!助かります。ここ数日で入荷予定だったんですけどー、尚侍の君がどうしてもって仰って!オシャレさんなんで困っちゃいますウフっ」
 満面の笑みの中納言。
「どっかで聞いたような理由……(大輔命婦さん元気かしら)」
「確かに尚侍の君って凄くセンスがいいわよね。元々お綺麗なのに加えて、お着物の色合わせも着こなしも今時で華やか」
「そうなんですう!ありがとうございます!自慢のご主人ですわ!お蔭さまで帝のご寵愛もめでたく、内裏にもしょっちゅう行ったり来たりだからコーディネートが大変ですの!でも頑張ります、尚侍さまのためですもの!」
「大好きなのね、尚侍の君が」
 微笑む右近の言葉に、頬を染めつつ大きく頷く中納言。
「椿油、入荷次第お返ししますね。ホントありがとうございます!」
「いつでもいいわよん。またねー。…あっ」
 中納言、段差ですっころぶ。が、すぐ立ち上がってニコニコ・ペコリペコリしながら去っていく。
「……若いわね」
「若い!若すぎ!声から何からピンクがかってる感じでキラキラ☆してて眩しすぎる……アタシたちもあんな時があったのかしら。年を感じるわあ」
「いやあそこまでテンション高くなかった、ていうか別方向だと思う。ひかるのきみ壱の最初からみても」
「えっとー、ヒカル王子ってまだ続いてるって言ってなかったっけ朧……尚侍の君と」
「王命婦さんが言ってたわね」
まさか、あの中納言ちゃんが手引きしてたり
「や、それはないでしょ。速攻でバレそう」
「……だから王命婦さんの耳にも入ってんじゃないの?」
「……確かに。弘徽殿って若い女房さんたちばっかりだわ考えてみれば。中納言ちゃんでも全然中堅かも」
「ヤッバ!あれで中堅ってだいじょぶなの?!アタシに言われるくらいだから相当なもんよ?!」
「侍従ちゃんならもう重鎮も重鎮じゃないの。お局さまともいう」
「なによー右近ちゃんだって!」
「とにかく色々とお若い集団だわね。これはまた嵐の予感」
「もうついてけないわアタシには……」

参考HP「源氏物語の世界
<賢木 五につづく>
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