「科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました」

 
「科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました」朱野帰子
ツイッターで見かけて衝動買いしてしまい、一気読みしてしまった。「わたし、定時で帰ります。」の人だったのね。ドラマは正直、ん?と思うことが多くて観るのやめちゃったんだけど、きっと原作は全然違うんだろうな。うちのJK曰く表紙とタイトルがラノベっぽいと。なるほどそこも狙いか。是非若者に読んでほしい内容だもんね。


【60字梗概】
詐欺商法に家族が騙され苦労した科学好きの男は、会社から似非科学を撤廃しようとして失敗するも、科学に対する企業人としての役割を見出す。

まずタイトル改変が大正解。元タイトルは「賢者の石、売ります」だった。
「科学オタクが、自らが一番嫌っていて滅ぼすべしと思っているマイナスイオン製品を売る部署に異動させられる」
という設定だけでこの小説は勝ったも同然。その設定をそのままタイトルにあてたのは英断だと思う。ただ、このタイトルから受ける作品のイメージは私的にこんな感じだった:
「科学的知識の豊富な有能サラリーマンが、非科学的で頭の堅い上司を論破し似非科学製品を撤廃することに成功する」
ぜんぜん違った。「似非科学」の問題点は明確に浮き彫りになるが、全くやっつけられないし撤廃もされない。
 むしろ頭が堅いのは圧倒的に主人公の方。言ってることは間違ってないし真面目で誠実で家族思いなのに、伝え方が高圧的で基本上から目線なので中々理解されない。とどのつまり、
「相手の気持ちも何もお構いなく正論で押す」
というのは結局、
「科学的知見も何もお構いなくお気持ちで押す」
というのと同じなのだ。どっちも自分の主張第一で相手を思いやっていない。姉は寸でのところでそれに気づいて、巧妙に取り入って母乳信仰を押しつける助産師の魔の手から逃れる。この助産師の手口はネットでもよく見かける典型的な自然派()の集大成みたいなものだったが、姉が入り込んでしまったのは弟(主人公)の「正論」への反発であり、危ない所で目を覚ますことができたのもまた弟の「正論」だった、という構図は非常にリアル。この問題の根の深さと本質を突いてると思う。
 この国の科学が抱える諸問題をしっかり描きながら、ではどうするか?という問いかけへのひとつの方向性を作品の中でちゃんと導き出している。派手にやっつけたり論破したりとかいう大立ち回りはないが読後感はかなりスッキリだ。賢者の石を持つ希少な人を支える大多数の名も無き人々の一人と自覚しその役割を果たす、という人生も別に悪くないどころか、相当に幸せだ、と私は思う。

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