葵 十七(第二回平安女子会)
【引用】コトバンク「破子・破籠・樏」より |
持参されたのは、ヒカルさまの腹心のご家来である惟光さまです。二人で何かこそこそとお話ししている様子は見えておりましたが、声までは聞こえません。が、さすがに今回はすぐに察しがつきました。
三日夜の餅(みかよのもちい)です。
「通い婚のしきたりね。男が三日間女のところに通って、最後の日に餅を食べるってやつ。平安時代豆知識☆」(右近)
「一応手順は踏んでる、とみていいのかしら」(王命婦)
「でも流れ的に、こっちも少納言さんに何も言ってないんでそ?」(侍従)
その通りでございます。
姫君は、この時点ではご機嫌が良いとか悪いとかいうレベルではなく、一切取りつく島のない有様でございました。困ったこととは思いましたが、一方で、圧倒的に立場が上の庇護者でありかつ常人には抗いがたい魅力を備えるヒカルさまに対して、断固として抗議の姿勢を崩さない誇り高き姫君に、快哉を叫びたい気持ちもございました。
「うん。そうそう思い通りになってたまるもんですかって気持ちわかる。頑張れって思うわ」
「これが真のリア充ってやつね。アタシだったら秒で許しちゃうな。っていうか最初からウェルカムだし。あーあこんなんだから駄目なんだよねきっと」
「……侍従ちゃん、その話後でじっくり聞きたいわ」
「えっ、な、何のことだかさっぱり(しまった)」
右近、王命婦がニヤリ。少納言も思わず頬を緩ませる。
勿論、そんな胸の内を表に出しはしませんでしたが、感じるところはおありだったのでしょうね。ヒカルさまはその三日夜の餅を惟光さまから受け取る役を、あろうことか私の娘、弁の君と指定したのですよ。
「母代わりの少納言が持って行くのでは、姫君が恥ずかしがるだろうから」
という理由で。
右近が呆れ顔で言う。
「いやいやいや、姫君じゃなく自分でしょ。超後ろめたいと思ってんじゃん、本当は少納言さんに通すべき筋を通してないから。だからといってよくわかんない若い子に頼むのは何だし、じゃせめて娘さんに!って感じ?」
「何だかヘタレな対応よねえ。いざとなればとんでもなく大胆な真似を平気の平左でやる王子なのに」
と辛辣な王命婦。
「若紫の姫はやっぱり別格って感じなんじゃないんですかあ?ああーうーらやましいーふいー」
「侍従ちゃん、結構飲んだ? あら、もう半分いってる」
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