おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

葵 十七(第二回平安女子会)

2019年9月19日  2022年6月8日 
【引用】コトバンク「

破子・破籠・樏」より

その翌日は十月最初の亥の日でしたので、亥の刻(午後九時~十一時)に食べれば万病を除くという亥の子餅が二条院に届きました。ヒカルさまは喪中でいらっしゃるので、ただ若紫の姫君にと、美しい桧破籠(ひわりご)など色とりどりに趣向を凝らしてありました。
 持参されたのは、ヒカルさまの腹心のご家来である惟光さまです。二人で何かこそこそとお話ししている様子は見えておりましたが、声までは聞こえません。が、さすがに今回はすぐに察しがつきました。
 三日夜の餅(みかよのもちい)です。

「通い婚のしきたりね。男が三日間女のところに通って、最後の日に餅を食べるってやつ。平安時代豆知識☆」(右近)
「一応手順は踏んでる、とみていいのかしら」(王命婦)
「でも流れ的に、こっちも少納言さんに何も言ってないんでそ?」(侍従)

 その通りでございます。
 姫君は、この時点ではご機嫌が良いとか悪いとかいうレベルではなく、一切取りつく島のない有様でございました。困ったこととは思いましたが、一方で、圧倒的に立場が上の庇護者でありかつ常人には抗いがたい魅力を備えるヒカルさまに対して、断固として抗議の姿勢を崩さない誇り高き姫君に、快哉を叫びたい気持ちもございました。

「うん。そうそう思い通りになってたまるもんですかって気持ちわかる。頑張れって思うわ」
「これが真のリア充ってやつね。アタシだったら秒で許しちゃうな。っていうか最初からウェルカムだし。あーあこんなんだから駄目なんだよねきっと」
「……侍従ちゃん、その話後でじっくり聞きたいわ
「えっ、な、何のことだかさっぱり(しまった)」
 右近、王命婦がニヤリ。少納言も思わず頬を緩ませる。

 勿論、そんな胸の内を表に出しはしませんでしたが、感じるところはおありだったのでしょうね。ヒカルさまはその三日夜の餅を惟光さまから受け取る役を、あろうことか私の娘、弁の君と指定したのですよ。
「母代わりの少納言が持って行くのでは、姫君が恥ずかしがるだろうから」
 という理由で。

 右近が呆れ顔で言う。
「いやいやいや、姫君じゃなく自分でしょ。超後ろめたいと思ってんじゃん、本当は少納言さんに通すべき筋を通してないから。だからといってよくわかんない若い子に頼むのは何だし、じゃせめて娘さんに!って感じ?」
「何だかヘタレな対応よねえ。いざとなればとんでもなく大胆な真似を平気の平左でやる王子なのに」
 と辛辣な王命婦。
若紫の姫はやっぱり別格って感じなんじゃないんですかあ?ああーうーらやましいーふいー」
「侍従ちゃん、結構飲んだ? あら、もう半分いってる」

 ところがですね、娘は姫君と同い年ですから(乳姉妹)、御指名を受けて立派な香壺の箱を意味ありげに持って来られても、何のことやら理解できるはずもありません。私は知らないことになっていますから、説明することも助言することもできない。要はぶっつけ本番、娘は訳が分からないながらも型どおり対応しようとしました。
「はいっ、たしかに。姫の枕元に差し上げるべきお祝いの物ですね。結構な品をいただき誠に恐縮です、決してあだや疎かに……」
ストーップ! それ忌み言葉だから言っちゃダメ! 普通の贈り物じゃないんだよ!」
 慌てて惟光さまが止めて、みなまで言わずに済んだようですが、娘にしたらますます意味不明で、とりあえず早く渡してしまえとばかりに、さっさとヒカルさまと姫君のいらっしゃる御几帳の内に滑り込ませたようです。ヒカルさまが即気づいて姫君に小声で説明してらしたので、娘もようやくああそういうことねと合点がいったらしく、まだ起きていた私に急ぎ知らせてきました。深夜のことでしたから、ほかの女房たちは誰ひとり気づいておりませんでした。

「弁の君ちゃん、しっかりしてるわ。何が何だかわからない状況でその対応は素晴らしい。藤壺にスカウトしようかしら」
 王命婦が感心したように呟いた。

参考HP「源氏物語の世界
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