「村上海賊の娘」

 
「村上海賊の娘」和田竜

 以前から読みたかったのだが機会を逃しまくっていたこの本。遂に読んでみたらばナニコレ!超面白い!なんで今まで読まずに本好きとかいわしてたんじゃいワレー(←影響)。表紙の絵もイイね!平沢下戸さんという絵師の方。イメージぴったりです。
 そうはいっても、歴史関係の学術書をいくつか読み古文書に手を出し、さらにこのところの歴史学者VS作家のバトル追っかけ、そういう積み重ねあってこその面白さかもしれない。「のぼうの城」の時と書き方はさほど変わってないように思うが、格段に読みやすくなったのは私が変わったのか作者の腕が上がったのか。おそらく両方。そこまでディープな歴史オタクではない(だと思う)私でもこれだけ楽しめるということは、きっと知り尽くしてる人はもっと楽しいに違いない。くそう。歴史沼がなんぼのもんじゃいてこましたる(←影響)。ちなみに参考文献の量も半端なくて四ページもあった。

 史実を知っていても十分面白いと思うが、知らないまま最後までワクワク出来るのも良いかと思うので梗概は下げときます。まあ、うっかり読んじゃってもそれはそれで。

 群像劇なのでシーンにより主体は変わったりするが、タイトル通りに娘を中心として書いてみる。

【60字梗概】
体も気性も男勝りの海賊の娘が戦場の現実を知り挫折して戻るが、再び戦いの場に出て勝利を収める。

 面白ポイントは書き尽くせないほど沢山あるが、何が一番良いかというと
史実を踏まえたその時代の常識を前提としていること
である。映画やテレビドラマでよく見るその時代にあり得ない「現代の感覚」というものを極力排し、あくまで当時の行動様式に基づいて描いている。そうだよこれだよ、こうじゃなくちゃ!

時代は16世紀、「人の生死」に対する感覚が現代とは大きく違う。まず無事に生まれてくるかどうかも一か八か、余程生まれつき丈夫で尚且つ運も良くないと育たない。ちょっとした病気や怪我でバタバタと死ぬ。少しの天候不良や自然災害で住処を失ったり、飢饉や不漁で食えなくなったりで死ぬ。まして戦国時代、従う者を間違うと一族郎党、下手すると村ひとつ無くなる。「家を守る」ということはすなわち、文字通り住む場所と安全の確保及び必要な食料や物資の供給の安定化であり、「如何に多くの人間を長く生き残らせるか」が目的だった。
 だから出て来る人物の殆どは超がつくリアリストで、常にリスク管理を怠らない。目的のためには非情な決断も厭わず、場合によっては自らの価値観さえ躊躇なく曲げる。一定のルールに縛られた狭い世界で生きていると思いきや、相当範囲の広い、自由度を限界まで高くした生き方ともいえる。当然個人の命は物凄く軽くなるが、そもそも死ぬこと自体が日常なのでどうということはない。問題はどう生きてどう死ぬかなのである。
 ここで主人公の景が女性というのが象徴的。男どもはひたすら「家のため」、壮絶なまで冷酷に事に当たる。景はその現実に一度は打ちのめされて戦場から去るが、やがてその「家のため」という建前を「結局自分のためじゃないか」と喝破し、
「オレは『誰かのため』に戦う、何故ならオレがそうしたいからだ」
と叫んで再び果敢に戦いを挑む。女性差別がウンタラとか女性の自立がナンタラとか、現代のぬるい主張なんて吹き飛ぶ過酷な戦場で強者たちをバタバタ倒す獅子奮迅の活躍、満身創痍になりながらも決して諦めない景はひたすらにカッコいい。 

 映画化ドラマ化、は難しいだろうなあ。まず景役の女優さんが思いつかない。今風な顔と体型はいいとして、色黒で筋肉ムキムキで甘さ皆無、思わず退くほどとんでもない迫力を出せる人っている?
 やるなら深夜枠でアニメ化かな。むくつけき男どもが沢山出てきて暑苦しく戦うので、逆に精緻でクールな線の絵が似合うと思う。表紙の平沢さん以外にも、十二国記のイラストを描いてる山田章博さんとか。お金と手間が半端なさそうだが。
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