おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

花宴 一

2019年3月25日  2022年6月8日 
皆さまこんにちは! 桜開花のお知らせもぼちぼち届くようになりました今日この頃、如何お過ごしでしょうか? この「ひかるのきみ」、リアル世界と季節が合致することは中々珍しいことでございますので、わたくしも語り甲斐があるというものです。
 あ、申し遅れました。わたくし藤壺の女房・中務(なかつかさ)と申します。皆さまご存知の王命婦さんを筆頭に、中宮様のお付き女房として仕えさせていただいております。
 さて本日、旧暦二月の二十日つまり現代でいうと三月ですね、南殿にてとりおこなわれる桜の宴、こちらの実況をつとめさせていただきます。なにぶん若輩者ですのでお見苦しい点も多々あるかと存じますが、これから花開く桜に免じてご容赦くださいませ。

 さて南殿から中継です。一番の特等席はもちろん帝のまします玉座ですが、その両側ですね、こちらにはそれぞれ中宮さまと春宮さまのお席がございます。ただ今わたくしは中宮さまエリアにいるわけですが、こちらからは春宮さまエリアもよく見えます。あー……弘徽殿の女御さま、面白く無さそうですねー。不愉快MAXって感じですねー。おそらく中宮様と同等の席次なのが腹立たしいんでしょうね。まあ無理もないかなってちょっと同情もしちゃいますけど……とはいえ、こういう華やかな場をみすみす見逃すのも口惜しいのでしょう。あの方欠席だけはなさらないんですよ、絶対。

 空は雲一つない青空、鳥の声も賑やかでまさに春!という、桜の宴にふさわしい日和でございます。あ、そろそろ始まりますね、帝から韻字を賜って即興で漢詩を作り順に発表という、学力レベルがバッチリわかっちゃうエグイ公開処刑……いえ雅な遊びが。平安貴族って本当大変ですよね。
「春という文字を賜りました!」
 トップを切るのは勿論、ヒカル王子……最近宰相に昇進されましたわね。立ち姿といいお声といい、一気に周囲の空気を変えるキラキラ☆オーラはいつもの如く強烈に皆のハートを掴みます。
 続きましては頭中将さま。王子と比較されて臆するどころか全くの平常心、堂堂と声を張るお姿は流石、王子のライバルと自称されるだけございますね。いや、甲乙つけがたいすばらしさでした。
 こうなると後は中々やり辛いですね。あーもう一気に緊張が走ってます。特に、身分低めの地下人の方々は震えてらっしゃる……まあ、このように曇りなく晴れ渡った空の下、ひろーいお庭に一人立って出て行くだけでも気おくれしますよね。まして帝や春宮の御前、その下に数多控える公達は見目も才も半端ないレベルですから……お気の毒になります。わたくし女房で良かったと思いますわ本当に……あ、感想長すぎですね、すみません。
 片や、博士たち……皆さまお年を召していらして、身なりは決して華やかではない……正直地味で野暮ったい……のですが、年齢なりの経験値が成せるわざか、意外にそつのない立ち居振る舞いをみせております。やはり地頭の良さがここで出るということでしょうか。それはそれで素晴らしいですね。
 このように、様々な身分や年齢の男性が一堂に会す様をじっくり鑑賞できるのも、この手の宴の密かなたのしみといえますでしょう。まあ、主にわたくしたち女房にとって、ですが。

 さて日も西に傾いて「春の鶯が囀る」という舞が始まりました。春の柔らかな日ざしが徐々に薄れてまいります……その淡い光に照り映えて、舞びとの振る袖が踏む足が、まことに趣深い空間を作り出しています。
 深い余韻を残しつつ、舞が今終わりました。……あっ、春宮さまがヒカル王子にかざしを下賜されましたね……どうも「紅葉賀」の再演を促されているようです。王子もすこし躊躇われたものの、まさかお断りするわけにもまいりません。あ、立たれました。あの、袖を返されるくだり……ああもう終わってしまいました。ほんの一差し、というところ、ごくごく控えめな所作だったのですが、だからこそ余計にキラキラ感がいや増されて全員瞬殺されましたわね。ええ、とくに王子の舅の左大臣さま、さっきまで日頃寄りつかない婿の愚痴ばかり仰っていらっしゃいましたのに、真っ先に号泣されてました。
「ほら相方も、早く!」
 かけ声がかかりました。しょうがないな、という体で登場した頭中将さま、舞うは「柳花苑」。……ちょっと、長めですね王子よりは。ほんの少しですが。ああでも即興とは思えない出来でした。抜け目のないお方ですから、おそらくこのようなパターンを予想してみっちり事前練習されていたのでしょうね。素晴らしい舞でした!……あっ、今お二人が帝に何か賜わりましたね。どうやらお着物のようです。このような宴の、単なる余興に対してはこれは珍しいことですよ。余程感じ入られたのでしょうね。我も我もと公達が前に出てまいりました……もはやこうなると上手い下手はあまり関係ないですわね、しばし何も考えず楽しみましょう。

 夜になり、いよいよ漢詩の発表タイムとなりました。はい、ここでも注目はヒカル王子ですね。博士が王子の詩作を読み上げておられます、が……一句ごとに褒めそやすので中々先に進みません。本当に、何処にいても何をやっても別格、まさに場の光となる王子。帝もどうしておろそかに思えましょうか。目が釘付けです。
 中宮様は、とさりげなく様子をうかがいますと、表情を大きく変えることこそなくとも、目を離すことはお出来にならないようでした。
「春宮の母である弘徽殿の女御が何故、あそこまで何もかもに優れた王子を憎むことができるのか逆に不思議だわ……とはいえこんなに入り込んでしまう私自身も情けないこと。
 大方の人と同じように花の姿を見るならば
 何の気兼ねも要らなかったでしょうに」
 え? どなたの言葉か、ですって? はて……心の声が何処ともなく漏れ出たのか、はたまた王命婦さまとの会話が耳に入って来ましたのか、どうでしょうね。どうもわたくしも、いささか春の夜に酔ったようでございます。恐縮ですが中継はここで一旦締めさせていただきますね。南殿からは、以上です。

参考HP「源氏物語の世界
「窯変 源氏物語」橋本治
<花宴 二につづく>
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