おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

紅葉賀 四(オフィスにて♪)

2018年12月3日  2022年6月8日 
「右近ちゃん、侍従ちゃん、いらっしゃる?」
「きゃー王命婦さんじゃないですか!こんにちは!」
「お元気そうで……て、ちょっと痩せた?」
「やだ右近ちゃん、わかる?ちょっと疲れちゃってさあ……職場こっそり抜けて来たの。はいおみや」
「いつもありがとうございますう♪お茶入れて来るね!」
 給湯室に消える侍従。
「紫ちゃんの話してた?」
「あっ聞こえてた?もう、侍従ちゃん声大きいから」
「いえいえ、具体的なところはしっかりボカしてるから、よく知ってる人じゃないとまずわからないと思う」
「ならよかった」
「もう紫ちゃんのおばあさまの喪も明けたのよね。早いわね」
「そうそう。侍従ちゃんの話だと、法事にはヒカル王子もいらしたらしいわよ。あまり目立つわけにもいかないから派手さはないけど、簡素ながら何気にお金かけてるしもちろん段取りも付け届けの類も完璧だったって」
「なるほど。流石は王子ね」
「あのドン引きしてた僧都もすっかり感心して、最初は心配したけれどこの様子なら大丈夫だね!ってニコニコしてたらしいわよ。現金よね(笑)」
「まあ良かったじゃない。尼君も信心深いお方だったんでしょ?そのお蔭でご縁に恵まれたってことよ。何だかんだできっと喜んでらっしゃると思うわ」
「とにかく少納言さんが一息つけてよかった。正妻さんのこともあるし他にもイロイロいるみたいだけど、今の所完全に保護者的なスタンスで、生活は申し分ないし最高の教育も受けてるしで」
「そうね……まだお小さいものね。女の闘い的なことには無縁でいられるもの、一番幸せなお歳よね」
 微笑みつつふーっと溜息をつく王命婦。
「……何かあった?」
「はーいお待たせ―♪ねえねえ王命婦さん、このスイーツ超カワイイんだけどもしかして帝のお持たせ?」
「ホントだすっごい素敵!今までのとは毛色が違うわね」
「流石ね二人とも。帝じゃないのよ。……兵部卿宮さま
「兵部卿宮さまって、紫ちゃんのお父様よね?藤壺にいらしたの?」
「うちの女御さまのお見舞いにいらしたのよ。ほら、お兄様だから」
「あーーっそっか、よくよく考えたら紫ちゃん、女御さまの姪っ子じゃん!美少女なわけだー納得!」
「って侍従ちゃん、女御さまと面識ないっしょ」
「そうだった☆テヘ。でもでも帝が一番ブッチ抜きでご寵愛でしょ、超絶美女に決まってるじゃない。王子も……あっお口チャックねごめーん」
 再度溜息をつく王命婦。
「何かあるなら話していきなさいよ。そのために此処に来たんでしょ?」
「お酒必要な感じですぅ?梅酒ならまだあるかも」
「いえいえ、それには及ばないわよ。大したことじゃないし。私が色々モヤモヤしてるだけで」
「焦らすわねえ」
「や、やっぱりウメッシュ……」
 首を横に振りつつ目を瞑る王命婦。
「もうね、公然の秘密的なやつなのよね。特に帝-藤壺ラインは」
「あー……なるほど」
「マジで!?ヤバイね!!」
「侍従ちゃん声抑えて」
 しーっと指を口に当てる右近。さりげなく外を窺い、そっと格子を閉める。
「なのに王子は来るわけよ知らんぷりで。ご挨拶だとか言ってね。そりゃあ継母ですし?元服前にはしょっちゅう顔合わせていたわけだし?おかしくはないわよ多少気安くても。拒否する理由は何もない。ただ私たちにしたら戦々恐々なわけ」
 全員、うんうんと頷く。
「仕方ないから御簾の前にズラーっと並んで完全ガードよ。中納言ちゃんと中務ちゃんと3人で」
最強メンバー@藤壺ね……水も漏らさぬとはこのことよ」
「今度彼女たちも呼んで女子会しよ!」
「いいわねえ。きっと喜ぶわ。……でね、そこに先客がいたわけ。それが兵部卿宮さま」
「少納言さんが聞いたら卒倒しそうなメンツねえ……」
「絵面は良さそうだけどね……」
「お二人ならわかると思うけど、あの王子と至近距離で、しかも初対面だったもんだから、宮さま舞い上がっちゃってね
「そらそうよ。間近で生ヒカル王子見たら平静じゃいらんないわ男性でも」
「あのキラキラ☆オーラ凄いもんねー」
「そうなの。で、兵部卿宮さまってちょっとなんていうの、女顔じゃない?」
「確かに。細身だし整ったお顔立ちで中々のイケおじ様、とても子持ちの方とは見えないかも……あ、もしかして女御さまにも似てるとか?ご兄妹だものね」
「鋭いわね右近ちゃん。そっくりではないけど面差しや雰囲気がどことなく、ね。それで王子の目がもう、なんていうの?恋する男の目なわけ」
「うわあ……」
「さりげなーくボディータッチしながら、それはそれは丁寧に優しくお話なさるもんだから、宮さまもドキドキよ。頬染めてまるで乙女って風情で」
「ヤダそれ何のBL?!腐女子歓喜ってやつ?!」
「侍従ちゃんメッ☆」
「まさかご自分の娘婿だとは夢にも思ってないままね。まあとにかく、兵部卿宮さま頃合いをみて御簾の内に入られたわけ。その時の王子の顔がね……」
「あーそれは辛いわ。いくら王子でもさすがに入るのは無理だもんねー辛いわー」
「噛みつきそうな顔で御簾を睨みつつ
『もう少し頻繁に伺うべきところ、特別な事でもなければつい滞りがちに……何かお役に立てる御用などあれば仰っていただければ幸いです』
て、棒読みよ。女御さまも御簾の方を見ようともしないで臥せってらっしゃるし、もうね……何だか申し訳ない気持ちになっちゃって罪悪感半端ない
「えーそんな!仕方ないですよ。さすがにそこでさあどうぞ王子もおはいりくださーいなんて女房的にはあり得ないし!」
「そうよ王命婦さん!この間の女子会で仰ってたじゃない、私たちには所詮決定権はないって。こういうことになったのもゼーンブ王子の責任なのは明らかなんだし、罪悪感なんてこれっぽっちも持つ必要ない」
「だよね!さっすが右近姐さん!」
「ありがとう……そうね、わかってはいるの。別に私たち女房が決めたわけじゃない、私一人が強硬に逆らったところで、違う誰かがやるだけで結果はかわらない」
「その通りよ!」
「そーだそーだ!」
「私だって、元から職を失うほどの反抗をする気は全然ないの。甘っちょろい正義感をふりかざして一生を棒に振る程若くはないしね
「宮仕えのトップに君臨するキャリア女子なら当然の判断よ」
「王命婦さん最初っからそんなスイーツ女子☆カテじゃないと思いますう。そんな王命婦さんが私たちの憧れなんですう」
「とはいえ考えてしまうのよ。命じられたこととはいえ、実行犯は確実に私たち女房なわけ。その結果が(コソっ…ご懐妊…)でしょ。これはきっと前世から決まってたことなんだ、私たちは抗いようのない運命の思うままにされただけなんだわーなんて思おうとしていたわけ。なのに現実として、兵部卿宮さまは御簾の内に入れて、王子は入れない。所詮は他人の目を憚らなきゃいけないただの不倫。厨二臭い言い訳なんて吹っ飛んだわよ、そんなの目の当りにしたら」
「そうか……辛いところね……」
「……でもさでもさ、やっぱりすごいことだよ。だって人ひとり生まれるんだよ!増えるんだよ!私たち女房が手引きしたことで!まあぶっちゃけ不倫だけどさ、平安時代そこんとこ緩いし、いやだからいいってことじゃないけど、別に生まれてくる子に罪はないじゃない?とりま素直に喜べばいいと思う!ていうか超絶美女の女御さまと超絶イケメンの王子の子だよ?もう悶絶するくらいカワイイ子が生まれて来るんじゃないの?ヤッバイ、オラワクワクしてきたぞ!」
 唖然とする王命婦。
「そうね侍従ちゃん!くよくよしたってしょうがない。一応帝の血は入ってるわけだし、結果オーライよ王命婦さん」
「その発想は無かった……そうね、帝にとっても血縁だわ考えてみれば。だからあからさまに責めたりなさらないんだわ。帝、まさに王の器ね……尊い(うっとり)」
「王命婦さん、やっぱりちょっと腐女子っぽ……いやなんでもない」
「次は女子会ねーイエー♪」

<「紅葉賀 五」につづく>
参考HP「源氏物語の世界
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