紅葉賀 三(オフィスにて♪)
「ねえねえ右近ちゃん」
「なあに侍従ちゃん」
「聞いて聞いて♪実はこの間、二条院に行ってきちゃった♪」
「ホント?そりゃまた何で」
「いやー少納言さんにちょっと頼まれたものがあってさ」
「えっあんなセレブ御殿に無いものなんてあるの?」
「それがさ、ハギレよ古着物の。ほらあの常陸宮のさ」
「あれボロボロの粉粉だったって言ってなかった?」
「勿論ほとんど捨てたけど、マシな部分は取っておいたのよ。ものはいいからね、縫物に使えるかと思ってさ。少納言さんも殆ど荷物なんて持って来てないし取りに戻ることも無理だし、二条院てすっごい豪邸で調度品はカンペキだけどそういう余剰品ていうかー、半分ゴミ?みたいなやつはないわけ」
「なるほどねー。何に使うの?」
「お人形。今紫ちゃんの中でブームみたいで、毎日のように遊んでるんだって。また少納言さんも器用なハンクラ女子だからさ、ミニお着換えやらミニ調度品やらちゃちゃっと作っちゃって、ますますハマるという」
「何歳だっけあの子。そんなに小さかったっけ?」
「今度の誕生日で十歳だって。同い年の子と比べると幼過ぎ?って少納言さんも悩んでた。平安女子たるもの、もうお人形遊びするお歳じゃないんですよって言い聞かせてるけど、まあそれでおばあさまのいない寂しさも紛れてるわけだし、そもそも自分もノリノリで作っちゃってる手前どうも強く言えないらしい」
「まあ、いいんじゃない?他のこともちゃんとなさってるんでしょ、あの王子のことだし」
「そうそうそう!紫ちゃん教育のための王子厳選・特別チームがあるのよ、手習いとかお琴とかお歌とか。そして惟光さん以外の男子はたとえ子供であっても一切近づけない、まさに深窓の姫君教育まっしぐら~」
「案外、世間に知られてないもんね紫ちゃんのこと。王命婦さんにちらっと聞いたけど藤壺は勿論、父帝さえご存じないみたいよ」
「大殿(=正妻・葵上の実家)辺りは薄々感づいてるっぽいけど、まああそこ以上のスペック持った女子なんてこの京にいないからね、一々目くじら立てないわよ。少納言さんも、誰も何も言ってこなくてホッとしてるって」
「良かった。王子はどっちにしろしょっちゅうアチコチ出かけてるんだろうし、捕捉不可能よねカメラもSNSもGPSもない平安時代じゃ」
「まー二条院はぶっちゃけ夜の隠密行動♪拠点だからさ王子の。もちろん紫ちゃんがお寝むの後にこっそり、なんだけど、時々寸前で見つけられちゃって
『どこ行くの?もう帰っちゃうの?』
ってそりゃもうかんわいい声で引き留められちゃってハイ終了みたいな」
「あらあら(笑)無敵ね」
「実を言うとね紫ちゃん、頭のいい子だから色々わかってんのよ。周りの女房さんたちの話もよく聞いてるしさ。王子が来たら最後、絶対帰らすまい!って子供なりにあの手この手よ」
「なるほどねえ。十歳といえども女ね。自分の『殿』だってことは理解してるわけね」
「ああああうーらーやーましい!それがさあ聞いてよ右近ちゃん。紫ちゃん私の顔マジマジ見てさ、
『侍従ちゃんには殿(=カレシ)いるの?』
てこうよ。えええっ?!て素でうろたえちゃったわよ」
「ふーん。で、いるのいないの?」
「ヤダ右近ちゃんまで。い、いないわよっ……今は」
「まあそういうことにしときましょうか。で、紫ちゃんは何でその質問を?」
「お正月辺りかな?挨拶だか何かで、女房さんたちの旦那さんも入れかわり立ちかわり顔見せたらしいのよ。勿論紫ちゃんは表には絶対出ないけど、暇だから人が来るたびそーっと物越しに覗いてたらしい。アレが誰の、ソレが誰のてさ」
「ほうほう。それで、ヒカル王子が如何にイケメンか再認識したと」
「さっすが右近ちゃん!その通りよ。紫ちゃんたら
『どうして女房さんたちの殿はあんなにおじいさんばっかりなの?』
ってド直球発言かましたらしくって少納言さんアワアワ」
「あはは」
「や、一応言っとくけどそこまで年食ってないのよ皆さん。せいぜい20代後半、行ってて30かそこらかな。ただのフツメンなんだけど王子みたいに鍛えてないし、頭も寂し…いやなんでもない」
「つまりデブでハゲなおじさんたちばっかりと」
「あーあ言っちゃったわね右近ちゃんたら☆ひっどーい!まあとにかく、あのキラキラオーラ☆同時多発攻撃状態の王子をいっつも見慣れてる紫ちゃんにしちゃ、普通のおじさんなんて雑魚以下っていうか問題外の外、まあ道端の虫同然?っていうかね」
「侍従ちゃんの方がヒドス(笑)で、結局侍従ちゃんの殿はどんな感じ?」
「いや極めて量産型のフツメン…って何言わすのよもうっ。右近ちゃんこそどうなのさ!ネタは上がってんのYO!」
「じゃあ一旦CMで♪」
<「紅葉賀 四」に続く>
参考HP「源氏物語の世界」
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