夕顔 その二
「うちの母の調子がイマイチなので、またまた世話をしに行っておりました。それでですね」
ずずずと近寄って内緒話。
「気になる例の隣の家の件、顔見知りの下働きが一人おりましたんで、どんな事情の家なのか聞きましたが、口ごもるんですわ。はっきりせんかいって散々責めましたらようやく口開きまして。
『五月ごろから、こっそり男が通いだしたんですわ。いや誰か知りません、奥さん、私ら家の者にも隠してます。ほんとにそれ以上知りませんのですわ』
穏やかじゃないでしょ?
俄然興味湧いて来たので、垣根ごしに覗きました。
そしたら確かに若い女性の影が! あのほら、お女中が腰にまく、エプロンみたいなやつ、ああ褶(しびら)。あれ巻いてましたんで、一応女主人て立場の人がどこかにいるはず、でも顔が見えません。ますます興味が湧いて、いや王子様の為にですけど、昨日の夕方も覗きました。
そしたらついに!見えました! いやまたこれがもう、それはそれはお綺麗なお方で! 手紙を書いてるようでしたが、その様子が本当にもう、物憂げで、悲しそうで寂しそうで…ああ、思いだしたら私まで泣けてきます。本当ですって。その証拠にその御方の後ろに控えてた女房たちまで、こう袖に目をあててもらい泣きしてたぐらいですから!」
ヒカル王子はニヤリと笑い
「ほほー、こりゃなんとしてもお知り合いにならなくっちゃ♪」
と心に誓うのであった。
惟光、心の声
(しっかし王子もほんと、手当たり次第っつうか何つうか…これだけ身分の違う女にも手ぇ出そうとするとかフツーじゃないわマジで。まあこんだけのイケメンでしかも人一倍の肉食系、目をつけた獲物は必ず狩るぜ!!って感じ?
でも、あの程度の身分の女でもこんなに気合入れるんだから、相手が六条の御方みたいな超絶無理目の美女を落とすときなんかいったいどんな手を…いやいやいや怖いわ…)
「それで、もうちょっとあの御方のことを知りたくなりまして。いや、あくまでも王子様の為ですよ。適当な用件こしらえてメール出してみました。そうしたら待ってたんか? ってぐらいの速攻レス!けっこうメール慣れ? してるみたいでソツのない、まあまあのレスでした。多分、頭の切れる女房がついてるんでしょうね」
「おお、その調子だよっ惟光。どんどん聞いて!これ逃したら絶対後悔するっ!」
あの「雨夜の品定め」で話題になっていた、下の下、誰も寄り付かないような貧相な家に、意外やステキ女子を見つけちゃったー!というパティーン?!とヒカルの胸は弾むのであった。
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